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第十章 酒とナミダと男と女

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『ユーリに酒を飲ませてどの程度の酒量であれば
元の姿に戻るのかを確かめることになったから
お前も手伝え。』

団長にある日突然そんな事を言われた俺は
めちゃくちゃ張り切った。

手伝え、ってことはユーリ様が元の姿に戻る検証の
その場に立ち会えってことだ。それはつまり、
やっと俺も幻影魔法じゃない本当に本物の、あの
めっちゃエロ・・・じゃなくて美人な大きい姿の
ユーリ様を間近で見られるってことだよな?やった‼︎

そう思ってユーリ様が以前摂取した酒量から姿に
変化がありそうな酒の度数を推測したり、
ダーヴィゼルドで飲んだ酒の量や度数から同じような
合成飲料の作成をしたりと着々と準備は進んだ。

今回の件はなんと王命ということもあって、
国王陛下自らが人払いをした上で離宮を丸ごと
貸してくれたのにはさすがに驚いたけど。

そうして迎えた当日。
最初、ユーリ様はわりと慎重に酒を飲んでいたと
思う。赤ワインを一口飲んで微妙そうな顔を
してたけど、そんな顔も思わず見てるこっちが
笑顔になりそうなくらい可愛かった。どういうこと?

団長と俺とで作った合成飲料もおいしいと言って
喜んで飲んでくれたのは嬉しかったし!

いやあ、連日深夜まで残業して作った甲斐が
あったなー。なんて満足していたら、そこで
異変が起きた。

団長の父、ドラグウェル様が差し入れに持たせた
めちゃくちゃ酒のきいたパウンドケーキを食べた
ユーリ様の呂律が突然怪しくなった。

え?そんないきなり酒って回るの?それとも
ユーリ様が特殊なの?どうしようかと思って
いる間に、ユーリ様の侍女があっという間に俺達を
衝立の外に追いやった。殿下まで追い出して
失礼じゃないかと思ったけど、当の殿下はあの
酔ったユーリが身の丈に合わない服装で僕達の前に
いるのもね、とやけに物分かり良く衝立から離れた。

そんでもって、何故か殿下の言葉にレジナスまで
うっすら赤くなりながら頷いている。

・・・ノイエ領でユーリ様は大きくなった時に、
あの二人の前で何かやらかしたのかな?

そう思っていたら、部屋の中に目を開けて
いられないくらい眩しい光が溢れた。反射的に
目を閉じたけど、なんだか物凄い魔力・・・
精霊かな?それがユーリ様のいる衝立の方へと
集まっていくのが分かった。これがユーリ様が
元の姿に戻る証なんだろうか。

やがてその光が収まり、リオン様が声を掛ければ
衝立の向こうからユーリ様の元気な声が聞こえてきて
安心した。声の調子も話している感じも、そんなに
酔っている風には感じない。良かった。

着替えたら出てくると言うので、ようやくあの
ユーリ様に会えると思っていたら突然衝立の
向こうからユーリ様の驚いたような声が聞こえた。

全部脱ぐんですか⁉︎って言ってた。何事かと
思ってつい聞き耳を立てたら今度は、なんで
紐パンなんですか⁉︎って聞こえた。え、何それ。

ユーリ様は少し高めではっきりした涼やかな声を
しているから普段からその声は割と聞き取り
やすいんだけど、それが仇になって聞こえてきた
単語にすんごい動揺した。

あのめちゃくちゃ色っぽい身体付きは幻影魔法で
目にしたから記憶にある。出るとこは出ていて腰は
きゅっとくびれている、抜群のスタイルだった。

それが今、衝立の向こうで全部脱いだ状態で
しかも紐パンを履かせられている・・・?

どんな状況なんだ一体。室内だけど、今すぐもの凄い
突風でも吹いてこの衝立を倒してくれないかな。

そんなバカバカしいことを考えながら、殿下にも
今のユーリ様の声聞こえてたかな?とそっちを見れば
殿下もレジナスも赤くなってあらぬ方向を見て
いたから、やっぱり聞こえていたらしい。

ちなみに団長はユーリ様の声に全然気付いていない。
ユーリ様が変化した合成飲料とパウンドケーキを
目の前に、何がきっかけか考え込んでそれらに
口をつけたりしていた。やっぱり魔法バカだ。

エル君は、ユーリ様の声が聞こえていたみたいだけど
これと言った反応はしていない。相変わらずの
無表情で何を考えているのか分からないのが怖い。

各々の反応を観察していたら、またユーリ様の声が
して、衝立がカタンと鳴った。

それにほっそりとした白くて長い指先がかかったと
思ったら、あの幻影魔法で見たユーリ様の顔が
衝立からひょっこりと覗いた。

俺達が注目しているとは思わなかったのか、
きらきら輝くあの特徴的な瞳を丸くして驚いていて
そのためにちょっとだけ開いた赤い唇が艶めかしい。

ふいにノイエ領で俺の指まで口に含んでイチゴを
食べられたことを思い出してしまった。

あのしっとりと柔らかな唇が俺の指を食んで
いたんだ・・・。その後は赤くて小さな舌先が
口元を汚す白くてとろりとした体液・・・
じゃなくて、生クリームを舐めとっていたっけ。

うわ。やばい。思い出したらドキドキしてきた。
赤面して思わず胸元を抑える。

それにしても本物は幻影魔法で見た時よりも数倍
綺麗だった。なんだろう、周りよりもはっきり
色鮮やかに輝いて見える。その体に漲る魔力の
せいなのかな。クリーム色の薄手のロングドレスは
あの柔らかそうな豊かな胸の下で青いリボンで
結んであるだけのゆったりした作りだから、
ノイエ領の時のように体の線を強調していない。

それなのに、胸の下でリボンを結んだおかげで
その胴体の細さが目立ち、かえって胸の大きさが
強調されてるような気がする。服の生地が薄いのも
あれだ、その下の胸の盛り上がり方とか柔らかさを
妙に肉感的に視覚に訴えてきて、なんかそこに
ばっかり目がいく。やばい。

あと服の作りのせいなのか薄手の生地のせいなのか、
まるでユーリ様が誘惑をするように夜着を着て俺達の
前に現れたのかと一瞬思ってしまった。

しかもその下に身に付けてるのが紐パンとか
おかしい。新婚初夜かよ!と思わず突っ込みたく
なった俺を誰も責められないと思う。

無意識についユーリ様の腰の辺りを見つめて
しまった。この薄いドレスの下に紐パン・・・。

そう思いながらつい見つめてしまったのは俺だけじゃ
ない。さっきのユーリ様の発言が聞こえていた
リオン殿下やレジナスもだ。

団長はユーリ様が衝立から出てくるあたりでやっと
こっちに意識を向けて、大きくなったユーリ様の
美人さ加減にさすがに驚いていたみたいだった。

いや、団長のことだから美人なのに驚いたんじゃなく
その内包する魔力の大きさに驚いてる可能性も
あるけど。

あの無表情なエル君ですら驚いた顔をしている。
ユーリ様がここまで大きくなるとは思っていなかった
らしい。そんな彼にユーリ様は近付くと、自分の
ことをお姉ちゃんと呼べと謎の主張をしていた。

何それ、エル君じゃないけどなんつー大人気ない
言動だ。大きくなってもユーリ様はユーリ様なんだな
と思い知る。ただその言動もなんかすげえ可愛いな、
とも思ったけど。

その後ユーリ様はドレスがかわいいとか言って
その場でくるくる回って見せてくれたけど、
顔立ちや身体付きは色気のある艶っぽい美人なのに
嬉しそうに回るその仕草とか笑顔が無邪気で
かわいくて、ドレスなんか目に入らない。

と、回っていてバランスを崩したユーリ様が
レジナスにぶつかった。顔からもろにあの筋肉の塊に
ぶつかったけど大丈夫かな⁉︎鼻とか折れてないか?

ぶつかられたレジナスもかなり慌てていた。

・・・が、そこからのユーリ様はいつもと違って
明らかにおかしかった。心配するレジナスに
大丈夫だと言った後、あいつの胸から腹までやたらと
撫で回しては硬いとかさすがは騎士だとか言ってた。

でもこっちはあの白くてほっそりした指が騎士の
黒服姿の上からとはいえレジナスの体をあちこち
さわさわと撫で回してるのを見ているだけで
むず痒くなってくる。大丈夫かレジナス、なんか
すげぇいやらしい触られ方されてるけど。

そう思っていたら大丈夫じゃなかったらしい。
さすがのレジナスもあの強面を真っ赤にして
ユーリ様の両手を取ってストップをかけた。

酔ってるだろう⁉︎と言われて酔ってないと言い張る
ユーリ様はよく見ろとレジナスに体を乗り出して、
ぐいと顔を近付けている。

あっ、それヤバい。

ユーリ様の胸が突然迫られてのけぞったレジナスの
上半身に乗り上げるように密着して、あの形の良い
豊かな胸が押し潰されたみたいにその丸い形を
楕円形に変えた。なんかむにゅ、って音が空耳だけど
聞こえたような気がした。

しかも今のユーリ様の服は結構な薄着だ。
あの胸の柔らかさとか、かなり伝わっちゃって
いるんじゃないか⁉︎

乗り上げるようにしてレジナスに預けている体は
見ればあいつの足の間に入り込んでいて、
ユーリ様が酔ってなんかない、よく見ろと迫る度に
ぐいぐいとその股の間に擦り寄せられている。

いくらあいつが朴念仁でも、男色の気でもない限り
あの色っぽいユーリ様にあんなに触られまくった挙句
更に追い打ちで胸を押し付けられたり体をすり寄せ
られたりしたら耐えるのが大変だと思う。
何がって、ナニがだ。

同じ男として羨ましい反面同情する。
耐え切れなくなった時が大変だ。この状況下だと
何もできない。自己処理ナシで鎮めるのって、
出来なくはないけどキツイんだよなあ・・・。

と、思っていたら何とか耐えたらしいレジナスの奴は
顔を見たことがないくらい真っ赤にしてユーリ様を
リオン殿下の方へぐいと押しやった。

若干失礼な態度な気がしないでもないけどあの
色っぽい姿のユーリ様にあれこれされた割には、
まあよく頑張った方だよ・・・。


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