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第十章 カトリーズの悪夢
耐えられない
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(どのくらい、時間たったんだろう……)
リィカの視界に映るのは、壁だけだ。
窓も何も、時間の経過が見て分かるようなものは、何もない。
デウスの指示で、立ったまま動けない。
けれど、その疲労は、リィカに蓄積していく。
座りたい。休みたい。
せめて、少し姿勢を変えるだけでも。
そう思っても、体はピクリとも動かない。
仮に動かそうとすれば、またあの痛みに襲われるのだろう。
「お待たせしましたね」
突如、背後から聞こえた声に、リィカは驚いて、肩が跳ね上がった。
「………………………!!!」
またもや首から痛みが走る。
驚いて体が自然に反応しただけの事に、隷属の首輪が反応したのだ。
「おやおや」
デウスは面白そうに言うだけで、何もしようとはしない。
「椅子を」
「はっ」
部下に椅子を持ってこさせ、リィカの前に置く。
デウスは片肘をついて、リィカが痛みに耐えている様子を、意地悪げな笑みを口元に浮かべて、眺めていた。
やがて、痛みも止まる。
リィカは泣いていた。
涙を流すことでしか、その痛みを表現できないのだ。
だが、それを見ても、デウスは表情一つ動かさないまま、話し始める。
「勇者たちの処遇を決めましたのでね。明日朝、決行します」
リィカは、まばたきをする。
まだ体に痛みが残っていて、デウスの話に集中するのも大変だった。
「あなたは、勇者たちを倒して下さい。……ああ、殺さなくて結構ですよ。倒すだけです。そうしたら、勇者たちもあなたと同じように、私の奴隷として、仕えさせて差し上げますから」
話を、理解し損ねた。
――たおす?
――ゆうしゃを?
単語を一つ一つ復唱して、そしてようやく理解する。
痛みも忘れて、リィカはデウスを睨み付けていた。
「ふむ。やはり今のままでは無理ですかね。勇者たちの前で反抗されるのは、嬉しくないですからね」
リィカに睨まれても、面白そうに笑ったまま、デウスは独りごちる。
次に浮かべた毒々しい笑みは、リィカの目には悪魔にしか見えなかった。
「やはり、あなたには、心を壊してもらいましょう」
何が、やはりなのか。
難しい言葉は何もないのに、リィカには理解できなかった。
「服をすべて脱ぎなさい」
唐突に下された命令も、理解できない。
だが、装着者が理解しようとしまいと、隷属の首輪は、主人の命令に忠実に従う。
リィカの手が、勝手に動いた。
その手が、服にかかる。
その瞬間、命令を理解した。
モントルビア王国のモルタナで、デトナ王国のテルフレイラで、そして故郷クレールム村で抱いた恐怖が、一瞬で蘇る。
(――いやっっっ!!!)
内心で上げた悲鳴は、命令に逆らい、リィカの手を止める。
「………………………!!!!!」
それは当然ながら、隷属の首輪が反応することと同じ意味だった。
激痛が襲う。
リィカの手が、デウスの命令通りに動こうとしている。
けれど、リィカはその動きに逆らい続けた。
「脱ぎなさい」
重ねられた命令に、さらに動こうとする手の力が強くなる。
それに逆らえば、走る激痛は、さらにその強さを増していく。
それでも、リィカは動こうとする手を、必死に止めていた。
※ ※ ※
「ほう。ずいぶんと必死ですね。これは驚きです」
頑として逆らい続けるリィカを見て、デウスは意外そうにつぶやいた。
「デウス様、無礼を承知で伺います。なぜあのようなご命令を? 女性の意思に反した暴行は、お許しにならなかったと存じます」
デウスは、聞いてきた部下を怒らなかった。
「ええ、無論です。子を作る行為は神聖なものですが、そこに女性の意思がない場合は、穢らわしい行為でしかありません。だからこそ、女性の心を折るのに、これほど適したものもないのですよ」
女性とは言っても、相手は神への反逆者。
他の女性と同じに扱う必要も無い。
だからといって、本当にその行為を行うのは最終手段のつもりだが。
反抗を見せるとしたら、もっと脱いだ後。例えば、下着姿になってからだと思っていたのだ。
それが、最初の一枚すら、脱ぐのを抵抗するとは。
「これは、過去に何かありましたかね」
心に傷を負うような何か。
そうでなければ、ここまで抵抗しないだろう。
普通であれば、女性を気遣い、心に傷を負わせた男に怒りを覚えるのだが、彼女に対してそれは必要ないだろう。
「すべて脱ぐまで、その手を止めることは許しませんよ」
そう命令を下す。
デウスの口元には、冷笑が浮かべられていた。
※ ※ ※
(いやっ!)
(いたい!)
(いやっ、いやっっ!!)
(いたい、いたいよ!!)
リィカの思考は、それだけだった。
もう何が何だか分からない。
分かっているのは、絶対に手を動かしてはいけない、ということだけ。
けれど、手に力が入らなくなってきた。
意識が朦朧とする。
それよりも何よりも、いつまでも止まらない激痛に……耐えられなくなる。
(…………ああ……)
リィカの心が折れた。
耐えられないと、自覚してしまった。
もう限界だと分かってしまった。
体から力が抜ける。
――リィカの意識は、そこで途絶えた。
※ ※ ※
「おや?」
リィカの手が動き始めた。
デウスの口元が、弧を描く。
「目を開けなさい」
閉じたままの目に命令すれば、素直にその目が開いた。
だが、その目に、意思の光はなかった。
「手を止めて良いですよ」
服を脱ごうと動く手を止めてやる。
目的は達したから、必要ない。
ククククク……と笑いが漏れる。
そして、その笑いは次第に大きくなる。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
デウスは、しばらくの間、狂ったように哄笑していた。
※ ※ ※
「こっちだな」
「ええ。――あの家、ですかね?」
泰基とユーリが言葉を交わす。
一軒の家を、捉えた。
リィカの視界に映るのは、壁だけだ。
窓も何も、時間の経過が見て分かるようなものは、何もない。
デウスの指示で、立ったまま動けない。
けれど、その疲労は、リィカに蓄積していく。
座りたい。休みたい。
せめて、少し姿勢を変えるだけでも。
そう思っても、体はピクリとも動かない。
仮に動かそうとすれば、またあの痛みに襲われるのだろう。
「お待たせしましたね」
突如、背後から聞こえた声に、リィカは驚いて、肩が跳ね上がった。
「………………………!!!」
またもや首から痛みが走る。
驚いて体が自然に反応しただけの事に、隷属の首輪が反応したのだ。
「おやおや」
デウスは面白そうに言うだけで、何もしようとはしない。
「椅子を」
「はっ」
部下に椅子を持ってこさせ、リィカの前に置く。
デウスは片肘をついて、リィカが痛みに耐えている様子を、意地悪げな笑みを口元に浮かべて、眺めていた。
やがて、痛みも止まる。
リィカは泣いていた。
涙を流すことでしか、その痛みを表現できないのだ。
だが、それを見ても、デウスは表情一つ動かさないまま、話し始める。
「勇者たちの処遇を決めましたのでね。明日朝、決行します」
リィカは、まばたきをする。
まだ体に痛みが残っていて、デウスの話に集中するのも大変だった。
「あなたは、勇者たちを倒して下さい。……ああ、殺さなくて結構ですよ。倒すだけです。そうしたら、勇者たちもあなたと同じように、私の奴隷として、仕えさせて差し上げますから」
話を、理解し損ねた。
――たおす?
――ゆうしゃを?
単語を一つ一つ復唱して、そしてようやく理解する。
痛みも忘れて、リィカはデウスを睨み付けていた。
「ふむ。やはり今のままでは無理ですかね。勇者たちの前で反抗されるのは、嬉しくないですからね」
リィカに睨まれても、面白そうに笑ったまま、デウスは独りごちる。
次に浮かべた毒々しい笑みは、リィカの目には悪魔にしか見えなかった。
「やはり、あなたには、心を壊してもらいましょう」
何が、やはりなのか。
難しい言葉は何もないのに、リィカには理解できなかった。
「服をすべて脱ぎなさい」
唐突に下された命令も、理解できない。
だが、装着者が理解しようとしまいと、隷属の首輪は、主人の命令に忠実に従う。
リィカの手が、勝手に動いた。
その手が、服にかかる。
その瞬間、命令を理解した。
モントルビア王国のモルタナで、デトナ王国のテルフレイラで、そして故郷クレールム村で抱いた恐怖が、一瞬で蘇る。
(――いやっっっ!!!)
内心で上げた悲鳴は、命令に逆らい、リィカの手を止める。
「………………………!!!!!」
それは当然ながら、隷属の首輪が反応することと同じ意味だった。
激痛が襲う。
リィカの手が、デウスの命令通りに動こうとしている。
けれど、リィカはその動きに逆らい続けた。
「脱ぎなさい」
重ねられた命令に、さらに動こうとする手の力が強くなる。
それに逆らえば、走る激痛は、さらにその強さを増していく。
それでも、リィカは動こうとする手を、必死に止めていた。
※ ※ ※
「ほう。ずいぶんと必死ですね。これは驚きです」
頑として逆らい続けるリィカを見て、デウスは意外そうにつぶやいた。
「デウス様、無礼を承知で伺います。なぜあのようなご命令を? 女性の意思に反した暴行は、お許しにならなかったと存じます」
デウスは、聞いてきた部下を怒らなかった。
「ええ、無論です。子を作る行為は神聖なものですが、そこに女性の意思がない場合は、穢らわしい行為でしかありません。だからこそ、女性の心を折るのに、これほど適したものもないのですよ」
女性とは言っても、相手は神への反逆者。
他の女性と同じに扱う必要も無い。
だからといって、本当にその行為を行うのは最終手段のつもりだが。
反抗を見せるとしたら、もっと脱いだ後。例えば、下着姿になってからだと思っていたのだ。
それが、最初の一枚すら、脱ぐのを抵抗するとは。
「これは、過去に何かありましたかね」
心に傷を負うような何か。
そうでなければ、ここまで抵抗しないだろう。
普通であれば、女性を気遣い、心に傷を負わせた男に怒りを覚えるのだが、彼女に対してそれは必要ないだろう。
「すべて脱ぐまで、その手を止めることは許しませんよ」
そう命令を下す。
デウスの口元には、冷笑が浮かべられていた。
※ ※ ※
(いやっ!)
(いたい!)
(いやっ、いやっっ!!)
(いたい、いたいよ!!)
リィカの思考は、それだけだった。
もう何が何だか分からない。
分かっているのは、絶対に手を動かしてはいけない、ということだけ。
けれど、手に力が入らなくなってきた。
意識が朦朧とする。
それよりも何よりも、いつまでも止まらない激痛に……耐えられなくなる。
(…………ああ……)
リィカの心が折れた。
耐えられないと、自覚してしまった。
もう限界だと分かってしまった。
体から力が抜ける。
――リィカの意識は、そこで途絶えた。
※ ※ ※
「おや?」
リィカの手が動き始めた。
デウスの口元が、弧を描く。
「目を開けなさい」
閉じたままの目に命令すれば、素直にその目が開いた。
だが、その目に、意思の光はなかった。
「手を止めて良いですよ」
服を脱ごうと動く手を止めてやる。
目的は達したから、必要ない。
ククククク……と笑いが漏れる。
そして、その笑いは次第に大きくなる。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
デウスは、しばらくの間、狂ったように哄笑していた。
※ ※ ※
「こっちだな」
「ええ。――あの家、ですかね?」
泰基とユーリが言葉を交わす。
一軒の家を、捉えた。
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