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第4章 焔天の鷹はなぜ微睡む【case3:精霊鷹】
ep.32 見た目に騙される事なかれ
精霊鷹のラトルガ(名前で呼んでくれと言われた)は、もう少し休むと話し、精霊の姿に戻ってヤドリギの元へ羽ばたいていった。
「じゃあ俺達もそろそろ練習場に戻ろっか」
「はい」
「その、色々と巻き込んじゃってごめんね。この件は内密に……って言いたいところなんだけど、うちの団長を当てにできない分、その内そっちの団長に助けを求める事になるかもしれないんだ」
「えーと、今日聞いたお話は記憶の奥底にしまっておくつもりなので、安心してください」
私が出来る事といえば、相談されたらさっきみたいな思いつきを話すのと、あとは事件解決を願うくらいしかないしね……
「でも、力でねじ伏せるようなパワータイプのうちの団長で、大丈夫ですかね?」
「ぶほっ」
私としては真剣に言ったつもりなのに、ディニエさんに思いっきり吹き出された。
「あの人は相当な切れ物だと思うけどねぇ。ラズ団長の事をそんな風に言えるのはメルちゃんくらいだよ」
「そうですか? 副団長やカインも私と同じ感じで話してますけどね……?」
はて、と首を傾げた。うちの団長、外面はいいタイプなのか……?
そんな会話をしながら、私はディニエさんの案内で、練習場へと戻っていったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あちゃー、やっぱりもうトーナメント戦が始まっちゃってたね」
練習場へ戻る道中から既に、歓声やらヤジやらが沢山聞こえてきていたので、私はですね、と苦笑いした。
「皆さん随分と盛り上がってますねぇ……」
「腕試しみたいなもんだからね~。練習試合といえど、やっぱり上位にいきたいんじゃない?」
ディニエさんと練習場の入り口で眺めていると、団員とは異なる団服を着た人が、こちらに向かって来るのが見えた。あれは団長、副団長クラスの団服だ。つまり……
「ちょ…ディニエさん、あの人が噂のコンラート副団長ですよね……? こっちに向かって歩いてきてません……?」
「うっわ、ホントだ……! なんで!? 元々俺、あの人の事、苦手なんだよ……!」
ひそひそ声でそんな事を言われても困る。
自分のところの副団長なんだから、自分で対処してほしいんですけど!?
「何でか分かんないけど、今回の一件がある前からチクチク言葉を言われるしさぁ……俺、ちょっと時間を空けて焔天の方に戻るから、メルちゃんお願い! どうにか頑張ってあの人との会話を切り抜けて!」
「いやいやいや……!」
喋ったこともないけど、さっきの黒い話を聞いた身としては、絶対に関わりたくないですって……!
そう思ったのに、ディニエさんはあっという間にUターンして、姿をくらました。
逃げ足、はっや……!
「お疲れ様。……君が噂のメル・アシュレー君かな?」
「お、お疲れ様です。あ……えぇと……そう、ですね?」
いや、噂とはなんぞや……? 私が困ったように返事をすると、コンラート副団長は眉を下げて申し訳なさそうにした。
「あぁ、ごめんね。数少ない女性団員の中でも、珍しい子が黒夜に入ったと聞いたものだから、焔天の副団長として挨拶しておこうかなと思って」
「こ、光栄です……」
差し当たりのない挨拶をしてさっさと退散しようと思っていたのに、会話が始まってしまった……!
でもこんな近くで話せる事もそうそうないしな、と思い直し、それとなくコンラート副団長を観察させてもらう。背は高いけれど、団長達のようなガッチリとした体型というよりは、全体的にスラリとしている。どちらかというとシルヴァ副団長寄りかな?
人当たりは良さそうな顔だし、貴族の人って感じの余裕というか物腰で、女性でも警戒心はすぐに解けちゃいそうである。
「黒夜の非戦闘員と聞いたけど、君は適性持ちではないんだね?」
「はい。その為、医務課所属となっております」
「そうか。不便な事もあるだろうけど、人には適材適所というものがあるからね。頑張って」
「ありがとうございます」
「話を聞くに、さっきはうちの団長が無理を言って君を連れ出したみたいじゃないか。私の方からもお詫びをしないと思って……すまないね。団長にはよく言っておくから」
「え!? あ、全然……! お、お気持ちだけでも十分ですので……」
こうやって話している感じでは、普通にいい人っぽいんだけど、本当はかなりヤバい人なんだよね……?
だとすると、この優しそうな笑みも全て偽物なワケで。思わず引くついた笑みを浮かべてしまう。
「ところで、1年目の君はまだ団の事は詳しくないだろう? 今後団の中で働いていくうえで、知っておいた方がいい貴族の内情もあるんだよ」
「貴族の内情、ですか?」
「そう。上手く世間を渡っていくコツ、といったらいいかな。私は騎士団内の噂や内情を知っておくのも必要な事と思ってるんだ。そうだね……例えば──君の所属している黒夜のシルヴァ副団長が【ステラ家の死神】と呼ばれる理由とかも有名だけど、君は知ってるかい?」
ピクリと自分の身体が小さく揺れたのが分かった。
「……いえ、あの……」
なんで私は、この不愉快な言葉をまた聞く事になってるんだろう?
ていうか、焔天の貴族の人たちは、副団長の何を知ってるっていうの?
あぁ、そうか。副団長の事をよく知らない人にうちの副団長を勝手に噂されて、私は少なからず苛立っているのだ。
別に知りたくないです。そうハッキリ答えてしまおうかと思った時。
「メル~! 緊急で呼ばれてるよ!」
「……カイン?」
こちらに向かって叫びながら、慌てて走ってこようとするカインの姿が見えた。
「申し訳ございません、呼ばれているようなので失礼いたします」
私はコンラート副団長の視線から逃れるように、ペコリと頭を下げて、カインの元へ小走りで駆け寄った。
「ありがとカイン。おかげで会話から抜け出せた」
私がホッと息を吐いて小声でお礼を言うと、カイルは練習場を去っていくコンラート副団長の後ろ姿を見つめながら、顔をしかめていた。カインのパートナー精霊であるゴールデンレトリバーのクッキーも威嚇している。
「どうしたの?」
「……なんかあの人、ニオイが鼻に付く」
『やな感じのニオイー』
「いや、鼻のきく特性があるクッキーはともかく、なんでカインがそんな事分かるのよ……」
私もつられて後ろを見れば、コンラート副団長の右肩に、小さなフェレットのような動物が乗っているのが一瞬だけ見えた。
さっき会話してた時はいなかった筈なのに……?
でもフェレットとは少し見た目が違うような? 確か、イタチ科の動物だっけ……?
すぐに私の脳内動物図鑑がヒットした。
あれはオコジョだ。小さくて可愛い見た目とは裏腹に、気性が荒く、自分よりも大きな動物を狩るオコジョ。夏と冬で、毛の色を違う色に変化させる事で有名だ。
その特性を思い出して、もしかしたらこの精霊動物は、何らかの形で事件に関わっているのかもしれないという考えが頭をよぎり、思わずヒヤリと身震いする。
それに……また【ステラ家の死神】か……
この嫌な言葉を聞くのは2回目だ。
悪気なく微笑みながら問いかけてきたコンラート副団長を思い出して、再び嫌な気持ちになった。
どうしても知りたくなったら、自分から本人に聞くし……!
ふー、と行き場のないイライラを無理やり追い出して、私はカインに問いかけた。
「で? そういえば誰が緊急で呼んでるの?」
トーナメント戦が始まった事で、多忙になった医務班からのSOSかな?
「呼んでるっていうか、何かメルが困ってそうだから連れ出してこいって、シルヴァ副団長が」
「ぅぇっ!?」
意外な人物からの助けだったと知り、私は変な声が出た。
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