サモン!わがま魔王様!!

わこね

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第1章  魔王、人間界にお呼ばれされる

第二節

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───地球。
青く輝く惑星。自然豊かで様々な生物が生きる場所。
人や動物が共存し、その中でも人が主体となりあらゆる文化、文明を築き、多々な道具を開発していく中で今ではなくてはならないエネルギー源を獲得していった。(魔界ではそんな事しなくとも魔法で何とかなっている)
しかし、この地球では魔法という概念が皆無だった。
空想上では存在はしているが、現実に扱える者はおろか存在自体を否定している輩ばかりだそうだ。
嘆かわしい事だ。
マナに満ち溢れているこの世界に魔法が存在していなど、あまりにも皮肉過ぎる。
いや...だからこそこマナが豊富なのだ。扱う存在いないおかげでこんなにも地球は自然豊かなのだろう。
魔界では存在していた魔物や魔獣、天使や悪魔も全て空想上の存在となっている世界に、魔王の私が現れてしまった。
しかも子どもの姿で。

「ごめんな、俺料理とかあんまり得意じゃなくてさ」
出された料理は何やらスープに麺の様な物が入った食べ物で、香りたつ湯気を嗅ぐと無性に食欲をそそられる。
「これは何という食べ物だ?」
「ラーメンって言うんだけど、初めてか?」
「フォークは無いのか」
「箸は持った事ないのか...フォークだと食べづらいかもしれないが、仕方ないか」
少し大きめのフォークを器に入れ、数本の麺を掬い上げ口へと運ぶ。
「!!」
口の中に入れた瞬間、今まで味わった事のない旨味が口へと広がった。
「な、何だこれは!」
「ラーメン」
「美味いぞ!」
「ただの袋麺なんだけど...まぁ、喜んでるなら良かった良かった」
食べている私の前に男が座り食べ始める。
「おい、魔王の前で食事をするとは無礼な奴だな。貴様は私が食べ終わるまで待て」
「あのな、ラーメンはのびるんだよ。麺が増えるの、待つ奴なんていないよ」とそのまま食べ進める。
「のびる?増える?こんな麺がどうのび増えるのだ?まさか、そう言う魔法を掛けているのか?やはり魔法が存在していないなど嘘であったのか?!」
「いいから早く食えって!のびるぞ!」
「貴様!それが呪文なのか!この麺に魔法、いや...呪いを掛けて私を殺すつもりなのか?!」
「ご馳走さん」
「私が食べ終わる前に食べ終えるのは無礼だぞ!貴様!人間とはマナーすら理解出来ぬのか!」
「お前が騒いでいる間にも麺が増えてるぞ、ほら器見てみろ」
「!」
スープに浸かっていたはずの麺はいつの間にか麺の割合が増えていた。
「やはり魔法、か?」
「アホタレ。麺がスープを吸って膨張したんだよ」
男がいう様に麺は先程より少し太くなっていた。持ち上げるとずっしりと重たく感じる。
口に運ぶと先程感じた感動は無く、それよりもあまり美味しく無くなっていた。
「不味くなる魔法をかけたのか!」
「いい加減魔法から離れようぜ」

背に腹はかえられぬ為不味い食事を済ませると何やら薄い敷物を敷き始めた。
「何をしている」
「寝る準備だよ」
「まさかとは思うが、その薄い、床で寝るのか?」
「しょうがないだろう、ベッドは場所取るし」
「人間とは随分と貧相な暮らしをしているのだな...」
「人によるよ。俺はただの負け組なだけだ」と薄い敷物の上に掛け布団、毛布、枕を乗せて寝床を作った。
「負け組?人間に上も下もあるのか?」
「あるに決まってるだろ。お前の魔界でも上下関係があるだろ。生まれた時から確立されている格差はどうあがいても縮まらない」
「当たり前だ」
だぼだぼなTシャツのまま魔王は敷いた布団の上に座り込む。
「まず、貴様ら人間はヒエラルキーから見て一番下に当たる。次に魔物、魔獣、魔神、そして一番上に君臨するのが私、魔族だ。私からすれば力の無い者同士の小競り合いなど、取るに足らない」
「それは、お前の住む魔界の話だろ...!ここは地球で、魔界じゃない!お前らの様に魔法を使う奴なんて存在しない!人間は、お前らみたいな特別な力は無いから生まれは平等に見えても、元々ある地位や財力があればわずかな格差が生まれて、そこから勝ち負けが...」
「それがくだらないのだ」
「は...?」
「何故人間は他人と比べたがる。貴様は貴様だろう。上には上がいるならば見なければいい。所詮人間は生まれ持った才でしか能力を発揮できぬ人種だ。持たざるものを欲するのは貴様らの特徴でもあるが、な」
「それって...周りを気にするなって事か?」
「気にしたところで何が変わる?意識した時点で貴様は自分に敗北する。「自分は下の生き物なのだ」と自覚した時、それは現実になる。意識し始めた人間は格差に不満を持ち始め人間同士の争いを引き起こす。人間は上へと上り詰めだかる性分だとは知っていたが、やはり醜いものだな」
「お前ら魔族には無いのか、そう言う感情は」
「まず、魔族は他人には興味を持たぬ。自分より強い者がいれば殺す。以上」
「あっさりしてんだな...」
「魔界では力が全て。弱い者は生きていけぬ世界だ。その中でも魔王は魔界を統べる王として無くてはならない存在だ。かく言う私も魔界を統べている」
「だけど、お前今魔界にいないじゃん。大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないに決まっているだろう、馬鹿め」
「そうは見えないんだが...もっと焦ったりとか」
「私がいなくとも配下が魔界を管理してくれているだろう。それに、今魔界に戻っても私は魔法が...とにかく!貴様が私をこの地球に呼んだせいで大変なのは間違いない。今すぐ貴様を殺して私は魔界に帰る」
手のひらに魔力を込めて男に向けて放とうとするが、だんだん小さくなっていき萎んで消えてしまう。
「と言いたいが、契約上私は貴様には手を出せぬ。そもそも貴様、何故魔王を呼んだ?」
「それは...」少しバツが悪そうな顔を見せるが「興味本位」とだけ告げた。
いずれにせよ、この人間が死ぬか目的が成就すれば私は魔界へ戻れるはずだ。人間の寿命は短い故、死ぬ方が早いかもしれぬが。
突然人間は部屋の明かりを消すと薄い敷物に横になった。
「何をしている」
「何って、寝るんだよ」
「寝る...?眠るのか」
「そうだよ。寝ないと頭働かないし寝不足になるんだよ、おやすみ」
布団を掛け、寝息が聞こえてきたと思うともう眠っていた。
人間は睡眠と言う活動を行うらしい。魔族からすればそれは珍しい行為だ。眠りとは状態異常からなる攻撃だと魔族間では考えているからだ。
しかし人間は魔法で回復が出来ない為、眠る事で体力の回復をしているとなると納得する行為だ。
そう考えると人間は魔法が使えない代わりに様々な工夫と発明をしている面白い人種と言える。
睡眠活動をする必要がない私は転移魔法を使い、この世界の事を知る為に飛び回った。
人気のある場所へ次々と移動して人間の暮らしを監視して行く中、何やら騒いでいる輩が目に入る。近くに行くと何かを手に持ち同じ人間を脅している様だ。
「さっさとあり金全部よこせ!」
「だから!お金がないんだよ!諦めてくれ!」
「もういい、てぇめーの所有物を全部金に変えてやるよ!ありがたく思え!」と胸ぐらを掴み殴ろうとした手が止まる。
「おい、そこのガキ」と私の方に視線を向けてきた。
「何だ」
「何だじゃねぇ、見せもんじゃねーんだよ。殺されたいのか?」
「傍観しようとしていただけの私にまで牙を剥くのか。相手の力量さえ測れない貴様に生死を左右する力がある様には見えないが」
「ガキはお家でおねんねしてろ、雑魚が...!?」男はその場にいきなり倒れた。
何が起こったのか分からないもう一人の男は驚いて声も出せずに呆然としている。
「この程度の魔法で倒れるとは、やはり下の下だったな貴様」そのまま何も無かった様に何処かへ移動しようとすると男が声を掛けてくる。
「あ、あの!ありがとうございました!」
「礼を言われる筋合いは無い。私の敵を駆除しただけだ」

やはり人間同士の争いとは見ていて何の面白みもない。
本能的に勝算のある方へと物事を見る性質だからなのか、弱い者には強く出るが、強い者には頭を垂れる。
それが生存本能だとすれば下等な生命ならではの知恵でもある。
だが、人間同士の争いの中で一番気に障る事は兵器や武器を駆使した戦いだ。それらを製造、使用する為だけにどれだけの自然破壊をしているのか、奴らは気にも留めてないのだろう。
同族同士の殺し合い、嘆かわしいものだ。
私利私欲だけ大きな無能な輩が統治している世界など見ていて何が楽しいか。
この世界の不憫さを募りながら高いビルの屋上から夜の街を眺めていた。
魔界では見られない眩い光景が広がっている中、一部の地域では明かりが灯っておらず静かに眠っている様だ。
少し気になってその場所に降り立つと異様な雰囲気に足が止まる。
(この空気、魔界に近い様で違う魔力を感じる)
人間が住んでいるはずの街に魔力を感じるとは思ってはいなかったが、この魔力はどちらかといえば天界人の気配だ。
(面倒になる前に早々とこの場を立ち去らなければ)
転移しようと空間を開こうとすると何かに阻止された。
「!」
「この世界での魔法の乱用は控えた方がよろしいですよ、魔王様」
暗闇から声が聞こえてきた瞬間、指を鳴らすと同時に魔法の類に制限が掛けられた。
「抑止力、か。自らの手で争いを起こしたりはしないが、火種は撒き散らす天界人ではないか」
「お褒めいただき光栄であります。随分と可愛らしいお姿で召喚された様ですね、魔王様」
「呼んだのは貴様らの仕業か」
はっきり見えていなかった姿が月の光で明るみになる。
人間の姿に偽装をしているが、体からあふれ出ている魔力の量と質で天界の者だと理解した。
「おや、呼んだのはあくまで地球に住む人間のはずでしたが?」
「しらばくれるな。まともな知識も魔力も無い人間が魔王である私を召喚出来るはずがない。だが貴様ら天界人が細工をしていなければ、の話だがな」
「察しのいい魔王様は大好きです!話が早い!」
「誤魔化すことすらしないのだな」
「えぇ。まどろこしい事はお互いに嫌いでしょう。ですので簡単に申しますと"我々天界人があなた方魔王様をこの辺地にお呼びし、その間に魔界を征服しよう!"計画です!」
「!?」
あの天界人の顔を見れば分かる、嘘ではないと。
魔王のいない魔界は無秩序になり種族同士の殺戮、領地への侵略、破壊、今まで築いてきた仕組みが崩れてしまうくらい魔界には魔王が不可欠なのだ。
そんな状態の魔界を天界人が本気で支配しようとすれば一日もいらないだろう。
もし支配されれば最悪魔族は地深くに追いやられ魔力の根源であるマナすら搾取出来ずに滅びるだろう。
天界人は加減というものを理解していない節がある。奴らならやりかねない。
「貴様らは魔界を征服してなにをするつもりだ」
「何を?何も?ただ、魔王様がいなくなった魔界はどれほどの混沌に堕ちるのか見たい、くらいですか」
やはり天界人とは理解出来ぬ種族だ。
奴らの好奇心が危険だと判断した私は天界人を魔界の遥か上空へと追いやり、地上では天界人の存在は無い者として扱っていた。
あくまで奴らは傍観者の立ち位置であるが故に第三者を利用し、当事者は一切動かずに眺めて楽しむ様な性格の奴らを嫌うのは当たり前だろう。
「そんなくだらない理由で私をこの地に呼び出したのか」
「だから呼び出したのは人間の──」
魔法による呪いを解いたと同時に奴の全身に鎖を巻きつけた。
「お早い解除感心します」
「その虚言しか言えぬ口を縫っても良いのだぞ」
「言ったでしょう?まどろこしい事、面倒事は嫌いだと。全て本心であり貴方に嘘をついたところでメリットが一つもない」
「...貴様ら天使の仕業か?」
「大まかな計画はそうですが、実行したのはあ──」
「お前ら天使は何でもすぐにペラペラ喋る。少しは俺らの立場を考えてもらわないと困る」
拘束していた鎖を最も容易く引きちぎったのは
「悪魔か」
「姿を見せるつもりはなかったんだが、この天使が要らぬ事まで喋りそうだったので止めに来た」
「聞かれたら応えるは天使として当たり前であって──」とおしゃべりな口を塞ぐ悪魔。
「魔王。あんたをこの地に呼ぶのを決めたのは神だ」
「...神、だと?」

神。
天使、悪魔、神をまとめて天界人と呼ぶが、その中でも神は人々から崇められる存在であり天界人の力の源になっている。
神と名乗れる者はごく僅かとされているが、今のところ10人程存在していたはずだ。
魔王との力の差を魔界で言えば神の力は魔族達よりも弱い為、魔界では隠居気味であったあの神が、何故この地球を選んだのか。
「魔界よりもこの地球であれば勝算があると?」
「そうらしい」
「随分となめられたものだ、この魔王も」
「この地球では神様の存在は強いのですよ!」としゃしゃり出る天使が話を進める。
「この世界の人間は信仰心が根強くて、ちょっとした事でも神頼みと言う願掛けをするくらい神様の存在に縋る者が多いと神様が仰ってましたよ!」
嬉しそうに話す天使を横目に悪魔は呪文を唱えると天使の口を強制的に閉じた。
「んー!んーー!」
「与えていい情報とそうで無いものの区別すら出来ない多弁は能無しでしか無いと何度言えば理解する」

ようやく理解した。
何故、私がこの地球に召喚されたのか。

神が魔王を倒そうとしている。

魔界では無敵の私でもこの地球ではどうだ?立場が逆になっている程の力を神は身につけている可能性が高いではないか。分が悪すぎる。このままでは、魔界に帰る前に消される可能性もある。
先程まであった自信と誇りが揺らいだ今、心の隙がある以上こちらに勝ち目は無い。
二人に気付かれない様離れた空間に繋がる穴を開ける。
「はぁ...自信満々で神に挑んでボロボロにされる魔王が見られると思っていたのにお前が余計な事まで喋るからよぉ」
「!んー!んんー!」
「何を言ってんのか分かんない」
「んーー!」
二人が揉めている間に空間移動する魔王に気づいた天使が悪魔に教えようとするが伝わらないまま魔王は姿を消した。
「あ!逃げられた」
「ん~~!んーんんーん」
「普通に話せ」と指を鳴らす。
「だから魔王様が逃げちゃうって言おうとしているのに指をさしたりアピールしていたのに悪魔さんが鈍臭いせいで逃げられちゃいましたよ!神様にどう報告すれば良いんですか~!我々の目的もしゃべってしまったし、絶対魔王様警戒しちゃうじゃ──」
再び天使に口封じの呪いを掛けて頭を抱える悪魔だった。
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