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第六章 王都テルフレイラ

闇魔法と成績?

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この世界には、光の女神ヴァナと並び、もう一柱、闇の女神ダーナがいる。
この双子の女神がこの世界を形作り、人々に魔法と魔力を与えたと言い伝えられている。

光魔法は、光の女神ヴァナの祝福を受けることで使えるようになる魔法だ。
同じく、闇魔法も闇の女神ダーナの祝福を受けることで、使えるようになる。

大昔は、光と闇の教会は、どこも必ずセットで建てられていたらしい。
それが今は、どこに行ってもあるのは光の教会だけ。

闇の教会は廃れてしまい、今残っているのは、大陸の中央。かつて、女神達が降り立ったと言われる聖地にあるのみだ。


「なんで廃れちゃったの?」
暁斗が首を傾げる。

「いくつか理由はあるんですが、最大の理由が闇魔法には回復魔法が存在しないことです」
答えて、ユーリの説明はさらに続いた。


なんと言っても、教会が求められる一番の理由が、回復だ。
回復を求める人々は光の教会に集まる。そして、回復魔法を使えるようになりたい人々も、光の教会に集まる。
闇魔法に回復魔法がない以上は、どうしようもないことだった。

ただし、闇魔法には他の属性にはない魔法があった。
それが、相手を毒や麻痺状態にしたり、眠らせたり、といった状態にする魔法だ。


「――状態異常?」
暁斗がつぶやく。

「ああ、過去の勇者様方もそういう言い方をしたらしいですね。その状態異常の魔法があるから、魔物との戦いでは重宝されていたらしいんですよ」

「だったら、なんで廃れたんだ?」
泰基が首を傾げる。

重宝もされるだろう。倒すべき相手が麻痺していたり眠ってくれていたりしたら、これ以上なく安全に倒せる。
それに、相手が強くても、毒状態にすればいずれ倒れる。
回復魔法がなくても、廃れる事にはならないだろう。


「リィカは、理由を知っていますか?」
突然ユーリに話を振られて、リィカがビクッとした。
「……なんでわたしに振るの?」

「筆記試験をアレクと争っているようじゃ駄目ですよ。リィカの場合、勉強を頑張ってそこまで上がったようですが、それを無駄にしないためにも、復習できるところはしておかないと」

モルタナでマルティン伯爵から言われた話を出されて、リィカがブーッと唇を尖らせる。

「ダスティン先生からは、よくやったって褒められたんだから。同学年の有名人五人のうち、アレクシス殿下の成績が一番悪いから、まずは殿下を抜かせるように頑張れって。一つだけだけど順位が上にいって、すごく喜んだんだよ?」
ふくれっ面のままリィカが言えば、アレクが慌てた。


「待て待て、何だそれ!? 勝手に俺を引き合いに出すな! というか、ダスティン先生、何言っているんだよ!?」

ユーリが腹を抱えて笑っている。笑いすぎて、まともに息もできていない。
アレクは、そのまま笑い死にしてしまえ、と悔しさ半分に思っていた。


同学年の有名人五人とは、アレクとバル、ユーリに加え、アレクの兄であり、王太子のアークバルトと、アークバルトの婚約者、レーナニアの事だ。
身分での注目もあったが、アレクとバルは剣の腕で、ユーリは魔法、アークバルトとレーナニアは頭の良さで、それぞれ注目を集めていた。

そして、ダスティン先生は国立アルカライズ学園で、リィカの平民クラスを教えている先生だ。
アレクたちは学校ではほとんど接点がなかったが、冒険者時代に世話になっていたので、やはり先生という意識が強い。


「アレクは前に聞いたけど、ユーリとかバルの成績ってどうだったの?」
暁斗が興味本位に質問を始める。

「それを聞くなら、ぜひアキトの成績も伺いたい所ですね。――僕は、まあそこそこ上位に入っていましたよ」
ユーリが笑いすぎて涙の出てきた目を拭う。そして、得意げな顔を隠そうともせずに答えた。

暁斗が、うわぁ、と嫌そうな顔をする。
バルに視線を向ければ、こちらは複雑そうな顔だ。

「おれは、中の下って所だな。アレクほど悪くはねぇが、あまり褒められたもんでもねぇ」
暁斗に答えた後に、視線をリィカに向ける。

「もしかして、アレクを超えたんだから次はおれを超えろとか、先生言ってたんじゃ……」
「うん、正解。期末期の試験の後、そう言われた」
あっさりリィカに頷かれて、バルがズーンと落ち込んだ。

「…………もうちっと真面目に勉強すっかなぁ」
バルの小さなつぶやきを聞きながら、ユーリが暁斗を見る。
見られた暁斗は、視線を逸らした。

「素直に答えたらどうだ、暁斗?」
泰基にからかうように言われて、暁斗の顔が赤くなる。

「……でも、ほら、みんなと内容も何もかも違うわけだし。比較する必要はないかなぁって」

言い訳するように言うだけで、大体想像がつくというものである。
マルティン伯爵の屋敷では、アレクと勉強しなくていい、なんて話で盛り上がっていたくらいである。

「要するに、成績は悪いんですね」
ユーリが容赦なく言葉を突きつける。

「まあな。残念ながら、下から数えた方が断然早い」
「――父さん!」
泰基に簡単に暴露されて、暁斗が叫んでいた。


「話が逸れてしまいましたが、リィカ、何で闇魔法が廃れてしまったのか、答えて下さい」
ユーリがすました顔で話を元に戻す。

(話が逸れたの、ユーリのせいでしょ)
リィカはそう思うが、声には出さない。
結局自分が答えるのか、と思いつつ、授業で習ったことを思い出した。

「……確か、魔法使いが台頭してきたから、だったと思う。それまでほとんど初級魔法しか使えなかったのが、中級魔法、上級魔法を使えるようになって、それで魔物を倒せるようになったから、一人では倒せない、倒せても時間がかかる闇魔法の需要がなくなった……?」

言いつつ自信がなくなってきたのか、最後はなぜか疑問形だ。
横目でこっそりユーリを見る。

「なぜそんな自信ないんですか。正解ですよ。もちろん、闇魔法にも普通の攻撃魔法も存在しますが、それは光魔法でもできることです。だったら、回復魔法もできる光の神官にいてもらった方が有り難い、ということですね」

その結果、闇魔法の祝福を受けようとする人の数が激減。
それに比例して、闇の教会もどんどん数を減らしていき、聖地に残るのみとなったのだ。
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