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第十章 カトリーズの悪夢
ダランの王都アルール現地調査
しおりを挟む主人公サイドから離れて、ダランの話になります。
登場人物が、主に第一章や第二章で出てきた人物がメインです。
誰が誰やら分からないかもしれませんが、本文後半に解説あります。
本文が八千文字オーバーと長いですが、最後までお読み頂けると嬉しいです。
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アルカトル王国。王都アルール。
勇者一行が出発した国、その王都である。
その門前に、ダランは来ていた。
魔王から、アレクについて調べろという命を受けてのことである。
門では身分証明が必要になるが、ダランは何も問題がなかった。
冒険者カード、それもBランクという上位のカードがあるのだ。それで十分に事足りる。
だから、門を通れずにいるのは、別の理由だ。
遠方の魔物退治に出ていた軍隊が、ちょうど戻ってきた所らしく、今街に入っているのだ。
「あら、見て」
「騎士団長様だ!」
その声に誘われて、ダランも視線を向ける。
そこにいたのは、周囲の騎士たちよりひときわ体格のいい男。
周囲の声に手を上げて応えている。笑顔を見せていても、その男は貫禄を漂わせていた。
(もしかして、あいつが、魔族たちを倒した奴? カストル様の言っていた強者かな)
ダランはそう当たりを付ける。
騎士団長、とは要するに軍のトップであるはずだ。さすがに、そんな奴を国から離すことはできなかったのか。
(それにしても、あいつ、バルに似てるよな?)
もしかして、親子だったりするんだろうか。
※ ※ ※
アルールに入ったダランは、街をプラプラ見て歩く。
魔王が誕生した情勢下でも、街に暗い雰囲気はない。兵士の数は多い気がするが、皆が落ち着いて生活を送っているようだ。
門番に聞いた、冒険者ギルドへの道を歩きながら、ダランはこれからのことを考えていた。
(アレクのことを調べるっていっても、何をどう調べようかな)
一応、冒険者ギルドで聞いてみようかと思っているのだが、その理由付けが難しい。
素直に、出会ったと話すのも手だが、細かく突っ込まれると答えられないことも出てきてしまう。
何せ、ここから遠く離れた聖地で、ほんの数日前に出会ったばかりだ。
数日前に聖地にいた人間が、今この場所にいられるはずがない。
バレるかもしれない嘘は、つきたくなかった。
「んんー、駄目だ。どうしようかなぁ」
思わず声に出してしまった。
気分転換をしたくて、適当に目に入った食堂に入る。
注文も適当にして考え込むが、なかなかいい考えは浮かばない。
「お待たせしました」
その声に顔を上げて……危うく叫ぶところだった。
「なにか……?」
マジマジと顔を見てしまったせいだろう。食事を持ってきてくれた女性は、不思議そうに首を傾げている。
「マディナさん! こっち、できたよ!」
「はい!」
掛けられた声に、その女性は返事をして、ダランにペコッと頭を下げた。
(――ビックリした)
去っていく女性の後ろ姿を見て、思う。
リィカにそっくりだった。
(リィカよりは年上っぽいから、お姉さんかな)
リィカの家族構成など聞いていないが、あれだけそっくりなのだから、血のつながりはあるだろう。
実は姉ではなく、母親だとは思いもしないダランであった。
※ ※ ※
「こんな時期に旅をしてきたんですか? 大変じゃなかったですか?」
冒険者ギルドに到着して、カードを提出する。
ウィニー、と名乗ったその受付の女性に話しかけられた。
「ええまあ、色々ありました。……本当は、勇者様見たかったんですけど」
ダランは、困ったような顔を作る。
結局、たいした理由など思い浮かばなかった。
言った理由は、誰もが思っていそうな理由だ。
「勇者様方が旅立ってから、半年近く経ちますよ。今さら過ぎです」
「そうなんですよね。ボクもこんなに遅くなるはずじゃなかったんですけど……」
あははは、と笑ってみせる。
ウィニーは同情したような顔を見せる。
この情勢下だ。曖昧に笑っておけば、相手は勝手に色々想像して勘違いしてくれるだろう。
「ウィニーさんは、勇者様やお仲間の方々をご覧になったんですか?」
興味津々、という形で、質問をしてみる。
(さて、どれだけ乗ってきてくれるか)
こっちが何も言わなくても、向こうから話しかけてきた。
話し好きなのか、世話好きなのかは知らないが、冷たくあしらわれることはないだろう。
「いえ、残念ですけど。顔見せのパレードとかしてくれれば、絶対見に行ったんですけどね。勇者様が断られたとかで、何もなくて」
教えてはくれたが、当てが外れた。
暁斗も泰基も、そんな目立つようなことを好みそうにないから、断ったと言われて、納得できる。
だが、そうすると、どう切り出してアレクの情報までたどり着くべきか。
「勇者様のお仲間って、どのような方達なんですか? この国の人がお供としてついて行ったんですよね?」
「ええ、そうみたいですね。私も詳しくは知りませんけどね」
(うーん、これも外れか)
これで、王子とかそういう単語が出てきてくれれば突っ込めたが、出てこない以上は難しいだろう。
(別の方法を考えるか)
そう思って、ウィニーに軽く礼を告げて出ようと思ったとき。
ギルドに誰かが入ってきた。
男性二人に女性二人。男性二人は大人のようだが、女性二人は、ダランとそう年齢は変わらなそうに見える。
「あら、いらっしゃい」
ウィニーが四人に声を掛けるが、どこかその声がふて腐れている。
「…………?」
どうしたんだと思って、ダランがウィニーを見ると、ウィニーは驚くことを言ってきた。
「ダラン君。あの四人ね、勇者様について行ったお仲間の方々のことを知ってるんだって。なのに、何も教えてくれないの。どう思う!?」
「えっ!?」
ウィニーに詰め寄られたのも、気にしていられなかった。
驚いて、四人をマジマジと見る。
「何でまた、その話を蒸し返すんだ」
男性の一人がウィニーに話しかけた。
「いくらでも蒸し返しますよ、ダスティンさん。ほら、この子も勇者様に興味を持ってここまで来たんですって。すごいですよ。この年でBランク」
「B!?」
ダスティンと呼ばれた男性の一人が、ダランを見て驚く。
勝手にランクを言われてしまったことについては物申したい気もするが、それよりも今は大事なことがある。
「あの、勇者様やお仲間の事、ご存じなんですか? 教えて下さい!」
勇者に憧れる少年を気取ってみる。
うまくいっているかどうかは分からないが、期待に目を輝かせている、はずだ。
「駄目だ」
だが、返事はにべもない。
「そこを何とか!」
食い下がる。
相手が困った顔をしたので、もう一押し、という所で、もう一人いた男性が声を掛けてきた。
「君、Bランクとは本当?」
「そうですけど?」
邪魔するなと思いつつも、カードを見せる。
ちなみに、カードは偽装でも何でもない。
本当に普通に、実力でBランクまで上っていったのだ。
「へえ、すごいね。……これから王都の外に行くんだが、一緒に来ないか?」
「ハリス先生!? 一体何を!?」
ダスティンと呼ばれた人が、驚いた様子で声を掛けた。
しかし、構わずにダランに話しかける。
「私や、あちらの女性二人は実戦経験に乏しくてね。こんな状況だし、魔物の数も多いから、少しでも力になりたくて戦っているんだが、こちらのダスティン先生にばかり負担が行ってしまうんだ」
「つまり、護衛しろってことですか? 報酬は?」
ダランは不敵に笑いかける。
魔族の相手は絶対にできないが、魔物相手なら全く問題ない。
こっちのランクを確認してきた上で、そんな話をされれば、想像がつくというものだ。
そして、ダランが望む報酬は、たった一つだ。
「できれば、護衛だけでなく、倒すのも積極的にお願いしたい。報酬は、勇者様のお仲間の情報、でどうだ?」
「乗った」
期待通りの言葉が返ってきた。
ダランは、即答する。
「ちょっと……ハリス先生!」
「えー!? ダラン君、ずるい!」
ダスティンがなおも慌てふためき、ウィニーも叫ぶが、これは譲れない。
「じゃあ、決まりだ。……ああ、悪いけど、渡せる情報はお仲間の情報だけだ。勇者様の情報はそもそも持っていない。それでも、いいかな?」
「構いません」
ダランは頷いた。
まさに聞きたいのは、勇者の仲間、特にアレクの情報だ。
※ ※ ※
「ダランです。冒険者のランクは、B。本日はよろしくお願いします」
ダランは、自らの名前を告げて、自己紹介する。
一応、相手は雇い主になるから、挨拶は大事だ。
「フランティアと申します」
「エレーナです。こちらこそ、よろしくお願い致します」
女性は二人とも、年は十六とのことだった。
男性二人とどんな関係かと思ったら、通っている学園の先生と生徒だということだった。
「私たちも何かしたいと思って、それで担任のハリス先生に相談したら、先生も一緒に来て下さったんです」
フランティアが説明する。
言葉遣いといい、その仕草といい、貴族っぽい。
けれど、相手が家名を名乗らない以上は、そこに突っ込むべきではないだろう。
「それで、先生なんですね」
先ほどから、男性二人もお互いを呼ぶのに先生付けだ。
どちらも先生であるならば、納得できる。
「ああ、そうだ。私のことはハリスと呼んでくれ。それで、三人で冒険者ギルドに来てみたら、そこにダスティン先生がいて驚いてね」
「驚いたのはこっちですよ」
ダスティンが軽くハリスに言い返すと、ダランに顔を向けた。
「俺はダスティンだ。一応Cランク。とはいっても、今は教師業の気分転換でやっているだけだから、実力はDランク相当だと思ってくれ。俺は剣を使うが、君は魔法か?」
ダランは頷いた。
「そうです。……すごく珍しいんですけど、闇魔法を使います」
「「「「闇魔法!?」」」」
四人の驚きの声が、ハモった。
※ ※ ※
「《結界》!」
突っ込んできた猪の前に、ダランが《結界》を張ると、そこにまともに激突した。
猪の動きが止まる。
「今です!」
ダランが声を掛けると、フランティアが切り込んだ。
「はぁっ!」
勇ましくかけ声を掛けて、猪を斬り付ける。
痛みで暴れる猪からすぐさま距離を取り、剣技を発動させる。
「【鯨波鬨声破】!」
水の、縦に切り落とす剣技だ。
命中するが、それでも猪は倒れない。
だが、そこにハリスが斬りかかった。
「むんっ!」
気合い一発。勢いよく剣を切り落とし、そして今度こそ猪は倒れた。
それを確認して、ダランは別の方に視線を向ける。
そっちは、ゴブリン十体の相手をしていた。
「えっと……、えーと……」
エレーナがアタフタしている。
「落ち着いて下さい。相手はゴブリンです。初級魔法がまともに当たれば、倒せますよ」
ダランが声を掛ける。
エレーナが光の神官だという話は聞いている。
「落ち着いて、詠唱して」
「は、はい!」
エレーナは深呼吸して、詠唱を始めた。
「『光よ。彼の者を倒す矢と化せ』――《光矢》!」
魔法はゴブリンの頭に直撃し、そして倒れた。
エレーナは、それをみて呆然としている。
「え……? えっ、どうなったの?」
「どうもこうも、倒したんです。ほら、次唱えて」
ダランが苦笑しつつ言う。
魔法の威力はそれなりにあるが、確かにまるきり初心者のようだ。
ダランは、ダスティンに目をやる。
複数のゴブリン相手に、危なげなく戦っている。
本人はDランク相当と言っていたが、Cランクで十分通じる実力だ。
確かにこの面子では、彼に負担が掛かってしまうのはどうしようもないだろう。
エレーナはようやく自分が倒した事を飲み込めたようだった。
「そっか……! 私、倒せたんだ! よし、もう一回!」
再び詠唱を始める。
どうやら、調子が出てきたようだ。
そんな調子で、王都郊外の森を移動していく。
「なあ、ダラン。お前は、詠唱しないで魔法を使うのか……?」
ダスティンに恐る恐る聞かれた。
「そうですよ。じゃないと、ソロで冒険者なんてやってられません」
「そうか。……そうか、他にもいるんだな」
「……………?」
ダスティンの、妙に諦めたような口調に疑問に思うが、それ以上ダスティンが何かを言うことはなかった。
※ ※ ※
フランティアとエレーナが体力の限界を訴えたところで、魔物退治は終了となった。
街に戻ってきて、食事を奢ってくれるというので、ダランは遠慮なく奢ってもらう事にした。
率直に、実力についての感想を聞かれる。
「んー。ダスティンさんは問題ないと思いますけど。一応、なんて付けずにCランクでいいと思いますよ?」
最初に言ったのは、ダスティンのことだ。
他の三人については、なんともコメントがしにくい。
「……ちなみに、魔物退治に出るの、何回目なんですか?」
「今回で二回目だ」
「……ああ、なるほど」
どうりでぎこちないはずだ。フランティアは、まだマシだが、剣の威力が全く伴っていない。
エレーナは、完全に初心者だ。
ハリスは一撃の威力はあるが、それだけだ。当たればでかいが、外すことも多い。
よくあれで、一回目を何事もなく切り抜けられたと思う。
「率直に言いますけど、やめた方がいいですよ。Dランク一体倒すのにも時間が掛かり過ぎです。平和なご時世ならともかく、今は初心者の練習には不向きです。無事で済んだ今のうちにやめるべきです」
「やはり、そうか」
ハリスは苦笑している。
予想通りのことを言われた、という所だろうか。
だが、女性二人は納得いかないようだった。
「でもっ! でも、バルムート様は戦ってるんです!」
「そうです! ユーリ様が戦ってるのに、じっとしてられません!」
出てきた名前に、ダランの眉がピクッと動く。
(ユーリは……ユーリ、だよな? バルムートは……、ああ、確かアシュラ相手にバルがそう名乗ってた、って言ってたっけ?)
あの二人は婚約者がいると言っていた。
となると、もしかしてこの二人がそうなのか。
そうであれば、かなりの情報源だ。魔物退治をやっていてくれたことに、むしろ感謝だ。
ハリスやダスティンが困った顔をして、二人に話しかけている。
だが、フランティアもエレーナも、かなり思い詰めた顔だ。
(そんな顔しなくても。あいつら、自由に楽しんでいるようにしか見えなかったけど)
むろん、そんな事は言えないが。
命がけの戦いはあっても、だからといって常にそんな気持ちでいるわけでもないだろう。
悲壮な決意を固めている様子は、これっぽっちもなかった。
(ま、どうでもいいけどね)
これから彼女らがどうするかなど、自分の知った事ではない。
それよりも、折角名前が出たのだから、報酬の話に移らせてもらう。
「あの、そのバルムート様? とか、ユーリ様? とかが、勇者様のお仲間ですか?」
分かっていても、ここはもちろん知らない振りだ。
言い合っていた四人が、ダランに視線を向ける。
「そうだったな。報酬に教える、という約束だったな」
ハリスが頷いた。
「ハリス先生、ちょっと待って下さい」
話し始めようとしたハリスを止めたのはダスティンだった。
ハリスが訝しげな顔を向けるが、ダスティンが話しかけたのはダランだった。
「ダラン、済まないが一つだけ約束して欲しい。勇者様のお仲間の情報、ギルドにいたウィニーには知られなくないんだ。だから、ウィニー本人にはもちろん、他の場所であっても他の人に話をするのはやめてくれ」
「それはもちろん、分かってますけど」
ダランが頷く。
得た情報をあちこちにばらまきはしない。
魔国に帰れば、もちろん話をすることになるが、それはまた別問題だ。
「何で、ウィニーさんに知られたくないんですか?」
それも疑問だ。
「ダスティン先生、前にも仰っていましたよね。あの子達のこと、彼女には知られたくないと。何か理由でも?」
ハリスも不思議そうに問いかける。
が、ダスティンは困ったように笑うばかりだ。
「色々とありまして……。それで勘弁して下さい」
あははは、とごまかすように笑うダスティンを見て、ハリスはそれ以上の追求は諦めたようだ。
ダランに、報酬代わりの話を始めた。
※ ※ ※
フランティアはバルの婚約者。エレーナはユーリの婚約者らしい。
そして、やはりバルは騎士団長の息子で、ユーリはユーリッヒというのが本名で、神官長の息子。
(――二人とも上位の貴族じゃないか)
それが何であんなに気さくなんだ、と思う。
他に、仲間が二人。
一人はリィカという平民の少女。
ダスティンが、リィカの学園での担任だったらしい。
「あいつしか無詠唱での魔法なんて使わないと思ってたのに、他にもいるんだからなぁ」
ダスティンがしみじみ言うが、ダランが見たときには、勇者一行は誰もが無詠唱を使っていた。
そして、もう一人がアレクシス。この国の第二王子。
(アレク……シス。それが、アレクの本名か)
愛称と言っても、皆が皆、分かりやすい愛称だ。
「第二王子って言うことは、お兄さんがいる?」
「ああ。王太子殿下な。とは言っても、同い年。王太子殿下はご正妃のお子だが、アレクシスはご側室のお子で、誕生日は一週間しか離れていないけどな」
アレクもそうだが、バルやユーリも、ハリスが一年生の時の学園の担任をしていたらしく、その口調には親しみが込められている。
「王子が生徒って、教えるのは大変そうですけど」
率直な感想だったが、ハリスは「とんでもない」と笑った。
「いい生徒たちだよ。王子だからってそれを振りかざしてくることもないし、私たち教師を敬ってくれる。そういう態度を王子達が取るから、他の貴族達にもそれを見習う奴らが出てくる。かえってやりやすい」
「へえー」
そんなものなのか。
権力があればあるだけ威張っている貴族しか知らないから、どこか新鮮だ。
「その王子二人って、仲いいんですか? やっぱり、ドロドロの権力争いを繰り広げてたりとかするんですか?」
「やっぱりとはなんだ」
ハリスに突っ込まれたが、一週間しか誕生日の違わない兄弟など、王族や貴族の噂を聞く限りでは、そんな背景があるのが当たり前という感覚だ。
魔王から頼まれた情報収集、という意味もあるが、それよりも普通にそういう疑問が湧いて出る。
「あの二人は仲良いぞ。良すぎるくらいだ。一歩間違えれば、ドロドロの権力争いになったかもしれないがな」
「何かあったんですか?」
良すぎるくらいに仲が良いのに、一歩間違っただけでドロドロの権力争い、とは、王族だの貴族だのは、本当によく分からない。
「私も詳しくは知らない。昔、アレクシスを王太子に、と望む一派があった事は確かで、それをアレクシスが自らの手で叩き潰した、という話だ」
ダランは、息を呑んだ。
「……つまり、もしかしたら王太子に、後の王になれたのかもしれないのに、その可能性を自分の手で潰した、ということですか?」
「ちょっと、あなた! 何てこと言うんですか!?」
言ったのは、ハリスではなく、フランティアだった。
厳しい目つきで、ダランを見ている。
「アレクシス殿下の、その勇気ある行動がおありになったから、今の王室は平和だし、だからこそこの魔王が誕生した情勢下でも、私たちは変わりなく生活が送れているんです!」
「ああ、いや、すいません」
とりあえず謝罪するが、フランティアからは厳しい目を向けられたままだ。
いや、その目はエレーナも同様か。
(もういいかな)
聞きたい情報は聞けただろう。
人間社会の常識は知っているが、それでもつい育った魔国の常識で物事を考えてしまう。
これ以上掘り下げると、ボロが出そうだ。
四人が今後についての話をしているのを聞きながら、食事をするだけに専念した。
「ありがとうございました」
ダランは、四人に対して頭を下げる。
嘘でも何でもなく、有意義な情報をもらう事ができた。それに対しての礼だ。
「教えてもらって何ですが、ボクに教えちゃって良かったんですか? 最後の話とか、言って良い話とも思えませんけど」
一歩間違っていたら王宮のドロドロ劇になっていたかもしれない出来事だ。
そういう情報は、秘匿されるものではないのだろうか。
「もちろん、詳細については伏せられているよ。私も全部を知っているわけじゃない。ただ、アレクシス殿下の剣の腕前は有名だからね。そういう逸話が流れて、それで一気に殿下の立場も確定したんだよ」
末端の兵士にまで話は流れているから、平民でも知っている人は知っている話なのだ。
「ありがとう。助かった」
「今後、どうするかは考えるよ。もしまた機会があったら、護衛を頼む」
「そうですね、機会があれば」
ダスティンとハリスに言われて、ダランは愛想良く頷く。四人に背を向ける。
歩きながら思う。
これから、カストルが勇者達に向けて攻撃を仕掛ける。
(バルやユーリが死んじゃうことを考えれば、あの二人もここで無茶して死んじゃう方が幸せかもね)
そうすれば、少なくとも婚約者の訃報に悲しむこともないだろうから。
ダランは、街の外に出た。
そこからしばらく歩いて、人がいなくなった所で、転移の魔道具を取り出す。
その姿が、その場から消えた。
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