【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

崖の際の戦い

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正面から突っ込んできたパールが、そのまま顔面に拳を繰り出してきた。

リィカは、驚いて躱そうとするが、間に合わない。
かろうじて、腕でのガードが間に合ったが、

「………………っ……!」

腕が痛い。痺れる。けれど、それを気にしていられない。
お返しとばかりに、《火球ファイヤーボール》を顔面にぶち込んだら、腕で防御された。

「いい度胸してんじゃない。――殺してやるわ!!」
どうやら、注意を自分に向けることには成功したようだ。

もう一発、ダメ押しに《火球ファイヤーボール》を顔面に放つと、リィカはその場から離れる。

相手が近接戦闘もできるとなると、完全に後衛のリィカは、距離を詰められると不利だった。


「《炎の槍フレイムランス》!」
森の中に逃げるリィカを、後方から追い掛けてくるパールが、魔法を使ってきた。

「《水塊アクアブロック》!」
中級魔法の《炎の槍フレイムランス》に対し、リィカも中級魔法を放つ。

炎の槍フレイムランス》を消滅させ、さらに《水塊アクアブロック》がパールに命中した。

「――…………ちっ!」
舌打ちしたのが聞こえたが、気にせずリィカは走る。

(この人、さっきから詠唱しないで魔法を使ってる……。この人だけ? それとも、魔族はみんな詠唱しなくても、魔法を使えるの?)
もしそうだとしたら、厄介だ。

「《竜巻トルネード》!」
振り向きざまに、さらに一発魔法をお見舞いする。

(このまま距離を開けたまま、魔法を使い続ければ……!)
そう考えたリィカの視界が、一気に開けた。

「……………え……」
そこは崖だった。崖の下には川が流れている。

(しまった……!)
致命的なミスだった。


「追い詰めたよぉ? 要するにアンタ、近距離での戦闘ができないんだね?」
パールがリィカに近づいてきた。

「魔法合戦じゃアタシは勝てなそうだけど……でも、アタシはこっちのが好きだしね。――覚悟しなよ。ボッコボコにしてあげる」

握った拳を、わざとらしくリィカに見せつける。
ニヤニヤと面白そうに笑うパールを見ながら、リィカは必死に対抗策を考えていた。


※ ※ ※


走って行くリィカと、追い掛けるパールを見ながら、暁斗は身体の震えをどうしても抑えきれなかった。

「アキト、タイキさん、大丈夫ですか?」
駆け寄ってくるユーリに、何も言葉を返せない。

――魔族から守るために、自分を背に庇ったリィカ。その姿が、夢の中の母親の姿と重なった。

「……いやだ……ちがう……」
暁斗の口から、言葉が漏れる。

「……ちがう……母さんなんか、知らない……キライだ……いやだ……」
頭を抱えて、目からは涙がこぼれ落ちそうになっていた。

「――ユーリ、暁斗を頼む」
青い顔をしたままの泰基が、そう言って走り出そうとするのを、慌ててユーリが引き留めようとしていると、暁斗が泰基を見た。

「……父さん、どこ、いくの」
「リィカを追う。一人じゃ危ないだろ」
「そんな……! だって、相手は人だよ? 人と、変わんないじゃん!!」

暁斗のその叫びに、ユーリは大きく目を見開いた。
けれど、泰基は冷静だった。

「そうだな。……想像してた以上に、そんなに変わらなかったな」
苦笑いをした泰基は、暁斗の頭に手を置いて、優しく撫でる。

「いっそ、見た目から化け物であってくれれば、良かったのにな。でも、それを言ってもしょうがない。俺が行ってくるから、お前はユーリとここで待ってろ」

そう言って、泰基は身を翻して駆け出した。
暁斗は、そんな父親の後ろ姿を見て、手を握りしめる。

「……オレも行く」
つぶやいて駆け出す暁斗を、ユーリも追い掛けた。


だが、どこに行ったかが分からない。
何の手がかりもなく、探す方法がない以上、しらみつぶしに探すしかなかった。

「リィカ、どこに……」
泰基がつぶやいたとき、

「ユーリ、アキト、タイキさん!!」
アレクとバルが走ってきた。

「二人とも、魔族は……」
「倒した」

ユーリの問いに簡潔に答えるアレクとバルには、返り血が付いているのが分かり、暁斗も泰基も息を呑む。

「それより、なんでここにいるんだ?」
「……リィカを助けようと来たんですが、場所が分からなくて」
「ああ、そうか。――こっちだ、急ぐぞ」

何で分かるんだ、と問いかける余裕もなく、駆け出していくアレクたちを追って、暁斗も泰基も駆け出した。


※ ※ ※


顔面めがけて飛んできた拳を避けて、至近距離で《風斬ウインドカッター》を放つ。
わずかに舌打ちするのが聞こえる。

相手が魔法に対処している間に、少し距離を開ける。

「《ゲイ》……」
「させないよ!!」

しかし、あっという間に距離を詰められ、魔法を放つのを中断させられる。

今使おうとした《疾風ゲイル》は、中級魔法だが、名前も短く、速さが特徴の魔法だ。これなら、唱えきれると思ったが、甘かったらしい。

ローキックをかわせず、まともに食らうが、体勢を崩しながらも《火球ファイヤーボール》を放った。


現状、リィカがまともに使えるのは、初級魔法だけだった。
中級魔法は、魔法名を唱えきる前に、中断させられてしまう。

思うだけで発動可能な初級魔法だけが頼り。だが、それだけでは多少の時間を稼げるだけで、相手にダメージを与えられない。
それなのに、自分はもう何度も攻撃を受けてしまっている。

そして、もう一つ危険なのが、背後に崖があることだ。
何とか崖から離れようとするが、それすらもさせてもらえない。


この状況を打破できる魔法は、二つ。
もしそれらが破れれば、他に方法はない。

再び、《火球ファイヤーボール》を放つ。――が、簡単に避けられる。

「ムーダだよ! そろそろ終わりにしてあげる!」

拳が握られるのを見ながら、リィカは《落とし穴ピットフォール》を唱えた。

「ぎゃあ!?」
突然足下が陥没し、悲鳴を上げてパールが下に落ちた。


初級魔法のうち、火・水・風魔法は、同系統の魔法が三つあるだけだ。
すなわち、《ボール》、《カッター》、《アロー》。

しかし、土魔法だけは、《ボール》だけは同じものの、他の二つは違う魔法だ。
そのうちの一つが、《落とし穴ピットフォール》。
下に一メートルほどの落とし穴を掘る魔法。


「――ナメんなよ!」
とはいっても、たかが一メートル。

パールくらいに身体能力が高ければ、簡単に脱出もできるだろう。
案の定、簡単に穴から飛び上がって、リィカに向かってくる。
しかし、それだけあれば、中級魔法を唱えるのに十分だった。

「《火炎光線ファイヤーレイ》!!」
貫通能力のある魔法を、パールの心臓めがけて打ち出した。

――鮮血が、散った。


※ ※ ※


「――いた!」
アレクたちが、リィカを見つけた。

背後がすぐ崖になっている状況で戦っているのを見て、すぐに駆け出した。


※ ※ ※


「やってくれんじゃないの! アンタ!!」
パールが脇腹を押さえながら、大声で吠えた。

(外れた……!)

それをすぐ理解して、リィカはもう一つの土魔法、《石柱ストーンピラー》を発動させる。
今度は、上に押し上げたが、パールは全く怯まない。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
石柱ストーンピラー》を蹴り出しながら上げた声は、咆哮というに相応しいものだった。

その声に、迫力に、リィカの身体は硬直した。動けなくなる。


パールに右拳に、強い魔力が集まっているのが見えた。

――あれを食らったら、ダメだ!
そう思うのに、身体は凍り付いたように動かない。

「リィカ!!」

その瞬間、名前を呼ばれた。そして、眼前に誰かが飛び込んでくるのが分かって、目を大きく見開く。
――…………まさか……アレク!?

「――……が…………は…………」

パールの攻撃が、アレクに命中する。
腹部に攻撃が命中し、大量の血が飛び散る。

後ろに倒れるアレクを支えようとして、――支えきれず、リィカはアレクと一緒に、崖下に落ちていった。

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