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第5章 死神は十字架を背負うべきか【case4:精霊栗鼠】
ep.39 気持ちを見つけたいから
しおりを挟む鳩時計の前に立ち、「よし」と気合いを入れてから、私が先ほども使っていた部屋の椅子をもう一度拝借しようとしていると、突然後ろからフワリと抱き抱えられた。
「うぇ!?」
私の身体は瞬く間に鳩時計と同じ目線の高さになっていた。
人の腕に腰掛けるような形で、私の上半身は何かに掴まっていないとちょっと不安定な状態だ。グラリとした身体を慌てて建て直しながら、ふと思う。
この体勢、いつぞやかもされた事があるような……
現状こんな事が出来る人なんて1人しか思いつかないけれど、私は思わず大きな声で叫んでしまった。
「ふ、副団長!?」
「先ほどのような事がまた起こるかもしれないので」
「いや、あの、流石に気をつけますし……?」
いくら私でも、ついさっきやらかした事をこんな短期間で再び起こさないとは思う……んだけどな?
頭にはてなマークを浮かべながら珍しく自分の視界よりも下にいる副団長を見下ろすと、スンとした様子の副団長の上目遣いの表情と目が合った。
さすが美形副団長、下まつ毛も長いんだなぁ……なんて新しい発見をしたり。
「……何ですか? ボンヤリしている暇があるならさっさと手を動かしてください」
「はいっ! すみませんっ!」
そもそも副団長、出会った当初に聞いた話じゃ女嫌いって話だったじゃないですか。なのに女を抱えて苦痛じゃないんですか……? と、ここまで疑問が口に出かかったけども。
ええい、この際抱っこされているという事実は横に置いておこう。抱っこなんて不安定な体勢なはずなのに、何故か安定感は抜群だし。
私は慌てて鳩時計と向き合った。さっきよりも念入りに、鳩時計の中を覗き込む。
「こっち側は……奥もなさそう。だとしたら……」
私はロノスがどんぐりとともに眠っていた所とはまた別の、鳩時計の仕掛けが組み込まれている時計の本体部分となる箇所の扉をゆっくりと開けた。
観音開きに開いたその中には──……
「う、うわぁ……こっちにもどんぐりが沢山詰まってたんだ……」
うーん、流石にちょっと引くレベルのどんぐりの数である。ロノスのどんぐり集めの執念を感じてしまう。
「「メル!」」
「うん?」
声のした方を見ると、キリリとした表情のニアとロノスが、大きなシーツを持って床に待機していた。
「どんぐりはこっちに全部落としてもらって構わないわよ」
「責任持って回収するからねっ!」
「2人とも……ありがとう!」
便利な魔法が使える精霊動物だけど、実体化したまま手伝おうとしてくれている姿に、私はホッコリする。
副団長は「精霊姿に戻って魔法を使えばいいのに……」と冷めた顔で呟いていたけど。2人の可愛さが伝わってないのは勿体無い。
どんぐりを全て取り出し、床へ落としていきながら更に奥へと進めていくと、みっちり詰まったどんぐりの壁を発見した。
「ここを崩したら最後なのかな……?」
「アシュレー、指が入らなそうなら無理はせずにこれを」
「あっ、ありがとうございます……って、こんな高価そうなラペルピンを使っていいんですか!?」
副団長から手渡されたのは、細やかな意匠の施されたシルバーのラペルピンだった。汚すわけじゃないけど、もれなくどんぐりを突きますよ……?
「構いません。どうぞ」
「えええ……?」
私は恐る恐るそのピンを差し込んで、ようやく最後のどんぐりの壁がポロポロと崩れていく。
「あった……!!!」
そこから現れたのは、鳩時計の心臓部分であろう主軸の部品と、その隅に立てたかけられた小さな手帳サイズの本だった。
これがきっと、副団長のお兄さんがロノスに託したという日記で間違いないだろう。
「見つけましたよ、日記!」
満足気に私が副団長たちへ声をかけたのとほぼ同時に、鳩時計の秒針がちょうど12時を指したらしい。
ボーン……ボーン……とその数分だけ、音が鳴り響いた。
再び鳴り響いたその音は、先ほど聞いた時よりも心なしか音が澄んでいるように聞こえる。思わず聞き入ってしまっている内に、私はいつのまにか副団長の謎の過保護な抱っこからも下ろしてもらっていた。
「さっき聞いた時も素敵な音だったけれど、本来はもっと……こんなにもよく響き渡る音だったんだ……」
「……いい音色ですね」
副団長の小さな呟きに、私は「そうだ、ラペルピンを返さないと」と思い出した。
「副団長、これ……」
声を掛けようとしたのと同時に、ニアが鋭い閃きをロノスに投げかけて、私の言葉はちょうどかき消されてしまった。
「ねぇ……もしかしてなんだけど、ロノスが鳩時計の奥に日記を隠したから、その重みで中の振り子がおかしくなっちゃって時折止まってたんじゃないの……?」
ニアにジロリと睨まれたロノスは、驚きの声を上げた。
「えっ、えええ!? 鳩時計が動かなくなったのって、僕のせいだったの!?」
「ま、まぁまぁニア。それよりこの日記、私達も読ませてもらった方がいいんだよね?」
どうどうと、2人を取り持ちながら私が日記を開こうとした時。バタン!と大きな音をたてて、部屋の扉が勢いよく開いた。
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