占い好きの悪役令嬢って、私の事ですか!?

希結

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第3章

19.誰かが嘘つきな世界

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 落ち着きのない様子のナタリーは、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡していた。

 ……会場の出口を探してる?
 それとも、誰かの姿を確認してるのか……?

 どうしよう。今ならまだ、立ち去ろうとするナタリーを追いかける事が出来るはず。

 でも……
 私は隣に目線を向ける。しゃがみ込んで震えているクララ様の手をそっと取って、大丈夫ですよの意を込めて優しく握った。

 こんな状態のクララ様を、1人になんて出来ない。

「あ……」

 躊躇ためらっていたちょっとの隙に、ナタリーは完全に人混みに溶け込んでしまったようだった。私が再び目を向けた時には、もう姿を消していた。

「クララッ……大丈夫!?」

「ノエル……」

 クララ様から、小さく、安堵したような声が零れる。

 人混みをぬって駆けつけたのは、酷く動揺した様子のノエル様だった。
 ハァハァと息を切らして、こんなに焦った姿、見た事ないかも。

「はぁ……よかった……シャンデリアが落ちていくのが壇上から見えて、僕もレクドも、これ程までに時が止まってほしいと思った事はないよ……」

「心配かけてごめんなさい、ノエル。私もただ落ちてくるシャンデリアを見つめる事しか出来なくて……サシャ様がいなかったらどうなっていたか……」

「そうだよ、サシャは? クララを庇ってくれたよね? 無理したんじゃない? 怪我は?」

「え、あ、はい。大丈夫です」

 矢継ぎ早に聞かれて、条件反射でそう返事をしたけれど、どこかツキンとした痛みを感じて、私ははて……と小さく小首を傾げた。

「……クララ!」

 レクド王子が杖をつきながら時間差でこちらに辿り着く。
 駆け寄ったレクド王子に抱きしめられて、酷く安心したのだろう。それまで気丈に振舞っていたクララ様は、ほろほろと泣き出してしまったのだった。

「サシャ様が、うっ……助けてくれ、て、」

「うん、無事でよかったっ……ロワン嬢……本当に、本当にありがとう。私のこの足じゃ、気づけたとしても、どうしたって助ける事は出来なかっただろう」

「いえ、間に合ってよかったです……」

 もしもあんなのが頭に直撃していたら……
 今更になってゾッとする。きっとクララ様は、怪我どころじゃ済まなかっただろう。最悪の場合は死だ。

 ヒロインだからって、何をしたっていい訳ないのに。

「とにかく、今夜はもう中止だ。この場は任せて、君達2人は先に部屋に戻った方がいい。特にロワン嬢はクララを庇ってくれた時に、ガラス片を被っているかもしれないからな。メイドに丁寧に確認してもらった方がいい」

 レクド王子からの言葉に、はい、と私とクララ様は頷いた。
 部屋に戻ってからイヴにも色々伝えないとな、なんて考えながら、よっと足を数歩踏み出した時。

「……サシャ」

「はい? 何でしょうか?」

 声を掛けられてクルッと振り向いた、その瞬間。
 私はノエル様の腕の中に捕まり、更にはあっという間にお姫様抱っこをされていた。

「あの!? 今、話聞いてました……? 私ガラス片を被ってるかもしれないんですよ……!?」

 下ろしてください、と慌てる私を見下ろしたノエル様は、顔をしかめて辛そうな表情のまま、ポツリと呟いた。

「……足、怪我してる。何でさっき嘘ついたの」

「足……?」

 言われてから改めて確認すると、確かに左足に少しだけ違和感があった。
 あぁ、なんだ。さっきのツキンとした痛みは足の痛みだったのか。

「あ……本当ですね。言われるまで全然気が付きませんでした。受け身がちょっと甘かったかもです」

「クララを助けてくれた事は本当に感謝してるけど、サシャが代わりに怪我してもいいなんて思ってないよ」

「はい。以後気をつけます……」

 こんな風に怒られるなんて思っていなかったので、私は拍子抜けというか。
 それこそ何か……もうちょっとレクド王子みたいに褒めてくれたっていいのでは、なんて思ってしまった。

「サシャは何だかんだでお人好しみたいだからね。沢山褒めたら、きっとまた無茶しそうだから」

 ノエル様は私の心を読んだかのようにそう告げると、ニコリと笑って、肩にもたれたっていいからねと付け足したのだった。

 意地でもノエル様の肩は借りなかったけど。


 ────────────────


 イヴにも手伝ってもらって全身を確認してからお風呂に入り、サッパリとした私は自室でのんびりとさせてもらっていた。

 ノエル様達はまだ会場にいるんだろうか。

「予知夢なんて、実際あり得る事なのかな……」

 お茶会の時の占いを信じていない訳じゃないけど、それにしたっていくら何でも内容が当たりすぎている気もする。クララ様のあの姿は演技だったとか……?

「も~……」

 疑いたくない人の事を疑ってかからなくちゃいけないのって、本当嫌だ。

 段々と疑心暗鬼になってきた私は、ふぅ、と息を吐き出して、ソファーに深く寄りかかる。

 目を閉じると、何故か思い浮かんだのは、クララ様に怪我がないと分かった時のノエル様の表情。
 あれって、本当に兄の婚約者に向ける顔だったのかな。むしろそれ以上のような……

 もしかしてノエル様って、クララ様の事……?


「……ややこしくしないでよ、馬鹿」

 不敬だろうが何だろうが、今だけは言いたくなった……そんな夜だった。

 
 第3章 終

 
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