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第七章 月空の下で
ゴタゴタ道中
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「可愛い嬢ちゃんじゃねぇか。そんな弱っちい奴らじゃなくて、俺たちと遊ぼうぜ?」
「ヒュー、いい女だな。てめぇら、その女置いて立ち去りな。命だけは助けてやるぜ」
などなど。
トルバゴ共和国を出国し、その隣国、ルンゼン国に入国したが、道のりは難航した。
アレクたちが偵察に入った時も、ゲンナリする事の連続だったが、それに輪をかけてひどくなった。
決してリィカは悪くないが、原因はリィカである。
確かに、盗賊に目を付けられる可能性については、示唆されていた。だが、それにしても頻度が多すぎである。
スリを警戒して、アイテムボックスを持っているリィカは、皆の中央にいる。
幸いなことに、これまでスリにはあっていないが、その代わりに遭遇するのが盗賊だ。
そして今も。
「オレらのシマに入り込むたぁ、いい度胸だな。そんなに痛い目に合いてぇか? その女差し出すなら、少しは勘弁してやるぜ?」
凄んでくる盗賊を前に、アレクが「しま、とはなんだ?」と大真面目に聞き返し、盗賊の怒りを買っている。
「縄張りって意味だよ! てめぇ、ナメてんじゃ……ゴガッ!?」
言葉の途中で盗賊が悲鳴を上げる。
暁斗が横から、鞘に入ったままの剣で殴ったのだ。
最初は、盗賊といえど、人が相手ということで怯んでいた暁斗だったが、あまりにも数が多く、しかもそのたびに「リィカをよこせ」発言を聞かされて、ある意味キレた。
アレクやバルに従って、剣は抜かずに鞘で殴り倒した。
死ななきゃいいや、という考えに至ってしまったらしい。最初は、手加減をし過ぎていたが、今ではすっかり慣れて、死なないけれどしばらく動けなくなる、という絶妙な力で殴っている。
泰基は、そんな暁斗を複雑な表情で見ているのだが、現状それが必要なため、やるなとも言えない状況だ。
リィカは、立ち寄った小さな村で見つけたフードを被るようになった。
何か被って顔を隠せば盗賊がこないかも、と思ったらしい。
一応、自分が原因だという自覚はあるようだ。
確かに、それで回数は少しだけ減った。
劇的に減らなかったことが残念だった。
もう一つ大変だったのが、道が分からない事である。
街道らしい道を通っていても、途中ひどく荒れていて道が分からなくなり、普通に迷子になる。
それだけなら、しょうがないと諦めもつくのだが。
途中なぜか検問が設けられていて、そこを通るために法外な金額を要求された。
払うのは癪だが、力尽くで通るのも後々面倒な事になりそうなので、迂回した。
魔物がいるからと軍隊が居座っていて、強引に徴兵されそうになった。
正体を明かして魔物退治に協力する、という方法もあるにはあった。その方法を取らなかったのは、リィカがいたからだった。王族だの貴族だのがいる可能性が高い軍隊に、近づかずに済むならその方がいい。
引き返した。
唯一幸いなのが、ほとんど魔物に出くわさない事か。ルンゼン国は、確かに魔物はしっかり倒しているようだ。
無詠唱での魔法の使用を可能な限り避けたい一行からすれば、魔物と遭遇しないのは有り難い。
ただ、いささか拍子抜けでもある。
剣の練習を始めたはいいものの、結局使う機会がないままのリィカとユーリ。
ここ最近、色々あって練習もサボり気味だ。時間があれば魔道具作りをしてしまっている。
もし低ランクの魔物と遭遇したら、二人にも剣で戦ってもらおうか、という話が出ていたのだが、その出番はなさそうだった。
一日通して前進どころか後退している日もあり、思うように進まない。
一週間ほどでたどり着くと思われていた大きな木のある村までたどり着くのに、十日以上の時間がかかっていた。
※ ※ ※
「――あれか? 大きな木とやらは」
その木が見えたときには、一同そろって心から安堵した。
時間が掛かりすぎたが、それでもようやく目印となる場所まではたどり着いたのだ。
木は確かに巨大だった。
高さは、そこまででもない。
だが、その横幅がとんでもなく大きい。幹は太く大きく枝を広げ、葉が生い茂っている。
「少し木陰で休憩するか」
アレクがそう言ったのは無理もないだろう。
今はもう夏も本番だ。木陰は涼しく見える。
男性陣がその木に近づいていく中、リィカは背中にゾクッとしたものを感じて立ち止まる。
確かに木陰は涼しそうだ。けれど、なぜかこれ以上近づくのがためらわれる。
「――どうしたんですか、リィカ?」
ユーリに声を掛けられるが、リィカはその場から動けなかった。
「あの……」
嫌な予感がするから出発したい、と言えば、みんなはどう思うだろうか。
無碍にはされないだろうが、折角の休憩が出来なくなる。
そもそも、嫌な感じを受けているのが自分だけらしい、という事実。みんなが何も感じていないなら大丈夫だろうか。
そう思って、足を一歩踏み出そうとして……、ふと視界の端に人影が見えた。
日本で、神社の神職の人が纏っている衣装とよく似ているような気がして、そちらに視線を動かそうとして……。
「――きゃぁっ!?」
突風が吹いて、体が飛ばされた。
木の近くにいた男性陣は、木から離れた場所に飛ばされ、リィカはその木の真下に飛ばされる。
「……ぅ……いたた、なんなのもう……」
打ち付けたところを押さえながら体を起こしたリィカが見たのは、木の枝が自分に向かって伸びてくる所だった。
「…………えっ……?」
木の枝に、腕が絡め取られた。
風に飛ばされたアレクは、しかし姿勢を直して足から着地する。
視線を木に戻して、その光景に大きく目を開けた。
「――リィカ!!」
両手を頭上高く上げられて、その腕が完全に木の枝に飲み込まれている、リィカの姿がそこにあった。
「ヒュー、いい女だな。てめぇら、その女置いて立ち去りな。命だけは助けてやるぜ」
などなど。
トルバゴ共和国を出国し、その隣国、ルンゼン国に入国したが、道のりは難航した。
アレクたちが偵察に入った時も、ゲンナリする事の連続だったが、それに輪をかけてひどくなった。
決してリィカは悪くないが、原因はリィカである。
確かに、盗賊に目を付けられる可能性については、示唆されていた。だが、それにしても頻度が多すぎである。
スリを警戒して、アイテムボックスを持っているリィカは、皆の中央にいる。
幸いなことに、これまでスリにはあっていないが、その代わりに遭遇するのが盗賊だ。
そして今も。
「オレらのシマに入り込むたぁ、いい度胸だな。そんなに痛い目に合いてぇか? その女差し出すなら、少しは勘弁してやるぜ?」
凄んでくる盗賊を前に、アレクが「しま、とはなんだ?」と大真面目に聞き返し、盗賊の怒りを買っている。
「縄張りって意味だよ! てめぇ、ナメてんじゃ……ゴガッ!?」
言葉の途中で盗賊が悲鳴を上げる。
暁斗が横から、鞘に入ったままの剣で殴ったのだ。
最初は、盗賊といえど、人が相手ということで怯んでいた暁斗だったが、あまりにも数が多く、しかもそのたびに「リィカをよこせ」発言を聞かされて、ある意味キレた。
アレクやバルに従って、剣は抜かずに鞘で殴り倒した。
死ななきゃいいや、という考えに至ってしまったらしい。最初は、手加減をし過ぎていたが、今ではすっかり慣れて、死なないけれどしばらく動けなくなる、という絶妙な力で殴っている。
泰基は、そんな暁斗を複雑な表情で見ているのだが、現状それが必要なため、やるなとも言えない状況だ。
リィカは、立ち寄った小さな村で見つけたフードを被るようになった。
何か被って顔を隠せば盗賊がこないかも、と思ったらしい。
一応、自分が原因だという自覚はあるようだ。
確かに、それで回数は少しだけ減った。
劇的に減らなかったことが残念だった。
もう一つ大変だったのが、道が分からない事である。
街道らしい道を通っていても、途中ひどく荒れていて道が分からなくなり、普通に迷子になる。
それだけなら、しょうがないと諦めもつくのだが。
途中なぜか検問が設けられていて、そこを通るために法外な金額を要求された。
払うのは癪だが、力尽くで通るのも後々面倒な事になりそうなので、迂回した。
魔物がいるからと軍隊が居座っていて、強引に徴兵されそうになった。
正体を明かして魔物退治に協力する、という方法もあるにはあった。その方法を取らなかったのは、リィカがいたからだった。王族だの貴族だのがいる可能性が高い軍隊に、近づかずに済むならその方がいい。
引き返した。
唯一幸いなのが、ほとんど魔物に出くわさない事か。ルンゼン国は、確かに魔物はしっかり倒しているようだ。
無詠唱での魔法の使用を可能な限り避けたい一行からすれば、魔物と遭遇しないのは有り難い。
ただ、いささか拍子抜けでもある。
剣の練習を始めたはいいものの、結局使う機会がないままのリィカとユーリ。
ここ最近、色々あって練習もサボり気味だ。時間があれば魔道具作りをしてしまっている。
もし低ランクの魔物と遭遇したら、二人にも剣で戦ってもらおうか、という話が出ていたのだが、その出番はなさそうだった。
一日通して前進どころか後退している日もあり、思うように進まない。
一週間ほどでたどり着くと思われていた大きな木のある村までたどり着くのに、十日以上の時間がかかっていた。
※ ※ ※
「――あれか? 大きな木とやらは」
その木が見えたときには、一同そろって心から安堵した。
時間が掛かりすぎたが、それでもようやく目印となる場所まではたどり着いたのだ。
木は確かに巨大だった。
高さは、そこまででもない。
だが、その横幅がとんでもなく大きい。幹は太く大きく枝を広げ、葉が生い茂っている。
「少し木陰で休憩するか」
アレクがそう言ったのは無理もないだろう。
今はもう夏も本番だ。木陰は涼しく見える。
男性陣がその木に近づいていく中、リィカは背中にゾクッとしたものを感じて立ち止まる。
確かに木陰は涼しそうだ。けれど、なぜかこれ以上近づくのがためらわれる。
「――どうしたんですか、リィカ?」
ユーリに声を掛けられるが、リィカはその場から動けなかった。
「あの……」
嫌な予感がするから出発したい、と言えば、みんなはどう思うだろうか。
無碍にはされないだろうが、折角の休憩が出来なくなる。
そもそも、嫌な感じを受けているのが自分だけらしい、という事実。みんなが何も感じていないなら大丈夫だろうか。
そう思って、足を一歩踏み出そうとして……、ふと視界の端に人影が見えた。
日本で、神社の神職の人が纏っている衣装とよく似ているような気がして、そちらに視線を動かそうとして……。
「――きゃぁっ!?」
突風が吹いて、体が飛ばされた。
木の近くにいた男性陣は、木から離れた場所に飛ばされ、リィカはその木の真下に飛ばされる。
「……ぅ……いたた、なんなのもう……」
打ち付けたところを押さえながら体を起こしたリィカが見たのは、木の枝が自分に向かって伸びてくる所だった。
「…………えっ……?」
木の枝に、腕が絡め取られた。
風に飛ばされたアレクは、しかし姿勢を直して足から着地する。
視線を木に戻して、その光景に大きく目を開けた。
「――リィカ!!」
両手を頭上高く上げられて、その腕が完全に木の枝に飲み込まれている、リィカの姿がそこにあった。
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