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11.変化
しおりを挟む部屋の中が薄明るい気がして、私は「んん……?」と目を擦った。
もう朝かぁ……とボンヤリ思いながら、軽く欠伸をする。フカフカのベッドをもう少しだけ堪能したいなと、モゾモゾと体勢を変えて落ち着いた私だった……のだが。
……あれ? そういえば私、昨日はいつベッドに入ったんだっけか……?
暫くの間、目を閉じたままボーッと考えていた私も、段々と頭が冴えてきた。そこでようやく、温かい何かが隣に存在している事にハタと気が付いたのである。
パチッと目を開けると、すぐ隣にはスヤスヤと眠るレオ様が。
「……っ!?」
私は驚きのあまり、声も出せずにのけぞった。な、なんでこの人が隣で寝ているの……!?
シングルサイズのベッドにしては、やけにスペースの余る広いベッドに、私は今身体を横にしているのだと気が付いた。上半身を起こしてよくよく周りを見渡せば、やっぱりここは待機室じゃない。
「なっ……え……?」
ここ、待機室の隣にある、レオ様の寝室の方じゃないか……!
昨夜の事を一生懸命思い出そうとするが、何故かほとんど覚えていない。私は頭を抱え込んだ。
ご令嬢を止めようとしたら飲み物をかけられて、待機室のシャワーを借りた。着替えて、それから……それから、どうしたんだっけ……?
ブツブツと独り言を呟きながら、うろ覚えな記憶の整理をしていると、不意にグイッと引っ張られて、身体がグラッと傾く。
「ひゃ……!?」
ボフッと音を立てて、私はまたベッドに逆戻りを余儀なくされたのだった。
「ルル、うるさい……」
レオ様は、混乱している私の事などお構いなしの様子で、寝言を言いながら私を抱きしめる。
「わ、私は、抱きぬいぐるみじゃないんですけど……!」
そういえばこの王子、寝起きが悪いんだった。だけどそんな悠長な事もいってられない。王子と一夜を共にしたなんて、例え何も起こらなかったとしても、メイドの方や騎士様に目撃されでもしたら……それこそ大変だ。
つまり、誰かが来る前に、早急に待機室へ戻らないとマズイ……!
「~~~レオ様っ! まだ寝てても構いませんのでっ、一旦私を離してくださいっ!」と、小声で話しかけながら、パシパシとレオ様の胸元を叩く。
「……ん?」
薄っすらと覚醒したレオ様と、目が合った。
「……ルル、その顔も中々だが……」
抜け出そうと必死になっていたからだろうか。どうやらレオ様から見えている私は、息も絶え絶えに、頬を赤らめて見上げる形になってしまっていたようである。
「レオ様?」
私の髪の毛をゆっくりかきあげると、露わになった首筋を、指先でツツ……と撫でる。
「……んぅっ」
思わずピクリと反応してしまった私の様子を見て、何処か満足げなレオ様は、衝撃的な事を言い放った。
「昨日のお前は、だいぶ乱れていて可愛いかったぞ?」
「…………み、みだっ……!? か、可愛……!?」
続く言葉が見つからずに、口をパクパクとさせる私を見て、ふ、と余裕の笑みを浮かべているのが悔しい。
「その様子じゃ、昨日の事は何も覚えてなさそうだな」
「~~~っ朝から人を揶揄うのも、大概にしてくださいっ!」
レオ様の腕が緩まったのをいい事に、私はベッドから脱兎の如く抜け出した。
逃げるように隣の待機室へと駆け込んで扉を閉めると、私はそのままズルズルと床にしゃがみ込んだ。何故か触れられて火照ってしまった首筋を、慌てて手で覆う。
「……ッハァ……」
詳細は全くもって不明だけれど、とにかくレオ様と何かがあって、そのまま一晩過ごしてしまった事だけは分かった……!
でも、でも……!
「昨日の私、一体何をしたの……!?」
レオ様の笑った顔が脳内に浮かんでは消えるし、レオ様に触れられた感覚が、やけにリアルに思い起こされる。それに……さっきから鳴り止まらない、この鼓動の速さは何なんだ。
しゃがんだ姿勢でいたからか、ふと、自分の着ている服に視線がいく。あれ? と違和感に気づいた。
「……待って? 簡易ドレスを着た記憶しかないのに、何で私、寝間着を着てるの……?」
じ、自分で着替えたんだよね……!? こんな事、レオ様に聞くに聞けないじゃないか……!
普段のポーカーフェイスに戻るまで、暫くは立ち上がれそうにない私なのだった。
────────────────
◇◇◇
「レオドール様、おはようございます。……あれ、珍しいですね。もうお目覚めですか?」
「よく眠れたからな」
ニヤリと笑ったレオドールを不思議そうに見つめたロランは、ふと、隣の従者室へと繋がる扉が視界に入った。
「ルルリナ様、昨晩は大丈夫そうでしたか? レオドール様に対応をお任せしてしまいましたが……」
「あぁ……体調は問題なかった。ただ……」
「……? 他に何か問題でも?」
「今後アイツには、成人を迎えた後でも絶対に酒は飲ませちゃいけない」
やけにキッパリと言い切るレオドールに、ロランはポカンとしている。
「え。ルルリナ様、もしかして酔っ払ってしまっていたんですか?」
いくら度が高いといえど、ほんの少量で……? と、ロランが驚いていると、レオドールは苦虫を潰したような表情で「あんな姿、他の奴らに見せられない……」と呟いた。
「……おやおや? 進展があったようですね?」
いつも以上にいい笑顔で話すロランを、うるさいと言わんばかりの顔で、ジトッと睨むレオドールである。
「ですが、早めに囲い込まないと、すぐに逃げられてしまいそうですねぇ」
「……そんな事は分かってる。花嫁選びの儀まで、もう一ヶ月切ってるんだ。手は打つ」
「はい。私の方からも、とある方からの情報で、少々気になる点がありまして。レオドール様のお耳にも入れておこうかなと」
「何だよ、勿体ぶって」
ロランはレオドールの耳元で、そっと囁いた。その告げられた言葉を聞いて、レオドールの目がほんの少し見開く。
「それ……本当か?」
「恐らくは。元よりレオドール様からご依頼を受けた際に気になっていた事だったので。ですが、宰相殿にもこの件はご存知なのかどうか、確認を取らない事には何とも……」
「宰相は元々知っていて、敢えて黙っている可能性もあるって事か」
ふぅ、とため息をつくと、レオドールは待機室への扉を真っ直ぐ見据えた。
「逃がさないって決めたから、覚悟しとけよ」
その様子を見たロランは、ヤレヤレと呆れたように笑った。
「あんなにいつも口喧嘩していたのに、自覚して開き直ると、本当積極的ですよねぇ。よりによって大変なお方に捕まりそうで、ルルリナ様には心中お察しします……」
「あ?」
「いえ、喧嘩するほど仲がいいって言いますよね」
「お前は本当に食えないやつだよな」
「嫌ですねぇ。勿論、レオドール様を応援しておりますよ?」
満面の笑みでレオドールをかわすロランなのだった。
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