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第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】
ep.9 路地裏は猫だらけ!
「……そんなに驚くような話だった?」
私としては、世間話の1つくらいの感覚だった。もちろん誰にでもペラペラ話す内容じゃないし、ニアになら話してもいいかなって思っての事だけども。
私の言葉に、ほんのりと困った感情が入り混じっていたのを察してか、ニアは慌てて顔をふるふると横に振った。
『違うわ。そういう純粋な心の持ち主のメルだから、全ての精霊動物たちの声が聞こえるんだって……そう思ったらなんだか色々と腑に落ちたのよ』
「そ、そう……なのかな……?」
『私、初めてメルに会った時に何となく感じたのよね。メルならきっと助けになってくれるって』
うんうん、と1人(1匹)で納得するニアに、私はちょっとついていけてないよ?
「……えぇと、褒められてるんだよね?」
『勿論よ──つまりね、メルにはずっとそのまま、優しい気持ちを持ち続けていてほしいって事』
さぁ、そろそろ着くわよというニアの合図と同時に角を曲がると、行き止まりの空間にたどり着いた。
「う、わぁ……なんか、猫がいっぱいいる気がする……!」
高く積まれた古い木箱や樽、劣化した機械の部品など、とにかく物で溢れている。姿は見えないのに、そこから何となく猫の気配を感じる。
『私は話を聞いてくるわ。その間メルは少しでも猫慣れを頑張りなさいな』
ニアは小声で私にそう告げると、溜まり場のボスらしき野良猫の元へ行き、会話し始めた。私もよしっと気合いを入れて、他の猫達がいるだろう箇所へと視線を向けた、のだが。
「あれ……?」
……猫の方が警戒心マックスで、近づこうにも近づけないのですが?
致し方なし。序盤にして終盤、秘密兵器の出番である。
私は気づいていませんよ~気にしていませんよ~という風を装いながら、腰に下げていた小さな鞄をおもむろに開けた。
実はここに、前世の知識を引っ張り出して用意した、猫慣れの為のアイテムが入っているのだ。湯がいた鶏肉を小さく裂いた物が入った袋を開けて、地面に置かれていた端の欠けた器を見つたのでそこに乗せる。今回は餌づけ目的じゃないし、無責任な事も出来ないから、ほんとにちょっぴりだけ。
前世で、猫は意外とお肉も好きって聞いた事があるんだけど、本当なのかなぁ……?
遠巻きにこちらを見ている野良猫たちの方に、そっと差し出すように近づけた。香りに反応してか木箱の陰から恐る恐る顔を出した彼らは、野良特有のパサついた毛並みで薄汚れていたけれど、可愛く感じる。
私が猫を怖がるのと同じように、彼らだって見知らぬ人間である私を警戒するのは当たり前だよね。
「突然お邪魔してごめんね。変な物は入ってないから、よかったら食べてね」
そう小さな声で呟いて、自分から後ろへ下がった。少しずつ警戒心を解いて食べ始める姿を、遠目から眺めてほんわかタイム。
こんなに沢山猫がいる空間でリラックス出来ているなら、少しは私、進歩してるよね?
それから数分も経たない内に、ニアが私の元へと戻ってきた。
『お待たせ。やっぱりここの地区でも、数日前から姿を見かけなくなった猫が1匹いるみたい。金目の黒猫らしいわ』
「黒猫が1匹行方不明、かぁ……」
忘れないように、持参した紙へとメモを残しておく。黒猫、特徴は金の目と。
『それから、私が相談を受けた精霊猫とは別に、ここによく来ていた野良の精霊猫がいるそうなの。何か知っているかもしれないし、その子の事も探して、一応話を聞いておきたいわね』
「ほんと精霊猫って、野良猫に混じって自由に過ごしてるんだね……ちなみにその子はどんな子なの?」
『それがね、今の私と全く同じ色味の三毛猫みたいなのよ』
なんと。偶然だろうけど、なんかちょっとだけ運命的じゃないか。
『見つけやすい特徴で有難いんだけど、問題は何処にいるかよね。どの辺りにいるのかしら……』
「じゃあ、その子を探しながら別の溜まり場に向かう? 出会えたらラッキーくらいな気持ちで」
『考えている時間も勿体ないものね。今日のところはそうしましょう』
私達は路地裏を一度抜けて大通りに出ると、また別の区間を歩き始める。副団長から言われている残り時間はまだあるけれど、今日はどこまで回れるだろうか。
そんな風に時間配分を考えながら、2つ目の路地裏へと足を踏み入れた時だった。
『ちょっと、アンタッ!? その人間、猫攫いじゃないの!? そんな綺麗な黄金の瞳なら目をつけられても可笑しくないし……離れた方がいいって!』
猫攫い……?
物騒な単語が降り注いできた私達は、ギョッとして思わず足をピタリと止めた。
声のする方を見上げれば、ふしゃーっと警戒心マックスに毛を逆立てた三毛猫姿の精霊猫が、塀の上から私を睨んでいる。
「ね、ねぇニア……あの子、ついさっき話してた子じゃない……?」
『そのようね。向こうから現れてくれるなんてツイてるわ』
ニアはニンマリと口角を上げると、タンッと塀の上に飛び乗った。
『誤解よ。あの制服、見た事ない? この子は精霊騎士団の人間で怪しい者じゃないわ。ねぇ、さっき路地裏で城下町の猫が突然減っているっていう噂を耳にしたんだけど、貴方は何か知ってる?』
『精霊騎士団……? 噂……?』
先程までの勢いはたちまち消え、ポカンとした様子でニアの言葉を反復する野良の精霊猫。
そんな中私は、瓜二つの容姿をした綺麗な猫が並んでると、まるで芸術作品のようで目の癒やしだなぁ……と呑気に心の中で思ったりしていた。
『だ、だったら聞いてよ! この前アタシ、人間に捕まったんだよ……! 夜、実体化して過ごしてたら、突然変な物を嗅がされて、黒猫の子と一緒に攫われた!』
「!!!」
つまり、言っている事が本当なら、猫失踪はれっきとした事件。
しかも、この子も被害に遭っていた?
その衝撃発言に、私は塀の上にいるニアと無言で目を合わせた。
『アタシは精霊だから、実体化を解いてすぐに逃げられた。こうしてピンピンしてるし平気だったけどさ……黒猫は見つけてあげられなくて……一緒に逃げ出せなかったんだ』
精霊猫の頭と尻尾は、悲しげに力なく項垂れ、暗い影を落としていた。
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