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閑話休題 ガールズ・ビー・アンビシャス
3
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「ごめんなさい、そんなに急ぎでもないんです。
ただ、騎士団から受け取って来たハンカチとブローチ
を出来れば早くみんなに渡したくて・・・。
今、少しだけいいですか?すぐ済みますので。」
そう言って扉の向こうから顔を覗かせたその女の子は
私にも目を合わせると申し訳なさそうに頭を下げた。
ちょっと。何なのこの子。尋常じゃなく可愛いわ。
今までも貴族の御令嬢を始め美しい人や可憐で
可愛らしい人を何人も見てきたけど、この女の子は
別格だわ。美少女っていうのはこの子のためにある
言葉だとすら思えるもの。
品種改良された絹糸も顔負けの艶めいてなめらかな
黒髪は日差しのない室内なのに天使の輪がはっきりと
見えるくらい輝いている。
猫みたいに少しだけ吊り上がり気味の大きな瞳も
黒曜石のようにまるで吸い込まれそうな美しさだし
すっと通った鼻筋もその鼻の高さも、高すぎず
低すぎずの完璧さ。
小さめの口もその唇に乗る色は口紅をつけていない
のに、自前の色だけでまるで鮮やかな口紅をのせた
ように綺麗なピンク色をしている。
顔のパーツどれをとっても一つ一つが完璧な美しさで
整っていてそれが見事な調和で顔全体を作り上げて
いた。
ああ、この唇に合わせるならどんな色の口紅が映える
かしら?こんなにツヤツヤな黒髪だとうちの店で
扱っている淡いピンク色の真珠の髪飾りがよく
似合いそうね。それともレースのついた鮮やかな色の
リボンの方が黒髪に映えるかしら?それなら何色が?
ついそんなことを考えてしまう。
いけない。可愛い女の子を見るとつい飾りたてたく
なってしまうわ。しかもそれがこんな美少女なら
なおさらに。
私の悪いクセね。内心こっそり反省していると
耳を疑う言葉がマリーの口から出た。
「私のことは気にしないで下さいユーリ様!
さあどうぞこちらへ。紹介しますね、いとこの
プリシラです。王都にお店を出したので今日は私に
挨拶がてら会いに来てくれたんですよ!」
そう言って美少女を室内に招き入れた。
ちょっと。ユーリ様って!
マリーが室内に招き入れてソファの上座に座らせた
その美少女をじっくり見る。
一見大人びて見えるけど、よくよく見ればまだ
12、3歳くらいかしら。
私とマリーの面会を邪魔したと居心地悪そうに
座るその姿は歳よりも少し幼げにも見える。
不思議な子ね。こんな美少女で大人びているように
見えるのに、小さな子にも見えるなんて。
だからかしら。目が離せなくてついつい見つめて
しまうし、なんだか頭を撫でて可愛がってあげたく
なるわ。
様々な奇跡のような出来事を起こして来た人だから、
姫巫女様のように神聖で近寄り難い雰囲気のある
高貴な方を想像していたのに良い意味で予想を
裏切られたわね。
さっきの白い子はユーリ様の侍従かしら?お茶を
淹れにいくと言って下がってしまった。
「それでユーリ様、私にもそれを下さるんですか?」
マリーが可愛くて仕方ないという風にニコニコして
ユーリ様へ話しかけている。
その言葉にあっ、と声を上げたユーリ様は綺麗に
包まれた小さな箱を二つマリーに差し出した。
「この間の街歩きで作った、私の意匠入りのハンカチ
とブローチです。奥の院で働いてくれている人達で
お揃いにしました!ブローチも、私の侍女さんや
侍従さんだって分かるように金の矢とリンゴの
デザインです。」
「ユーリ様の侍女や侍従だけが付けられるブローチ
ですか⁉︎ありがとうございます、大事にしますね。」
さっそくブローチを付けたマリーはすごく嬉しそう。
ここで働く人しか身に付けられない、しかも癒し子様
専属の侍女や侍従の証のブローチだなんて、たとえ
どんなにお金を積んでも手に入れることは出来ない
特別な物だ。
ちょっとだけ羨ましいわね。
そう思いながら、喜ぶマリーとその様子に嬉しそうな
ユーリ様を見ていたらまた部屋の扉が開いた。
「お帰りなさいユーリ様!」
「お疲れ様ですユーリ様!」
あら?さっきの白い子とは違う声ね。
声のする方を見れば、涼しげな目元にグレーの髪色が
優しげな風貌に良く似合っている細身の男の子。
そしてその子より頭一つ分背が低く金髪の巻き毛が
まるで宗教画で見る天使みたいに愛らしい笑顔を
見せる男の子というそれぞれタイプは違うけど
どちらも負けず劣らずな美貌の少年二人組がそこに
立っていた。
侍従のような服装だから、まだ少年のようだけど
ここで働いているのかしら?
二人はその手に爽やかな良い香りがして温かな湯気の
立つタオルや茶器をそれぞれ携えている。
そんな彼らを見て、なぜかユーリ様は聞こえるか
聞こえないか位の小さな声でひぇっ、と悲鳴を
上げた。
こんな美少年二人に微笑みかけられてどうしてそんな
悲鳴みたいな声を?
不思議に思っていたら、キラキラ光る笑顔のまま
二人はまっすぐユーリさまの元へ向かった。
「騎士団は埃っぽかったでしょう?お手をお拭き
しますね。」
グレーの髪色の方の美少年はそう言うとユーリ様の
手を取り丁寧にその指先から指の一本一本を拭いて
いる。
「お茶はこちらに置きますね。歩いて来てお疲れかと
思いますので、いつもより砂糖は一つ多くお入れ
しました。お菓子も食べますか?」
そう言って、金髪巻き毛の美少年の方は雛鳥に餌を
与えるようにユーリ様のあの愛らしい小さな口に
焼き菓子をそっと差し出した。
二人とも私のことはまるで目に入っていないのが
すごいわ。うっとりした目でユーリ様を見つめて、
そのお世話をするのがこの上ない幸せだと全身で
訴えている。
呆気に取られている私にマリーが、いつもの事なの
驚かせてごめんなさいねと苦笑した。
でも当の本人のユーリ様はそんなお姫様以上の
お姫様扱いが恥ずかしいみたいで、
「食べませんよ⁉︎それにお客様の前ですから二人とも
止めて下さい‼︎」
と抗議している。だけど二人とも、
「ユーリ様、ほっぺが赤くなって可愛いです!」
「恥ずかしがっているお顔もとっても可愛いです、
もっとその愛らしいお顔を見せて下さい!」
なんて言ってまるでこたえていない。
ユーリ様はそんな二人の褒め言葉?にも動じないで
話が通じない・・・!と悔しそうにしているけど。
こんな美少年二人に挟まれてかしづかれているのに
なんて謙虚なのかしら。
私だったら喜んでお世話してもらうのに。
こんなにもきらきらのカッコ良くて愛らしい侍従に
かしづかれて誉めそやされて、大切に扱ってもらう
なんてある意味女の子の夢じゃないかしら?
そう思ったら、私の頭に突然あるアイデアが閃いた。
女の子の夢。
・・・そうよ、これだわ!私の新しいお店。
甘いお菓子や綺麗なドレスに鮮やかなリボン、
繊細なレース。そういうものに心をときめかすのも
良いけれど、こんな風に見目麗しい侍従や執事に
お姫様のように大切に扱われたらどんなに素敵
かしら。それはきっと夢のようなひとときになるわ。
「淑女になれるカフェ・・・!悪くないかも。」
ぽつりと呟けば、マリーだけでなくユーリ様にも
きょとんとされる。
「何ですかそれ」
ユーリ様が興味を持たれた。嬉しいわ。
「いえ、街歩きに疲れたお嬢さん方がふと入った
カフェでこんな風に大切なお姫様みたいに扱われたら
素敵だろうなと思いまして。」
「え」
「侍従や執事のような服装と立ち居振る舞いの
ウェイターに、優しく丁寧に扱われたらそのカフェを
訪れるお嬢さん方は誰もが皆、淑女になれるんです。
ですから淑女カフェ?とでも言いましょうか・・・」
アイデアがまだまとまっていないのでうまく言葉に
出来ないけど伝わるかしら?
そう思っていたら、ユーリ様が小さく
「いや、それって執事喫茶・・・」
そんな事を呟いた。なるほど!執事カフェ。
しっくりくるわ。
「素晴らしいですわユーリ様!私の拙い説明から
正確な意図を汲み取るなんてさすが猫耳を流行らせた
お方は違います!執事カフェ、やりますわよ‼︎」
やはりユーリ様に会わなければという私のカンは
当たっていた。まさかこんな素晴らしいアイデアを
いただけるなんて。
だけど私に神の啓示のように素晴らしいアイデアを
与えてくれたユーリ様はなぜか青くなっている。
「いや、ちょっと待って下さい⁉︎私が猫耳に執事喫茶
までこの世界に持ち込んだなんて文献に残されたら
困ります・・・‼︎」
一体何の話かしら?そこでふとマリーが言う。
「でもプリシラ、ユーリ様なら許されるけどいくら
何でもウェイターがこんな風にお客様へ手ずから食事
を食べさせるのはちょっと行き過ぎじゃない?」
「私でも許されませんよ⁉︎」
まだ金髪美少年からのお菓子を拒んでいるユーリ様が
声を上げた。食べてあげればいいのに。
「そうねぇ・・・。いかがわしいお店と勘違いを
されても困るし。そうだ、それならお客様の目の前で
甘いパンケーキの上にクリームを絞ってあげるのは
どうかしら?ハートを描いたり名前を書いてあげたり
もしくはお客様の希望する絵や文字を描いてあげたり
するのよ!」
「あら、それは素敵ね。喜んでもらえそう。」
賛成したマリーに、ユーリ様は
「え、それってオムライスにハートを描くみたいな?
執事喫茶って言うかメイドカフェ・・・」
と、よく分からないことを言っている。
「ウィリアムの尻拭いをしに来て思いがけない良い
アイデアをいただきました。ありがとうございます、
さっそくこの件は持ち帰って進めさせていただきたい
と思います!」
こうしてはいられない。確か今の店舗の三件先の
家が売りに出ていたはず。まずはそこを買い取って
改装して・・・。ああ、その前に今の店舗のサロンで
試しにカフェをやってみてもいいかも。
「そこの二人の侍従さんも。あなた方のおかげでも
ありますわ、ありがとうございます。」
お礼を言うと、金髪美少年の方があの、と私に声を
かけてきた。
「その侍従の作法を備えた従業員にもう当ては
ありますか・・・?」
そう言われて気付く。そんな作法を備えた従業員を
雇うのは難しいかしら。雇ってから作法を教えても
いいけど、イチから教えるのは大変そうね。
となると、経費が・・・。悩んだ私に金髪美少年が
救いの手を差し出した。
「もしよければ、隣のトランタニア領の行政所へ
従業員の雇用希望申請書を出していただけませんか
・・・?」
え?街の従業員募集広告に載せるんじゃなくて?
「僕もリースも、トランタニア領の孤児院の出身
なんです。トランタニアでは手に職を付ける一環で、
孤児でも早くから侍女や侍従の手習いをする者も
いますからお役に立てるはずです。僕達も最初は
孤児院に併設の職業学校で基本的な事を学びました。
申請書に、侍従の心得がある者と条件を付けて
もらえれば割とすぐにそういった者が見つかると
思います。」
その言葉にもう一人の美少年も頷く。
「懐かしいね。貴族のお屋敷に採用されるとお手当も
良いから、侍従見習いの勉強はみんなに人気だった
なあ。」
なんですって⁉︎そんな事全然知らなかった。
「素晴らしいお話だわ!ぜひ連絡を取らせて
いただきます!」
私の言葉に美少年二人が嬉しそうな笑顔を見せる。
なんて眩しいのかしら。
「ありがとうございます。あの子たちにも働く先が
見つかるのは嬉しいです!」
・・・こうして私の奥の院への訪問はとても実りの
あるものになった。
「プリシラお嬢様、そんなに張り切って大丈夫
ですか?」
ベスは心配そうだ。
「何を言ってるの?商売をするなら夢は大きく、
大志を抱かなきゃ‼︎絶対にたくさんの女の子達に
喜んでもらえるお店をつくってみせるわ!そして
いつかマリーとユーリ様にも来てもらうのよ‼︎」
きっとこのカフェは当たる。商売に関する私のカンは
外れないんだから。
そう。夢は大きく、大志を抱く。お金と商売の
才覚の前には男も女もない、みんな平等なのだ。
この王都でいつか商会を立ち上げるんだから。
改めてそう決意して、夕暮れ時の暮れなずむ王都の
街を私は風を切って歩いて行った。
ただ、騎士団から受け取って来たハンカチとブローチ
を出来れば早くみんなに渡したくて・・・。
今、少しだけいいですか?すぐ済みますので。」
そう言って扉の向こうから顔を覗かせたその女の子は
私にも目を合わせると申し訳なさそうに頭を下げた。
ちょっと。何なのこの子。尋常じゃなく可愛いわ。
今までも貴族の御令嬢を始め美しい人や可憐で
可愛らしい人を何人も見てきたけど、この女の子は
別格だわ。美少女っていうのはこの子のためにある
言葉だとすら思えるもの。
品種改良された絹糸も顔負けの艶めいてなめらかな
黒髪は日差しのない室内なのに天使の輪がはっきりと
見えるくらい輝いている。
猫みたいに少しだけ吊り上がり気味の大きな瞳も
黒曜石のようにまるで吸い込まれそうな美しさだし
すっと通った鼻筋もその鼻の高さも、高すぎず
低すぎずの完璧さ。
小さめの口もその唇に乗る色は口紅をつけていない
のに、自前の色だけでまるで鮮やかな口紅をのせた
ように綺麗なピンク色をしている。
顔のパーツどれをとっても一つ一つが完璧な美しさで
整っていてそれが見事な調和で顔全体を作り上げて
いた。
ああ、この唇に合わせるならどんな色の口紅が映える
かしら?こんなにツヤツヤな黒髪だとうちの店で
扱っている淡いピンク色の真珠の髪飾りがよく
似合いそうね。それともレースのついた鮮やかな色の
リボンの方が黒髪に映えるかしら?それなら何色が?
ついそんなことを考えてしまう。
いけない。可愛い女の子を見るとつい飾りたてたく
なってしまうわ。しかもそれがこんな美少女なら
なおさらに。
私の悪いクセね。内心こっそり反省していると
耳を疑う言葉がマリーの口から出た。
「私のことは気にしないで下さいユーリ様!
さあどうぞこちらへ。紹介しますね、いとこの
プリシラです。王都にお店を出したので今日は私に
挨拶がてら会いに来てくれたんですよ!」
そう言って美少女を室内に招き入れた。
ちょっと。ユーリ様って!
マリーが室内に招き入れてソファの上座に座らせた
その美少女をじっくり見る。
一見大人びて見えるけど、よくよく見ればまだ
12、3歳くらいかしら。
私とマリーの面会を邪魔したと居心地悪そうに
座るその姿は歳よりも少し幼げにも見える。
不思議な子ね。こんな美少女で大人びているように
見えるのに、小さな子にも見えるなんて。
だからかしら。目が離せなくてついつい見つめて
しまうし、なんだか頭を撫でて可愛がってあげたく
なるわ。
様々な奇跡のような出来事を起こして来た人だから、
姫巫女様のように神聖で近寄り難い雰囲気のある
高貴な方を想像していたのに良い意味で予想を
裏切られたわね。
さっきの白い子はユーリ様の侍従かしら?お茶を
淹れにいくと言って下がってしまった。
「それでユーリ様、私にもそれを下さるんですか?」
マリーが可愛くて仕方ないという風にニコニコして
ユーリ様へ話しかけている。
その言葉にあっ、と声を上げたユーリ様は綺麗に
包まれた小さな箱を二つマリーに差し出した。
「この間の街歩きで作った、私の意匠入りのハンカチ
とブローチです。奥の院で働いてくれている人達で
お揃いにしました!ブローチも、私の侍女さんや
侍従さんだって分かるように金の矢とリンゴの
デザインです。」
「ユーリ様の侍女や侍従だけが付けられるブローチ
ですか⁉︎ありがとうございます、大事にしますね。」
さっそくブローチを付けたマリーはすごく嬉しそう。
ここで働く人しか身に付けられない、しかも癒し子様
専属の侍女や侍従の証のブローチだなんて、たとえ
どんなにお金を積んでも手に入れることは出来ない
特別な物だ。
ちょっとだけ羨ましいわね。
そう思いながら、喜ぶマリーとその様子に嬉しそうな
ユーリ様を見ていたらまた部屋の扉が開いた。
「お帰りなさいユーリ様!」
「お疲れ様ですユーリ様!」
あら?さっきの白い子とは違う声ね。
声のする方を見れば、涼しげな目元にグレーの髪色が
優しげな風貌に良く似合っている細身の男の子。
そしてその子より頭一つ分背が低く金髪の巻き毛が
まるで宗教画で見る天使みたいに愛らしい笑顔を
見せる男の子というそれぞれタイプは違うけど
どちらも負けず劣らずな美貌の少年二人組がそこに
立っていた。
侍従のような服装だから、まだ少年のようだけど
ここで働いているのかしら?
二人はその手に爽やかな良い香りがして温かな湯気の
立つタオルや茶器をそれぞれ携えている。
そんな彼らを見て、なぜかユーリ様は聞こえるか
聞こえないか位の小さな声でひぇっ、と悲鳴を
上げた。
こんな美少年二人に微笑みかけられてどうしてそんな
悲鳴みたいな声を?
不思議に思っていたら、キラキラ光る笑顔のまま
二人はまっすぐユーリさまの元へ向かった。
「騎士団は埃っぽかったでしょう?お手をお拭き
しますね。」
グレーの髪色の方の美少年はそう言うとユーリ様の
手を取り丁寧にその指先から指の一本一本を拭いて
いる。
「お茶はこちらに置きますね。歩いて来てお疲れかと
思いますので、いつもより砂糖は一つ多くお入れ
しました。お菓子も食べますか?」
そう言って、金髪巻き毛の美少年の方は雛鳥に餌を
与えるようにユーリ様のあの愛らしい小さな口に
焼き菓子をそっと差し出した。
二人とも私のことはまるで目に入っていないのが
すごいわ。うっとりした目でユーリ様を見つめて、
そのお世話をするのがこの上ない幸せだと全身で
訴えている。
呆気に取られている私にマリーが、いつもの事なの
驚かせてごめんなさいねと苦笑した。
でも当の本人のユーリ様はそんなお姫様以上の
お姫様扱いが恥ずかしいみたいで、
「食べませんよ⁉︎それにお客様の前ですから二人とも
止めて下さい‼︎」
と抗議している。だけど二人とも、
「ユーリ様、ほっぺが赤くなって可愛いです!」
「恥ずかしがっているお顔もとっても可愛いです、
もっとその愛らしいお顔を見せて下さい!」
なんて言ってまるでこたえていない。
ユーリ様はそんな二人の褒め言葉?にも動じないで
話が通じない・・・!と悔しそうにしているけど。
こんな美少年二人に挟まれてかしづかれているのに
なんて謙虚なのかしら。
私だったら喜んでお世話してもらうのに。
こんなにもきらきらのカッコ良くて愛らしい侍従に
かしづかれて誉めそやされて、大切に扱ってもらう
なんてある意味女の子の夢じゃないかしら?
そう思ったら、私の頭に突然あるアイデアが閃いた。
女の子の夢。
・・・そうよ、これだわ!私の新しいお店。
甘いお菓子や綺麗なドレスに鮮やかなリボン、
繊細なレース。そういうものに心をときめかすのも
良いけれど、こんな風に見目麗しい侍従や執事に
お姫様のように大切に扱われたらどんなに素敵
かしら。それはきっと夢のようなひとときになるわ。
「淑女になれるカフェ・・・!悪くないかも。」
ぽつりと呟けば、マリーだけでなくユーリ様にも
きょとんとされる。
「何ですかそれ」
ユーリ様が興味を持たれた。嬉しいわ。
「いえ、街歩きに疲れたお嬢さん方がふと入った
カフェでこんな風に大切なお姫様みたいに扱われたら
素敵だろうなと思いまして。」
「え」
「侍従や執事のような服装と立ち居振る舞いの
ウェイターに、優しく丁寧に扱われたらそのカフェを
訪れるお嬢さん方は誰もが皆、淑女になれるんです。
ですから淑女カフェ?とでも言いましょうか・・・」
アイデアがまだまとまっていないのでうまく言葉に
出来ないけど伝わるかしら?
そう思っていたら、ユーリ様が小さく
「いや、それって執事喫茶・・・」
そんな事を呟いた。なるほど!執事カフェ。
しっくりくるわ。
「素晴らしいですわユーリ様!私の拙い説明から
正確な意図を汲み取るなんてさすが猫耳を流行らせた
お方は違います!執事カフェ、やりますわよ‼︎」
やはりユーリ様に会わなければという私のカンは
当たっていた。まさかこんな素晴らしいアイデアを
いただけるなんて。
だけど私に神の啓示のように素晴らしいアイデアを
与えてくれたユーリ様はなぜか青くなっている。
「いや、ちょっと待って下さい⁉︎私が猫耳に執事喫茶
までこの世界に持ち込んだなんて文献に残されたら
困ります・・・‼︎」
一体何の話かしら?そこでふとマリーが言う。
「でもプリシラ、ユーリ様なら許されるけどいくら
何でもウェイターがこんな風にお客様へ手ずから食事
を食べさせるのはちょっと行き過ぎじゃない?」
「私でも許されませんよ⁉︎」
まだ金髪美少年からのお菓子を拒んでいるユーリ様が
声を上げた。食べてあげればいいのに。
「そうねぇ・・・。いかがわしいお店と勘違いを
されても困るし。そうだ、それならお客様の目の前で
甘いパンケーキの上にクリームを絞ってあげるのは
どうかしら?ハートを描いたり名前を書いてあげたり
もしくはお客様の希望する絵や文字を描いてあげたり
するのよ!」
「あら、それは素敵ね。喜んでもらえそう。」
賛成したマリーに、ユーリ様は
「え、それってオムライスにハートを描くみたいな?
執事喫茶って言うかメイドカフェ・・・」
と、よく分からないことを言っている。
「ウィリアムの尻拭いをしに来て思いがけない良い
アイデアをいただきました。ありがとうございます、
さっそくこの件は持ち帰って進めさせていただきたい
と思います!」
こうしてはいられない。確か今の店舗の三件先の
家が売りに出ていたはず。まずはそこを買い取って
改装して・・・。ああ、その前に今の店舗のサロンで
試しにカフェをやってみてもいいかも。
「そこの二人の侍従さんも。あなた方のおかげでも
ありますわ、ありがとうございます。」
お礼を言うと、金髪美少年の方があの、と私に声を
かけてきた。
「その侍従の作法を備えた従業員にもう当ては
ありますか・・・?」
そう言われて気付く。そんな作法を備えた従業員を
雇うのは難しいかしら。雇ってから作法を教えても
いいけど、イチから教えるのは大変そうね。
となると、経費が・・・。悩んだ私に金髪美少年が
救いの手を差し出した。
「もしよければ、隣のトランタニア領の行政所へ
従業員の雇用希望申請書を出していただけませんか
・・・?」
え?街の従業員募集広告に載せるんじゃなくて?
「僕もリースも、トランタニア領の孤児院の出身
なんです。トランタニアでは手に職を付ける一環で、
孤児でも早くから侍女や侍従の手習いをする者も
いますからお役に立てるはずです。僕達も最初は
孤児院に併設の職業学校で基本的な事を学びました。
申請書に、侍従の心得がある者と条件を付けて
もらえれば割とすぐにそういった者が見つかると
思います。」
その言葉にもう一人の美少年も頷く。
「懐かしいね。貴族のお屋敷に採用されるとお手当も
良いから、侍従見習いの勉強はみんなに人気だった
なあ。」
なんですって⁉︎そんな事全然知らなかった。
「素晴らしいお話だわ!ぜひ連絡を取らせて
いただきます!」
私の言葉に美少年二人が嬉しそうな笑顔を見せる。
なんて眩しいのかしら。
「ありがとうございます。あの子たちにも働く先が
見つかるのは嬉しいです!」
・・・こうして私の奥の院への訪問はとても実りの
あるものになった。
「プリシラお嬢様、そんなに張り切って大丈夫
ですか?」
ベスは心配そうだ。
「何を言ってるの?商売をするなら夢は大きく、
大志を抱かなきゃ‼︎絶対にたくさんの女の子達に
喜んでもらえるお店をつくってみせるわ!そして
いつかマリーとユーリ様にも来てもらうのよ‼︎」
きっとこのカフェは当たる。商売に関する私のカンは
外れないんだから。
そう。夢は大きく、大志を抱く。お金と商売の
才覚の前には男も女もない、みんな平等なのだ。
この王都でいつか商会を立ち上げるんだから。
改めてそう決意して、夕暮れ時の暮れなずむ王都の
街を私は風を切って歩いて行った。
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二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
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