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閑話休題 千夜一夜物語
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およそ100年ぶりに召喚されたという
癒し子についてはそれを聞いても
オレは特に思うところもなく、
リオン殿下の目を治したと聞いても
そのうちいずれ目通りをして
護衛の任につくこともあるだろうなと
その程度にしか思っていなかった。
だが、大怪我で再起は不可能と
思われたデレクがオレ達の演習先に
突如として現れてから、癒し子に
対する興味が湧いた。
小さな少女だと言うのに、
デレクの様子を目にすると
彼が何も頼まないにも関わらず
彼の悲しみに濡れた気持ちを汲み
寄り添うと自らそっと手を添え
そのケガを治してくれたと言う。
その場にレジナスが現れなければ、
恐らくケガを治した事すら
告げずにその場を去ったのでは
ないかとデレクは話していた。
癒し子の年は確か10歳前後だったと
聞いている。
奇しくもオレがあの穢らわしい
王の元から助け出されたのと
同じ位の年齢だ。
それなのに、かたやオレのように
人を憎む醜さしか持ちえず、
かたや王族でも何でもない
一介の騎士のケガまで進んで治す
心根の優しさを持つ。
オレとは真逆の存在だった。
デレクは言う。
癒し子は、少女にしてはやけに
整った顔立ちと美しく艶めく黒髪、
受け答えのはきはきとした感じが
好感が持てたのだと。
そして何よりもその黒い瞳が特徴的で、
見ようによっては黒だけでなく
紺色や紫色の複雑な色味もそこに表れて
その中には更に金色の光がゆらめき、
それがまるで瞳の中に小さな星が
輝いているような美しさで
印象的なのだそうだ。
その瞳を見つめて話していると
不思議と心が落ち着き、
つい自分の身の上話を色々と
してしまったという。
思春期の少年のようにはにかみながら
頬を染め、照れたように
他の隊員達にそう話すデレクに
ほんの少し話しただけでここまで
人の心を動かす存在とは
なんなのだろうと気になった。
気になり出すと、自然と癒し子に
関する話題は耳に入るようになる。
小さい子供には怖がられてばかりの
あのレジナスを恐れもせずに、
癒し子はいつも楽しげにその腕に
抱かれているのだとか、
興味関心がない相手とは一言も
口を聞かない、あの偏屈で変わり者の
魔導士団長ですら癒し子とは微笑み
会話を交わしては足繁く王宮に
通っているとか。
更にはノイエ領視察の際に、
近隣の町マールの財政再建案まで考え、
その力を使って町を助けたかと思えば
パンと菓子が無限に湧いて出る籠という
普通の人間では思いもよらない物を
作り出しては孤児たちの援助を
したと言う話まで伝え聞こえてきた。
いくら選ばれし召喚者と言えど、
そこまで自らの持つ力に向き合い
周りに尽くす者など、今までオレが
生きてきた世界の中には存在しない。
オレが知る聖職者や身分のある者は
もっと醜く生き汚く、自分の事しか
考えない者達だった。
今の長期演習が終われば王都へ戻る。
その際に一度癒し子の姿を
見ておいてみようか。
そう思っていた矢先に、
不穏な噂を耳にした。
あちこちの国を巡っては金品の強奪と
人攫いをして、攫った少年少女を
奴隷として売りさばくタチの悪い
窃盗団が現れたと言う。
脳裏に子供時代のオレの姿が掠めた。
あんな目に遭わされる子供達が
何人もいるというのか。
久々にこの世の醜さを思い出して
昏い気分になった。
もしもそいつらがルーシャ国に
入って来るような事があれば、
任務であろうとなかろうと
オレが始末しよう。
そう思って調べてみれば、
窃盗団が目をつけそうな条件が
この時期の王都に揃っているのに
気が付いた。
祝賀に浮かれる人々に、
農閑期で地方から多数の旅行者も
増えている。
祭りの屋台も毎週引きもきらずに
多く出ていて、
最初に申請されている店の数さえ
変わらなければ、仮にその店主が
入れ替わっていてもそれに気付き
把握するのは難しいだろう。
嫌な予感がした。
よくオレは悪党を見つけ出すカンが
鋭いと言われるが、何のことはない。
オレ自身が悪党どもと同じ醜さを
持っているから気付くだけだ。
同族は黙っていても通じ合うものが
あるだけの話。
だからこそ、今回も先に気付いた。
これだけ人攫いに好都合な条件が
揃っているならオレでも喜んで
王都で獲物を物色する。
特にこの週末は連休で、
屋台の数も膨れ上がる。
まさかとは思うが、癒し子が街へ
見物に出ることはないだろうな?
一度癒し子が街へ降りることが
あるのか知っておきたくて、
武器屋の店主に手紙を出した時に
それとなく聞いてみたが
まだ返事はなかった。
念のため王都へ戻ろう。
どうせ演習はすでに終わっている。
そう判断し、隊員を半分引き連れて
王都へ戻り屋台の並ぶ通りを
歩いてみれば、すぐに窃盗団らしき
奴らの気配に気付いた。
屋台の店主になりすまし、小遣いを
握りしめて店へと並ぶ子供達を物色する
その醜い気配は隠しようもない。
しかも並ぶ屋台のいくつもから
そんな気配がしている。
特に揚げ物を扱う屋台から
そいつらの気配はしていたから、
他国での騒ぎを鑑みるに
タイミングを見計らってその揚げ物の
油に火でも付けて騒ぎを起こそうと
しているのだと思った。
どうにも苛つき、真っ昼間の
街中だというのに今すぐにでも
そいつらをみんなまとめて
くびり殺してやりたくなった。
背後から静かに首でもかき切って
植込みの向こうに放り投げてやれば
この人混みだ、
意外とバレないのではないか?
そんな物騒な考えが頭をよぎる。
その時だった。
視界の片隅に、ふいに目を引く何かが
映りそちらを見た。
そこには1人の少女がお付きの侍女を
伴って座り込み、とても幸せそうに
何かを食べていた。
物を食べているだけなのに、
妙に目立って目を引くその姿は
周囲から一際明るい雰囲気を
放っていて、オレだけでなく
行き交う人々の目も引いている。
侍女と何かを話していて
急に慌てた顔になったり、
真面目な顔付きになったりと、
よく変わる表情も面白いと思って
つい眺めてしまっていた。
気付けば、さっきまでの
苛ついた気持ちはどこかへと
消え失せている。
よくよく見れば、2つに分けて
結っている手入れの行き届いた髪は
黒髪、歳の頃は10歳前後。
その瞳はここからでは分かりにくいが
黒い中に光が見えるような気もする。
少女の隣には侍女が1人だが、
その周囲には彼女を守るような気配が
全部で8人。騎士だろうか。
そこまで確かめて、まさか癒し子か?
とその可能性に気付いた。
密かに多数の護衛が付いている
癒し子に似た特徴の少女。
そしてオレのこの、苛つき荒んだ
醜い気分を見ていただけで
瞬時に鎮めて忘れさせたところ。
この酷い気分を落ち着かせて
くれる者などそうはいない。
ー・・・少し話をしてみたい。
デレクが年甲斐もなくはにかみ、
凍てついた顔しか見たことのない
魔導士団長までもが微笑み、
しかもあの強面のレジナスが
腕に抱いて離さないほどだ。
そして今、遠目に眺めていただけでも
まるで浄化されたかのようにオレの
ひどく醜く荒んだ気持ちが消えたのだ。
話をすればもっとオレにも変化が
あるかも知れない。
そう思ったら、いてもたっても
いられなくなりその少女が
歩き出したタイミングに合わせて
オレはわざとぶつかった。
癒し子についてはそれを聞いても
オレは特に思うところもなく、
リオン殿下の目を治したと聞いても
そのうちいずれ目通りをして
護衛の任につくこともあるだろうなと
その程度にしか思っていなかった。
だが、大怪我で再起は不可能と
思われたデレクがオレ達の演習先に
突如として現れてから、癒し子に
対する興味が湧いた。
小さな少女だと言うのに、
デレクの様子を目にすると
彼が何も頼まないにも関わらず
彼の悲しみに濡れた気持ちを汲み
寄り添うと自らそっと手を添え
そのケガを治してくれたと言う。
その場にレジナスが現れなければ、
恐らくケガを治した事すら
告げずにその場を去ったのでは
ないかとデレクは話していた。
癒し子の年は確か10歳前後だったと
聞いている。
奇しくもオレがあの穢らわしい
王の元から助け出されたのと
同じ位の年齢だ。
それなのに、かたやオレのように
人を憎む醜さしか持ちえず、
かたや王族でも何でもない
一介の騎士のケガまで進んで治す
心根の優しさを持つ。
オレとは真逆の存在だった。
デレクは言う。
癒し子は、少女にしてはやけに
整った顔立ちと美しく艶めく黒髪、
受け答えのはきはきとした感じが
好感が持てたのだと。
そして何よりもその黒い瞳が特徴的で、
見ようによっては黒だけでなく
紺色や紫色の複雑な色味もそこに表れて
その中には更に金色の光がゆらめき、
それがまるで瞳の中に小さな星が
輝いているような美しさで
印象的なのだそうだ。
その瞳を見つめて話していると
不思議と心が落ち着き、
つい自分の身の上話を色々と
してしまったという。
思春期の少年のようにはにかみながら
頬を染め、照れたように
他の隊員達にそう話すデレクに
ほんの少し話しただけでここまで
人の心を動かす存在とは
なんなのだろうと気になった。
気になり出すと、自然と癒し子に
関する話題は耳に入るようになる。
小さい子供には怖がられてばかりの
あのレジナスを恐れもせずに、
癒し子はいつも楽しげにその腕に
抱かれているのだとか、
興味関心がない相手とは一言も
口を聞かない、あの偏屈で変わり者の
魔導士団長ですら癒し子とは微笑み
会話を交わしては足繁く王宮に
通っているとか。
更にはノイエ領視察の際に、
近隣の町マールの財政再建案まで考え、
その力を使って町を助けたかと思えば
パンと菓子が無限に湧いて出る籠という
普通の人間では思いもよらない物を
作り出しては孤児たちの援助を
したと言う話まで伝え聞こえてきた。
いくら選ばれし召喚者と言えど、
そこまで自らの持つ力に向き合い
周りに尽くす者など、今までオレが
生きてきた世界の中には存在しない。
オレが知る聖職者や身分のある者は
もっと醜く生き汚く、自分の事しか
考えない者達だった。
今の長期演習が終われば王都へ戻る。
その際に一度癒し子の姿を
見ておいてみようか。
そう思っていた矢先に、
不穏な噂を耳にした。
あちこちの国を巡っては金品の強奪と
人攫いをして、攫った少年少女を
奴隷として売りさばくタチの悪い
窃盗団が現れたと言う。
脳裏に子供時代のオレの姿が掠めた。
あんな目に遭わされる子供達が
何人もいるというのか。
久々にこの世の醜さを思い出して
昏い気分になった。
もしもそいつらがルーシャ国に
入って来るような事があれば、
任務であろうとなかろうと
オレが始末しよう。
そう思って調べてみれば、
窃盗団が目をつけそうな条件が
この時期の王都に揃っているのに
気が付いた。
祝賀に浮かれる人々に、
農閑期で地方から多数の旅行者も
増えている。
祭りの屋台も毎週引きもきらずに
多く出ていて、
最初に申請されている店の数さえ
変わらなければ、仮にその店主が
入れ替わっていてもそれに気付き
把握するのは難しいだろう。
嫌な予感がした。
よくオレは悪党を見つけ出すカンが
鋭いと言われるが、何のことはない。
オレ自身が悪党どもと同じ醜さを
持っているから気付くだけだ。
同族は黙っていても通じ合うものが
あるだけの話。
だからこそ、今回も先に気付いた。
これだけ人攫いに好都合な条件が
揃っているならオレでも喜んで
王都で獲物を物色する。
特にこの週末は連休で、
屋台の数も膨れ上がる。
まさかとは思うが、癒し子が街へ
見物に出ることはないだろうな?
一度癒し子が街へ降りることが
あるのか知っておきたくて、
武器屋の店主に手紙を出した時に
それとなく聞いてみたが
まだ返事はなかった。
念のため王都へ戻ろう。
どうせ演習はすでに終わっている。
そう判断し、隊員を半分引き連れて
王都へ戻り屋台の並ぶ通りを
歩いてみれば、すぐに窃盗団らしき
奴らの気配に気付いた。
屋台の店主になりすまし、小遣いを
握りしめて店へと並ぶ子供達を物色する
その醜い気配は隠しようもない。
しかも並ぶ屋台のいくつもから
そんな気配がしている。
特に揚げ物を扱う屋台から
そいつらの気配はしていたから、
他国での騒ぎを鑑みるに
タイミングを見計らってその揚げ物の
油に火でも付けて騒ぎを起こそうと
しているのだと思った。
どうにも苛つき、真っ昼間の
街中だというのに今すぐにでも
そいつらをみんなまとめて
くびり殺してやりたくなった。
背後から静かに首でもかき切って
植込みの向こうに放り投げてやれば
この人混みだ、
意外とバレないのではないか?
そんな物騒な考えが頭をよぎる。
その時だった。
視界の片隅に、ふいに目を引く何かが
映りそちらを見た。
そこには1人の少女がお付きの侍女を
伴って座り込み、とても幸せそうに
何かを食べていた。
物を食べているだけなのに、
妙に目立って目を引くその姿は
周囲から一際明るい雰囲気を
放っていて、オレだけでなく
行き交う人々の目も引いている。
侍女と何かを話していて
急に慌てた顔になったり、
真面目な顔付きになったりと、
よく変わる表情も面白いと思って
つい眺めてしまっていた。
気付けば、さっきまでの
苛ついた気持ちはどこかへと
消え失せている。
よくよく見れば、2つに分けて
結っている手入れの行き届いた髪は
黒髪、歳の頃は10歳前後。
その瞳はここからでは分かりにくいが
黒い中に光が見えるような気もする。
少女の隣には侍女が1人だが、
その周囲には彼女を守るような気配が
全部で8人。騎士だろうか。
そこまで確かめて、まさか癒し子か?
とその可能性に気付いた。
密かに多数の護衛が付いている
癒し子に似た特徴の少女。
そしてオレのこの、苛つき荒んだ
醜い気分を見ていただけで
瞬時に鎮めて忘れさせたところ。
この酷い気分を落ち着かせて
くれる者などそうはいない。
ー・・・少し話をしてみたい。
デレクが年甲斐もなくはにかみ、
凍てついた顔しか見たことのない
魔導士団長までもが微笑み、
しかもあの強面のレジナスが
腕に抱いて離さないほどだ。
そして今、遠目に眺めていただけでも
まるで浄化されたかのようにオレの
ひどく醜く荒んだ気持ちが消えたのだ。
話をすればもっとオレにも変化が
あるかも知れない。
そう思ったら、いてもたっても
いられなくなりその少女が
歩き出したタイミングに合わせて
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