氷結王子と呼ばれる騎士団長と契約結婚をすることになったのですが、どうやら一目惚れされているらしいです?

新 星緒

文字の大きさ
33 / 41

10・2 突然の出来事

しおりを挟む
 シャルロット様の可愛らしい笑い声が『憩いの庭に』に響き渡る。それを見て嬉しそうに微笑むノエル。
 ふたりは考えていた以上に、相性がよかった。会うのはまだ二回目だけど、まるで古くからの友人のように、気があっているみたいだ。円卓に向かい合ってすわり、シャルロット様はスケッチもせずに、ただただお喋りに興じている。

「これはもしや婚約に進むのでは」と、やや離れたところから姪たちを見守るランベルト様が、声をひそめて疑問を呈する。
「お似合いです」と侍女のドゥアリー伯爵夫人。「ただ、現実的な・・・・恋の相手となると、陛下はお許しにならないのではないでしょうか」
「確かにな」
 まわりの侍女たちまで、うんうんと頷いている。

 婚約だとか恋だとか、ずいぶんと気の早い話だ。楽しそうなお友達同士でいいと思うのだけど。
 もっとも私も一応遠慮して、ランベルト様と侍女たちと散策を楽しんでいるふりをしている。

「ミレーナ様は不思議そうなお顔をしていますね」とドゥアリー伯爵夫人が微笑む。「王族は早いうちから婚約者を決めるものなのですよ」
「そうなのですか」と訊くと、なぜか返答はランベルト様からあった。
「一般的には、そうだろう。できるだけ良い相手と婚姻を結びたい。のんびりと構えていたら、良い相手は他のものにとられてしまう。私の場合、急がなくて正解だったがな」

 ランベルト様が私の頬に軽くキスをする。

「人は変わるものですねえ」と感慨深そうなドゥアリー伯爵夫人。
「まあ、そういう意味では、ミレーナ様を『魔女』と言いたくなる人たちの気持ちが、わからないでもありません」と侍女さんが笑う。
 すぐさまランベルト様がきつい目で睨む。表情が凍り付く侍女さん。
「近衛騎士団長閣下、むやみに怒らないでください」とドゥアリー伯爵夫人が毅然と怒る。「確かに失言ではありますが、それほどあなたの変化に社交界中が驚いているということなのです」

 侍女さんに、「私は気にしていませんよ」と微笑む。
 彼女の意見が一般的なものであることぐらい、知っているから。それに当初の『ミレーナは魔女』という噂よりは、だいぶマシな内容だ。私を『近衛騎士団長を操っている悪い魔女』にしたかった人たちは、今はもう口をつぐんでいる。 
 筆頭魔術師様が、『私にはほぼ魔力がなく、歌による不思議な現象は魔女の祝福によるもの』という正式な鑑定書類を作ってくださったからだ。さすがにこれに異を唱えるひとはいないらしい。

 今噂されている『魔女』は、そいうことにでもしなければランベルト様の変化の理由がつかない、という意味でのことなのだ。
 ランベルト様は相変わらず私以外の女性には氷点下並みの対応だし、目力は常に強くて怖いけれど、私にだけは甘々だから。

 侍女さんだって、嫌味での発言ではない。それだけランベルト様が人目もはばからずに私を構いまくっているだけのことなのだ。そうしている本人が一番、わかっていないみたいだけど。

◇◇

「今日も店の前に馬車を止められそうにありません。いかがいたしますか」と護衛が窓越しに尋ねてきた。
「たくさん歩くの? 危険?」
 と、ノエルが顔を曇らせる。

 王宮からの帰り道、以前セストに遭遇した雑貨店にやってきた。あのとき買いそびれてしまったシャルロット様に贈る髪飾りを、改めて買いにきたのだ。

 突然の事態にバタバタとしているうちにお店が改装期間に入ってしまい、購入することができなかった。だけど昨日リニューアルオープンした。そしてノエルは今日、シャルロット様から髪飾りの話を聞いて、『僕が贈る』と彼女と約束をしたのだった。

「大丈夫よ。人通りの多い地域だし、護衛もいるもの」
 ランベルト様からは、あまり街中に出ないよう言われている。ザネッラの残党を危惧してのことだ。近衛騎士団長たるランベルト様も逆恨みされている可能性はあり、そうなると婚約者である私にも危険が及ぶことが考えられるからだ。

 だけどここなら、それほど危険な場所ではないから行っても構わないとの許可をもらっている。ただあくまで、お店の前に馬車を止めることが前提だけど。

 でもリニューアルオープンしたてだから、あちこちの令嬢がこぞって来店しているのだろう。店の前はずらりと馬車が並び、止めるところがないらしい。

 店から一角ほど離れたところで馬車を降り、ノエルとエマと、ふたりの護衛とでお店に向かう。
 ノエルにとっては、初めての街歩きでもある。領地とは違う大都会ぶりに興奮しているのか、珍しく年相応の高揚した表情になっている。やっぱり普段は努めて落ち着いた振る舞いをしているのかもしれない。

「あ、あそこ?」とノエルは女の子のふたり組みが出てきたお店を指さす。
「そうよ」なんて返事をしている間にも何組かの出入りがある。
「すごい人気だ。姫様がほしい髪飾り、売り切れていないかな」

 不安そうに言って、ノエルが足を早めた。
「リニューアルオープンだから、きっとたくさん揃えているはずですよ」と護衛が言ったけれど、ノエルは小走りに進む。
 そして先に店に着くと振り返って、
「姉上、早く!」と手招いた。
「早すぎるわよ、ノエル! 先に入っていていいわよ」
 
 笑いながら答える。だけど優しいノエルは気がとがめたのか、中に入らない。
「せっかく急いだのにね」と声をかけながら、ようやく追いつく。「さ、入りましょう」
 そう言って店のドアの前に立ったとき、突如として足元が強い光を放った。

「え……?」
 目をやると、私を中心に魔法陣が展開されている。

「姉上!」
「ミレーナ様!」

 ノエルたちの声に目をあげると、彼らの姿が光の向こうで消えかけている。私に向けて伸ばされた手を掴もうと、私も手を伸ばそうとした。けれど手も足も動かせなかった。

 「ノエル! エマ!」
 必死に声をあげる。
 だけれどそれが限界。どうやっても動けない。

 見る見る間に光が強まり、完全になにも見えなくなった。

 そして次の瞬間には、私は地下倉庫のような場所に立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~

甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。 その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。 そんな折、気がついた。 「悪役令嬢になればいいじゃない?」 悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。 貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。 よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。 これで万事解決。 ……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの? ※全12話で完結です。

【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り
恋愛
羊獣人の伯爵令嬢リーゼル18歳には、双子の兄がいた。 二人が成人を迎えた誕生日の翌日、その兄が突如、行方不明に。 リーゼルはやむを得ず兄のふりをして、皇宮の官吏となる。 叙任式をきっかけに、リーゼルは皇帝陛下の目にとまり、彼の侍従となるが。 皇帝ディートリヒは、リーゼルに対する重大な悩みを抱えているようで。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

眠り姫は十年後、元婚約者の隣に別の令嬢を見つけました

鍛高譚
恋愛
幼い頃、事故に遭い10年間も眠り続けていた伯爵令嬢アーシア。目を覚ますと、そこは見知らぬ大人の世界。成長した自分の身体に戸惑い、周囲の変化に困惑する日々が始まる。 そんな彼女を支えるのは、10年前に婚約していた幼馴染のレオン。しかし、目覚めたアーシアに突きつけられたのは、彼がすでに新しい婚約者・リリアナと共に未来を築こうとしている現実だった――。 「本当に彼なの?」 目の前のレオンは、あの頃の優しい少年ではなく、立派な青年へと成長していた。 彼の隣には、才色兼備で知的な令嬢リリアナが寄り添い、二人の関係は既に「当然のもの」となっている。 アーシアは過去の婚約に縋るべきではないと分かりつつも、彼の姿を目にするたびに心がざわめく。 一方でレオンもまた、アーシアへの想いを完全に断ち切れてはいなかった。 幼い頃の約束と、10年間支え続けてくれたリリアナへの誠意――揺れ動く気持ちの狭間で、彼はどんな未来を選ぶのか。 「私の婚約者は、もう私のものではないの?」 「それでも私は……まだ、あなたを――」 10年間の空白が引き裂いた二人の関係。 心は10歳のまま、だけど身体は大人になったアーシアが、新たな愛を見つけるまでの物語。 運命の婚約者との再会は、果たして幸福をもたらすのか――? 涙と葛藤の三角関係ラブストーリー、ここに開幕!

処理中です...