24 / 50
第4章
24.おまじないは内緒で
しおりを挟むレクド王子とライを見送った後、私達は秘密の部屋とやらに向かう事に。
「秘密の部屋っていうか、宝物庫なんだけどね?」
……お早いネタバレである。
「意味深におっしゃるから、何かと思って身構えちゃいましたよ……」
だったら最初から宝物庫って言ってくれればいいのに。心の中でぶつくさ言いながらも、テクテクと歩みを進めた。
入り組んだ王宮の中をぐるぐると歩く。ノエル様の案内がなかったら、一生辿り着かない気がする。
軽く10分は歩いただろうか、目の前には如何にもな雰囲気を漂わせた厳重な扉が。
イヴには、見張りの騎士ともに扉の外で待つようにとノエル様から指示があった。
その厳重な扉を開けると、再び似たような扉が私達を出迎える。更にまた1つ、また1つと扉はいくつも現れる。
「マトリョーシカか……」
「うん? 何か言った?」
「いえ、何も」
ノエル様が、首元から徐にネックレスを取り出した。そこには、小さな銀色の鍵がいくつか付いている。
「厳重ですね……」
「うん。逐一面倒なんだけどセキュリティ上、仕方ないよね」
私達しかいない空間に、チャリ、と小さく音が響く。
いくつかある鍵の、その内の1つを選び鍵穴に挿し込むと、ようやく扉ではない視界が開けたのだった。
窓の無い部屋一面に広がるのは、乱れなく陳列された装飾品の数々。
殆どがガラスケースや箱に仕舞われ、鍵がかけられているようだけど、ガラス越しでも目が眩むくらい眩かった。
「わ、私がこんな貴重な場所に足を踏み入れてもいいんでしょうか……」
今更ながらに引け目を感じて、思わず一歩後ろに下がる。
「大丈夫。王家の秘宝という位だから、ここに混ざってるなんて事は……正直まぁ期待してないんだ」
「そうですね。もしそれらしき物があったとしても……フェイクかもしれません」
宝石を探そうとなったら、まず最初に当てにするのはここだろう。となると……ここに隠されているなんて簡単な答えは、まずあり得ない。
「ん? だとしたら……私がここに来る必要って、ありまし……」
「王家が所持している宝石を見て、何か参考になればなと思って。あぁ、ここで占いをしてくれても構わないよ? ケースに入っている物で手に取ってみたいのがあれば、自由に開けて」
ニコニコと私の言葉を遮るノエル様って、本当いい性格してる。
「はぁ……」
促された私は、どれどれと飾られた宝石に視線を向ける。ザッと見ただけでも、目に入る物全てが最高級品なのは、素人の私でもすぐに分かった。
はいこれ、絶対に素手で触っちゃダメな品物だ。
「これ以上価値のある物って、考えるのも難しい……」
私は指紋1つないガラスケースに触れるのさえも、ちょっと躊躇っているというのに。それ以上の価値のある王家の秘宝って、一体どれ程の物なんだか。
「探し物が見つかる占いって言ったら……」
私の中にとある占い、というか1つの案が浮かんだ。でもそれってなぁ……
「何かありそうだね?」
意味ありげに考え込んだ私を、期待顔で見つめるノエル様である。
私はちょっと……いや、かなり渋々口を開いた。
「ノエル様って……よ、妖精の存在を信じます?」
「……妖精?」
小首を傾げたまま、人形のように硬くニコリと笑っている。
何を急に言い出したんだコイツって思ってるんだろうな。すみませんね、突然のファンタジーで。
「……妖精に、探し物の在処を聞くんですよ」
私だって、ぶっちゃけると胡散臭いと思ってますとも。それに占いというよりも、これはどちらかと言えばおまじないの類いになる。
……でも、ここが本当に乙女ゲームの世界だというのなら。
クララ様が予知夢を見たように、ちょっとくらい非現実的な事が起きるかもって、信じてみてもいいじゃないかとも思うのである。
「ダメで元々ですから」
だから試してみても、無駄にはならないだろう。私のライフポイントが少し(いやかなり)削られるくらいだ。
えぇい、お給料に見合った仕事をする、それが私のモットーだ……!
「流石に、ちょっと恥ずかしいので」
私は失礼しますと早口で告げると、くるり。ノエル様に背を向けた。
ドレスの小さな隠しポケットに手を添えて、たまたま包んであった1口サイズのクッキーが3枚程あるのを確認して取り出し、手のひらに乗せた。
おまじないに必要な物は、妖精の好む、甘い物。
それから意識を集中させて、妖精に嘘偽りなく問い掛けるだけ。
本当は探し物のイメージを頭に思い浮かべるといいって聞いた事があるけれど、生憎私は宝石って事しか分からない。
なら難しく考えずに、率直に聞こう。
「……妖精さん、妖精さん。もしいたら、お話しませんか。お尋ねしたい事があります。助けてください。王家の秘宝……別名黒猫の涙という宝石の在処を知りませんか?」
部屋の中に、シン……とした時間が流れる。暫くの間じっと待っていたけれど、何の音沙汰もなかった。やっぱりそんな簡単に分かる事じゃないよね。
私が諦めて、ノエル様に声を掛けようとしたその時。
【もうすぐ もうすぐ やってくる】
「え?」
私でもノエル様でもない、不思議な声が何処かからか聞こえてきた。
私はそのとても小さな歌声に、耳を澄ます。
【もうすぐ来るよ 祝福の夜
雫の零れる 内緒の場所で
合図をしたら 逢いましょう】
「もうすぐ来る……?」
もう1回だけお願いしますと願っても、その歌声は1回きりで聴こえなくなってしまった。勿論、手元のクッキーもなくなっていた。
「サシャ、どうしたの? え、まさか本当に聞こえた……?」
「き、聞こえたんですけど、在処というよりは……また更に謎々みたいな……」
ヤバい、本当に忘れそう。私は慌てて聴こえた歌詞をノエル様に口頭で伝えた。
「もうすぐ来る祝福の夜、か……明確な日にちが分からないのは厳しいね……」
「ですよね。内緒の場所って、そもそもその場所すら分からないですし……」
確実にこの妖精の歌がヒントになるんだと思うけど、何か辻褄が合わないな。
私の知識が足りてないのか、それとももしかして、乙女ゲームのルートとやらを思いっきり飛ばしながら進めちゃってる、とか?
「いや、それでも有難いヒントだと思うよ。雫の零れるというのは、雨だったり水に関連するものだと思うし……考え方はいくらでもあるから、部屋に戻ってもう少し考えてみよう」
「はい。ありがとうございます」
「それにしても本当に妖精の声を聴くなんて……いよいよサシャの別名【神秘の子爵令嬢】が真実になりつつあるね」
「うっ……こ、このおまじない……他の方には内緒でお願いします……」
「いいよ。サシャが妖精を呼べるのは、2人だけの秘密、だね?」
楽しげに笑いながら、揶揄うような表情をするノエル様。
そんな王子様を、私はほんの少しだけ肘で小突いたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!
宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。
静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。
……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか?
枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと
忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称)
これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、
――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる