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第一話 ベネット公爵家の実態
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この話から、本編開始です。
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〔 Side リィカルナ 〕
卒業パーティーからの退場を命じられて、わたしはベネット公爵家の馬車の中にいた。
――バシッ!
ユインラム様に張り手をされて、体を飛ばされる。
公爵家の馬車だから、広さはかなりあるけれど、それでも所詮は馬車の中。
わたしは思い切り体を打ち付けてしまう。
「――うっ……ぐっ……!?」
痛みに顔をしかめるわたしを、ユインラム様が胸ぐらを掴み上げてきた。
「リィカルナ、一体何をしている!? 貴様のせいで恥をかいたではないか!」
「……う……も、申し訳、ございません……」
息は苦しいけれど、何とか謝罪する。
すると、捕まれていた胸ぐらを離されて、わたしはそのまま崩れ落ちた。
「貴様への罰は、父上に事の次第を報告した上で決定する。良いな」
「……はい」
咳き込みたいのを押さえて、わたしは何とか返事をした。
わたしの名前は、リィカルナ・フォン・ベネット。
ベネット公爵の長女、と言うことになっている。
あの卒業パーティーで、アレクシス殿下から退場を命じられて、会場を出た途端、ユインラム様は盛大に舌打ちをした。
ベネット公爵家の権力は絶大だけど、王族には逆らえない。素直に退場したけれど、それが面白くなかったみたいだ。
けれど、一番の問題は、その前。
カルビン様が、わたしに婚約破棄を突きつけてきた事だ。
格下の伯爵家にそんな事を言われたのだ。ユインラム様にとっては、恥以外の何者でもなかったと思う。
そして、責任の一端は、それを言われてしまった、わたしにもある。
※ ※ ※
晩餐の時間。
ユインラム様が父、ディック・フォン・ベネット公爵閣下に、卒業パーティーでの出来事を伝えている。
わたしは、晩餐の席に着くことを許されず、テーブルの脇に立ったままだ。
弟のクリフォードが心配そうに見ているのには気付いていたけれど、そちらに視線を向けることはしなかった。
「なるほど」
公爵閣下の一言に、わたしの肩がビクッと揺れた。
「婚約破棄については、明日にでも陛下から話があるだろう。カルビンの発言を許す代わりに、ロドル伯爵家に更なる条件を突きつければ、それで良い」
公爵閣下の頭に、本当に婚約破棄がされる、という可能性はないのだろう。
子供の戯れ言だと思っている。
けれど、その戯れ言程度でも、自分の利益になるのであれば、利用し尽くすのが公爵閣下だ。
わたしには、どうすることも出来なかった。
「だが、その事と、婚約破棄を突きつけられて、恥をかかされたこととは別の問題だ」
「申し訳ございません!」
公爵閣下に視線を向けられて、わたしは頭を深く下げて謝罪した。
「頭が高いぞ」
頭を下げたままの私に、公爵閣下の声が降ってきた。
わたしは言い返すことなく、その場で膝を折る。
額を床に付けて、ひれ伏した。
最初からこの姿勢を取ってしまうと、「立っていろと言ったのに、なぜ座る」と怒られ、罰を受ける。
どちらにしても怒られるのであれば、まだ指示に従って動いた方が、被害が少ない。
「申し訳ございません」
もう一度、謝罪を口にして、そのままの姿勢を保つ。
何を言われるか、体が震えた。
「立て、リィカルナ」
命令されて、立ち上がる。
「貴様には言ってあったはずだな。貴様がミスすれば、貴様の母に罰を与えると」
その言葉に、血の気が引くのが分かった。
それだけは、言って欲しくなかった言葉だ。
「罰はすべてわたしが受けます。ですので、お願いします。母には、何もしないで下さい」
もう一度、大きく頭を下げた。
※ ※ ※
わたしは、公爵閣下の長女だ。
その事実に、間違いは無い。
公爵閣下の正妻の子であるユインラム様と、弟のクリフォード。
その一方で、公爵閣下が視察の時に、気まぐれに手を付けた女性から産まれたのが、わたしだ。
その事実は外には知られていないけれど、公爵家の中でははっきり区別されている。
外では、お父様、お兄様、と呼ぶことを命じられているけれど、それ以外の場所では、公爵閣下、ユインラム様と呼ばなければならなかった。
外においては、公爵令嬢らしい振る舞いをしろと言われている。
その監視として王宮や他の貴族家に行くときには、公爵閣下が常に一緒にいるし、学園ではユインラム様がいるから、気が抜けない。
もちろん、学年が違うのだから離れている時もあるのだけれど、一人で勝手に行動することも禁じられている。
いつも一緒にいて家族仲が良い、などと言われていることは知っているけれど、実態はこんなものだ。
命令違反をしたり、公爵閣下やユインラム様の意に沿わないことをしたり言ったりすれば、その罰をわたしも受けるけれど、それよりも母の受ける罰の方が重い。
それを回避したくて、がんばっているのだけれど、上手く行かないことの方が多いのだ。
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〔 Side リィカルナ 〕
卒業パーティーからの退場を命じられて、わたしはベネット公爵家の馬車の中にいた。
――バシッ!
ユインラム様に張り手をされて、体を飛ばされる。
公爵家の馬車だから、広さはかなりあるけれど、それでも所詮は馬車の中。
わたしは思い切り体を打ち付けてしまう。
「――うっ……ぐっ……!?」
痛みに顔をしかめるわたしを、ユインラム様が胸ぐらを掴み上げてきた。
「リィカルナ、一体何をしている!? 貴様のせいで恥をかいたではないか!」
「……う……も、申し訳、ございません……」
息は苦しいけれど、何とか謝罪する。
すると、捕まれていた胸ぐらを離されて、わたしはそのまま崩れ落ちた。
「貴様への罰は、父上に事の次第を報告した上で決定する。良いな」
「……はい」
咳き込みたいのを押さえて、わたしは何とか返事をした。
わたしの名前は、リィカルナ・フォン・ベネット。
ベネット公爵の長女、と言うことになっている。
あの卒業パーティーで、アレクシス殿下から退場を命じられて、会場を出た途端、ユインラム様は盛大に舌打ちをした。
ベネット公爵家の権力は絶大だけど、王族には逆らえない。素直に退場したけれど、それが面白くなかったみたいだ。
けれど、一番の問題は、その前。
カルビン様が、わたしに婚約破棄を突きつけてきた事だ。
格下の伯爵家にそんな事を言われたのだ。ユインラム様にとっては、恥以外の何者でもなかったと思う。
そして、責任の一端は、それを言われてしまった、わたしにもある。
※ ※ ※
晩餐の時間。
ユインラム様が父、ディック・フォン・ベネット公爵閣下に、卒業パーティーでの出来事を伝えている。
わたしは、晩餐の席に着くことを許されず、テーブルの脇に立ったままだ。
弟のクリフォードが心配そうに見ているのには気付いていたけれど、そちらに視線を向けることはしなかった。
「なるほど」
公爵閣下の一言に、わたしの肩がビクッと揺れた。
「婚約破棄については、明日にでも陛下から話があるだろう。カルビンの発言を許す代わりに、ロドル伯爵家に更なる条件を突きつければ、それで良い」
公爵閣下の頭に、本当に婚約破棄がされる、という可能性はないのだろう。
子供の戯れ言だと思っている。
けれど、その戯れ言程度でも、自分の利益になるのであれば、利用し尽くすのが公爵閣下だ。
わたしには、どうすることも出来なかった。
「だが、その事と、婚約破棄を突きつけられて、恥をかかされたこととは別の問題だ」
「申し訳ございません!」
公爵閣下に視線を向けられて、わたしは頭を深く下げて謝罪した。
「頭が高いぞ」
頭を下げたままの私に、公爵閣下の声が降ってきた。
わたしは言い返すことなく、その場で膝を折る。
額を床に付けて、ひれ伏した。
最初からこの姿勢を取ってしまうと、「立っていろと言ったのに、なぜ座る」と怒られ、罰を受ける。
どちらにしても怒られるのであれば、まだ指示に従って動いた方が、被害が少ない。
「申し訳ございません」
もう一度、謝罪を口にして、そのままの姿勢を保つ。
何を言われるか、体が震えた。
「立て、リィカルナ」
命令されて、立ち上がる。
「貴様には言ってあったはずだな。貴様がミスすれば、貴様の母に罰を与えると」
その言葉に、血の気が引くのが分かった。
それだけは、言って欲しくなかった言葉だ。
「罰はすべてわたしが受けます。ですので、お願いします。母には、何もしないで下さい」
もう一度、大きく頭を下げた。
※ ※ ※
わたしは、公爵閣下の長女だ。
その事実に、間違いは無い。
公爵閣下の正妻の子であるユインラム様と、弟のクリフォード。
その一方で、公爵閣下が視察の時に、気まぐれに手を付けた女性から産まれたのが、わたしだ。
その事実は外には知られていないけれど、公爵家の中でははっきり区別されている。
外では、お父様、お兄様、と呼ぶことを命じられているけれど、それ以外の場所では、公爵閣下、ユインラム様と呼ばなければならなかった。
外においては、公爵令嬢らしい振る舞いをしろと言われている。
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もちろん、学年が違うのだから離れている時もあるのだけれど、一人で勝手に行動することも禁じられている。
いつも一緒にいて家族仲が良い、などと言われていることは知っているけれど、実態はこんなものだ。
命令違反をしたり、公爵閣下やユインラム様の意に沿わないことをしたり言ったりすれば、その罰をわたしも受けるけれど、それよりも母の受ける罰の方が重い。
それを回避したくて、がんばっているのだけれど、上手く行かないことの方が多いのだ。
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