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第3章 慟哭する亡霊洋館【case2:精霊獏】
ep.21 怪奇現象はお断りです
よく晴れた空の下、私の目の前には重厚な洋館が、ででんと効果音が付きそうなくらいに立ちはだかっていた。
「……なんで結局来ることになっちゃったんだろう……」
隣をジロリと見れば、晴れ晴れとした表情のカインと、全く同じ顔をしたワンコが行儀よく並んでいた。
くっ……晴れ男と晴れワンコめ……
「今日は私とカインしかいないんだから、何かあったらお願いね? クッキー……」
『まっかせて!』
カインの精霊パートナーであるゴールデンレトリバーのクッキーは、しっぽをブンブンと振りながら、ぐるぐると私の周りを走り回った。
そんな自分の精霊動物の様子を見てか、カインはぶぅ、と口を尖らせて不満げな顔である。
「も~、メルったら、僕の仮説を信用してないでしょ? 動物に懐かれやすいメルなら、絶対いけるって言ってるのに~」
「まだ言うか……」
カイン曰く、精霊動物が見えて、尚且つ動物に好かれやすい私なら、怪奇現象の対象にならないんじゃないか……という単純な発想らしい。
「根拠もないのに……もう、今度ラヴィ菓子店のイチゴタルト奢ってよね」
「いいよ~、次の休みを合わせて行こ! 僕もあそこのバタークッキー好きなんだよね」
カインが精霊動物にクッキーと名付けた理由は……言うまでもない。
よし、今回の報酬の約束をばっちり取ったので、ちょっとだけ気分は上がったかな。
私は気合いを入れなおして、門をくぐり抜けるカインの後をついていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇
私の身長を余裕で追い越す高さの門を抜ければ、そこには様々な草木が無造作に生い茂る、庭だったであろう場所が私達を出迎えた。
「これだけの種類の草木があるのはすごいなぁ……」
伸び散らかした草木の下で辛うじて残っている、玄関へと続く石レンガの道を歩く。
歩きながらパッと目に付くものを見てみると、どれも図鑑でしか見た事がないような、珍しい植物ばかりだった。きっと家主が拘っていたんだろう。
一足先に玄関前に着いていたカインは、預かっていた鍵を回し入れ、玄関の扉を既に半分ほど開けていた。
「ちょっ……! こら! 人様の家にお邪魔するんだから、ノックと挨拶をしなきゃでしょ」
私は慌ててカインの扉を持つ手を掴んで制止した。
「あ、そうだった。誰もいないって聞いてるから、つい」
「……もしかして騎士団が調査に来た時も、そうやって入っていったの?」
「他の地区担当は分かんないけど、多分そうじゃない? この前うちの地区が入った時はそうだったよ」
きょとんと返事するカインに、私は思わず額に手をあてて、ため息をついた。
「そんな入り方したら、いくら騎士団だといえ、ただの不法侵入じゃん」
精霊動物が何らかの理由で、この洋館に住み着いているのだとしたら、尚更だ。精霊動物に騎士団ですと言っても、そりゃ不信感を覚えて攻撃してくるだろうな。
「自分に置き換えて考えてみなよ。カインが留守にしてて、クッキーが守ってくれている家に、知らない人が何も言わずにズカズカ上がり込んできたら、どうする?」
「出かける前に、死なない程度に捕まえといてってクッキーに言っとく!」
『噛みついて、土に埋めとくっ』
私はこのどこまでもそっくりな2人組に、胡乱げな目線を送った。ハキハキと元気よく、物騒な答えを返してくるでない。
「……そういう事。精霊動物が怒って攻撃してくる気持ちが少しは分かった?」
「「分かった!」」
飲み込みの早い素直な2人は、こっくりと頷いた。
「扉は開けちゃったから、もう遅いかもしれないけど……一応やろう」
私は扉についていたドアノッカーに手を伸ばして、コンコンと数回鳴らしてみる。
ドアノッカーの金具の細工部分にふと目を向けると、よくあるライオンや馬ではなく、謎の動物と四角をモチーフにした不思議なものだった。
「……ん? なんだっけ? この動物の名前……」
小首を傾げて悩んでいる私の横で、カインが大きな声で「精霊騎士団黒夜所属のカイン・アシュレーです! お邪魔しま~す!」と呑気に挨拶し始めたので、思いっきり気がそがれた。
まぁ……後で考えればいっか。
精霊動物が聞いてくれているかは分からないけれど、私も挨拶をしてから洋館の中へ足を踏み入れたのだった。
「怪奇現象があったのに、洋館の中は物とかが散乱してないんだね?」
もっと荒れているイメージをしていた私は、玄関ホールを見渡してその綺麗な室内の様子に驚いた。
「精霊魔法が関係してるのかな? 僕達が撤退する時は確かにガラスも割れてたし、物もごちゃごちゃで大惨事だったはずだけど、毎回元通りになってるらしいよ」
「へぇ……」
その時、静まり返ったホールの中心部に、ブオンと小さな竜巻が起こった。周りを見渡すけれど、精霊動物の姿は見つけられない。
「こ、これが噂の怪奇現象ってやつ……?」
確かに精霊動物の仕業だと分からなければ、亡霊洋館という名に相応しいレベルの怪奇現象である。
唖然としていると、階段横に飾られていたアンティーク調の一輪挿しの花瓶が、竜巻に巻き込まれてあれよあれよという間に、空中へと浮かぶ。
それはぐるぐると渦を巻いて高く上がったかと思うと、突然飛び出し、こちらに目掛けて飛んできた。
「わ! あっぶな!」
どういうコントロールなのか分からないが、それは私ではなく、カインに一直線だった。
すんでのところで避けたカインだけど、近くで割れた花瓶の破片で、また手の甲を怪我してしまったみたいだ。
「ちょ、カインっ! 大丈夫……!?」
「ほらね~!? やっぱりメルは無事だったでしょっ!」
自分の仮説が当たって嬉しいのか、新たに傷を作ったというのに、カインは満足げに飛び跳ねて喜んでいる。
「いやいやいや、そんな事よりなんだけど!?」
ノー天気なカインに苛立っているのか、背後で再び竜巻が起きそうな、不穏な音が聞こえた。
……カオスすぎる!
「……おっ邪魔しましたぁっ!!!」
私はそう叫ぶと、カインの首根っこを掴んで扉へ一直線に走り、外へと脱出したのだった。
バタンッと、後ろ背に玄関の扉を閉めて、深いため息をついた。
結局、怪奇現象を目撃しただけで、何にも聞けなかったじゃん……
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