宝石花の恋煩い ~女嫌いな俺様王子と、訳あり専属メイド令嬢の3か月間~

希結

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2.訳あり専属メイド令嬢

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 ぽかんとしていた私の横から、宰相であり私の義父様が陛下の前に進み出た。

「恐れ多くも発言させていただきますが、私は反対ですよ、陛下。ただでさえルルリナは、普段からレオドール王子に付いて忙しそうにしているのに。これ以上気苦労をさせなくてもいいじゃないですか」

「それは確かになぁ……」

 陛下は何とも言えない表情で、ポリポリと頬を掻いている。

「そもそもルルリナには、仕事なんてしなくてもいいと何度も言っているのに……」

 ぶつくさと呟く義父様を見て、私は困った様な、ありがたくも申し訳ない気持ちになってしまった。

「義父様、メイドをさせていただいているのは、私の気持ちの問題なんです。勿論、醜聞があったり、そのせいで逆に迷惑をかけているなら、すぐに辞めるつもりですが……」

 私は十歳の時、両親を突然の事故で亡くした。そんな身寄りがなかった私を、両親の古くからの友人であった現宰相である義父様が、養女として引き取ってくれたのだった。それから年月は流れて、私は今年で十七歳になる。

 名もほとんど知られていない、末端の男爵令嬢だった私は、養女となった事で意図せず侯爵令嬢という身分になったのだが、ぬくぬくと何もしないで過ごしているのは性に合わない。せめてもの恩返しがしたいと思い、王宮でメイドの仕事を手伝わせてもらっているのだ。

 ……といっても、メイドの仕事を一からという訳ではなく、陛下や義父様の配慮があってなのか、レオドール王子の専属メイド、という謎の立ち位置に落ち着いたのだった。

 更には私の地毛が銀髪で、かなり珍しいからということで、それを隠す為に黒髪のウィッグを着用。そして眼鏡を装着、という謎の徹底ぶりである。侯爵令嬢としての普段の私は、銀髪の姿でいる為、宰相の養女がメイドに混じっているとは、もはや誰も思うまい。

 陛下はしゅんとした私の顔を見て、慌てて首を横に振った。

「いやいや、迷惑だなんて誰も思ってないよ。むしろいつも頑張りすぎなくらいなんだから、たまには休んだっていいんだぞ?」

「そうよ。日中はレオドールのお世話でいつも忙しくしてるんだから。ルルリナちゃんにはこんな事をさせてしまって、こっちが申し訳ないくらいだわ。レオドールは放っておいて、今度私とお茶会をしましょ?」

「あ、ありがとうございます……」

 王宮茶会でのスイーツは、いつもキラキラしていて私の憧れだ。スイーツ好きの私としては、最高のご褒美である。王妃様の優しいお言葉に、自然と顔が綻んだ。

「勿論、危険な事には対面させないよう約束しよう。ルルリナ嬢も、何か可笑しな事があった時は、レオドールの専属騎士にすぐに報告してくれ。それに影の護衛もいるから、安心してほしい」

 なるほど。それならば、私がすごく重要なポジション、という訳でもなさそうだ。

「私はメイドとして側にいながら、それとなくご令嬢たちの調査をすればいいんですね? それ位なら出来ると思います」

 腹黒王子が余計な仕事をよこしてこなければだけどね……そう考えて、レオドール王子の顔が頭に浮かぶと、思わずヒヤッとした私なのだった。

 ────────────────

「失礼いたします」
 
 謁見を終えた私は、お茶の用意をしてレオドール王子の執務室に入室した。

「ただいま戻りました。お時間いただき、ありがとうございました」

 そう言ってお辞儀をした後、パタンと静かに扉を閉める。振り返ると、執務室の机に向かって書類を眺めていたらしいレオドール王子と目が合った。

「おい、ルル。父上から何言われたんだ?」

 机に頬杖をつきながら、片手で書類をひらひらと弄んでいる。大事な書類だったらどうするのだ。なぜに私が愛称で呼ばれているかというと、理由は簡単だ。王子の言葉を借りるなら「短い方が呼びやすいから」だそうで。

 許可した覚えはないんですけどね……と思いながら、私はジトッと見つめ返した。

「レオ様の花嫁の儀まで忙しくなるだろうから、無理せず頑張ってほしい、と激励をいただきました」

 私もレオドール王子の事を愛称で呼んでいるのだが、これは本人から「長ったらしく呼ばれるのは面倒」との要望なのだ。それ故、あまり乗り気ではないが、執務室と自室にいる時はレオ様と呼んでいる。
 私が紅茶をカップに注いでいると、レオ様は椅子から立ち上がり、ソファーへと移動してゆったりと腰掛けた。

「ふーん……それってこの、花嫁候補の令嬢に関わる事か?」

 ペラッと私に向かって見せてきた紙には、気合いの入った令嬢の肖像画と、その横にはプロフィールが細やかに書かれているようだ。

 うわ。この王子、さては適当に眺めてたな……?

「それ、大事な書類じゃないですか。そんな無造作に扱わないでくださいよ」

 私はハァ、とため息をつきながら、紅茶をソファーの前のローテーブルに置いたのだった。
 
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