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第3章
15.ヒロインの第一印象
しおりを挟む「えーと、お取り込み中でしたので、邪魔しちゃいけないなと思いまして……」
「婚約者なら間に入って助けてくれてもよかったんだよ?」
「新人メイドからしてみたら、憧れの王子様との対面ですからね。私は温かく見守っておきました」
……ノエル様の笑顔は崩れないが、微笑みの中に「あー言えばこー言うな」と思っているであろう表情が見え隠れしている。
「王宮の仕事に就けて浮き足立つのは分かるけど、あそこまで常識がないのはちょっとね……ライが直々に教えてあげたら? あの子、ライの事も気にしてたみたいだし」
「俺ですか!? いや~、パッと見た時はすげー可愛い子だなとは思いましたけど、気ぃ強そうっすよね……」
あれ、攻略対象の2人の反応を見るに、何かイマイチな感じ?
乙女ゲームって、好感度とかが重要なんじゃないのかな……? 友達も好感度が下がって、1からやり直しだぁぁって泣き叫んでた時があった気がするんだけど……
「入りたてのメイドは、良くも悪くも王宮の仕事に夢を見てるからね」
「夢、ですか」
「そう。王宮に出入りするような関係者とあわよくば知り合いになって、見初められたりしたら……とかね。実際、王宮騎士と恋仲になるメイドも多いみたいだし」
「へぇ……じゃあ、ちなみにライってああいう感じの子は好きじゃないんですか?」
「いやいや、サシャ嬢。いくら俺でも、可愛い子なら全員好きになるって訳じゃないんですよ」
そう言って、チッチッチ、と私の目の前で人差し指を振る。私は思わず疑わしげにライへと視線を送った。
……手相にも出てたし、この人絶対惚れやすいタイプだと思うんだけどな。意外とグイグイ押されたら取り込まれそうであると確信している私である。
「はぁ……そういうもんですかね……?」
「やっぱり男の理想はー、マクシミリ嬢みたいなふんわり可愛らしい、優しげな感じの方ですよねー」
「あぁ、それは女の私でも同感です」
「ですよね!? サシャ嬢、分かってますね! 老若男女に愛される人って、ああいうご令嬢の事を指すと思うんすよ、俺」
「あの方、高位貴族なのに上から目線な雰囲気もないですしね。どちらかというと、こう……守ってあげたくなるというか……」
「王宮騎士の皆がマクシミリ嬢の護衛したいって常に思ってますもん」
「暗に、僕の護衛は辞めたいって事かな?」
「ぅぇっ!? そそそそういう訳じゃないっすよ!? あくまで憧れってやつですって!」
「ふーん……ま、いい加減立ち話はその位で終わりにして、いつもの部屋に移動しないかい?」
さっきまで笑顔で怒っていたノエル様は、そう言って私とライの終わりそうにない会話を、呆れた様子で遮ったのだった。
────────────────
「王宮内の造りは何となく分かった?」
「はい。まだ実際見に行けてない場所はありますけど、大方は。図書館にも行ってきましたし。……あ、そこでアルシオ王弟殿下にも偶然お会いしましたよ」
「本当? 話題に上がった昨日の今日でもう叔父上に会ったなんて、流石だね」
「あの方、図書館に入り浸ってるってご自分で話してましたけど、かなり博識な方なんですよね?」
「うん。レクドの服毒事件の時も、実は叔父上が作った解毒剤を提供してくれたんだ」
……はい?
「解毒剤も作れるんですか……?」
私の恐る恐るした伺いに、平然と頷くノエル様。
いくら王弟殿下が作った物だとしても、言い方は悪いけど素人の作った解毒剤って、成分とか色々と大丈夫なのか。
「というのも、王宮にあった解毒剤が全く効かなくてね。叔父上の研究で出来上がっていた、新しい解毒剤をダメ元で使ったんだ。レクドの後遺症の事も落ち込んでいて、薬学についてもっと研究しないとって話してたよ」
レクドの命が助かっただけでも充分有り難いのにね、とポツリと呟いた。
「ほんわかした感じの方でしたけど、頭もいいんですね……」
「知識の多さじゃ敵う人がいないんじゃないかな。医学や薬学にも詳しいし」
「なるほど……」
「そうだ。薬学といえば、まだ見てないなら空いてる時間に王宮庭園にも行ってみたら? ハーブとか、色んな種類の珍しい草花が植えてあるから、面白いと思うよ」
お、それはちょっと面白そうかも。
私はそうしてみます、と素直に頷いたのだった。
「で、サシャは今日王宮内を見て回って、何か気付いた事はあった?」
「残念ながら進展するようなお話はないんですけれど……」
そう切り出しながら、私は【黒猫の涙】を見つける事の重要性から、誰でも入れるような所に保管されている筈はないとの見解を述べる。
「なので、王家の人間のみが知る、隠し部屋とかあったら教えてください。今回の一件が終わり次第、その部屋の事は記憶から抹消するとお約束しますので」
「……ふはっ」
私は至極大真面目に言ったつもりなのだが、ノエル様は堪えきれなかったようで小さく吹き出した。
「……別に、君が隠し部屋を知って悪用するなんて思ってないから……」
「サヨウデスカ」
「王家のみが知る部屋って訳じゃないけど、一部の王宮の人間が知る部屋はある。ただそういう部屋は僕と一緒に行こう。出られなくなったら困るでしょ?」
「え、一度入ったら出られない部屋なんですか……?」
何だそのデスゲームみたいな部屋。私の不信感を煽るような事ばかり言わないでほしい。
「行けばその意味が分かると思うよ」
そう言って、ノエル様は何だか少し楽しそうに微笑む。
隠し部屋については、ノエル様の空き時間が調整出来次第、向かう事となったのだった。
────────────────
「ふひー。今日は色々進展があったなぁ」
自室に戻った私は、気が抜けて思わず独り言をこぼす。王弟殿下やヒロインに、まさか今日遭遇するとは思ってなかったしね。
夕食まで少し休める時間があるけど、今ここでベッドに横になって休憩したら、朝まで寝たくなりそうだ。
私はソファーに少し深く腰掛けて、ちょっとだらりんとした姿勢になる。この時間にここへ来るような人は、今のところノエル様くらいしかいないし、崩した格好をしていても構わないだろう。
「うわ、ここでも余裕で寝れちゃう……」
王宮のソファーはふわふわで、硬いところがほとんどない。
結局ソファーの手すり部分に腕と頭を乗せて、微睡み始めた、のも束の間。
「お手紙です」
「ん?」
ボヤッとしていた私の目の前にイヴから差し出されたのは、ピンク色の小花柄の手紙だった。
ほんのりと花のいい香りがする。
こんな可愛い手紙を送ってきてくれる人、誰だろうか。
「……あ、納得」
丁寧な可愛らしい文字で書かれていたのは、昨日占いの約束をしたクララ様からの、お茶会の誘いだった。
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