懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結

文字の大きさ
21 / 41
第3章 慟哭する亡霊洋館【case2:精霊獏】

ep.21 怪奇現象はお断りです

 

 よく晴れた空の下、私の目の前には重厚な洋館が、ででんと効果音が付きそうなくらいに立ちはだかっていた。
 
「……なんで結局来ることになっちゃったんだろう……」

 隣をジロリと見れば、晴れ晴れとした表情のカインと、全く同じ顔をしたワンコが行儀よく並んでいた。
 くっ……晴れ男と晴れワンコめ……

「今日は私とカインしかいないんだから、何かあったらお願いね? クッキー……」

『まっかせて!』

 カインの精霊パートナーであるゴールデンレトリバーのクッキーは、しっぽをブンブンと振りながら、ぐるぐると私の周りを走り回った。

 そんな自分の精霊動物の様子を見てか、カインはぶぅ、と口を尖らせて不満げな顔である。

「も~、メルったら、僕の仮説を信用してないでしょ? 動物に懐かれやすいメルなら、絶対いけるって言ってるのに~」

「まだ言うか……」

 カイン曰く、精霊動物が見えて、尚且つ動物に好かれやすい私なら、怪奇現象の対象にならないんじゃないか……という単純な発想らしい。

「根拠もないのに……もう、今度ラヴィ菓子店のイチゴタルト奢ってよね」

「いいよ~、次の休みを合わせて行こ! 僕もあそこのバタークッキー好きなんだよね」

 カインが精霊動物にクッキーと名付けた理由は……言うまでもない。

 よし、今回の報酬の約束をばっちり取ったので、ちょっとだけ気分は上がったかな。

 私は気合いを入れなおして、門をくぐり抜けるカインの後をついていったのだった。

 ◇◇◇◇◇◇◇

 私の身長を余裕で追い越す高さの門を抜ければ、そこには様々な草木が無造作に生い茂る、庭だったであろう場所が私達を出迎えた。

「これだけの種類の草木があるのはすごいなぁ……」

 伸び散らかした草木の下で辛うじて残っている、玄関へと続く石レンガの道を歩く。
 歩きながらパッと目に付くものを見てみると、どれも図鑑でしか見た事がないような、珍しい植物ばかりだった。きっと家主が拘っていたんだろう。

 一足先に玄関前に着いていたカインは、預かっていた鍵を回し入れ、玄関の扉を既に半分ほど開けていた。

「ちょっ……! こら! 人様の家にお邪魔するんだから、ノックと挨拶をしなきゃでしょ」

 私は慌ててカインの扉を持つ手を掴んで制止した。

「あ、そうだった。誰もいないって聞いてるから、つい」

「……もしかして騎士団が調査に来た時も、そうやって入っていったの?」

「他の地区担当は分かんないけど、多分そうじゃない? この前うちの地区が入った時はそうだったよ」

 きょとんと返事するカインに、私は思わず額に手をあてて、ため息をついた。

「そんな入り方したら、いくら騎士団だといえ、ただの不法侵入じゃん」

 精霊動物が何らかの理由で、この洋館に住み着いているのだとしたら、尚更だ。精霊動物に騎士団ですと言っても、そりゃ不信感を覚えて攻撃してくるだろうな。

「自分に置き換えて考えてみなよ。カインが留守にしてて、クッキーが守ってくれている家に、知らない人が何も言わずにズカズカ上がり込んできたら、どうする?」

「出かける前に、死なない程度に捕まえといてってクッキーに言っとく!」

『噛みついて、土に埋めとくっ』

 私はこのどこまでもそっくりな2人組に、胡乱げな目線を送った。ハキハキと元気よく、物騒な答えを返してくるでない。

「……そういう事。精霊動物が怒って攻撃してくる気持ちが少しは分かった?」

「「分かった!」」

 飲み込みの早い素直な2人は、こっくりと頷いた。

「扉は開けちゃったから、もう遅いかもしれないけど……一応やろう」

 私は扉についていたドアノッカーに手を伸ばして、コンコンと数回鳴らしてみる。
 ドアノッカーの金具の細工部分にふと目を向けると、よくあるライオンや馬ではなく、謎の動物と四角をモチーフにした不思議なものだった。

「……ん? なんだっけ? この動物の名前……」

 小首を傾げて悩んでいる私の横で、カインが大きな声で「精霊騎士団黒夜所属のカイン・アシュレーです! お邪魔しま~す!」と呑気に挨拶し始めたので、思いっきり気がそがれた。
 まぁ……後で考えればいっか。

 精霊動物が聞いてくれているかは分からないけれど、私も挨拶をしてから洋館の中へ足を踏み入れたのだった。

「怪奇現象があったのに、洋館の中は物とかが散乱してないんだね?」

 もっと荒れているイメージをしていた私は、玄関ホールを見渡してその綺麗な室内の様子に驚いた。

「精霊魔法が関係してるのかな? 僕達が撤退する時は確かにガラスも割れてたし、物もごちゃごちゃで大惨事だったはずだけど、毎回元通りになってるらしいよ」

「へぇ……」

 その時、静まり返ったホールの中心部に、ブオンと小さな竜巻が起こった。周りを見渡すけれど、精霊動物の姿は見つけられない。

「こ、これが噂の怪奇現象ってやつ……?」

 確かに精霊動物の仕業だと分からなければ、亡霊洋館という名に相応しいレベルの怪奇現象である。

 唖然としていると、階段横に飾られていたアンティーク調の一輪挿しの花瓶が、竜巻に巻き込まれてあれよあれよという間に、空中へと浮かぶ。
 それはぐるぐると渦を巻いて高く上がったかと思うと、突然飛び出し、こちらに目掛けて飛んできた。
 
「わ! あっぶな!」

 どういうコントロールなのか分からないが、それは私ではなく、カインに一直線だった。

 すんでのところで避けたカインだけど、近くで割れた花瓶の破片で、また手の甲を怪我してしまったみたいだ。

「ちょ、カインっ! 大丈夫……!?」

「ほらね~!? やっぱりメルは無事だったでしょっ!」

 自分の仮説が当たって嬉しいのか、新たに傷を作ったというのに、カインは満足げに飛び跳ねて喜んでいる。

「いやいやいや、そんな事よりなんだけど!?」

 ノー天気なカインに苛立っているのか、背後で再び竜巻が起きそうな、不穏な音が聞こえた。
 ……カオスすぎる!

「……おっ邪魔しましたぁっ!!!」

 私はそう叫ぶと、カインの首根っこを掴んで扉へ一直線に走り、外へと脱出したのだった。

 バタンッと、後ろ背に玄関の扉を閉めて、深いため息をついた。

 結局、怪奇現象を目撃しただけで、何にも聞けなかったじゃん……
 
 

あなたにおすすめの小説

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

夢幻の翼
ファンタジー
長き期間を冒険者として過ごした俺――グラードは四十五歳を迎えるにあたって冒険者を引退、かつてから興味のあった料理人へと転職を決意した。調理は独学だが味に自信のあった俺は店舗経営の知識修得の為に王都の人気料理店で修行を始めるも横柄なオーナーのせいで店はおろか王都からも追放されてしまった。しかし、魔物の素材に可能性を見いだしていた俺は魔物が多く住むと言われる北の魔樹海側の町を拠点とし、食堂経営に乗り出すことに。 旅の途中で出会った変わり者の魔白猫や呪いのために一族から追放されたエルフの少女と共に魔物素材を使った料理で人々を幸せに癒す。冒険者を引退した料理好きのおっさんが繰り広げるほのぼのスローライフ開幕です。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。