【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
114 / 681
第四章 モントルビアの王宮

晩餐

しおりを挟む
晩餐は、確かに侍る女性はいなかった。
しかし、給仕をする女性はなぜか露出の激しい女性ばかりで、偶然を装って体を押しつけてくる。

本来なら、それでも暁斗は気持ち悪くなっただろうが、リィカのことで頭が一杯になっていた暁斗は、それらの女性たちを気に掛ける余裕はなかった。


魔法師団の素晴らしさについて語っているベネット公爵の話を聞き流しながら、暁斗はできるだけ早くこの晩餐が終わる事だけを望んでいた。
そのせいで、食べるペースが早い。

新しく注がれた飲み物を飲んだ暁斗は、思わず口を押さえた。
「どういたしましたか、勇者様?」
「――これ、お酒だよね。オレ、お酒は飲まないって言っていたはずだけど」

アルカトルでも飲んでいないし、ここに来てからもそう宣言していた。
だから、昨日の王宮でも出されなかった。

「も、もちろん存じております。しかし、その酒はとてもいいものでして、どうしても勇者様に召し上がって頂きたいと……」

暁斗は、泰基に言われていた。
勇者の立場は強い。だから、多少の無茶なら押し通せる。
何かあれば、強気で攻めろ。

(だったら、この程度、言ってもいいよね)
暁斗は、ベネット公爵を真っ正面からにらみ返す。

「いいものだろうと、飲まないものは飲まないよ。――オレのいた国じゃ、お酒は二十歳になるまで飲むのが禁止なんだ。それを破る気はないから。気分悪いから、先に部屋に帰る」
「……え、あ、勇者様、お待ちを……!」
引き留めようとする声を無視して、暁斗はその場から離れた。


(ここまで来て、開き直ってきたな)
出て行く息子を見送りながら、泰基が苦笑する。
けれど、このモントルビアでは、それでいい。
少しくらい強気に出なければ、相手に呑まれてしまう。

「……その、申し訳ありません」
頭を下げるベネット公爵を、泰基は冷ややかに見つめる。
「俺に謝られてもな。暁斗の言った事を無視したのは、そっちだ。許して欲しかったら、暁斗に直接言ってくれ」

「……本当にそのような決まりがあるのでしょうか?」
「疑うのか? 確かにあるぞ。法律で決められている。破ったからといって罰則があるわけではないが、二十歳前の飲酒は体に悪いと言われているから、守る奴は結構多いんじゃないか?」
うつむいたベネット公爵を気にとめることなく、泰基は食事を再開する。

「体に悪いというのは、本当ですか?」
酒を飲みながら聞くのは、ユーリだ。

「ああ。……俺も専門家じゃないから、詳しい事までは知らないが、確かアルコールの分解する力が弱い、とかそんな理由があったと思う」
「そうなんですか。いつか具体的に調べてみたいですね。……お酒を飲むの、やめておきましょう」

「……結構気にするんだな」
泰基の意外だという顔に、ユーリは少しむくれる。

「それは、そうです。神官として色々な治療をしてきましたから。体に悪いと聞かされては、気になりますよ」
「……そういうものか」
そんな会話をしている中、その知らせは突然入ってきた。

「失礼します。お館様、ご歓談中申し訳ありません!」
「何だ! 勇者様の御前だぞ!」

入ってきた使用人に対してベネット公爵が怒鳴りつけ、それに泰基たちが顔をしかめる中、しかし、その使用人はさらに頭を下げた。

「……実は、その、勇者様が外へ行くと、出て行ってしまわれまして」
「…………なに?」
ベネット公爵のつぶやきに、こればかりは泰基も同感だった。

(何やってるんだ、あいつは!)
一人で暴走するなと言われたばかりだというのに、早速破った暁斗を連れ戻そうと、泰基は立ち上がった。


※ ※ ※


晩餐の場から去った暁斗は、そのまま自分に与えられた部屋にいた。

(リィカ、どうしてる? 大丈夫?)
気になるのは、そこだけだ。窓から外を見ながら、リィカのことだけを考える。

(――あれ?)
何かが引っかかった。
窓を開けて、集中する。気配を探れば……いた。

「――リィカ!」
叫んで身を翻す。
決して近くではない。でも、この広大な公爵家の敷地内だ。
リィカが、間違いなくいる。


「勇者様、お待ち下さい! どちらへ!?」
「どいて。外に行く」
扉の前に立ち塞がる人を強引にどかして外へ出た暁斗は、リィカの気配に向かって、走り始めた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

​【マグナギア無双】チー牛の俺、牛丼食ってボドゲしてただけで、国王と女神に崇拝される~神速の指先で戦場を支配し、気づけば英雄でした~

月神世一
ファンタジー
「え、これ戦争? 新作VRゲーじゃなくて?」神速の指先で無自覚に英雄化! ​【あらすじ紹介文】 「三色チーズ牛丼、温玉乗せで」 それが、最強の英雄のエネルギー源だった――。 ​日本での辛い過去(ヤンキー客への恐怖)から逃げ出し、異世界「タロウ国」へ転移した元理髪師の千津牛太(22)。 コミュ障で陰キャな彼が、唯一輝ける場所……それは、大流行中の戦術ボードゲーム『マグナギア』の世界だった! ​元世界ランク1位のFPS技術(動体視力)× 天才理髪師の指先(精密操作)。 この二つが融合した時、ただの量産型人形は「神速の殺戮兵器」へと変貌する! ​「動きが単調ですね。Botですか?」 ​路地裏でヤンキーをボコボコにしていたら、その実力を国王に見初められ、軍事用巨大兵器『メガ・ギア』のテストパイロットに!? 本人は「ただのリアルな新作ゲーム」だと思い込んでいるが、彼がコントローラーを握るたび、敵国の騎士団は壊滅し、魔王軍は震え上がり、貧乏アイドルは救われる! ​見た目はチー牛、中身は魔王級。 勘違いから始まる、痛快ロボット無双ファンタジー、開幕!

処理中です...