懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結

文字の大きさ
5 / 41
第1章 城下町アルテアへようこそ

ep.5 私の配属先は医務課です

 

「すみませんっ、遅れました……!」

 小走りで医務課へと辿り着けば、眼鏡をかけた白髪のおじいちゃん先生が振り返り、のんびりとした優しい笑顔と声が返ってくる。

「おや、メル。団長との話はもう終わったのかい?」

「はい。急な事ですみませんでした……! 時間……は、始業からだいぶ過ぎちゃいましたよね」

「大丈夫だよ。今日はこれから団員のほとんどが外に出るから、そんなに忙しくないんだ。着替えも慌てなくていいからね」

 団長も急に呼ぶから困ったものだよねぇ、と私の味方をしてくれるのだから、本当に優しくて頼りになる上司である。

「ありがとうございます。準備してきますっ」

 医務課の隣にある更衣室で団服のジャケットを脱ぎ、掛けてあった自分の白衣を羽織る。ちなみに、白衣にも黒夜所属だと分かる紋章のワッペンが胸元に付いているのだ。

 白衣を着ると、気持ちがスッと引き締まるような気がする。

「よし。今日も頑張るぞ」

 気合を入れ直していた私の背後から、突然腕がにょきりと伸びてきて、背中にムギュッと柔らかいモノが押しつけられた。
 のしかかられているのに、不思議と全く重たくない。

「おはようございます、レイラさん」

 振り向きながら挨拶を返すと、艶やかに微笑む先輩と間近で目が合った。

 勤務初日はこのスキンシップに凄く驚いたけれど、今ではだいぶ慣れたものだ。……というのも、ふんわりと薔薇の香りを纏っているこの人の、どうやらお決まりの挨拶らしいのである。

「メルちゃん、おはよん」

 私の直属の先輩であるレイラさん。(年齢は秘密らしいのだけど、見た目は20代にしか見えない)
 身長が高くてスラッとしているのに、出るところは出ているという、憧れてしまうような体型の持ち主だ。お顔も「美しい」の一言に尽きる。

「本当、いつ見てもお綺麗ですねぇ……」

 私が感嘆の意を込めて呟いていると、いつも褒めてくれてありがと、と笑われながらお礼を言われた。

「メルちゃんだって顔立ちが整ってるんだから、普段からもう少しメイクをしたらどう? それにメルちゃんは美人さんだけど可愛らしさもあるから、どっちも兼ね備えてて最強だと思うわ」

「え、えぇ……? そうですかねぇ……?」

 確かにメイクは必要最低限しかしていない。……騎士団での1日のはじまりは早いので、朝が弱い私はバッチリメイクよりも、ギリギリまで寝るという欲望を優先してしまうのだ。

 もっとも騎士団員の人達は私より早起きして朝練をしているので、こんな事を言ってるのは大変申し訳ないのだけれども。

「もぅ、自己評価が低いんだから。私、女の子に嘘は言わないわよ?」

「んん? 女の子、には……?」

 意味深な言い方に小首を傾げる。つまり逆を返せば、男の人には嘘をつくって事。でも、何の嘘を?

 なんて考えている間、レイラさんは楽しそうに私の頬っぺたをモチモチと触って遊んでいた。

「うふふ。さ、準備が出来たならいつもの騒がしい怪我人(騎士達)が来ない間に、事務や雑務を済ませちゃいましょ」

「あ、はいっ」

 さぁ、今日もまた医務課での1日がスタートだ。


 ────────────────


 思い返せば、勤務初日の私は緊張と不安で、硬い表情を浮かべていたと思う。
 
 そんな状態で医務課へとやって来た私に対して、団員の方々は皆とても優しかった。

 私が気にしていると思ったのだろう。適性がなくても何ら問題ないし大歓迎だと、開口一番に言ってくれたのは、きっと忘れられないと思う。

 正直その言葉にすごくホッとして、強張っていた肩の力が一気に抜けたような気がしたのだった──


「どうしたの? 書類の束に囲まれながらニコニコして」

「職場環境に恵まれてるなぁと思いまして」

 レイラさんから声を掛けられて回想から戻ってきた私は、手にしたままだった書類の確認に再び取り組む。
 事件や事故、調査の際に怪我を負った人の情報、その後の経過や経費などを記載したりと、意外と事務作業も多かったりする。

「そぉ? 騎士団内で1.2を争う多忙さなのに、メルちゃんって若いのに変わってるわよねぇ」

「やりがいがあるのはいい事ですから。所属を医務課ここに決めてくれた事に関しては、珍しく団長に感謝してます」

「なら私も団長に感謝しないとだな。こんなにやる気のあるいい子の新人を派遣してくれて助かっているからね」

 ……上司からの純粋な褒め言葉は、かなり照れる。照れ隠しのつもりで顔を書類で隠すと、隠せてない耳が赤いよと皆に笑われてしまった。うぐ。


 ──それから書類作業をペースよく消化し、午後になって私は、塗布薬の材料となる薬草を摘みに裏庭へとやって来ていた。

 医務課では、村で教わった薬草の知識が思ったよりも役に立っていて。まだ新人の私は薬を作る許可は下りていないのだけど、元々植物の世話は好きだったので、こういった類いの仕事は特に楽しい。

「普段の多忙な1日と比べたら、今日は本当にリラックスしながら仕事が出来ちゃう……」

 穏やかな陽気に、心地よい風も相まって気が緩む。
 周りに誰もいないのをいい事に、ついつい鼻歌なんかも口ずさんじゃうのだ。

『ねぇ』

 ふいに話しかけられ、思わず鼻歌をピタリと止めてしまった。

 誰かに……いや、この人間離れした声は精霊動物? に、話しかけ……られてる?

 小さな鈴が鳴るような、綺麗な声。
 聞いた事のないその不思議な声の持ち主は、どうやら女の子のようだけど、何の種類の動物だろうか。

 ウサギ? リス? き、気になる……!

 姿を見てみたいという自分の好奇心をどうどうと抑えつつ、声のする方へは向かずに、素知らぬフリでやり過ごす。

『ねぇったら。聞こえてるんでしょ?』

 いやいや、申し訳ないけれど知らないフリ、知らないフリ。
 止めてしまった鼻歌を誤魔化すかのように再開させつつ、薬草を摘む作業の手を早めようとした……のだけど。

 私と薬草の間に、にょ、と華奢な半透明な前足が現れたのだ。

「な、っにゃ、ねっ!? (訳:なんで、こんな至近距離に、猫の手がー!?)」

 後ろへ下がろうとしたのに、しゃがんでいた私はバランスを崩してそのまま軽く尻もちをついてしまった。

『やだ、ごめんなさい。そんなに驚くとは思ってなくて』

 私の目の前にちょこんと座って困ったように小首を傾げているのは、今朝見かけた副団長のパートナー精霊である、ロシアンブルーの猫だった。

「……いえ、大丈夫、です」

 こんなオーバーリアクションをとってしまったからには言い逃れも出来まい。私は混乱しながらも、どうにか言葉を返した。

 大丈夫なので、どうか願わくば近付かず、そのままの距離でいてほしい。

『食堂で目が合った時から分かっていたの。貴方、今も声が聞こえていて、私の姿が見えているのよね?』

「は、はい」

『ふぅん……こうして話していても、本当に適性が感じられないのね……じゃなくて。さっき出会った時、貴方ならきっと私達の力になってくれるって、ピンときたのよ』

「あの……一体何の話……?」

 ニコリと笑った猫の口元から、キラリと小さく尖った歯が見えて、思わずギョッとする。

 私達、って何? 力になるって何のこと?

 久しぶりに間近で見た猫は可愛いけど、やっぱり苦手意識は拭えない。

 とにかく今は……ちょっとだけ離れてください! 


 ──第1章・終──

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

夢幻の翼
ファンタジー
長き期間を冒険者として過ごした俺――グラードは四十五歳を迎えるにあたって冒険者を引退、かつてから興味のあった料理人へと転職を決意した。調理は独学だが味に自信のあった俺は店舗経営の知識修得の為に王都の人気料理店で修行を始めるも横柄なオーナーのせいで店はおろか王都からも追放されてしまった。しかし、魔物の素材に可能性を見いだしていた俺は魔物が多く住むと言われる北の魔樹海側の町を拠点とし、食堂経営に乗り出すことに。 旅の途中で出会った変わり者の魔白猫や呪いのために一族から追放されたエルフの少女と共に魔物素材を使った料理で人々を幸せに癒す。冒険者を引退した料理好きのおっさんが繰り広げるほのぼのスローライフ開幕です。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。