夜行性人類

鶴野オト

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夜行性人類

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『人間は本来夜行性の生物であった』



そんなとある天才科学者の発表があった。
我々が虫を嫌うのは古代に人間よりも大きな虫たちが夜過ごす人間たちを襲っていた名残であるとも述べた。
多くの人がそんなことは関係がないと思っていたが、世界は大きく変貌を遂げた。
まずアメリカの先進企業たちが『夕方からの勤務』を可能にしたのだ。
もともと夜型であった人が多かったため、その新制度を多くの従業員が使用した。
その報道を受けて日本の大企業も乗っかるようにしてその制度を導入し始めた。
企業勤めの仕事ではない人たちも影響されていき、昼間には眠るようになった。
早起きを推奨していたメディアたちも手のひらを反すように夜に多かった事件の減少を声高に報道した。
交通系の機関も元の世界での「夜勤」のようにして昼間の仕事を続行することとなった。
結果的に、制度をかたくなに変えようとしない『学校』のみが元の体制を続けることになったのである。



 



朝起きる。
私は中学三年生だ。
一連の『夜行性化』に関わりのない数少ない存在である。
まっさらな青空に違和感を覚えるほどの人気のなさだ。
ガラガラの電車に乗るために歩く。
光っていない街灯が両脇に並んでいる。
ここで私は不思議なものを発見した。
一本の街灯の下、何かが立っている。
近づいていくうちにそれが人であると分かった。
白いワンピースを着た三十代くらいの女性がうつろな目をして立っているのだった。
私の足音に気づいたのか女性はくるっとこちらに顔を向ける。
その顔は生気を感じられないほどに真っ青であった。
さすがに心配になり、女性の隣を通ったタイミングで私は声をかける。

「あの、大丈夫ですか?」

女性はしばらく信じられないような顔で私を見ていたが、やがて口を開いた。

「あ、ああああああ あああ、あああああ」

何を言っているのかまるで分らない。
というか、こんな朝っぱらにこんなところにいる女性っておかしいんじゃないか?
学生の年齢には見えないし…
私は頭のおかしい人だと決めつけ、女性の横を通り過ぎると、背後に女性の視線とうめき声を感じながら学校へと歩みを進めた。







…そういえば、今の人、足あったかな?



 


幽霊の動力源は人々が自分たちに向ける『恐怖心』である。
しかし、突然その動力源を得ることができなくなった。
それは『夜行性化』によるものだ。
真夜中にも町には人々があふれた。
そして夜に現れる私たちを一切怖がらなくなった。
というよりも皆私たちを幽霊だと思っていないようであった。
そして多くの幽霊が消えていった。
私を含む一部の幽霊は人が少ない昼間を狙って現れるようになった。
やっと人が近づいてきた。
どうやら女子高生のようだ。
じろじろと彼女を見る。
夜に出ていた時はこれだけで怖がる人がそこそこいた。
彼女は私に近づいてくる速度を変えないどころか、私に声をかけてきた。

「あの、大丈夫ですか?」

いまだ、本気で怖がらせるぞ。
私は髪を振り乱し、彼女の顔をしっかり見ると恨みがましい声を出す。

「あ、ああああああ あああ、あああああ」

だめだ、彼女は怖がってなんていない。
彼女は私の前を通り過ぎて行ってしまった。
そして、動力源を完全に失った私は消滅した。
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