懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結

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第1章 城下町アルテアへようこそ

ep.4 とっつきにくいよ副団長

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 もふもふタイムを満喫させてもらっている私の横で、団長達の会話は続いていた。

「そういやシルヴァのパートナー精霊は近くにいんのか?」

「いえ、今はいません。彼女は気まぐれですから」

 精霊動物は、行動や性格も様々だ。

 実体化するのが好きな子もいれば、ずっと精霊の姿のまま過ごす子もいる。

 契約後、自由気ままに過ごす子もいれば、カインのパートナーであるさっきのゴールデンレトリバーの子のように、精霊の姿のままずっと側にいる子もいるのだ。

 猫は、自由を望む子が多いような気がする。甘えたがりの子も勿論いるとは思うけど。

「……さっきのロシアンブルーの子、やっぱり女の子だったんだ。可愛かったなぁ……」

 オミのお気に入りブラシで、もふもふしすぎて荒ぶってしまった毛並みを整えながら、先程の事を思い返す。

 驚いて、うっかり声に出してしまったのは……実は今世でも猫だけが苦手だからだ。

 遠目で見てる分には本当に可愛いと思っているのに、あんな反応しか出来ないのはなんだか切ない。

『まだ猫には慣れないのか?』

「うん、そうだねぇ……」

 オミに問いかけられ、私は少し眉を下げながらぼんやりと返事をした。その間、ブラシを動かす手は止めていない。

 やっぱり前世の記憶に引っ張られているのかな。苦手意識を克服出来ないまま、結局死んでしまったから……?

 騎士団内でも既にもう、他の種類の猫とすれ違う事があった。毎回ヒヤッとしながら通り過ぎるのも、どうしたものかと悩んでいるのだ。

「黒夜ではそれこそ沢山の精霊動物と会うのに、よく1週間やり過ごしていられましたね」

「メルには適性が全くないからな。精霊の方も、メルがまさか自分たちの事を見えるなんて思ってないらしくて、話しかけて来ないんだよ」

 そう。だから私の秘密を知ってる精霊動物は、今のところ黒夜ではカインのパートナー精霊とオミだけ。

「ま、だから今んとこはメルのさじ加減で、精霊を見えてない風にやり過ごす努力をしてもらってるってとこだ」

「はぁ……危機感があるんだかないんだか……随分と計画性のない、ふわっとした隠し方で」

 そんな誤魔化しかたで、本当に隠すつもりはあるんですか……? と、ため息をつかれてしまった。ちょっと嫌味っぽいけど、まぁ副団長の言いたい事も何となく分かる。

「その内何処かから噂でも広まれば、狙われるかもしれないですよ? その資質は便利すぎるし、喉から手が出るほど欲しがる人間はいるでしょう」

 副団長からの指摘に、あー、と団長は頭をガシガシとかいて顔を顰めた。

「そりゃ困る。メルを攫ってこの能力を悪用されたら、たまったもんじゃねぇ。何より俺の恩人の家族だ。でもな、カインも騎士団に入れる年齢になったし、国境の付近の村にいるよりも中心部の黒夜に来た方が安全だって、一応俺も悩んだ上で判断したんだよ」

「団長……!」

 団長の事だから、てっきり何も考えずに「カインのついでに来いよ」と言って適当に引っ張ってきたと思ってたので、ちょっと感動した。

 騎士でもないし、精霊適性もない平民が王国騎士団に所属なんて……と、気後れしていたのは事実である。

 ……自分が結構なやっかい者の自覚はあったし。

「つーわけで、シルヴァもメルが困ってたら助けてやってくれ」

「……確実な約束は出来かねますけども」

 あぁ……私の直感が告げている。
 この副団長、絶対迷惑かけちゃいけないタイプだ。3個しか年が離れていないのに、この静かな威圧感よ。

「あの、団長が勝手に話を進めてしまって申し訳ありません。なるべく迷惑をかけないようにしますので……」

 団長という名の上司直々に頼まれたら、嫌なものも嫌とは言えないよね。

 私がそんな思いで、ぺこりと深くお辞儀をしてから顔を上げれば、副団長は少し驚いた顔をしていた。

「……?」

 何かおかしなこと、言ったかな。

「でもなぁ……メルはパートナー精霊がいる訳じゃねぇから、いざという時に精霊の力も使えねぇしさ……」

 団長は口をへの字に曲げて、しょっぱい顔をしている。

「あの、いつも言ってますけど、一応自己防衛くらいはできますよ?」

 私がチラリと腰に下げた木の警棒に目を向ければ、団長はますますしょっぱい顔をした。

「お前は女だし、村で騎士を目指して訓練してた訳じゃないだろ? それに非戦闘員用の警棒じゃ、剣や精霊の力には敵わねぇだろうがよ」

 数年はカインのおじいちゃん監修のもと、半強制的に騎士訓練をしてましたけども、と口から出かかったのは黙っておいた。決して面倒くさいからではない。

「……じゃあ予算の中から、希望する非戦闘員に短剣の1本くらい配布してください」

 はい! と両手を差し出して、ズイズイッと団長に迫れば、副団長が私の頭上に氷のような一言を落としてきた。

「アシュレー。非戦闘員は外の警備に出る事はないので、今現在その必要性は感じられません」

「……左様で」

 分かってはいたけど、そんなどストレートに却下しなくてもいいじゃないか。

「なぁ、アシュレーじゃカインと同じだからややこしいだろ? メルって呼べばいいじゃねぇか」

「……カインの方を名前で呼べば、別に問題ないかと。話はこれで終わりのようでしたら、お先に失礼します」

 副団長はさっと礼をとると、返事も聞かずに部屋から出て行ってしまった。

「アイツもちょっと見ない間に融通が利かない頑固野郎になってんなぁ」

「……とっつきにくい副団長サマだということは身に沁みて分かりました」

 いなくなったのをいい事に呟いた、私のちょっぴり毒舌な感想に、ケラケラと大笑いをする団長なのだった。

  
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