懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結

文字の大きさ
6 / 41
第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】

ep.6 人の手も借りたい猫

  

 私の顔色の悪さから何となく察してくれたのか、精霊猫はそれ以上近づく事はなかった。……気を遣ってもらって申し訳ない。

『ごめんなさい、自己紹介もしてなかったわね。私の事はニアって呼んで』

「あっ、はい。メル・アシュレーです。私の事もメルって呼んでください」

 気品のある雰囲気に呑まれて、思わずペコリとお辞儀をすると、ニアから『次からはその敬語もなしでお願いね』と言われてしまった。

 うぐ。その有無を言わせない感じ、ちょっとだけ副団長に似てる気がする。

「えぇと……じゃあ、ニア? その、さっき話していた私達の力になるって……何の話か詳しく聞いてもいい?」

『言葉の通りよ。メルの、その特別な力を借りたいの。……事の始まりは、とある精霊猫からの相談なのだけど……』


 ──ニアが野良の精霊猫から話を聞いたのは、ほんの数日前の事らしい。

 その子は度々実体化をして、城下町の路地裏で普通の野良猫たちに混じり、猫生活を満喫していたそうだ。

 そこで奇妙な話を聞いた。
 何でも、ここ数日で急に野良猫の数が減ったのだと。

「野良猫が、失踪……? そもそもなんで数が減っている事に気づけたんだろう?」

 猫が失踪って……自分で言っておいてなんだけど、違和感が凄いな。

『野良猫には独自のネットワークみたいなものがあって、この地区にはどんな子がいるかとか、猫同士でわりと把握しているのよ。なわばり争いみたいなものもあるのかしら。だから今回もすぐ疑問に感じたらしいの』

「なるほど。じゃあ、いなくなった理由を考えるとしたら……野良猫を拾って家に迎えてくれた人が増えた、とか?」

『そうね。だとしたら数が減っているのは嬉しい事だわ。……だけど相談を受けた私も、何だかそう簡単に割り切れなくて』

 上手くは言えないけれどモヤモヤするのよと、ニアは尻尾をぺそりと下げた。

「つまり野良猫が減少している、本当の理由を探りたいんだね?」

『ええ。精霊動物と会話が可能なメルには、私と一緒に行動してもらって、城下町にいる野良猫や精霊猫たちへの聞き込みを手伝ってもらいたいの』

 ここまで事情を聞いてしまった身としては、正直もう引き下がれないだろうなと思った。
 何より大好きな動物の事だしほっとけない。それに個人的にも真相が知りたくなってきていた……というのはちょっと内緒である。

「でも待って? 手伝いたいのは山々なんだけど、医務課での通常業務もあるし、これって私が勝手に判断できるレベルの話ではないんじゃないかな……?」

『その点は大丈夫よ。私のパートナーは誰だったか忘れちゃった?』

「あっ、副団長……!」

『私の手伝いというか、書類上はシルヴァの手伝いって形になるのかしら。ま、シルヴァはほとんど参加しないと思うわ』

 パートナーなのにどうしてだろう、という顔をしていた私に気づいたようで、ニアは会話を続けた。

『シルヴァだと、他の精霊動物や野良猫達が怯えちゃうのよね……』

「あぁ、なるほど……?」

 すぐに絶対零度のアイスブルーの瞳が頭に浮かんだ。あの人は人間のみならず、動物にも恐れられているのか。それは流石に可哀想だな……と少し同情した。

『だからこの後シルヴァの許可さえ取れれば問題なしよ』

「……まさかの未許可!」


 ────────────────


 騎士団の任務として城下町に出向くのは初めてだ、なんてちょっとワクワクしていた私は、ふと、すっかり忘れていた重大な難点に気がついた。

「猫への聞き込みの手伝いかぁ……ん?」

 それって、沢山の猫がいるところへ出向く事になるじゃんか。つまりは苦手な猫に近づく機会がすっごく増えるって事だよね……!?

「ニ、ニニニニニニア? 申し訳ないけどやっぱりその手伝い、そもそも私にも出来ないと思う……!」

『あら、どうして?』

「……実は、動物は皆可愛いって本心で思ってるんだけど、猫だけがどうしても苦手で。ニアも感じたんじゃないかな、私、猫が近くにいると条件反射で身構えちゃって……」

『メルから私に対する嫌悪感とかは感じられないけれど』

「そんな風に思ってないもの……! 信じられないかもしれないけど、苦手なだけで、猫の事も他の動物と同じくらい大好きなの……!」

 必死になって弁解すれば、ニアには、ふぅん、と不思議そうに見つめられた。思わず熱く語ってしまい、なんだか居た堪れなくなって、ちょっぴり俯く私である。

『最初は構えてしまっても、落ち着けばこうやって私とも普通に会話が出来ているじゃない。別にそこまで気にしなくても大丈夫だと思うわよ? 猫を怖がるのはそうね……多分メルの潜在意識というか、そうなってしまった原因があると思うのだけど』

 ……その通りです!
 ニアの、副団長さながらの冷静な見解に、コクコクと頷いてしまっていた。

「思い当たる節はあるんだけど……」

 私は何の因果関係か、猫に(ニアは精霊動物だけど)自分のトラウマになった一件を話す事になったのだった。もちろん、前世の思い出だって事は伏せて。

「……すごーく昔にね? 友達が飼っていた猫が突然、後ろから私の足に飛びついてきた事があって……」

 噛まれたわけでもなくて、トラウマという程の事じゃないと言われてしまったらそれまでなのだけど。当時の自分が幼かった事もあって、ものすごく驚いてしまったのだ。

 その時は何がなんだか分からなくて、ただ怖いと思っていた。だけど今となっては、何で猫が飛びついてきたのか分かっている。

 ……私がダラダラと床に横になって、指先をぴこぴこと不規則に動かしていたのが悪いのだ。

「猫は動く物に反応するから、悪気があった訳じゃないってちゃんと分かってるの。なんだけど……」

 頭では分かっているのに、心の中の苦手意識は何故か消えてくれないのだ。

『なるほどね……それならほら、試しに私を触ってみたらいいんじゃない?』

 

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

夢幻の翼
ファンタジー
長き期間を冒険者として過ごした俺――グラードは四十五歳を迎えるにあたって冒険者を引退、かつてから興味のあった料理人へと転職を決意した。調理は独学だが味に自信のあった俺は店舗経営の知識修得の為に王都の人気料理店で修行を始めるも横柄なオーナーのせいで店はおろか王都からも追放されてしまった。しかし、魔物の素材に可能性を見いだしていた俺は魔物が多く住むと言われる北の魔樹海側の町を拠点とし、食堂経営に乗り出すことに。 旅の途中で出会った変わり者の魔白猫や呪いのために一族から追放されたエルフの少女と共に魔物素材を使った料理で人々を幸せに癒す。冒険者を引退した料理好きのおっさんが繰り広げるほのぼのスローライフ開幕です。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。