懐かれ気質の精霊どうぶつアドバイザー

希結

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第5章 死神は十字架を背負うべきか【case4:精霊栗鼠】

ep.37 壊れた機械式鳩時計の中

 
「……アシュレー。初めてこの家に来た貴方に、全てを任せるのはどうかと思うのですが……」

「……」

 副団長からの一声で、私は勇ましく走っていた足をピタリと止める。

 勝手に副団長の手を思いっきり引っ張っていた事にも、今頃になって気が付いた。私はまるで爆発物取り扱いのように、そろ~りと手を離す。

 やばい。ついてこいと言わんばかりに大口を叩いたのに、どこに向かえばいいんだ……? と内心思っていたのを、見透かされたような気分である。

 副団長は私をジッと見下ろして、一体何を考えていたのやら。小さく溜め息をつくと、視線を廊下の先へ向けた。

「基本的に許可がないと入れないような部屋には鍵がかかっているので、ドアノブを回して開く部屋は、私と一緒なら別に入っても構いません」

「あ、はい。分かりました」

 なるほど。この家の息子さんからの許可を得たのなら、問題ないだろう。私は遠慮なく歩き進め、なんとなく気になった突き当りの奥の部屋の扉に手を伸ばした。

「じゃあ……えぇと、この部屋とか……?」

「……っ」

 私のすぐ後ろに待機している副団長が、小さく息を吞むのが聞こえた私は、え、と慌てて振り返った。

「す、すみません。この部屋、やめた方がいい部屋だったりしますか……?」

「……いえ、大丈夫です。恐らくこの部屋には鍵がかかっていると思うので」

 開かないと思いますが、とちょうど副団長が続けて言ったタイミングで、私は無意識にドアノブを回していた。開かないと言われていたその扉は、なぜかかちゃりと小さな音を立てて開く。

「なんで、この部屋が……?」

 驚愕の表情を浮かべて呟く副団長を不思議に感じながら、私は開いた扉の先へと目を向けた。そこにいたのは――……

「ニア!?」

『え!? メル、来てたの!? っ、シルヴァ……!』

 半透明の精霊動物状態だったニアは、部屋に入って来た私に目を向けると驚いた声を上げた。

 そして私の後ろにいる副団長の姿に気がつくと、ハッとした顔をし、ピンと張っていた尻尾と耳をへにゃりと下げた。

「ニア、ここにいたんですか……どうりで見つからないわけだ」

『……勝手な行動をしてごめんなさい。シルヴァは……この部屋に入るのは辛いと思ったから、ずっと言い出せなくて……』

 そう言って俯いたニアの視線と合わせるように、副団長は片膝を立ててしゃがみ込んだ。

「謝らなくていいですよ。……だから姿を消している間の事を話してくれなかったんですね」

 副団長はこの部屋にニアがいた事になぜか納得した様子だけど、私は色々と疑問でいっぱいだ。

「ね、ねぇ、ニア。ニアはこの部屋で何をしていたの? そもそもこの部屋って……?」

 そう言いながら部屋を軽く見渡すと、アンティーク調のベッドや机などの家具が品良く揃えられていた。恐らくここがステラ家の誰かの一室だということは、何となく分かったけれど……

『……私は探し物っていうか、探し動物っていうか……』

 さ、探し動物ってなんだ……?

 ニアのどこか煮え切らない返事に小首を傾げていると、副団長が私へ静かに告げた。

「ここは、亡くなった兄の部屋なんです」

 感情の読めない、だけどはっきりとした声で告げられた言葉に、私はヒュッと息を呑んだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「大切なお部屋に入ってしまってすみませんでした……!」

 私は副団長に向けて、90度の直角謝罪お辞儀をした。

「いえ、アシュレーが謝る必要はありません。今日に限って何故かこの部屋の鍵はかかっていなかった。そしてそれは、結果的にニアが見つかる事につながりましたし」

 副団長は、恐る恐る姿勢を戻した私を確認した後、ニアへと視線を向けた。

「今年こそは、貴方が私に隠れてまで探していたものを教えてくれませんか、ニア」

『シルヴァ……』

 ニアが俯いていた顔を上げたちょうどその時、部屋の中にポーンポーンと時計の音が鳴り響いた。

 私達の視線が、部屋の中央の壁に掛けられている時計に一斉に向かう。

「あれって、鳩時計……?」

『そう、機械式のね』

 私の呟きに、ニアが頷いて答えてくれた。

『あの時計、壊れてるみたいなの。機械式の鳩時計だからおもりを巻き上げて動かすんだけど、シルヴァのお兄さんが亡くなってから少しして、どうやっても時計の針が動かなくなっちゃって……』

 時計の持ち主がいなくなってしまったから、時計も動く事をやめてしまったのかな……?

「でも、音だけは鳴るんだね……」

「えぇ、今みたいに突然ね。それにこの部屋の住人が気に入っていた物だし、アンティークの品っていうのもあってか、これ以上無理に修理はしないで、そのまま残してあるみたいなの」

「ちょっと中を見てみてもいいでしょうか?」

 副団長の許可をもらってから、私は部屋にあった椅子を鳩時計の前に持ってきてその上に立ち、鳩時計の鳩が飛び出してくる家の部分の扉をパカリと開けた。

「ひっ!? ……って、どんぐり?」

 私の目に映ったその光景に、思わず小さく悲鳴を上げる。だって扉を開けたら、鳩じゃなくて何故かその中にどんぐりがぎっちりと詰まっていたからだ。

 虫の死骸とかじゃなくてよかったけど、どんぐりだってかなりのホラーだよ……!

 にしても……なんでこんな所に大量のどんぐりが?

「なんか、まるでリスの巣みたい……」

 私の何気なく発した言葉に、ニアが『なんで』と小さく呟く声が聞こえた。

 そんなにおかしな事を言っただろうか。

 確かリスの習性の1つに、どんぐりやクルミといったような木の実を、こうやって自分だけの隠し場所に溜め込むっていうのがあったよね……?

 私はツルリとしたどんぐりを1粒摘まみだしてみようと、どんぐりの隙間に指を入れてみた。すると「もにょり」という予想外の感触に当たったのだ。

「ひょっわぁ!」

 驚いたその拍子に乗っていた椅子が傾き、私は片足をずるりと踏み外してしまった。ニアの驚いた声が室内に響き渡る。

『ちょっとメル、大丈夫っ!?』

「…………あれ?」

 咄嗟に閉じていた目を開くと、至近距離で副団長と目が合った。よく見たら、私の足は床からほんの数センチだけ浮いている。しかも、私が咄嗟に掴んでいたのは副団長の腕だった。

「大丈夫ですか?」

「あっ、すみません! ありがとうございます……!」

「いえ。高さはさほどなくとも、足首は捻ると痛みも強くて厄介ですから」

 そう言うと、副団長はそのまま私の両脇に手を入れたかと思うと、ひょいと軽く持ち上げ、床にゆっくり降ろしてくれた。

「時計の中に、どんぐりに付着した虫でもいましたか?」

「む、虫かはちょっと分からないんですけど、なんかどんぐりの中でモニョって変な感触がしましてっ……!」

 私はびしりと力強く鳩時計を指さした。

 その瞬間、鳩時計の中の大量のどんぐりがもぞもぞと動き出し、どんどん地面に落ちていく。

「えぇ……? どういうこと……?」


 ――そしてぽっかり空いた箇所から現れたのは、一匹の茶色いリスだった。

 

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