赤の魔剣士と銀の雪姫

田尾風香

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温もりとともに

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 洞窟を出たら、晴れていた。
 入る前も晴れていたけど、その晴れがずっと続いていたのか、吹雪いてまた晴れたのか、それは分からないけど、晴れているなら好都合だ。

「じゃあ、今度こそ戻るよ」
「ええ」

 無事に氷の結晶を手に入れられた。色々あったから無事と言っていいのかどうかは分からないけど、結果的に無事だったんだから、それでいいんだろう。

 手を差し出すと、エイシアは小首を傾げてから少し笑う。そして、腕にしがみつくように手を回してきた。

 驚いた俺に、エイシアはなぜか得意そうに笑った。その笑みに、俺はまあいいかと思って、そのまま歩き出す。何かあってもすぐ剣を抜けないけど、魔物がいるわけじゃないし、大丈夫だろう。それに……。

「氷の結晶を手に入れてさ、実際どうなの?」
「明らかに強くなってるわ。今なら"雪の屋根"があっても、すぐにそうと気付けそうよ。吹雪になっても、問題なく歩けそうな気がするわ」
「それはすごいけど、吹雪の時はやめようよ」

 つまり、ある程度地形を把握できるということだろう。まだ分からないけど、この感じなら魔物がいても、俺より先に察することができるんじゃないだろうか。
 でもまあ、吹雪の中の移動は勘弁だ。体温が軒並み奪われるから。歩けるからいいという問題でもない。

「あのさ、内側に入れておくって、具体的にどういうこと?」

 クルスタロスと話しているときにも疑問に思ったけど、あの時はエイシアは分かっている様子だったから、口出しはしなかった。でも、俺の目には氷の結晶が、ただ消えたようにしか見えなかった。

「具体的にと言われても難しいわね。体の内側に仕舞っておく、としか表現できないわ。あんなの手に持って歩いたって、邪魔だし」
「邪魔って……」

 その言い様に苦笑すると、エイシアが右手を伸ばした。その上に、あの場所で見た氷の花が現れた。

「ちょ、ちょっとエイシア、体に負担があるって……!」
「出しただけよ。力を使わなければ、何も問題ないわ」

 驚いて慌てる俺を余所に、エイシアは笑う。

「これで、本当の意味で、どこまででも一緒に行けるわ。だから覚悟なさい、シリウス」
「――うん、エイシア。俺の方こそ、よろしく」

 最初に旅立つとき、俺は迷うことなく北へと進路を取った。エイシアの氷の魔法は、暑い地域に行くと威力が落ちる。だから、俺は北へ進むことを迷わなかった。

 でも、元々旅に出たいと思ったのは、母のいた国を見たかったからだ。そして、母のいた国は、高確率で南の国だ。母から聞いたことはなかったけど、色々な人の話を聞くとその結論にたどり着く。

 それでも北へと向かった俺に、きっとエイシアは悔しい思いをしてたんだと思う。それでも黙っていたのは、自分の力が落ちることを知っていたからだ。

 だから、氷の結晶を手に入れたいと願ったのは、俺のためだ。俺が行きたい場所へ気兼ねせずに行けるように、あんなにも必死になって、手に入れてくれたのだ。

 エイシアが笑顔で俺の顔をのぞき込んできた。

「頼りにしてるわ、赤の魔剣士様」
「……エイシアまでそれを言わないでくれないかなぁ」

 もうすっかり忘れていた二つ名を、まさかのエイシアの口から出されて、俺はゲンナリする。

「何を言ってるの。どうせまた、そう呼ばれるわよ。いい加減慣れなさい」
「精一杯努力させて頂きますよ、銀の雪姫様」

 嫌だと思いつつも、エイシアの言う通りだよなと思うとウンザリする。投げやりに言えば、エイシアが二カッと笑った。やっぱり、その呼び方を気に入っているらしいのが、羨ましい。

「ほら、さっさと行くわよ」
「分かってるよ」

 ため息をついていると、エイシアに腕を引かれた。

 これから行く場所はどんな場所なんだろうか。母のいた国は、どんな国なんだろうか。不安もあるけど、エイシアと一緒にいれば、きっと何も問題ない。

 今までになく、近い距離のエイシアの温もりが、どこかくすぐったい。この温もりとともに、俺はこれからも歩いていく。


ーーーーー

これで終わりになります。
一度完結させてまた再開なんてことをしましたが、お読み頂いた方、ありがとうございました。
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