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第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】
ep.17 やるせない気持ちだ
(ニア、慣れてるなぁ……)
作戦通り、ニアは再び三毛猫に変身した状態で、城下町を闊歩していた。元々囮作戦にノリノリだった事もあってか、どこか楽しそうにも見える。
いい意味で目立つその容姿は、町の人は勿論、犯人の目にも無事とまったようだった。
日が落ちる頃を見計らって、充分に自分の存在をアピールした後に、スッと路地裏へと入り込む。まるで誘拐してくれと言わんばかりに、だ。
そんなニアを追うように、薄暗い路地裏には中肉中背の、これといった特徴のない中年の男が1人現れた。
(この人が猫攫いの犯人……? なんか、猫を攫うほどの執着心とか、痛めつける目的のある加虐性みたいなものも、全く感じないような……)
だからこそ、警戒心の強いはずの野良猫も捕まってしまったのだろうか。
(もしかして、頼まれた仕事をただこなしてるだけとか……? なら真犯人がいるって事? って、それより追いかけなきゃ!)
私はとんとん拍子に連れ去られたニアを、副団長に言われた通り、黙って追ったのだった。
──暫く歩き続け、手にした時計を見れば、20分程が経過していた。
城下町から離れ、家の灯りや人の気配がどんどんなくなって、鬱蒼とした森の中。
犯人は長年使われていないような、だいぶ古びた空き家に、攫ってきた猫を隠していたようだった。横には小さな荷馬車と馬が1頭おり、逃走用なのだろうと想像がつく。
(これだけ城下町から距離があると、猫の鳴き声だってきっと届かないだろうし、誰も気づかないよね……)
家というよりも倉庫に近いのか、犯人は鍵の代わりにしていたらしき、外からはめ込んであった木の板を外して中に入っていく。
そのおかげといっては何だけど、姿を消した私が犯人の目をかい潜って侵入するのは、割と容易なものだった。
「は~、疲れた疲れた。流石にこれだけ見目のいい奴はもういないだろうな。城下町の大方は漁ったし……この辺が潮時か」
犯人の声に混じって、ニャア……と小さく鳴く声がした。
私が目線を向けると、部屋の隅には小さな檻に入った猫達。皆、元気がないようには見えるが、生きていたのが唯一の救いだった。
(家の中に他の人の気配はないみたいだし、単独犯っぽい?)
他にも仲間がいて戻ってくるかも、という可能性も残しつつ、私は警戒を怠らないようにした。
眠ったフリをしているニアも、鍵付きの一際頑丈そうな檻の中に入れられてしまっている。とはいえ、ニア自身は精霊動物だから、檻も鍵も意味をなさないのだけども。
あぁ、犯人にばれないようにウィンク出来るかなゲームを勝手に開催しないで、ニア……!
「えーと、なんだったっけか……移動する時はこの預かった鎮静薬……とやらを飯に混ぜればいいんだよな?」
犯人は酒瓶を片手に、テーブルに置かれていた紙袋をガサガサと漁りだした。やはり、誰かからの指示を受けて犯行に及んでいるようである。
「これをやって猫が寝たら、すぐに出発だな。早く残りの報酬も貰いてぇし、夜が明けるまでにはこの国から離れといた方がいいだろ」
「……っ!」
危うく声が飛び出そうになった。
ふ、副団長……犯人、思ったよりも早く移動しちゃいそうなんですけど!?
しかも他国へ行くっぽいです……!
「……しっかし城下町を選んで正解だったな。首都なだけあって、衛生的にもいい状態の猫が多くて助かったぜ」
酒を飲んで饒舌になったのか、犯人は1人ほくそ笑みながら、ベラベラと語っている。そんな姿に私は苛立ちを覚えた。
城下町の野良猫たちが清潔な状態で元気に過ごしていたのは、猫好きなお兄さんや優しい城下町の人たちが、ずっと見守って来たからだ。
それなのに。
「……っ、貴方に連れ去られる為に、猫たちは生きてたんじゃありません……!」
応援が来るまで黙って待機と、副団長に言われていたけど。
しゅるる、と静かに、魔法のベールが解けていく。私は黙っていられなくなり、自分の姿を現してしまっていたのだった。
「はっ!? 何だよお前、突然……! 騎士団の人間か!? いつからここにいたんだよ!?」
「……精霊騎士団黒夜の者です。貴方が三毛猫を攫ったのを確認し、追跡していました。この家には他にも野良猫がいるようですが、貴方は何の目的で猫を攫っていたんですか?」
私が固い表情で問いただすと、犯人は何だそんな事かと、あからさまに安心した顔になった。
「何のって……別にあれだよ。猫が欲しいって奴がいて、頼まれて保護してたんだよ」
「保護……? さっき国から離れるとも言ってましたけど、他国で猫を欲しがっている人がいるって事ですか?」
「そうだよ。隣国に野良猫の貰い手がいてよかったじゃねぇか。騎士団のお嬢ちゃんに聞きてぇんだけどさ、野良猫を保護して他国へ運んだとして、何か罪になるのか? 俺は猫を傷つけたり、殺したりもしてないんだぜ?」
平然と、そして自信ありげに話し続ける犯人に、私は怒りと同時に悲しみを覚えた。
「馬鹿な俺だってな、知ってんだよ。野良猫をどうこうしたところで、罪に問う事なんか出来っこねぇって。それに、どうせたかが野良猫だろ?」
確かに、野良猫の所有権は誰にもあるわけがなくて。希少動物であれば密猟ともなるが、野良猫に関していえば、この国の法で裁く事は出来ない。
「……っ」
悔しくて、やるせない気持ちでいっぱいだ。
言いたい事は山程あるのに、何も言えなくなってしまった……その時。
私のすぐ後ろに、温かい人の気配を感じた。
「副団長……」
ここへはいつ、到着していたのだろうか。
私は強張っていた自分の身体が、ゆっくりと緩んでいく気がした。
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