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第4章 焔天の鷹はなぜ微睡む【case3:精霊鷹】
ep.30 気づけば出張アドバイザー
「の、呪われた木……ですか?」
「俺のパートナー精霊は鷹なんだが、ここ最近朝遅く、酷い時は昼過ぎまで、その木の上でずっと寝ているんだ。心配になって何度も確認するのだが、やっぱり寝ているだけでな。だけど、用事があって起こしに行くと、なんだか元気がないようにも見えるし、心配で……」
「はぁ……」
「こういう事があってからその木の事をよく観察してみると、何だか見た目も不気味に見えてきてな……」
呪われた木の上で、取り憑かれたかのように眠り続ける鷹。
なんで最近、ホラーな事案に巻き込まれる事がこんなに多いんだろうか。
精霊獏の怪奇現象もとい精霊魔法を思い出して、私は遠い目をしてしまった。
でも、そんな不吉な事を聞いて、そうですかじゃあご自分で解決してくださいと言ってこの場を去れるほど、私は無情な人間ではない。
ここまで担がれてきたのなら、いっそ乗り掛かった船なのかなぁ……
「精霊適性のない私が解決できるとは思えませんが、その呪われた木というのを一度見てみるだけでもいいのでしたら……」
「ほっ、本当かっ!? 是非お願いしたいっ! ありがとう、ありがとう……!」
歓喜の声とともにブンブンと両手を握られて、私は思わず苦笑いしてしまった。でもさ、精霊動物の元気がないと聞いて、知らんぷりなんかもできないもんね。
「あ。精霊動物の事なら、ニアにも来てもらえたらよかったのかも……」
ニアは練習場内で見かけなかったけど、普段通り自由気ままにどこかで休んでいたりするのだろうか。
気が焦ってまた私を担いで行こうとするジャン団長を止めて、中庭へと案内してもらった。
「この木だ。近づいても人間に悪影響がある訳ではない事は自分の身で証明済みだから、安心してくれ」
そう話すジャン団長と同じように見上げれば、そこには1本の巨大な木があった。
「あぁ……なんだ。呪われたって、そういう事……」
原因がすぐに分かった私は、ホッと安堵の息をはいた。
「もう呪いの正体が分かったのかっ……!?」
「一応、はい。正確に言うと、この木は呪われている訳ではないのですけど」
「なにっ!?」
「葉が生い茂っているので少し分かりにくいと思うんですが、でこぼこした箇所が幾つも出来ているのが分かりますか? この大木には、ヤドリギという名前の植物が半寄生しているんです」
大木には、球形のヤドリギがいくつも寄生していたのだ。
草木に詳しくない人が、本来の木とは違う種類の葉のかたまりがボコボコと幾つも出来たのを見たら、木が呪われたと勘違いしてしまうのかもしれない。
でも、本来ヤドリギは神聖なものなんだよね?
前世でもヤドリギは冬の行事の時に使っていたような……うーん、やっぱり動物以外の事はさっぱり思い出せないや。
「ヤドリギ……という種類の植物なのか……」
にしても、植物の知識がまさかここでも活きてくるとは。私は依然はてなマークを浮かべているジャン団長に、ひとまずざっくりと説明する事にした。
「この植物は、他の樹木を間借りして自分を育てているんです。私だけが特別詳しいという訳ではなくて、植物図鑑等にも掲載されていると思うので、焔天の医務課の方ですとか、薬草関連に詳しい方でしたらすぐに分かると思います」
「な、なんだ……そうだったのか……俺は自分のパートナーが不気味な木の上に入り浸るようになってしまったから、てっきり呪われていると思い込んでしまって……」
呪われていないと分かっただけでもかなり安心したようで、ジャン団長は強張っていた表情を崩した。
もしも本当に呪われているのだとしたら、他の団員達を巻き込むわけにはいかないと、ここ数日は害がないのか様子を見ていたそうだ。
まぁ、ジャン団長のパートナー精霊も眠るだけで、実害があったのかと言われると難しいし、この木のせいでという確証はなかったからね。
焔天の団長様は、良くも悪くも純粋で、思い込みが激しいようである。
「なので、ジャン団長のパートナー精霊が眠り続けている理由は分からないのですが、木に関しては心配いらないと断言できますので、このままで……っ!?」
バサバサと音を立てて、私の目の前に茶色の鷹が1羽舞い降りてきた。
「……娘。此奴への丁寧な説明、誠に感謝する」
眠っていた鷹はいつの間にか起き出していたようで、実体化して突如登場したのである。
め、めっちゃびっくりした……!
「あ、いえ、お役に立てたようで何よりです……?」
「ラトルガ……わざわざ実体化してまでアシュレー君と話したかったのか? 警戒心が強いやつだと思っていたんだがな……」
ジャン団長は実体化して初対面の私に話しかけているパートナー精霊の様子に、ひどく驚いていた。
「だ~ん~ちょ~~~!!!」
地獄の底から這い上がってくるかのような低い声が聞こえて振り返ると、ディニエさんが物凄い顔つきでこちらへ駆けつけてきていた。
「なーんで貴方はまた勝手に突っ走っちゃうんですかっ! メルちゃんをだいぶ無理やり連れて行ったから、黒夜の機嫌が最悪なんですけどっ!」
「いや、黒夜のラズ殿には許可を取ったぞ?」
「それであっちの副団長が簡単に納得してくれてたら苦労しないんですよっ! 俺たちも後からすぐ追いかけますから、貴方は速攻で戻ってください!」
「何でだ? 慌てずとも休憩時間はまだあるだろう?」
ディニエさんは、キョトンとするジャン団長へとにかく早急に練習場へ戻るよう伝え、無理くり送り出そうと四苦八苦していた。
ていうか、うちの副団長が納得してないって何の話だろ?
私が小首を傾げていると、それを真似るかのように、私を見上げていた精霊鷹も小首を傾げた。猛禽類の鷹だけど、その動きはちょっと可愛い。
片方の羽を広げて、チョイチョイと私を招くような仕草をするので、私がしゃがみ込んで近寄ると、精霊鷹は小声で話し始めた。
「……実は私がこの木で朝昼と眠る理由は事情があって、パートナーであるジャンにまだ話せないのだ」
「えぇと、では、お昼過ぎまで眠ってらっしゃるというのは、精霊体に異常がある訳ではないのでしょうか?」
私も小声で会話をする。その点だけは精霊鷹を心配しているジャン団長の為にも確認してあげないと。
「あぁ。ただ単に寝不足なだけだ」
うん……? 精霊鷹が寝不足……? そもそも精霊って寝るんだっけ?
私がすごく怪訝そうな顔をしていたのだろう。「精霊の力の使い過ぎで、身体を休めているのだ。その状態は、人間でいうと寝不足の症状に値するからな」と話してくれた。
「あ、なるほど。でも精霊力を使い過ぎるような出来事がここ数日続いているって……?」
「それは……」
精霊鷹は少し言い淀んだけれど、娘ならば構わないかと話し続けた。
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