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第六章 王都テルフレイラ

転移

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アレクは、ふと大事なことを思い出した。
抱き締めていたリィカを放す。

「――アキト。てんい、とは何だ?」
聞かれて暁斗も思い出した。説明しようとして、腕を組んで考えこんだ。
諦めて、泰基を見る。

「少しは自分で説明しようとしてみろ」
泰基が暁斗をギロッと睨んだ。



転移。瞬間移動。テレポーテーション。
言い方は色々あるが、一言で言えば、まったく違う場所に一瞬で移動する事を言う。

日本のファンタジーの小説等では、その話によって条件は色々だ。

一度行った事のある場所にしか行けない。決められた場所にしか行けない。移動する先に、事前準備が必要。屋根のある場所からは移動できない。制限なく自由に移動できる。
探せばもっと色々な条件が出てくる事だろう。


「一瞬で姿が消えた感じが、確かに転移したと言われれば、それっぽい感じに思えなくはない」
アレクたちにも伝わりやすいように説明には言葉を選んだ泰基の話に、一同が考え込んだ。

「話は分かったが……一瞬で別の場所に移動? そんな事が可能なのか?」
少なくとも既存の魔法に、移動に関する魔法はない。

アレクの疑問に、泰基も答えはない。そもそも自分たちの魔法の知識は空想上のものだ。実際を知っているわけではないのだ。
少なくとも、この世界の魔法では不可能だと思う。泰基も、暁斗が言い出さなければ、想像もしなかった。

泰基は、自分に説明を押しつけて黙ったままの暁斗を見る。
「言い出しっぺはお前だろ。何かないのか?」
「ええっ、オレ!? 何かあったら、言われなくてもしゃべってるよ。オレだって、父さんと同じだよ。それっぽいなって思っただけ」

「……できなくはない、かもしれない。少なくとも、過去にはできた人がいたんじゃないかと思う」
リィカが、暁斗の言葉に被せてきた。先ほどまで怯えを見せていたリィカだが、今は普通に戻っている。

リィカに視線が集まる。
「時間と空間の魔法を使う勇者。その勇者だったら、一瞬で違う場所に行くなんて、簡単にできたと思う」

暁斗のこだわる魔法のバッグを作ったとされる勇者。
勇者が時間を止める。その間に勇者が移動して、再び時間を動かせば、周囲の人からは勇者が突然別の場所に現れたと思うだろう。
空間を別の空間につなげる。つなげた道を行けば、一瞬で別の場所に移動できる。

「だが、それはユニーク魔法を使う勇者だから……。いや、魔族にユニーク魔法を使う奴がいる?」
泰基の言葉に、リィカが頷いた。

「それも一つの可能性だと思う。魔族の使う魔法、わたし達と一緒でしょ? ユニーク魔法を使う魔族がいてもおかしくない」
「一つの可能性って? 他にもあるの?」
暁斗が聞く。リィカが少し笑った。

風の手紙エア・レターが形になりそうでしょ。残りの四個が作れてないけど。それが終わったら、今度は魔法のバッグ作りだなって」

いつか暁斗と約束した事を、リィカは思い返す。風の手紙エア・レターができたら、次は魔法のバッグ作りに挑戦する、と。

「それでどうやったら作れるか、考えてたの。時間とか空間とかって何だろう。四属性や光で再現するにはどうしたらいいのかなって」
暁斗が不意に何か考え込む様子を見せる。

そんな暁斗をリィカが不思議そうに見て、泰基も疑問に思うが、今は話を進めることにした。
「……つまり、四属性で転移を作り上げた可能性がある?」

「うん。今思ったんだけど、風属性を使えば、瞬間移動はできなくても高速移動の魔道具は作れそうだよね。その速さを増していけば、瞬間移動っぽく見えなくもない気がする」
「光の速さを利用する、という手もあるのかもな……」

「――少し待ってくれ」
アレクがストップをかけた。頭に手をおいて、何やら混乱した顔をしている。
見れば、バルもユーリも似たような状態だった。

「リィカの、時間だの空間だのの話辺りから理解できない。どんどん話を進めないでくれ」
「「…………あー……」」
リィカと泰基が、困ったように顔を見合わせる。
どうしよう、と思ったら、今度は暁斗が声を上げた。

「オレ、今思い出したんだけど。闇魔法についての説明、されてない」
「…………?」
「―――――――?」
唐突すぎて、誰もが頭が追いつかない。

「ほら、サルマさんが魔法のバッグ作りで闇魔法を試すとか話をしたときに、ユーリ、後で説明してくれるって言ってたじゃん。何も聞いてない」

サルマから魔道具作りを教わっているときだ。
魔法のバッグはどの属性を付与したらいいのか、という質問を暁斗がしたときに、サルマが闇魔法は試したくても試せない、と言ったのだ。

「……説明してませんでしたっけ?」
「そういや、聞いてなかったな」
泰基も思い出した。

唐突に思えた暁斗の言葉だが、魔法のバッグ繋がりで思い出したのだろう。
泰基と暁斗の視線をあびて、ユーリは説明を始めた。

転移の話はとりあえず中断して、リィカはホッと息をついた。
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