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閑話休題 ガールズ・ビー・アンビシャス

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「プリシラお嬢様ぁ~、本当に行くんですか?」

私の侍女ともあろう者がなんて情けない声を
出すんだろう。

「しつこいわよベス!本店から出されたニコラスの
苦労してる姿をちょっと覗きに行くだけじゃない。
幼なじみのよしみよ!ついでにおバカなウィリアムも
居るようだったら二人まとめて笑ってあげるわ!」

振り返って渋々私の後をついてくるベスを見る。

「ニコラスの実家の本店がどんなに繁盛していようと
果たして王都の洗練された人達にあんな磯臭くって
生臭い魚料理が受けるかしら?」

でも、とベスが私に意見をする。

「こちらでも毎日お客様が列をなして並んでいて
本店に負けず劣らずの大盛況だと聞いておりますよ?
そんな忙しいところに行ったら営業の邪魔では?」

「バカね、おじさまには良いことしか報告してない
ようだけど私の目は誤魔化されないわよ。それに
そそっかしいウィリアムもあの店をニコラスと一緒に
任せられたくせに、何だか大きな失敗をしたと聞いて
いるわ。本当にどうしようもないわね。」

王都の街中を歩きながらショーウィンドウに映る
自分の姿をちらりと確かめる。

髪飾りで纏めたオレンジブラウンの自慢の髪の毛は
今日も綺麗に艶めいて、日の光に当たると加減に
よっては柔らかな赤毛に輝いて繊細な髪飾りの作りの
良さも目立つ。

薄絹を何枚も重ねた、まるで姫巫女様のかぶるベール
のようにふわりと膨らんで風に揺れる流行りのドレス
も、その胸元を飾る薔薇のモチーフのブローチも
良く似合っている。

うん、今日も私はかわいい。そう思っていたら

「失礼します、美しいお嬢様。」

丁寧な物腰で礼を取った騎士に声をかけられた。

「はい、何でしょう?」

騎士は微笑みながら私に言う。

「我が主がお嬢様の素敵な髪飾りはどこで買われた
物かお尋ねでして。差し支えなければ教えていただけ
ますか?それにとても良い香りがしますが、併せて
その香水の入手先も教えていただけると大変有り難く
存じます。」

騎士の後方には立派な馬車が止まっている。
馬の毛並みも、手綱を取る御者の身なりも立派だ。
これは相当お金のある貴族に違いない。

私はいつものようににこりと笑みを返す。

「最近王都に新しく出来た女性向けのお店ですの。
美しい絹のリボンやレースの飾りが華やかな手袋
などもありますし、先日は砂漠に咲く珍しい花を
使った香水や化粧水も入荷したようでしてよ。
あなたの主が貴族のお嬢様なら、先にお話を通して
いただければサロンもありますからゆっくりお菓子を
つまみながら品物を選ぶ事もできますわ。」

話しながらサッと片手を上げれば、心得たように
ベスが店の住所を書いた用紙を騎士に渡す。

騎士は喜んでそれを受け取るといそいそと馬車へ
戻って行った。毎度あり。

「相変わらずお嬢様は良い広告塔ですねぇ・・・」

「街歩きをするだけでお客が勝手に増えてくれる
なんて、私も趣味の買い物をしながらうちの売上げも
増えて一粒で二度おいしいわね。」

そう。私が身に付けている物は、髪の毛を纏める
リボンや髪飾りから靴下に至るまで全て私が経営する
店の品物だ。

こうして街歩きをしているだけで流行りに敏感な
王都の人達が声をかけてくるので私の店の良い宣伝に
なっている。

私の家はここから離れた海辺の保養地にある商会を
営んでいて、この王都で大きな商会を運営している
ブランシェット家の分家だ。

元々商いに興味があった私の趣味で仕入れた、若い
女性向けの小物を我が家の商会で試しに扱ってみたら
それが思いのほか好評で独立して自分の店を持つ
までになった。

そんな私の商才を見込んで本家のおじさまが声を
かけてくれ、晴れて王都へも店を出すことが出来た
のはつい最近のことだ。

どうやら私の目利きで仕入れる品は王都の人達の
好みにも合っていたらしく売上げは好調だ。

「この調子でじゃんじゃん稼いでお店を大きく
するわよー!」

今はまだ女性向けの小物を売る雑貨類がメインだけど
もっと別の業種にも挑戦したい。

幸いにもそう思って始めた香水やお化粧品類は
最近よく売れているし、このまま順調なら2店舗目も
夢じゃないわ。

うふふとほくそ笑めばベスが呆れた顔をする。

「お嬢様は黙っていればとても美しい御令嬢ですのに
口を開くと商売のお話ばかりで残念な方ですね・・・
いっそ男性であればもっと商いを大きく出来たかも
知れませんのに惜しいです。」

その言葉にかちんと来る。

「何よ、女が商売の話をして何が悪いのよ。私は
綺麗な物や可愛い物を同じ女の子にたくさん楽しんで
欲しいのよ。私が素敵だなって思う物を他の女の子達
とも共有して一緒に夢を見たいの。そう、夢を売る
仕事をするのが私の目標よ!」

それに、と続ける。

「本家の男どもを見なさいな。おじさまの跡継ぎの
クリスティンお兄様は仕事は出来るけど真面目で
華がないし、弟のウィリアムはそそっかしくて
肝心なところが抜けている。男だから商売が向いて
いるとは限らないわ!同志だと思っていたマリーは
なぜか王宮に出仕しちゃうし!」

そんな事をベスに言い聞かせながら歩いていると
目的の店にいつの間にか着いていた。

店の扉に手をかけながら後ろのベスを振り返る。

「それに私より半年も早く王都へ来ているニコラス
だってずっと何の連絡もないじゃない?せっかく
本家のおじさまが見込んで出資までして王都に支店を
出したのにきっと行き詰まっているのよ、その様子
を見てみないと!」

同じ商才のある者として私がライバルだと思っていた
本家の私と同い年のマリーは王宮へ行ってしまい
張り合いがない。

つまらないので同じく今は王都にいる、幼なじみの
ニコラスをからかってやろうと今日はわざわざその店
まで足を運んだのだ。

ベスは忙しいので邪魔だと言うけど、私だって一応
気を使って昼の営業時間が終わりそうな頃合いを
見て訪れている。

「しがない海鮮料理屋が王都に支店を出して話題に
なるために、従業員の制服を可愛くして評判だと
聞いているわ。どんなものか確かめてやろうじゃ
ないの!」

そう意気込んで店の扉を開ける。一拍置いて
ニコラスのいらっしゃいませ、という声がした。

何よ、今の間は。そう思っていたら

「なんだプリシラか!て言うかお前、王都に来て
たのか⁉︎」

と言われた。

「何だって何よ。本家のおじさまに見込まれて店を
出したからその挨拶がてらあんたの店も見に来て
やったんじゃない!」

「相変わらず偉っそうに・・・」

地元にいた時のように軽口の応酬をしていると
近くでふふっ、と含み笑いがした。

そちらを見ると、明るい金髪をポニーテールにした
可愛い女の子が私達を見ていた。

この子が着ているのが例の制服ね。

やだ、悔しいけど本当にかわいい。スカート丈は
ちょっと短いけど、それが逆に他のお店との差別化に
なっていていいかも知れない。

ニコラスのくせにどうやってこんなにかわいい制服を
思い付いたのかしら。

女の子はニヤニヤとニコラスをからかっている。

「あらー、残念だったわねニック。髪色がリリちゃん
に似ていたから、一瞬リリちゃんが来たと思ったん
でしょ?分かりやすいわ~!」

「う、うるさいな!いいからお前はそっちの
テーブルでも片付けてろよ!」

あらら、からかわれたニコラスが赤くなってるわ。
リリちゃんていうのは彼女かしら。

「ニコラス、あんた彼女に夢中になってて半年も
地元に連絡をよこさなかったの?新メニューの開発
も進んでいるんでしょうね?そんなんじゃいつまで
経っても本店に戻れないわよ?」

「彼女じゃねーよ‼︎」

「いえいえ、違うんですよ~お客さん。彼女どころか
告白する前に、出会って半日も経たずに失恋したって
いうのにニックときたら未練タラタラで!」

「失恋もしてねーよ‼︎」

私と従業員の女の子、二人に噛み付くように
ニコラスが文句を言った。
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