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第3章 慟哭する亡霊洋館【case2:精霊獏】
ep.20 擦り傷だらけの幼馴染
「あれ? 擦り傷用の軟膏の減りが早いですね」
医務課で薬品棚の在庫整理をしていた私は、軟膏をストックしている引き出しを開けて首を傾げた。普段の倍くらい減っているような気がする。
「最近擦り傷を作って帰ってくる団員が多いのよ。メルちゃんも特別任務から戻ってきて、何人か手当したでしょ?」
直属の先輩であるレイラさんにそう問われると、確かに思い当たる節があった。
「はい。皆さん軽傷でしたからあんまり気にしてなかったですけど……訓練で擦り傷ばっかり作るなんて事、あるんですかね?」
「それが、どうやら訓練じゃないみたいなのよ。私も昨日聞いたばかりなんだけど……」
レイラさんの言葉をちょうど遮る形で、バーンと医務課の扉が勢いよく開いた。私はギョッとして扉を振り返る。
「メルいる~!? めっちゃぴりぴりする~! 手当お願い~!」
「カイン!?」
駆け込むように入室してきたのは、幼馴染兼、弟のカインだった。
「え、何その恰好……」
私はカインの姿を凝視しながら呟いた。
もふもふくるくるな髪の毛は、いつもの寝ぐせよりも酷いぼさぼさの状態で、突風にでも遭ったみたいだ。腕の部分の団服は所々小さく裂けており、そこには出来たばかりであろう擦り傷がいくつもあった。
「アシュレー君……? 隣の部屋で寝てる人がいる時もあるんだから、扉はそっと開けなさいって、何度言ったら分かるのかしらぁ……?」
「ふぉっ、ふぉめんふぁふあい……」
ここ、医務課で迷惑行為をすると、もれなくレイラさんからの、怒りの鉄槌を受けるのだ。
カインはもちもちの頬っぺたをレイラさんに抓られながら、半泣きで謝っていた。
カインの後ろにいる先輩団員の1人が「羨ましい……」と恍惚の表情で呟いていたけど、私は何も見ていない、聞いていない。
「というか……第2地区担当の皆さん、なんでそんなに揃いも揃ってボロボロなんですか?」
ぞろぞろと入室してきた一同を見ると、怪我をしているのはカインだけでなく、皆ボロボロの状態だった。怪我自体は軽傷みたいだけど、やけに疲れが滲んでいるというか、なんというか。
「厄介な役割がうちの地区にも回ってきちゃったっていうかね……」
「はぁ……厄介な……?」
私は団員に相づちを打ちながら、カインの手の甲の傷に、消毒液を染み込ませた綿を当てる。「にょわー!」と悶え苦しんでいるけど、オーバーリアクションはいつもの事なのでスルーしておく。
軟膏を塗布してガーゼをあてると、傷口が空気に触れなくなり、痛みが軽減したようで、半泣きだったカインはすっかり復活したようだった。
「メルはさ、亡霊洋館って知ってる?」
「何? そのお化けでも出てきそうな雰囲気のお屋敷……」
「現に出たんだってば! 城下町のはずれにあるおっきな古い洋館の事なんだけど、数年前から空き家になってるんだよ。で、老朽化も心配だからって話になって、騎士団が調査の関係で洋館の中に入ったら、これ!」
カインはぷんすこしながら、自分の擦り傷を指さした。
ごめん、洋館に入る事とその傷がどう繋がるのか、いまいちピンと来ないんだけども……?
「カイン、お前……説明が相当下手くそだな……?」
呆れた様子の先輩団員が、カインに代わって説明してくれるらしい。
「えーとな、メルちゃん。その洋館は家主が亡くなってから、他の人間が足を踏み入れると怪奇現象が起こるって、前々から噂があったんだ。だけど、どうやら亡霊じゃなくて精霊動物がいるみたいなんだよ」
「じゃあその怪奇現象は、亡霊じゃなくて、精霊動物の仕業だったって事ですか」
「うん。俺達には姿が見えなかったけど、自分達のパートナー精霊が教えてくれたから、確かだと思う。で、そいつが侵入する人間を手あたり次第に攻撃してたって訳よ」
つまり、亡霊=精霊動物で、洋館に入ろうとする人間を追い出すつもりで攻撃を繰り返している……って事?
「人間の言う事を聞いてくれないなら、パートナー精霊達が、攻撃しないように説得したりとかは……?」
「俺らのパートナー精霊が説得してもダメだったみたいだ。そいつに訳を聞こうにも、出ていけの一点張りらしくてな」
団員の皆さんは、ふるふると力なく首を横に振った。
「それに精霊動物としての矜恃があるから、1対多勢の形じゃ、中々パートナー達も俺らに力を貸してくれなくてな。まぁ、俺らが騎士団だって事は分かってくれたみたいだから、向こうも手加減はしてくれてんだろう。だから毎回これくらいの傷で済んでるのかもしれないな」
「でもさ、このまま原因が分からない事には、俺達が持ち回りで何度も説得しに駆り出されるんだよ~?」
傷だらけになるのが分かってて、また行くのやだ……と、カインは足元にいる自分のパートナー精霊のワンコと同じような表情で、しょんぼりとしている。
犬を飼う時、飼い主の方が自分に似た犬を選ぶっていうけど、カインはどっちだったのかな……なんてちょっと関係ない事を思いながら、そのふわふわくるくるの頭を眺めていると、突然ガバッと顔を上げた。
「そうだっ、いいこと思いついた……!」
閃いたと言わんばかりにキラキラとした表情で、私を見るカイン。あ、その笑顔はなんだか嫌な予感がする。
「メル、一緒に来てよ!」
「はっ!?」
……絶対お断りだ!!!
私は持っていた消毒液が染み染みの綿を、カインのもう1つの腕の傷へと、強めに押し付けたのだった。
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