2 / 15
2.訳あり専属メイド令嬢
しおりを挟むぽかんとしていた私の横から、宰相であり私の義父様が陛下の前に進み出た。
「恐れ多くも発言させていただきますが、私は反対ですよ、陛下。ただでさえルルリナは、普段からレオドール王子に付いて忙しそうにしているのに。これ以上気苦労をさせなくてもいいじゃないですか」
「それは確かになぁ……」
陛下は何とも言えない表情で、ポリポリと頬を掻いている。
「そもそもルルリナには、仕事なんてしなくてもいいと何度も言っているのに……」
ぶつくさと呟く義父様を見て、私は困った様な、ありがたくも申し訳ない気持ちになってしまった。
「義父様、メイドをさせていただいているのは、私の気持ちの問題なんです。勿論、醜聞があったり、そのせいで逆に迷惑をかけているなら、すぐに辞めるつもりですが……」
私は十歳の時、両親を突然の事故で亡くした。そんな身寄りがなかった私を、両親の古くからの友人であった現宰相である義父様が、養女として引き取ってくれたのだった。それから年月は流れて、私は今年で十七歳になる。
名もほとんど知られていない、末端の男爵令嬢だった私は、養女となった事で意図せず侯爵令嬢という身分になったのだが、ぬくぬくと何もしないで過ごしているのは性に合わない。せめてもの恩返しがしたいと思い、王宮でメイドの仕事を手伝わせてもらっているのだ。
……といっても、メイドの仕事を一からという訳ではなく、陛下や義父様の配慮があってなのか、レオドール王子の専属メイド、という謎の立ち位置に落ち着いたのだった。
更には私の地毛が銀髪で、かなり珍しいからということで、それを隠す為に黒髪のウィッグを着用。そして眼鏡を装着、という謎の徹底ぶりである。侯爵令嬢としての普段の私は、銀髪の姿でいる為、宰相の養女がメイドに混じっているとは、もはや誰も思うまい。
陛下はしゅんとした私の顔を見て、慌てて首を横に振った。
「いやいや、迷惑だなんて誰も思ってないよ。むしろいつも頑張りすぎなくらいなんだから、たまには休んだっていいんだぞ?」
「そうよ。日中はレオドールのお世話でいつも忙しくしてるんだから。ルルリナちゃんにはこんな事をさせてしまって、こっちが申し訳ないくらいだわ。レオドールは放っておいて、今度私とお茶会をしましょ?」
「あ、ありがとうございます……」
王宮茶会でのスイーツは、いつもキラキラしていて私の憧れだ。スイーツ好きの私としては、最高のご褒美である。王妃様の優しいお言葉に、自然と顔が綻んだ。
「勿論、危険な事には対面させないよう約束しよう。ルルリナ嬢も、何か可笑しな事があった時は、レオドールの専属騎士にすぐに報告してくれ。それに影の護衛もいるから、安心してほしい」
なるほど。それならば、私がすごく重要なポジション、という訳でもなさそうだ。
「私はメイドとして側にいながら、それとなくご令嬢たちの調査をすればいいんですね? それ位なら出来ると思います」
腹黒王子が余計な仕事をよこしてこなければだけどね……そう考えて、レオドール王子の顔が頭に浮かぶと、思わずヒヤッとした私なのだった。
────────────────
「失礼いたします」
謁見を終えた私は、お茶の用意をしてレオドール王子の執務室に入室した。
「ただいま戻りました。お時間いただき、ありがとうございました」
そう言ってお辞儀をした後、パタンと静かに扉を閉める。振り返ると、執務室の机に向かって書類を眺めていたらしいレオドール王子と目が合った。
「おい、ルル。父上から何言われたんだ?」
机に頬杖をつきながら、片手で書類をひらひらと弄んでいる。大事な書類だったらどうするのだ。なぜに私が愛称で呼ばれているかというと、理由は簡単だ。王子の言葉を借りるなら「短い方が呼びやすいから」だそうで。
許可した覚えはないんですけどね……と思いながら、私はジトッと見つめ返した。
「レオ様の花嫁の儀まで忙しくなるだろうから、無理せず頑張ってほしい、と激励をいただきました」
私もレオドール王子の事を愛称で呼んでいるのだが、これは本人から「長ったらしく呼ばれるのは面倒」との要望なのだ。それ故、あまり乗り気ではないが、執務室と自室にいる時はレオ様と呼んでいる。
私が紅茶をカップに注いでいると、レオ様は椅子から立ち上がり、ソファーへと移動してゆったりと腰掛けた。
「ふーん……それってこの、花嫁候補の令嬢に関わる事か?」
ペラッと私に向かって見せてきた紙には、気合いの入った令嬢の肖像画と、その横にはプロフィールが細やかに書かれているようだ。
うわ。この王子、さては適当に眺めてたな……?
「それ、大事な書類じゃないですか。そんな無造作に扱わないでくださいよ」
私はハァ、とため息をつきながら、紅茶をソファーの前のローテーブルに置いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)
透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。
有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。
「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」
そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて――
しかも、彼との“政略結婚”が目前!?
婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。
“報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる