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10・3 誘拐犯たち
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薄暗い地下倉庫のような場所。といっても、ものはなにひとつない。天井近くに小さな明り取りの窓があって、壁は石積がむき出しになっている。
不安でバクバクする心臓を、手で押さえる。
「成功したな」
背後でそんな声がした。
振り向いた私が見たのは、知らない青年二人組だった。ランベルト様と同じ年のころのようで、外見はいい。服装も上等なものだ。けれど目つきが陰険で、荒んだ雰囲気がある。
「高い買い物だったが、さっそく役に立ってくれた」と黒髪の青年が言う。
彼のほうが、たぶん、上の人間だ。もうひとりの茶髪の青年は、一歩後ろで控えるようにしている。
ふたりとも、どう見ても友好的ではない。
「……どちら様ですか」
勇気をふりしぼって尋ねると、黒髪が口のはしを歪めて笑った。
「モレノ・ザネッラ。知らないなんてことはないだろう?」
行方不明中のザネッラ家の長男だ!
思わずあとずさる。
「逃げられないよ?」とモレノが笑みを深める。「お前は大事な取引材料だ」
取引材料って、なにと? もしかして――
「ご家族と私を?」
「そのとおり。家族も財産も返してもらう」
ゴクリと唾を呑み込む。
「いくらなんでも無理ではないでしょうか」
鼻で笑うモレノ。
「近衛騎士団長がどれほど自分に狂っているか、自覚がないんだ。お前の命がかかっているのなら、あの男は王の命令に反してでも父上たちを解放するだろう」
「ランベルト様はそんなことはしません。立派な方です!」
「立派な男は禁忌術を使って、恋敵を半殺しにはしない。あいつはお前が絡むと冷静な判断をくだせないのさ」
反論したかったけれど、私の手を握っただけのセストがどうなったかを思い出してなにも言えなくなってしまった。
「そういうわけだ。安心しろ」とモレノ。「お前は殺さない。生きたまま近衛騎士団長に渡すさ。向こうが俺の要求に従う限りはな」
「ちなみに」と茶髪青年が口を開いた。「ここは特殊な魔法がかかっているから、いかに優秀な魔術師でもお前をみつけることは不可能だ」
「そのとおり」とうなずくモレノ「数年がかりでようやく買えた魔道具を、まさかすぐに使うことになるとは思わなかったよ。これらでオレフィーノから奪った金を使い切ってしまったが、よい買い物だった」
「え……?」
モレノは満足げな笑みを浮かべ、茶髪青年は無言で私に近寄った。
後ずさる。
けれど茶髪青年は私を気にすることなくかがんだ。その視線の先に、小さな円盤があった。細かい文様が刻まれているみたいだ。それを拾い上げる。
店舗前で見た魔法陣に似ている気がする。
「もしかして、それで私を呼び寄せたの?」
「髪の毛が二本あれば対象人物を呼び寄せられるすぐれものだ」とモレノ。「ただし『入り口側』を対象に踏ませなければならないからな。仕掛けられなければ、使えない。父上たちを牢から奪還することは不可能だが、警戒心の薄いバカな伯爵令嬢を誘拐することはできる」
「魔力がなくとも高性能の魔道具があれば、なんでもできる」と茶髪青年。「逃げようとするだけ無駄だ。お前が魔力なしであることも知っている」
「生きてここを出たければ、おとなしくしているのが一番だぞ」
そう言ってモレノは暗い笑みを浮かべた。
「あの男と生きて会えるかは、わからないけどな」
◇◇
部屋にひとり残されたので検分してみたけれど、逃げられそうにはなかった。扉はひとつで、木製。押しても引いても叩いても、ビクともしない。鍵穴をのぞいてみたものの、暗くてなにも見えなかった。
明り取りの窓は恐らく、私の肩にノエルが立ってようやく手が届くくらいの高さだし、人が通り抜けられるサイズでもない。
ほかに隠し扉でもないかと探してみたけれど、むだだった。
家具も、それ以外もなにもないがらんどうの部屋。
『おとなしくしていろ』と言われたけれど、そうするほかない状況だ。
床にすわる。
ここに転移させられてから、一時間近く経ったのではないだろうか。
不安で不安で仕方ないけれど、だからこそ冷静にならないといけないはずだ。
私が消えたことは、ランベルト様なり近衛騎士団なりに伝えられているだろう。モレノたちは取引をするつもりのようだから、なにかしらの方法で彼らに接触するに違いない。
ランベルト様が要求をのむことはないと思う。だけどそのぶん、無茶をしてでも私を探し出そうとはするかもしれない。――というか、絶対にする。
ランベルト様なら、きっと私を助け出してくれる。
だけど。モレノたちは、強力な魔道具を持っている。術者なしで特定の人間だけを転移させるとか、この場所の特定を防ぐとか、相当に高いレベルの魔術のはずだ。それを可能にする道具なんてものがあるとは、信じられない。
でも存在するのだ。きっと禁制品なのだろう。それもとんでもなく高価な。うちの財産はほぼ、根こそぎ奪われたのだ。それをたった二つのために使い尽くしたとなると、あの魔道具ひとつでかなり立派な邸宅が買える計算になる。
――待って。尋常ならざる威力の魔道具がふたつだけとは限らないかもしれない。
モレノたちは『ふたつで使い尽くした』とは言っていなかったはずだ。あれだけ自信満々なのは、ほかにも常軌を逸したレベルの魔道具を隠し持っているからかもしれない。
体がぶるりとふるえた。
もしその魔道具が、ひとに害を与えるようなものだったら?
ランベルト様と対峙しても恐れることはないと、モレノたちが自信をもてるような武器だったなら?
だとしたら、ランベルト様が危ない。
ここでのんびり救助を待っているのは、いけないのではないだろうか。
不安でバクバクする心臓を、手で押さえる。
「成功したな」
背後でそんな声がした。
振り向いた私が見たのは、知らない青年二人組だった。ランベルト様と同じ年のころのようで、外見はいい。服装も上等なものだ。けれど目つきが陰険で、荒んだ雰囲気がある。
「高い買い物だったが、さっそく役に立ってくれた」と黒髪の青年が言う。
彼のほうが、たぶん、上の人間だ。もうひとりの茶髪の青年は、一歩後ろで控えるようにしている。
ふたりとも、どう見ても友好的ではない。
「……どちら様ですか」
勇気をふりしぼって尋ねると、黒髪が口のはしを歪めて笑った。
「モレノ・ザネッラ。知らないなんてことはないだろう?」
行方不明中のザネッラ家の長男だ!
思わずあとずさる。
「逃げられないよ?」とモレノが笑みを深める。「お前は大事な取引材料だ」
取引材料って、なにと? もしかして――
「ご家族と私を?」
「そのとおり。家族も財産も返してもらう」
ゴクリと唾を呑み込む。
「いくらなんでも無理ではないでしょうか」
鼻で笑うモレノ。
「近衛騎士団長がどれほど自分に狂っているか、自覚がないんだ。お前の命がかかっているのなら、あの男は王の命令に反してでも父上たちを解放するだろう」
「ランベルト様はそんなことはしません。立派な方です!」
「立派な男は禁忌術を使って、恋敵を半殺しにはしない。あいつはお前が絡むと冷静な判断をくだせないのさ」
反論したかったけれど、私の手を握っただけのセストがどうなったかを思い出してなにも言えなくなってしまった。
「そういうわけだ。安心しろ」とモレノ。「お前は殺さない。生きたまま近衛騎士団長に渡すさ。向こうが俺の要求に従う限りはな」
「ちなみに」と茶髪青年が口を開いた。「ここは特殊な魔法がかかっているから、いかに優秀な魔術師でもお前をみつけることは不可能だ」
「そのとおり」とうなずくモレノ「数年がかりでようやく買えた魔道具を、まさかすぐに使うことになるとは思わなかったよ。これらでオレフィーノから奪った金を使い切ってしまったが、よい買い物だった」
「え……?」
モレノは満足げな笑みを浮かべ、茶髪青年は無言で私に近寄った。
後ずさる。
けれど茶髪青年は私を気にすることなくかがんだ。その視線の先に、小さな円盤があった。細かい文様が刻まれているみたいだ。それを拾い上げる。
店舗前で見た魔法陣に似ている気がする。
「もしかして、それで私を呼び寄せたの?」
「髪の毛が二本あれば対象人物を呼び寄せられるすぐれものだ」とモレノ。「ただし『入り口側』を対象に踏ませなければならないからな。仕掛けられなければ、使えない。父上たちを牢から奪還することは不可能だが、警戒心の薄いバカな伯爵令嬢を誘拐することはできる」
「魔力がなくとも高性能の魔道具があれば、なんでもできる」と茶髪青年。「逃げようとするだけ無駄だ。お前が魔力なしであることも知っている」
「生きてここを出たければ、おとなしくしているのが一番だぞ」
そう言ってモレノは暗い笑みを浮かべた。
「あの男と生きて会えるかは、わからないけどな」
◇◇
部屋にひとり残されたので検分してみたけれど、逃げられそうにはなかった。扉はひとつで、木製。押しても引いても叩いても、ビクともしない。鍵穴をのぞいてみたものの、暗くてなにも見えなかった。
明り取りの窓は恐らく、私の肩にノエルが立ってようやく手が届くくらいの高さだし、人が通り抜けられるサイズでもない。
ほかに隠し扉でもないかと探してみたけれど、むだだった。
家具も、それ以外もなにもないがらんどうの部屋。
『おとなしくしていろ』と言われたけれど、そうするほかない状況だ。
床にすわる。
ここに転移させられてから、一時間近く経ったのではないだろうか。
不安で不安で仕方ないけれど、だからこそ冷静にならないといけないはずだ。
私が消えたことは、ランベルト様なり近衛騎士団なりに伝えられているだろう。モレノたちは取引をするつもりのようだから、なにかしらの方法で彼らに接触するに違いない。
ランベルト様が要求をのむことはないと思う。だけどそのぶん、無茶をしてでも私を探し出そうとはするかもしれない。――というか、絶対にする。
ランベルト様なら、きっと私を助け出してくれる。
だけど。モレノたちは、強力な魔道具を持っている。術者なしで特定の人間だけを転移させるとか、この場所の特定を防ぐとか、相当に高いレベルの魔術のはずだ。それを可能にする道具なんてものがあるとは、信じられない。
でも存在するのだ。きっと禁制品なのだろう。それもとんでもなく高価な。うちの財産はほぼ、根こそぎ奪われたのだ。それをたった二つのために使い尽くしたとなると、あの魔道具ひとつでかなり立派な邸宅が買える計算になる。
――待って。尋常ならざる威力の魔道具がふたつだけとは限らないかもしれない。
モレノたちは『ふたつで使い尽くした』とは言っていなかったはずだ。あれだけ自信満々なのは、ほかにも常軌を逸したレベルの魔道具を隠し持っているからかもしれない。
体がぶるりとふるえた。
もしその魔道具が、ひとに害を与えるようなものだったら?
ランベルト様と対峙しても恐れることはないと、モレノたちが自信をもてるような武器だったなら?
だとしたら、ランベルト様が危ない。
ここでのんびり救助を待っているのは、いけないのではないだろうか。
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