氷結王子と呼ばれる騎士団長と契約結婚をすることになったのですが、どうやら一目惚れされているらしいです?

新 星緒

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9・4 元婚約者の置き土産

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 それからほどなくして、ザネッラ商会は会長や幹部の多くが逮捕された。容疑は禁制品の密輸だ。
 更に。お父様やセストに使われた毒にはこの禁制品が使われているそうなのだが、どうやら毒の精製は商会が自ら行っていたらしい。ザネッラ本宅の地下に精製施設と毒粉がみつかった。

 魔法鑑定により、この毒粉とセストが提出したものが同一原材料から作られていると判明。セストとデマルコ家の使用人たちの証言により、ナタリア・ザネッラが夫の殺害未遂容疑で逮捕された。

 そして。ザネッラ商会の家宅捜索で、叔父の身分証や預金証書やが発見された。本人の姿はみつかっていない。

 どうやらザネッラの会長は、より力をつけ販路を拡大するために貴族の力がほしかったらしい。当初は会長本人が爵位を得ることを目標としていたがうまくいかず、娘を貴族と結婚させることにシフト。

 それもうまくいかずに、叔父に近づき甘言で惑わせてオレフィーノ伯爵家を手に入れようとし、またしても失敗すると、標的をセストに変えたようだ。

 ザネッラの人間は全員黙秘を貫いているから状況からの推測に過ぎないらしいけれど、大方それで間違っていないと考えられているそうだ。

 恐らく叔父は、お父様に毒を盛っていたのがバレたと知ってザネッラに助けを求めにいったものの、口封じのために殺害されてしまったのだろうとのことだ。

 叔父の口から真相を聞きたかったのだけど、不可能になってしまった。それに人の好いお父様は、きっと弟の死を悲しむ。

 とはいえ、オレフィーノ家にとっては一応は落着したわけだ。奪われた財産は戻ってきそうにないけど、仕方ない。
 一方でセストは、前伯爵の事故検証の立ち合いをするために領地へ戻ることになった。

「帰る前に一応伝えておこうと思って」そう言って、神経が図太いセストは私の部屋にやってきた。
 エマが中に通さないよう、懸命に入り口でブロックをしている。

「別にさわったりしないから。僕だって学習するよ? 近衛騎士団長はヤバイ人間だって」とセスト。「でもミレーナのおかげで命拾いできたから、お礼代わりにさ。彼のことを」
「彼? ランベルト様のこと?」
「ああ」
「別に必要ないわ。エマ、扉を閉めて」
「魔女」とセストが言った。

 思わずセストを見る。

「魔女を怒らせて呪われたって聞いた」
 そう言うセストは真面目な表情だ。
「そのときは信じたけど、本当かはわからない。ナタリアが父親から聞いた話なんだ」
「……魔女?」

 思わず、つぶやく。
 私に祝福を授けてくれた魔女様を思い出す。気さくで楽しいひとだった。
 だけど魔女は世界に彼女だけというわけではないはずだ。

「呪いによって不能になったから女を避けている、って言っていた。今のあいつの溺愛っぷりを見ていたら、嘘だとは思うけど。でも、屋敷の中でも手袋を外さないのは気になる」
「……ランベルト様が女性嫌いだった理由は他にあるわ」
 うなずくセスト。
「だから本当かはわからないって。ただ、ミレーナは騙されやすいだろ?」
「騙した本人がよく言えますね!」と、エマが怒る。

「だから、罪滅ぼしというか礼というか。見捨てないでくれたから。あいつがミレーナを好きな気持ちは本物だとは思うよ? でも魔女なんてそうそう聞く話じゃないのに、関わったふたりが婚約を結んでいるって気になるじゃないか」

 セストは言いたいことを終えたのか、『それじゃ』と去って行った。

「あんなの気にすることはないですよ」とエマがプリプリ怒っている。「ミレーナ様を混乱させようという悪だくみに決まっています!」
「そうね……」

 でも、ランベルト様が常に手袋を着用している理由は、いまだわからないままだ。陛下に聞いたけれど答えは返ってこなかった。
 ランベルト様が魔女様に呪われていようが気にしない。けれどあの手袋に、ひっかかりを感じてしまうのは事実だ……。

◇◇

 玄関ホールを出て馬車を目にすると、セストは足を止めて振り返った。

「馬車まで用意してくださり、ありがとうございます」
 彼とは思えない丁寧さで、ランベルト様に頭を下げる。セストは領地から出てくるとき、ザネッラ商会の馬車を使ったそうだ。
 おかげで帰るためのものがなく、乗合馬車を使う予定だった。だけど、ランベルト様がストラーニ家のものを一台貸してくださった。

 一応、彼の身を案じてのことだ。ザネッラの主要関係者はほぼ全員投獄されたのだけど、長男だけ逃れている。
 一族の逮捕時に、彼だけ商用で都を留守にしていたらしい。現在行方を追っているけど、手がかりすら見つかっていないとか。
 彼がセストに逆恨みをして、害をなそうとする可能性は十分にある。

「その代わり、二度と彼女に近づくな」とランベルト様が氷点下の表情と声で告げる。
「わかりました。でも、心配せずとも、取りやしませんよ。僕は命が惜しい」
 セストが私を見る。なんとも言い難い、不思議な表情をしている。

「ミレーナ。君が最後に参加した、僕の誕生会」
「ああ……」
 叔父に財産を盗られたとわかり、めぼしいものを売り払ってしまった時期に開催されたものだ。
 欠席したかったけれどセストに、『婚約者がそれでは示しがつかない』と言われて、仕方なく赴いた。あまり良い思い出ではない。

「あのとき君は乗合馬車を乗り継いで来たね。古臭いかっこうで」
 そんなことを言われても。馬車も私の外出着も売ってしまっていたのだ。それでもセストへの誕生日プレゼントは、きちんとしたものを用意した。なのに――

「今更、文句?」
「違う」と首を横に振るセスト。「あのとき、君を恥ずかしいと思った。どうして僕のために体裁を調えてきてくれないんだとも思った。母上が怒るから言わなかったけど」

 そうだったのか。セストの態度がいつもとは違うとは感じていた。だけどたくさんの招待客がいたから、私に構う余裕がないのだと思っていた。
 婚約破棄で彼のことを責めてばかりいたけれど、私も彼の気持ちに鈍感だったのかもしれない。

「でも、違ったんだな」とセストが朗らかな声で言った。「オレフィーノ家の窮状を僕は知っていたのだから、迎えの馬車を出すべきだった。ドレスの一着や二着、贈るべきだった。ミレーナを迎えに来た公爵閣下はそうしたんだろ?」

 違う。それは陛下だった。けれど同じようなことだから、黙ってうなずいた。

「僕はそんなことを思いつきもしないダメ男で、だからこそ犯罪者に狙われたんだよな」
「だろうな」と私が答えるより先に、ランベルト様が肯定した。「だがお前が愚かだったおかげで、私は最高の女性を得ることができた。馬車を貸すのは、その礼のようなものだ」
「複雑な気分」とセストが笑う。自然な笑みだった。

「セスト。色々あったけど、あなたが元気でいることを遠くから祈っているわ」
「ミレーナは寛容すぎる。ほんと、騙されるなよ?」
 私の目の奥をうかがうかのような表情のセスト。
「大丈夫よ」と答えて、ランベルト様の腕に手をかけた。

 ランベルト様には、私に隠している秘密があるかもしれない。でも、私を騙したりはしないと信じているもの。

 ちゅっと額にランベルト様がキスをした。
「ミレーナには私がいる。なんの心配もない」
 その目をみつめ返し、
「ええ!」としっかりと答えた。
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