占い好きの悪役令嬢って、私の事ですか!?

希結

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第5章

28.お人好しな悪役令嬢

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「あの、ロジャ? 黒猫の涙って……知ってますか?」

「勿論です。君も流石に勘づいていますよね? 黒猫の涙と呼ばれる王家の秘宝と僕の存在が、付かず離れずになっているのは」

 ロジャからの視線を受けて、私はこくりと神妙な面持ちで頷いた。
 この乙女ゲームのタイトルからして、ロジャが重要な鍵になるのは、ストーリーをよく知らない私でも察する事が出来ますとも。

 私は手詰まりな事もあって、正直に現状を報告することにした。

「たまたまおまじないを思いついて、呼び出した妖精からヒントを貰いました。その後に色々と偶然が重なって……おかげで今夜ロジャに出会えましたけど、王家の秘宝の方は正直見当もついてないんです。ただ感じているのは……高価だから秘宝の価値がある、そういう物ではないんじゃないかと」

「なるほど……そこまで考えられているのであれば、王家の秘宝の方の答えには、いずれ辿り着けるでしょう」

「えっ? 本当ですか?」

 思わず拍子抜けした、気の抜けた声が出た。

「はい。まぁ……ストーリーがどう転がっていくかは、この後の質問に答えてもらってからじゃないと何とも言えないんですけどね」

 決まっている事なので、一応お願いしますねと悠長に語る黒猫は、瞳をスッと細めて真剣な表情でこちらを真っ直ぐに見つめてきた。

「僕の涙が一度だけ、どんな病や怪我にも効く万能薬だとしたら……」

「……何にでも効く、万能薬?」

 それって、ロジャに出会えた事で貰える特別イベント報酬みたいな物なんだろうか。

「はい。使い所によっては運命が変わるかもしれない、そんな特別アイテムです。……さて、」

 満月の光に照らされた艶やかな毛並みの黒猫。その神秘的なシルエットに、目が離せなかった。

「君は黒猫の涙を使って、どんなエンドを望みますか?」

「どんなエンドを……」

 私の頭の中に真っ先に浮かんだのは、黒猫の涙を使って足が治り驚くレクド王子。きっとそれを泣いて喜ぶだろう、クララ様の姿。
 それから、嬉しそうに笑った……ノエル様の顔だった。

「そんなの、ハッピーエンドに決まってますよ」

 私の想いを伝えると、ロジャは少しだけ目を見開いて、驚いた顔をした。

「自分の為に取っておこうとは思わないんですか?」

「身近に一生治らないといわれている怪我をしている人がいるのに、ですか? これ……凄く価値がある物ですよね。今の王家というか、レクド王子やノエル様にとっては、ひょっとしたら王家の秘宝よりも価値があるかもしれないし」

 まだ見ぬ宝をそんな風に言うのも、ちょっと失礼なのかもしれないけどね。

「それに、ちゃんと私の為でもあるんですよ? 秘宝の在処ありかが最悪分からずに契約期間を終えてしまったとしても、少しは許してもらえるかな、なんて。今回の契約で発生するお給料が減らされても困りますし……私、お金に煩い女なんです」

「君の利益の考え方、とてもじゃないですけど、ただお金に煩い人とは全くもって異なると思いますよ……」

 ため息をついたロジャだったが、おもむろにとても小さなガラスの瓶をポンと取り出した。自身の涙をポタリと1滴垂らしてからキュッと蓋を締めると、それを私の手に握らせた。

「治したい部位にこれをそのまま直に垂らすだけで構いません。身体の中の病気ならば、口から飲むようにお願いします」

「ありがとうございます……」

 ガラスの小瓶の中でユラユラしている黒猫の涙。透明なのにキラキラと光沢が入っているような、まるで宝石のような美しさだった。

「既に一度危険な目にあっていて、今後も遭わないという保証はないでしょうに……君はかなりのお人好しですね」

 なぜか初対面の猫にまで呆れられている。自分では結構打算的だと思うんだけどな。

「というか危険な目にあったって……ロジャって本当、何でも知ってますね。あの、そもそも私はヒロインじゃないのに、何でこうしてロジャと会う事が出来たんでしょうか?」

 納得はいってないけど、悪役令嬢ポジションなんですよ、私。

「あぁ……それは君が……」

 そう言いかけて、ふと夜空を見上げたロジャは、そろそろタイムリミットですねと呟いた。

「もう行かれるんですか?」

「はい、もうすぐ満月に雲がかかりそうですので。サシャ。貴方の先程の回答、中々気に入りました。王家の秘宝と呼ばれている方の黒猫の涙について、僕から特別に1つだけヒントを差し上げます」

「え、」

 ポン、と私の手の甲に、肉球のモチモチとした感触が伝わってきた。

「王家の秘宝は誰に価値があるべき物なのか、価値の意味を一度考えてみてください。では、健闘を祈ります」

 キラキラとした光を纏って、ロジャの姿はあっという間に消えたのだった。

「もう会えないのかな……」

 希少なアイテムにヒントまで、沢山もらっちゃったのに大したお礼も出来なかった。またいつか会えたら、その時の為にお礼を用意しておこう。

「さてと。イヴに怒られる前に戻らないとだ……」

 来た道を戻ろうかなと足を向けた時、小さな声が途切れ途切れに聞こえたような気がした。
 声が聞こえる方へと、足音を鳴らさないように注意しながら近づく。

 ……ナタリーと、誰かが会話している?

 目を凝らしたけれど、もう1人の人物はほとんどが植木に隠れていて、こちらからだと姿がよく見えなかった。護衛イヴもいなくて1人だし、これ以上近づくのは危険だから仕方ない。

「うーん……何喋ってるのかも、この距離じゃ流石に聞こえない……」

 暫く様子を見ていると、2人は雰囲気からして少し揉めているように感じ取れた。時折、ナタリーの「だって……!」「あれは……!」といった甲高い声が聞こえてきたのである。

 最終的には、もう行け、と言わんばかりにナタリーを押し出したようで、その人物も時間差でその場を後にした。
 一瞬だけ、その人物の足元が見え、体格を想定するに、会話の相手は男性の様に思えた。

「逢引き……? 雰囲気から察すると痴話喧嘩かな……」

「……誰と、誰が?」

「ひぁ……っ!?」

 突然耳元で囁かれて、私が声を上げそうになった所で、おっと、と口元を塞がれた。条件反射でビックリしたけれど、背中から伝わる香りや温もりの持ち主を、私は知ってる。

ふぉえるはまノエル様?」

 身体を半分程ひねって、問いかけた先には、しかめっ面をしたノエル様がいたのだった。

「ねぇ、こんな夜更けに、庭園で1人何してるの?」

「ご心配をおかけしてすみません……」

「無事でよかったからいいけどね。イヴからサシャが部屋を抜け出したかもしれないって報告があって、慌てて探したんだから」

「うぅ……すみませんでした」

 私は素直に謝った後、怪しい動きをしていたナタリーを追いかけて庭園に潜り込んだ事、今見た現場を報告したのだった。

「ふぅん……やっぱりあの新人メイドはきな臭いな……」

 どうしよう。ロジャの事、ノエル様に伝えるべき?
 でも私のおまじないもきちんと信じてくれたノエル様に伝えないのはフェアじゃない気がして、私は隠さずに一部始終を話す事にしたのだった。

 ……私、何だかんだでノエル様の事を信頼してるんだな。

 
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