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閑話休題 ガールズ・ビー・アンビシャス
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店に来た私を好きな子と間違えかけたニコラスは、
自分をからかう女の子に営業時間も終わりだから
お前はもう下がってろよ!と言う。
だけど女の子はそんなニコラスを物ともしないで私に
話しかけて来た。
「ところでお客さん、すごく良い香りがしますけど
香水ですか?どこで買ったものです?」
あらこの子、お目が高い。サッと片手を上げれば
ベスがうちの店の住所を書いたチラシをその子に
渡す。
「私のやっている女性向けのお店よ。そこで
取り扱っているの。香水や湯浴みで使うオイルは
お試しで少量から買えるから、ぜひ色々試してみて
好みのものを見つけてみて。王都へ出店したばかり
だから、扱って欲しい品物についても何か意見を
いただけると助かるわ。」
チラシを見た彼女が目を輝かせる。
「素敵なお店ね!ぜひ寄らせてもらうわ、
ありがとう‼︎」
「プリシラ、お前は人の店で営業して行くんじゃ
ねぇよ、抜け目ないなあ・・・」
「うるさいわね、それよりウィリアムはいないの?
何だか大きな失敗をしたらしいじゃない、笑って
あげるわ‼︎」
そう言った私にニコラスが気の毒そうな顔をした。
「いや止めとけよ。ウィルさん、マジで落ち込んで
たからな。しくじったのって王族に関係する人の
食事の予約だったらしくて、あれから数週間が
経ってるのに今だに暗いし。」
その言葉に耳を疑う。
「え?まだ落ち込んでるって、お詫びにも行かずに?
バカじゃないの⁉︎」
信じられない。そんな相手にヘマをしておいて、ただ
落ち込んでいるだけなんて。
ウィリアムの家は大商会なんだから、お詫びの品なら
どんな珍しい物だって取り寄せられるでしょうに。
さっさとそういうお詫びの品を持って駆けつけて
心から謝罪すべきなのに、それすらせずに落ち込んで
いるだけなんておバカもここに極まれり、だ。
「しょうのない子ね!どこにいるの?」
「二階の突き当たりの事務室だけど・・・」
その言葉にまっすぐ二階に行って事務室の扉を
勢い良く開ける。
そこにいたのはいつも綺麗に整えているオレンジ色の
髪の毛を若干乱れたままに顔色を悪くしている我が
いとこだった。
「話は聞いたわ、ひどい有り様ねウィリアム!」
「プリシラ、久しぶり・・・。父さんから王都に
出て来たとは聞いてたけどホントだったんだね。」
声も張りがない。これは相当落ち込んでるわね。
「おバカが馬鹿な失敗をしたと聞いたわ!」
私の言葉にハハ・・・とウィリアムは力無く笑う。
「いや、うん、そうなんだ・・・。俺がいつもの
せっかちで店の奴らに予約客の名前を伝え忘れた
せいで全然違う客に予約客の分の料理を出しちゃって
肝心の予約客が食べられなかったっていう・・・」
何そのあり得ない失敗。しかも王族の関係者相手に。
おバカのやることは想像の上を行くわね。
驚いている私に、プリシラはうまくいってるようで
羨ましいよ、やっぱり商売の才能があるね。なんて
言っている。
「そ、それでそんな失敗をしておきながら謝りにも
行ってないわけ⁉︎王族に関係ある人なら何かお咎め
でもなかったの⁉︎」
その言葉にウィリアムの体がピクリと揺れた。
「行こうと思ったさ。でもその方は、その後すぐ
視察のために王都を出て、戻ってきたのはつい最近
なんだ。だからついズルズルと謝罪の機会を逃して。
それに姉さんも謝りに来るな、恥ずかしくてお前を
紹介するのも申し訳ないって怒ってたし・・・。」
「マリーが?そういえばあの子王宮にいるのよね。
もしかしてマリーの仕えている人が来る予定だった
わけ?一体誰なのよ、マリーが今仕えている人は。」
ウィリアムの顔色がますます悪くなった。
「姉さんから頼まれての予約だったっていうのは
ニック達従業員には秘密だから誰にも言わないで
くれよ?それを言ったら誰がここに来る事になって
いたかがすぐにバレて大騒ぎになるから。何しろ
姉さんが誰に仕えているかなんて市民街じゃ知らない
人はいない位有名だし・・・」
そうなの?凄いわねマリー。私は最近王都に来た
ばかりだったから、あの子がそんな大物に仕えている
なんて全然知らなかったわ。
そう思いながら、奥歯に物が挟まったみたいに
言い淀んでいるウィリアムに話の続きを促す。
「で、誰なのよ?そのマリーが仕えていて可哀想にも
予約していた食事を食いっぱぐれた王族って。」
「正確には王族じゃないよ。癒し子様なんだ。」
「え?」
「・・・イリューディア神様の御使い、癒し子の
ユーリ様。」
聞き返した私に都合悪そうにウィリアムが言った。
「はあぁ⁉︎あっ・・・アンタ、そんな尊い方の予約を
ぶっ飛ばして赤の他人に食事をさせた訳⁉︎」
癒し子ユーリ様と言えば、あの可愛らしい猫耳型の
髪型を国中に流行らせた有名な人だ。
もちろん、それだけでなくこの国の王子様の不治の
怪我を治したとか世にも珍しい黄金色のリンゴを
作り出したとか、最近だと王都の住民全員の病や
怪我をあっという間に治したとか凄い話はたくさん
あるけど。
でも私達みたいな若い女の子にとってはそんな事より
可愛い髪型を新しく考えて流行らせた人という面で
有名だ。しかもその本人もとても可愛いらしい。
え?マリーってばそんな凄い人に仕えてるの?
さすが私のライバル。
「謝罪したかったけど何も出来ないままズルズルと
何週間も経ってしまって、俺だって参ってるんだよ」
どうすればいいと思う?ウィリアムが情けない顔で
泣きついて来た。ホントにこの子ったら、昔から
こうなんだから。
「仕方ないわね、マリーに連絡を取りなさい。
私があんたの代わりにマリーに会って話してみる。」
ついでにその噂の癒し子様とやらに会えないかしら。
何やら新しい商売の匂いがするわ。
商人としてのカンが、私にマリーと癒し子様に
会いに行けと告げていた。
王宮のマリーへはウィリアムから連絡を取って
もらったら、すぐに返事が来た。
ウィリアムのことはまだ怒っていて謝罪は受け付け
ないけど、私とは久しぶりなので喜んで会って
くれるらしい。
しかも面会場所はなんと癒し子ユーリ様がお住まいの
奥の院を指定された。
これはもしかして、癒し子様も同席するのかしら?
期待に胸を弾ませて王宮へ向かい、奥の院に足を
踏み入れれば出迎えてくれたのはマリー本人だ。
「プリシラ、久しぶり!少し見ない間にまた綺麗に
なったわね‼︎」
そう言って満面の笑みを浮かべるマリーもどことなく
垢抜けた気がする。王宮勤めの侍女という身分が
その立ち居振る舞いを洗練させたせいかしら。
奥の院に入ってすぐの部屋に通されたけど、玄関に
近い部屋と言うことは一般的な面会用の部屋かしら、
と観察した。
天井は高く広々としていて、備え付けの調度品も
品が良くその装飾も凝っている。
ただよく見れば、飾ってある絵画や花瓶はそこまで
高そうな物ではなく絨毯もそれほど厚みも柔らかさも
ない。
なるほど、ここは下働きで奥の院にいる者達へ
面会人がいる時に使われる部屋ね?
てことは、ユーリ様はわざわざここには来ないわ。
残念だけど、そう判断して少しがっかりする。
私のカンではユーリ様に会えそうな気がしたし、
会った方が良いような感じだったんだけど。
ただの好奇心で会いたいと言っても、そんな輩は
たくさんいるでしょうから断られるんでしょうね。
今日はとりあえず、おバカなウィリアムとマリーの
間を取りなしてあげるだけにしましょう。
どうせ私はまだまだ王都にいるんだもの、そのうち
ユーリ様にお目にかかれる時が来るかもしれないわ。
そう気持ちを切り替えて、取りとめのない話を
マリーとしながらウィリアムが反省している事を
伝える。
「もうあの子には頼まないわ!」
なんて思い出し怒りをしていたけど。
「まあ落ち着きなさいよ。あの子がおバカなのは
今に始まったことじゃないでしょ?あと一度くらいは
チャンスをあげなさいよ。それにほら、今は私も
王都にいるんだから次に街に降りる時は私の店にも
寄ってくれると嬉しいわ。ほら、こういうのを扱って
いるのよ。」
本当はユーリ様にも見ていただこうと思って持参して
来ていた、店で扱うリボンや手袋、ブローチなどを
マリーに見せる。
「素敵な手触りだわ。それにリボンにこんなに
こまやかな刺繍まで。この靴下も柔らかくてよく
伸びるのね。見たことのない質の良さだわ。」
「さすがねマリー。その靴下に使われている絹は
最近品種改良された蚕の糸で出来ているのよ。
気に入ったのならぜひ買いに来なさいな。」
やっぱりマリーと話していると楽しい。
最近知り合った西の砂漠の商人から仕入れた品の話や
新しい香料の原材料について、流行りのドレスの
織り方など色々な話をする。
マリーとのその何気ない会話の中にはこれから先の
商売のヒントになりそうなものがいくつもあった。
「マリー、やっぱりあなた王宮勤めよりも商売の方が
向いてると思うわ。辞めてこっちに戻ってきたりは
しないの?私と一緒にお店をやりましょうよ。
あなたの目利きと私の売り込みがあれば絶対にお店を
大きくする自信があるのに。それこそ商会の一つも
立ち上げられるかも知れないわ!」
そんな私にマリーは苦笑いをする。
「買い被り過ぎよ。私の話はお父様達の知識の
受け売りと、ここに来てから見聞きしたり学んだ
事を元にしているだけだもの。それに私、ユーリ様
のことが大好きなの。辞めるとしたらユーリ様に
嫌われた時ね。それまではずっとお仕えしたいわ。」
そこまで癒し子様に惚れ込んでいるなんて。
その様子では私のスカウトになびくことは絶対に
なさそうだ。
「そう、それは残念ね・・・」
そう話していた時だった。軽いノックの音がして
部屋の扉が開いた。
「失礼します」
そう言って顔を覗かせたのは髪も肌も真っ白な
男の子だ。その瞳だけが極上のルビーのように
美しい赤だった。
そんな色の子は見たことがないのでびっくりする。
「あらエル様。」
どうやらマリーは知り合いらしい。
と、その子は部屋の中をちょっと見渡すと扉から
後ろへと振り向いて姿を消した。その声だけが
聞こえる。
「いましたよ。でもお客様も一緒です。どうします、
後にしますか?」
誰かに話しかけている。何なの?せっかくマリーと
楽しくおしゃべりしていたのに失礼じゃないかしら。
だけどマリーはその様子に慌てて立ち上がった。
「もしかしてもうお戻りですか?私に何か
ご用でも⁉︎」
すると扉の向こうから今度は黒髪の女の子が
ひょっこりと顔を覗かせた。
自分をからかう女の子に営業時間も終わりだから
お前はもう下がってろよ!と言う。
だけど女の子はそんなニコラスを物ともしないで私に
話しかけて来た。
「ところでお客さん、すごく良い香りがしますけど
香水ですか?どこで買ったものです?」
あらこの子、お目が高い。サッと片手を上げれば
ベスがうちの店の住所を書いたチラシをその子に
渡す。
「私のやっている女性向けのお店よ。そこで
取り扱っているの。香水や湯浴みで使うオイルは
お試しで少量から買えるから、ぜひ色々試してみて
好みのものを見つけてみて。王都へ出店したばかり
だから、扱って欲しい品物についても何か意見を
いただけると助かるわ。」
チラシを見た彼女が目を輝かせる。
「素敵なお店ね!ぜひ寄らせてもらうわ、
ありがとう‼︎」
「プリシラ、お前は人の店で営業して行くんじゃ
ねぇよ、抜け目ないなあ・・・」
「うるさいわね、それよりウィリアムはいないの?
何だか大きな失敗をしたらしいじゃない、笑って
あげるわ‼︎」
そう言った私にニコラスが気の毒そうな顔をした。
「いや止めとけよ。ウィルさん、マジで落ち込んで
たからな。しくじったのって王族に関係する人の
食事の予約だったらしくて、あれから数週間が
経ってるのに今だに暗いし。」
その言葉に耳を疑う。
「え?まだ落ち込んでるって、お詫びにも行かずに?
バカじゃないの⁉︎」
信じられない。そんな相手にヘマをしておいて、ただ
落ち込んでいるだけなんて。
ウィリアムの家は大商会なんだから、お詫びの品なら
どんな珍しい物だって取り寄せられるでしょうに。
さっさとそういうお詫びの品を持って駆けつけて
心から謝罪すべきなのに、それすらせずに落ち込んで
いるだけなんておバカもここに極まれり、だ。
「しょうのない子ね!どこにいるの?」
「二階の突き当たりの事務室だけど・・・」
その言葉にまっすぐ二階に行って事務室の扉を
勢い良く開ける。
そこにいたのはいつも綺麗に整えているオレンジ色の
髪の毛を若干乱れたままに顔色を悪くしている我が
いとこだった。
「話は聞いたわ、ひどい有り様ねウィリアム!」
「プリシラ、久しぶり・・・。父さんから王都に
出て来たとは聞いてたけどホントだったんだね。」
声も張りがない。これは相当落ち込んでるわね。
「おバカが馬鹿な失敗をしたと聞いたわ!」
私の言葉にハハ・・・とウィリアムは力無く笑う。
「いや、うん、そうなんだ・・・。俺がいつもの
せっかちで店の奴らに予約客の名前を伝え忘れた
せいで全然違う客に予約客の分の料理を出しちゃって
肝心の予約客が食べられなかったっていう・・・」
何そのあり得ない失敗。しかも王族の関係者相手に。
おバカのやることは想像の上を行くわね。
驚いている私に、プリシラはうまくいってるようで
羨ましいよ、やっぱり商売の才能があるね。なんて
言っている。
「そ、それでそんな失敗をしておきながら謝りにも
行ってないわけ⁉︎王族に関係ある人なら何かお咎め
でもなかったの⁉︎」
その言葉にウィリアムの体がピクリと揺れた。
「行こうと思ったさ。でもその方は、その後すぐ
視察のために王都を出て、戻ってきたのはつい最近
なんだ。だからついズルズルと謝罪の機会を逃して。
それに姉さんも謝りに来るな、恥ずかしくてお前を
紹介するのも申し訳ないって怒ってたし・・・。」
「マリーが?そういえばあの子王宮にいるのよね。
もしかしてマリーの仕えている人が来る予定だった
わけ?一体誰なのよ、マリーが今仕えている人は。」
ウィリアムの顔色がますます悪くなった。
「姉さんから頼まれての予約だったっていうのは
ニック達従業員には秘密だから誰にも言わないで
くれよ?それを言ったら誰がここに来る事になって
いたかがすぐにバレて大騒ぎになるから。何しろ
姉さんが誰に仕えているかなんて市民街じゃ知らない
人はいない位有名だし・・・」
そうなの?凄いわねマリー。私は最近王都に来た
ばかりだったから、あの子がそんな大物に仕えている
なんて全然知らなかったわ。
そう思いながら、奥歯に物が挟まったみたいに
言い淀んでいるウィリアムに話の続きを促す。
「で、誰なのよ?そのマリーが仕えていて可哀想にも
予約していた食事を食いっぱぐれた王族って。」
「正確には王族じゃないよ。癒し子様なんだ。」
「え?」
「・・・イリューディア神様の御使い、癒し子の
ユーリ様。」
聞き返した私に都合悪そうにウィリアムが言った。
「はあぁ⁉︎あっ・・・アンタ、そんな尊い方の予約を
ぶっ飛ばして赤の他人に食事をさせた訳⁉︎」
癒し子ユーリ様と言えば、あの可愛らしい猫耳型の
髪型を国中に流行らせた有名な人だ。
もちろん、それだけでなくこの国の王子様の不治の
怪我を治したとか世にも珍しい黄金色のリンゴを
作り出したとか、最近だと王都の住民全員の病や
怪我をあっという間に治したとか凄い話はたくさん
あるけど。
でも私達みたいな若い女の子にとってはそんな事より
可愛い髪型を新しく考えて流行らせた人という面で
有名だ。しかもその本人もとても可愛いらしい。
え?マリーってばそんな凄い人に仕えてるの?
さすが私のライバル。
「謝罪したかったけど何も出来ないままズルズルと
何週間も経ってしまって、俺だって参ってるんだよ」
どうすればいいと思う?ウィリアムが情けない顔で
泣きついて来た。ホントにこの子ったら、昔から
こうなんだから。
「仕方ないわね、マリーに連絡を取りなさい。
私があんたの代わりにマリーに会って話してみる。」
ついでにその噂の癒し子様とやらに会えないかしら。
何やら新しい商売の匂いがするわ。
商人としてのカンが、私にマリーと癒し子様に
会いに行けと告げていた。
王宮のマリーへはウィリアムから連絡を取って
もらったら、すぐに返事が来た。
ウィリアムのことはまだ怒っていて謝罪は受け付け
ないけど、私とは久しぶりなので喜んで会って
くれるらしい。
しかも面会場所はなんと癒し子ユーリ様がお住まいの
奥の院を指定された。
これはもしかして、癒し子様も同席するのかしら?
期待に胸を弾ませて王宮へ向かい、奥の院に足を
踏み入れれば出迎えてくれたのはマリー本人だ。
「プリシラ、久しぶり!少し見ない間にまた綺麗に
なったわね‼︎」
そう言って満面の笑みを浮かべるマリーもどことなく
垢抜けた気がする。王宮勤めの侍女という身分が
その立ち居振る舞いを洗練させたせいかしら。
奥の院に入ってすぐの部屋に通されたけど、玄関に
近い部屋と言うことは一般的な面会用の部屋かしら、
と観察した。
天井は高く広々としていて、備え付けの調度品も
品が良くその装飾も凝っている。
ただよく見れば、飾ってある絵画や花瓶はそこまで
高そうな物ではなく絨毯もそれほど厚みも柔らかさも
ない。
なるほど、ここは下働きで奥の院にいる者達へ
面会人がいる時に使われる部屋ね?
てことは、ユーリ様はわざわざここには来ないわ。
残念だけど、そう判断して少しがっかりする。
私のカンではユーリ様に会えそうな気がしたし、
会った方が良いような感じだったんだけど。
ただの好奇心で会いたいと言っても、そんな輩は
たくさんいるでしょうから断られるんでしょうね。
今日はとりあえず、おバカなウィリアムとマリーの
間を取りなしてあげるだけにしましょう。
どうせ私はまだまだ王都にいるんだもの、そのうち
ユーリ様にお目にかかれる時が来るかもしれないわ。
そう気持ちを切り替えて、取りとめのない話を
マリーとしながらウィリアムが反省している事を
伝える。
「もうあの子には頼まないわ!」
なんて思い出し怒りをしていたけど。
「まあ落ち着きなさいよ。あの子がおバカなのは
今に始まったことじゃないでしょ?あと一度くらいは
チャンスをあげなさいよ。それにほら、今は私も
王都にいるんだから次に街に降りる時は私の店にも
寄ってくれると嬉しいわ。ほら、こういうのを扱って
いるのよ。」
本当はユーリ様にも見ていただこうと思って持参して
来ていた、店で扱うリボンや手袋、ブローチなどを
マリーに見せる。
「素敵な手触りだわ。それにリボンにこんなに
こまやかな刺繍まで。この靴下も柔らかくてよく
伸びるのね。見たことのない質の良さだわ。」
「さすがねマリー。その靴下に使われている絹は
最近品種改良された蚕の糸で出来ているのよ。
気に入ったのならぜひ買いに来なさいな。」
やっぱりマリーと話していると楽しい。
最近知り合った西の砂漠の商人から仕入れた品の話や
新しい香料の原材料について、流行りのドレスの
織り方など色々な話をする。
マリーとのその何気ない会話の中にはこれから先の
商売のヒントになりそうなものがいくつもあった。
「マリー、やっぱりあなた王宮勤めよりも商売の方が
向いてると思うわ。辞めてこっちに戻ってきたりは
しないの?私と一緒にお店をやりましょうよ。
あなたの目利きと私の売り込みがあれば絶対にお店を
大きくする自信があるのに。それこそ商会の一つも
立ち上げられるかも知れないわ!」
そんな私にマリーは苦笑いをする。
「買い被り過ぎよ。私の話はお父様達の知識の
受け売りと、ここに来てから見聞きしたり学んだ
事を元にしているだけだもの。それに私、ユーリ様
のことが大好きなの。辞めるとしたらユーリ様に
嫌われた時ね。それまではずっとお仕えしたいわ。」
そこまで癒し子様に惚れ込んでいるなんて。
その様子では私のスカウトになびくことは絶対に
なさそうだ。
「そう、それは残念ね・・・」
そう話していた時だった。軽いノックの音がして
部屋の扉が開いた。
「失礼します」
そう言って顔を覗かせたのは髪も肌も真っ白な
男の子だ。その瞳だけが極上のルビーのように
美しい赤だった。
そんな色の子は見たことがないのでびっくりする。
「あらエル様。」
どうやらマリーは知り合いらしい。
と、その子は部屋の中をちょっと見渡すと扉から
後ろへと振り向いて姿を消した。その声だけが
聞こえる。
「いましたよ。でもお客様も一緒です。どうします、
後にしますか?」
誰かに話しかけている。何なの?せっかくマリーと
楽しくおしゃべりしていたのに失礼じゃないかしら。
だけどマリーはその様子に慌てて立ち上がった。
「もしかしてもうお戻りですか?私に何か
ご用でも⁉︎」
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