サモン!わがま魔王様!!

わこね

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第1章  魔王、人間界にお呼ばれされる

第三節

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太陽が昇り外が明るくなってきた頃、魔王はトイレで一人悩んでいた。
これからどう行動するべきなのか。
安易に外に出て天界人にすれ違えでもすれば自分の身が危うくなる可能性が高い。
幸い魔法は使えるが、使っていくたびに着ていたTシャツが更に大きくなっている事で気づいた。今この体で魔法を使えばマナの消費量によって体が幼くなっていっている。
それによって召喚された瞬間何故幼い体だったのか理由が何となく分かった。魔界からこの地球に召喚する為に必要な魔力を召喚する側ではなく、される側だけに搾取されたからだ。なにしろ召喚した人間には魔力は一切無いのだから当たり前だ。
しかし、まさか魔力不足で体が幼くなるとはな。
そう言う理由で体が幼くなっているのだとすれば魔力を貯めれば本来の姿に戻れると言う事になる。
しかし、そう簡単にはマナを溜められないだろう。弱体化している魔王に魔力を貯めさない様早々に奴らが仕掛けてくる可能性が高い。だからといってマナを集める為に魔力を使うとなれば本末転倒だ。
「(こうなる事が分かっていたら)天界人を根絶やしにしておくべきだったな」
「あのー、トイレ使いたいんだけど」
悩んでいる間にこの世界は朝を迎えていた様だ。
魔界には朝とか夜などの時間で景色が変わる事は無い為か時間感覚も無頓着である。
だがこの世界では時間によって朝日が昇ったり沈んだりする様に、人間が起きたり眠ったりするサイクルがある。
そのサイクルに組み入れられている時間や日にちと言う縛りに人間は順応的である様だ。その方が人間側からしてみれば生きやすいのかも知れぬな。
細かな決まりなど魔族にとっては足枷の様に邪魔でしか無い。
寿命の短い生物が効率よく生きる為に編み出したのだとすれば、面白い工夫をする種族だと言える。

「して、この餌はなんだ」
テーブルの上には鳥の餌の様な物が入ったボウルが置かれていた。
「鳥の餌じゃない。シリアルっていう食べ物」と言いながら何やら白い液体をそのボウルの中に流し入れた。
「甘い匂いはするが、それは美味しい物なのか?」
「食べてみるか?」
「昨晩食したラーメンとやらで良いぞ」
「朝ラーは体に悪いからダメだ」
「貴様!私が食したいと言っているのだ!用意せよ!」
「お前!育ち盛りなんだからもっと栄養素がある食べ物を食べないと大きくならないぜ!シリアルは牛乳も一緒に取れて一石二鳥なんだぞ!」
この人間、見た目だけで私を子どもだと勘違いしている。魔王だという事を忘れているのではないか?本来なら一発強力な魔法をお見舞いしてやるところだが、今はマナの消費を抑えなければならない。命拾いしたな、人間。
人間の脛を狙って強力なパンチを繰り出した瞬間、なぜか私にも少しのダメージが与えられていた。
「っ──!!いってぇな!」人間にも確実にダメージは入っているが、私にもダメージがあるのは何故...。
普段なら弱い攻撃や魔法を平然と受けていたが──
「まさか、防御力さえも最低値に下がっていると?!」
絶望的状況だった。最早人間並みに弱くなった魔王が神、天界人に勝てるはずがない。一刻も早く魔界に帰らなければ...!
魔王がこの先を案じている中、呑気に人間は出かける用意をしていた。
「貴様この状況でどこに行くつもりだ」
「は?どこって学校だよ」
「学校、だと?人間が何を学ぶつもりなのだ」
「色んな事だよ。俺にも分からない事とか学校は教えてくれるんだよ」
「それが役に立つ事はあるのか?」
「役に立たなくても知らないよりはマシだろ」
「待て、貴様がその学校に行っている間私をこの狭い部屋に置いていくつもりか」
「しょうがないだろう、俺には俺の用事があるんだから。あ~あれだ、近所の公園とか図書館とかで暇を潰してて良いぞ。一応家の鍵を渡しておくから」と人間が鞄から鍵を取り出したがすぐさま払い落とす。
「私を愚弄するのも大概にせよ。貴様には私を魔界に帰還させると言う役目がある」
「どうやって」
「私を召喚した方法と同じ事をすれば良い。だが召還儀式に必要な魔力が足りない代わりに貴様の命を捧げる必要があるが」
「は?!俺の命を?!」
「犠牲を無しに魔王を呼べると思っていたのか?本来なら召喚には生贄、捧げ物、契約を必要とする。しかし貴様はその全てを無視し私を召喚したのだ。だが、私は寛大な魔王であるため召還には召喚主の命だけで済ませてやろうと思っている」
「俺の命以外でどうにか戻る事は出来ないのか?」
初めて見た焦り顔に思わず笑いが込み上がってくるのを抑え、不可能に近い方法を切り出す。
「では神を倒せ」
「...神?神ってあの神様か?」
「私をこの世界に呼ぶのを企てたのは神だ。その神を倒せば制約も無くなり元に戻る為に必要な魔力を取り戻す事が出来る」
「ん?お前昨日魔法使ってたじゃん」
「どうやら魔法を使うと体が縮む仕組みになっていたらしい。(忌々しい)元の姿に戻る為に私はマナを回収し魔力を溜める必要がある。しかし、その合間にも神は必ず邪魔をしてくる。その邪魔をしてくる神を貴様が倒すのだ」
「いやいやいやいや!無理に決まっているだろ!?神様なんだろ?!たかが人間が敵う相手じゃないだろ!」
「ならば私に命を捧げると、それで良いのだな?」
「!!──それも嫌だ」
このままでは埒が開かぬと思い、事の説明を終えたタイミングである条件を人間に与える事にした。
「ならば条件を設ける。1、貴様は私の為にマナを提供する。2、この世界にいる間、私の身の回りの世話をする。3、神に対する信仰心を有するな。以上3つの契約を守るのであれば猶予を与えてやる事もない」
「えっと...見逃してくれるって事で良いのか?」
「猶予だ。一つでも破ればその場で殺して私は魔界へ召還する」
「待て。まず、マナをどうやってお前に提供するんだ?」
「一から説明をしなければならぬのか、面倒な...。マナとは自然界に存在する魔力の源。幸いこの世界にはマナが満ち溢れてはいるが、純度に差がある。純度が高ければ高い程魔力の量が多いが、人間達が多い場所ではマナは低い。この周囲ではまともなマナを集めることが難しい為、貴様にはある程度のマナを回収したのち私に提供する役目を与えてやる」
「与えてって...。ところでマナってどう回収するんだ」
「これを使え」
渡されたのは綺麗な赤い宝石が付いた指輪だった。
「その指輪はマナを吸収し魔力に変換させる魔具だ。肌身離さず持っていたが、貴様に貸してやろう。マナが溜まっていけば赤、緑、青になり最終的には白になる」
「面白い指輪だな」
「魔力の持たぬ人間が嵌めるとどうなるかは知らないが」
「!!」危うく自分の指にはめそうになる。
「2番目は言葉通り私の身の回りの世話だ。衣食住の提供、娯楽の提供、生活に必要な知識の提供...」
「待て。俺はお前の面倒を見なければならないのか?お前魔王なんだろ?子どもでも自分の事は自分で出来るぞ」
「教えたばかりだがもう一度説明してやろう。私は神に狙われている立場。不用意に外には出られない為、必要最低限の事は貴様がするのだ。理解したか低能」
「この...!良い気になりやがっ──」
小さくなった魔王を殴ろうとするが、体が動かない。
「な、何をした?!」
「指輪に残っていた僅かな魔力が反応したのだろう。魔力の持ち主を傷つけ無い様に反発したのだ」
「? どう言う事だ」
「マナは自然界の源であるが、魔力は術者によってマナを変化させたものだ」
いまいちピンと来ていない様な顔をしていた為分かりやすく説明をする。
「マナは誰のものではないが、魔力は作り出した本人にしか扱えないものになる。貴様が私の指輪を握りしめた拳で殴ろうとした時、私の魔力が残っていた指輪は攻撃対象が私であると認識した為自ら反発したのだ」
「魔力にそんな器用な事が出来るのか?」
「普通は魔力自体にそんな能力はない。私の様な上位魔族ならマナを変換する過程で魔力に反発指示を下して自滅を避ける事は出来るが、並大抵の魔族には無理の様だが」
「もういいや...んで、最後の、えっと...?神の信仰心を持つ?」
「神に対する信仰心を有するな、だ」
「有するなって事は持つなって事か?何で」
「神の力は信仰心からなる。この世界では神は崇める存在らしいな」
「世間ではそうかも知れないが、俺は崇めたりとか願い事とかはしないな」
「神の存在を信じていないのか」
「まぁ、見たことも無いし。空想上の存在だと思ってはいる。実際に神様がいたら世の中平和なわけだし」
「それは違う」
「?」
「本来神が何かを与える立場では無い。神はあくまで傍観者であり、人々が辿る行く末を見守り観察する立場だったが、奴らは愚かにもその掟を破り人間に接触し知識や欲を植え付けた。それからは争いや差別が生まれ人間は神が背負うはずの罪を担う事になった」
「待てよ、それって魔界の話だろ?この世界の話じゃないよな?」
「神とは唯一無二の存在であり、次元の狭間にて様々な世界、時代に現れては自らの存在を世に示し信仰心を高めようとする連中が魔界だけに留まるはずが無い」
「それって、まさか...」
「この世界に存在している神は魔界と何かしらの繋がりを持っている可能性が高い事になる」
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