【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera

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第十一章 働かざる者食うべからず

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イーゴリさんがあの卵型の小物入れをフクロウの
形に加工するのには2時間もあれば充分という
話だった。
 
じゃあその間に、本当ならカフェで一休みする前に
寄ろうと思っていたマリーさんおすすめの新しい
パン屋さんに行ってこようかという話になった。



・・・そして今。

「おいシェラ、いい加減にしろ。」

「何故です?これはオレの金で買ったケーキですよ。
どうするかはオレが決めて当然でしょう。リリ様も
そう思いますよね?」

「リリはそんな事をされなくても一人で食べられる。
お前がそんな事をすると目立って仕方がないから
やめろと言っているんだ。」

「レジナス、あなたの顔の方が恐ろしくてよっぽど
人目を引きますよ。前から言っているでしょう?
その魔物のような強面で人から敬遠されないためには
たまには笑顔でいろと。」

「護衛が笑顔でいる必要があるか?」

「今は護衛兼リリ様の街歩きのお供です。笑顔で
楽しい雰囲気にしてあげなくてどうしますか。」

ね、リリ様。そう言ったシェラさんはシェラさんで
フォークにのせたケーキを私に差し出しながら、
無駄に色気のある笑顔を周囲に振り撒いた。

レジナスさんとシェラさんの二人はさっきから
私の目の前でずっとこの調子だ。

パン屋さんに着いてみれば、そこはマリーさんから
事前に聞いていたようにパンだけでなく焼き菓子や
ケーキも売っていた。

お店の一角はカフェになっていて、買ったものを
食べられるようにもなっている。

目を輝かせてケーキの並ぶショーウィンドウを
覗く私に、シェラさんがまだ時間もあることですし
休憩がてらケーキでも食べていきますか?と
提案してくれた。

そして現在に至る。丸テーブルの、私の斜め前で
左右に陣取るレジナスさんとシェラさん。

見事なトライアングルを作って座る私達は、
二人の言い合う声がいくら小声でもやっぱり少し
目立ってしまっている。

一応私の身なりや護衛を連れていることから、
ちょっとお金持ちっぽい人達が通されている
2階席に案内をされた。

それぞれの席はゆったりしてるし間仕切りらしい
ものもあるんだけどな・・・。

それでもやっぱり大柄なレジナスさんと、フードを
脱いで色気爆弾みたいな顔を晒しているシェラさんと
いう二人の間に挟まれている女の子というのは
目立つ。

ここは一つ、マンガみたいにやめて二人とも!私の
ために争わないで!とか言ってみたいけど今それを
やったらシャレにならない気がして、さっきから
全然口を挟めないでいる。どうしよう。

シェラさんは私が選んだケーキを買ってくれて、
それを食べさせようと私の目の前にそれを一口分ずつ
切り分けフォークにのせると私の口元へと寄せて
きている。

そしてレジナスさんはそれを苦々しい目で見ながら
シェラさんを注意しつつ、やっぱり私が選んだ
リーモのパイを目の前に置いてくれている。

どうしてもケーキを一個に決め切れなかったので、
こっちはレジナスさんが買ってくれたものだ。

ちなみに私は今日自分で稼いだチップからここの
お茶代を出して二人に奢った。

私が自分で稼いだお金で二人にお茶をご馳走します!
と言った時はまだ二人とも嬉しそうなだけだった。
その時はほのぼのとしたいい雰囲気が漂っていたのに
どうしてこうなった。

これはやっぱり、シェラさんが私にケーキを
食べさせようとしているのが悪いに違いない。
うん。そしてそれに対するレジナスさんのこれは
あれだ、焼きもちだろう。間違いない。

だけどシェラさんはさっき食堂で自分の手から
私がご飯を食べたのが相当嬉しかったらしく、
もう一度それを再現したいようだ。

だから今また私がシェラさんの手からケーキを
食べるまでは絶対にそれを諦めない感じでいる。

てことは、物凄く恥ずかしいけど穏便にすませる
ためにはシェラさんの手からケーキを食べるしか
なくて、なおかつレジナスさんの機嫌を直すには
公平にレジナスさんの手からもパイを食べてあげる
のがいいんだろう。

早くなんとかしないとさっきから周りの視線も
気になるし、落ち着いてせっかくのケーキも
堪能できない。

よく考えたら今日の私はまともに食べられたのは
タラコスパゲティしかない。早くケーキが食べたい。

「・・・ちょっといいですか、二人とも。」

はい、と小さく手を上げた私に二人が注目する。

「このままここで二人がずっとそんな調子だと、
私はなんにも食べられません。知ってますか?私、
今日はスパゲティしか食べてないんです。これ以上
ここでまだそんな風に言い合ってるようなら、今日は
もう二人とは口を聞きませんよ。護衛もここからは
エル君に交代です。」

周りに聞かれないように小さな声で静かに言った
おかげか、二人には思ったよりも真剣に私の言葉が
伝わったらしい。

二人とも口を閉じて、シェラさんは私の口元に
ケーキを寄せる手がピタリと止まった。

レジナスさんも私を見つめている。

・・・うーん、こんなに真剣に話を聞いてもらえる
なら最初からこうすれば良かった。

そしてこんなに真剣に耳を傾けられている中で、

「だから二人がこれ以上ケンカしないように、
両方から一口ずつだけケーキを貰います。
それなら公平ですよね?」

私にとってはとても恥ずかしい提案をした。
まさか自分から二人にケーキを食べさせてなんて
お願いをすることになるとは。

「いいですね?シェラさんは今手にしているその
一口だけ。レジナスさんも、私に一口だけそこの
パイを食べさせて下さい。あとは私が自分で
食べるので、二人はもうこれ以上ケンカを
しないこと!」

ちなみにこの事は私からリオン様に話すので、
二人一緒に怒られて下さい!そう言うのも当然
忘れない。

私だって、二人にケーキを食べさせて欲しいと
自分からねだったとリオン様に誤解されて無駄に
怒られるのはイヤだもん。

そう言うとレジナスさんは若干顔色が悪くなった。

「すまない、まさかそこまで俺達のせいでリリを
怒らせるとは思わなかった」

・・・まあレジナスさんは焼きもちも入っている
とはいえシェラさんを注意してくれてただけだから
ちょっとかわいそうかな。

でも食べ物の恨みは怖いのだ。これに懲りたら
もう二度と私の前に食べ物を置いた状態でケンカを
しておあずけをくらわせるとかやめて欲しい。

分かりましたか?と二人を交互に見れば、
神妙な顔付きでどちらも頷いた。よしよし。

こちらの言うことを聞かせるのも一苦労で、
気分はまるで大型の肉食獣を躾ける猛獣使いだ。
左手に黒豹、右手には黒狼、なんてね。

まあレジナスさんは狼っていうよりも大型犬な
気もするけど。

「はい、じゃあシェラさん。そのケーキを私に
下さい!」

そう促せば、気を取り直したシェラさんはにっこり
微笑んで私の口元にもう一度ケーキを運ぶ。

「リリ様のご機嫌を損ねるなど、オレもまだまだ
精進が必要ですね。申し訳ありません。このお詫びは
必ずいたしますので。」

そんな事を言いながら私がケーキを食べる様子を
見つめる笑顔はさっきまでの神妙な顔付きは
どこへやら、と言った風情だ。

そして私の席の後方では茶器なのかお皿なのか、
ガチャンと何かが落ちたような音がしたり小さな
悲鳴みたいな声が聞こえたりした。

・・・あれはきっと、シェラさんのこの自重しない
色気ダダ漏れな笑顔に免疫のない人達がもろにそれを
見てしまったせいだろう。

「おいしいですか?」

そう言う本人は、そんなのは日常茶飯事なのか
全然気にしてないのがすごい。

かえって一緒にいる私の方が申し訳なくなる。
お店の食器、弁償した方がいいのかな・・・。

そう思いながらも、ケーキ自体はとてもおいしいので
もぐもぐしながらこくりと頷く。

「・・・はい、じゃあ次はレジナスさんです!」

そう言って私は自分の右斜め前を見た。すると
レジナスさんは私に切り分けようとフォークを
手にしたままで固まっているではないか。

「レジナスさん?」

「・・・いや、ちょっと待ってくれ。冷静に考えたら
恥ずかしくなってきた。」

何を今さら。そんなの、提案した時から私だって
恥ずかしかったんだからね!

「元はと言えば二人が言い合ってたのが悪いんです。
恥ずかしくても自業自得ですよ!」

仕方がないので、フォークを持ったままパイの上で
止まっているレジナスさんの手を取る。

レジナスさんの手は大きいので、私は両手で
上からえいっとそれを押した。

サクッ、と軽い音がしてパイが割れる。

「はい、ちゃんと持って下さい!」

もう一度両手でレジナスさんの右手を包むように
ぎゅっとしてフォークをしっかりと握らせる。

なんだろう、まるで食事介助でもしている気分だ。

「さあどうぞ。」

あとはそれが私の口に運ばれてくるだけだ。

だけどいくら待っていても、私の口にパイは
やってこない。

「レジナスさん?」

見上げれば、その視線は私とパイの間をうろうろと
往復している。もう、往生際が悪いなあ。

まあそんなに恥ずかしいなら、この先同じような
ことはしないだろう。

「食べさせてくれないなら私が自分でやりますよ?」

よいしょともう一度私は両手でフォークを持つ
レジナスさんの手を取る。

そのまま自分の口へとそれを運ぶとぱくっと食べた。

誰かの手を取って、その手にあるものを食べるって
なんかすごく恥ずかしい。

陛下の庭園で似たような感じでリオン様は私の手を
取ってフィナンシェを食べたけど、よくリオン様は
こんな恥ずかしいことを平然とやったものだ。

甘いリーモのパイを味わいながら私はそう思った。
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