【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
69 / 694
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

完治

しおりを挟む
ユーリの《全快オールヒール》の光が消えれば、もうアレクの傷はなくなっていた。

「……なおったの?」

リィカが小さく聞く。
ユーリが笑顔で答えた。

「ええ、もう大丈夫です。ここまでだいぶ消耗はしているから、目が覚めるまではもう少し掛かるでしょうけど、心配はいりません」

「……良かった」
そうつぶやいてアレクを見たリィカは、今にも泣きそうながらも笑顔だった。


そんな様子を後ろから見ていたフロイドは、リィカに声を掛ける。

「これをどうぞ。差し上げますよ」
渡された紙を見れば、地下にあった魔方陣が描かれていた。

「一応見比べてみましたが、同じだと思います。ぜひお役立て下さい」

「ありがとうございます、フロイドさん。本当に、色々お世話になって……」
言いかけて、リィカがハッとする。

「……そう言えば、フロイドさん。通ってるんですよね。帰らなくていいんですか?」
外を見れば、もう暗い。

「ええ。今日はアレクさんのこともありましたし、泊まろうと思っていましたから、気にしなくていいですよ。他の皆様方も、今日はこちらに泊まっていって下さいね。私は食事の用意をしてきますので」

「手伝います」
リィカがそう申し出たが、フロイドはそれを断る。

「久しぶりにお仲間と再会したのでしょう? 色々積もる話もあるでしょうから、ゆっくりして下さい」
そう言って、フロイドは出て行った。



食事の用意をしながら、フロイドは考えていた。

仲間だといううちの二人。
黒い髪に黒い目。あまり見ない色だ。そして、かつて召喚された勇者であるシゲキ様も、同じく黒い髪に黒い目だった、と言われている。

アレクの髪の色も黒いが、治療中に、黒ではなく、金色が濃すぎて黒に見えているだけだと気付いた。
ユーリは金髪。もう一人の男性も、少し色は暗めだが、金髪だ。
金髪は、王族や貴族に良く見られる髪の色。

リィカは、平民によくある髪色だが、見せた魔法はすごかった。

そして、あの魔方陣について説明していたときの、リィカの様子を思い出すと、彼らが単なる冒険者などではない、という結論に行き着く。

(不思議なものですね)
かつて、勇者を帰すための研究をしていたこの僻地にある教会に、勇者様ご一行が立ち寄るのだから。



一方、フロイドが出て行くのを見て、ユーリが口を開いた。
「リィカ、それは?」
視線は、先ほどフロイドがリィカに手渡していた紙にあった。

リィカは口ごもって、泰基と暁斗を見たが、真剣な目をして口を開いた。

「あの、あまり期待はしないで聞いて欲しいんだけど」
そして、フロイドから聞いた話を、語り始めた。

「……帰れるってこと?」
ポツッと、暁斗がつぶやく。

「かもしれない。でも、わたし魔方陣についてあまりよく知らなくて……。ユーリは、知ってる?」

「……僕もよく知りません。一般的に知られている魔方陣といえば、勇者様を召喚する、召喚の魔方陣でしょうが……」

それにしても、いつ、だれが、どうやって作ったのかは、まったく伝えられていない。

「鍵は、その『森の魔女』とやらかもしれませんね。聞いたこともありませんが、旅をしながら探してみましょうか」

バルとユーリが頷くと、暁斗が申し訳なさそうに口を開いた。
「……いいの? 魔王を倒さなきゃいけないのに」
「いいだろ別に。旅の目的が一つじゃなきゃいけねぇ、なんてことはねぇよ」

言われた暁斗が、口を噤んでうつむく。
そんな暁斗に、気になったリィカが何かを聞こうとして、そこで食事の用意ができたとフロイドから声がかかった。


食事を終えて、リィカがアレクの側に付いていると言い出した。
それを止めたのが、フロイドだ。

「確かにアレクさんの傷は大変なものですが、リィカさんだってそのためにどれだけ無茶をしましたか? はっきり申し上げますが、あなただっていつ倒れてもおかしくありませんよ。もうアレクさんは治ったのです。今度はリィカさんがご自分をしっかり治す番ですよ」

リィカは昼間に寝たから大丈夫、と言い返そうとして、結局はフロイドの視線に負けて、素直に休む事にした。



次の日の朝。
リィカ達は旅支度を調えていた。

アレクはまだ目を覚まさないが、半日ほど歩けば街があると聞いて、そこに行くことにした。

もともとこの教会は、そんなに人が泊まることを想定されていない。
食料ももうほとんど残っていない、と言うことで、出発を決めた。


「本当にお世話になりました。ありがとうございました」
リィカがフロイドに頭を下げる。

「いえ、あまりお力になれませんでしたが。馬も、申し訳ありません。お貸しできれば、本当はいいんですが……」

申し訳ないと謝るフロイドに、リィカは慌てて手を振った。
フロイドは、その街から馬で通ってきているらしい。
その馬を借りてしまえば、今度はフロイドが帰れなくなる。

「リィカさん、まだあなたは万全ではありませんからね。街に着いたら、数日はゆっくり休んで下さいね?」

何度もそう念押しされた。


ちなみに、アレクは今バルが抱えている。

意識のないアレクをどうやって連れてきたんだ、と聞かれて、実際にやってみせたリィカに、一同は大爆笑した。
どっからどう見ても、お姫様抱っこである。

それはリィカだって分かっていたが、他に方法がないのだから、しょうがない。

「上級魔法をずっと発動し続けたって、大変でしたね」

ユーリはそう慰めを口にしたが、笑いながら言っているので全く意味がない。
バルは、アレクが気の毒になったらしい。

「女に、そうやって抱えられるって、結構ショックだぞ」
とつぶやいていた。

今は、「もう治ってんだからいいだろ」と言って、まるで荷物のように肩に担いでいる。


「ありがとうございました」
最後にもう一度お礼を言って、一同は教会を出発した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...