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挿話 突撃・隣の夕ごはん

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タラコスパゲティにクリーム煮のパイ包み焼き、
シーフードサラダ、魚介類がたっぷり入っている
トマトスープ。

マリーさんが前もって注文しておいてくれたお料理が
どんどん私達のテーブルに運ばれてきた。

それを運んでくれたのはニックさんと、これまた
久しぶりに会えたウェンディさんだ。

「あー、ホントにリリちゃんだ!会えて嬉しい‼︎
あれ?今日はあの色男さんは一緒じゃないの⁉︎」

華やかな笑顔でお皿を置いてくれたウェンディさんが
きょろきょろする。

ウェンディさんもシェラさんが私の恋人だって
誤解してるのかな。

「あの時はウェンディさんにもお世話になりました!
急にいなくなってごめんなさい。」

そうお礼と謝罪をすれば、

「いいのよ!事情は聞いたから。こっちこそ、
リリちゃんの話をちゃんと聞かずに勝手に働かせて
しまってごめんねぇ。ていうか、リリちゃんを
連れ戻しに来たあの色男さんとその後進展は⁉︎」

ワクワクした顔でウェンディさんが私を見てくる。

進展・・・?やっぱり何か誤解している。

「シェラさんとはなんでもない仲ですよ。迷子に
なった私を探し出してくれただけですから!」

「え、ホントに?それニックにも言った?」

「シェラさんはただの護衛だってことは言いました
けどそれが何か?」

そう答えれば、なぜかウェンディさんの顔が
笑み崩れた。

「なんだ、そっかあ!そうなのね~。リリちゃんの
恋バナ、聞きたかったのになあ。」

「恋バナするような相手はいませんよ?」

まさかリオン様達の話をするわけにもいかないし。

そう思いながら話せば、ウェンディさんは楽しそう
にテーブルの上のお皿をてきぱきと並べる。

「あらそうなの!そういうお相手はまだいないと。」

あの色男さん、かわいそうだわーと言っているから
やっぱりウェンディさんは何か誤解している。

「じゃあごゆっくり!またニックがお皿を下げに
くるから相手をしてやってね!」

そうウィンクをしてウェンディさんは下がって
しまった。

「・・・はっきり言ってやる方が彼にとっても
良くないですか?」

私とウェンディさんの会話を聞いていたデレクさんが
またエル君にこそこそと話している。

「そうですね。まさか周りの人間も彼を煽っている
とは思いませんでした。マリーさん、後でこっそり
彼に話をしてもらってもいいですか?」

「承知しました。なるべくニックを傷付けないように
見込みはないという事を伝えますね。」

エル君達のこそこそ話に巻き込まれたマリーさんも
頷いているけど、私だけ話が全く見えない。

「みんなしてなんの話ですか?」

なんか教えてくれなさそうだけど一応聞いてみた。

思った通りマリーさんは

「いえ、こちらの話です。そんな事よりリリ様は
今度こそお食事を楽しんで下さいね。ほら、こちらは
熱いうちがおいしそうですよ。」

やっぱり教えてくれなかった。気になるけど一度
食事を口にすれば、すぐにそのおいしさに夢中になり
エル君達の話を忘れてしまう。

その間も何度かニックさんがお皿を下げに来たり
デザートを持って来てくれたりして、その度に何か
言いたそうにしていた。

何だろう?と思っていたけどお会計をするマリーさん
を残して外で待っていたら、わざわざ見送りに出て
来てくれたニックさんの様子がさっきまでと違って
ヘンだった。

私をじっと見てため息をつくと、

「・・・こんな歳からもう将来が決まってるなんて
貴族のお嬢様は大変なんだなあ。」

そう言われた。何のことか分からなかったけど、
ご飯がとてもおいしかったことを笑顔で伝えれば
そんな私を見つめたニックさんは嬉しそうにまた
ほんのりと頬を染めた。

「リリちゃんの所で厨房に人を募集はしてないの?
もし空きがあったら行きたいからその時はぜひ声を
かけてもらえれば・・・」

「往生際が悪いですよニックさん。」

名残惜しそうなニックさんをマリーさんがピシャリと
遮った。

「え?ニックさんうちで働きたいんですか?」

マリーさんを見上げれば、

「リリ様にお仕えしたいという人は護衛騎士から庭師
に至るまでたくさんいますからね。わざわざそんな
採用枠の狭いところに将来有望なニックさんが来る
のは勿体無いです。」

そんな事を言う。なるほど、こんな人気店をやって
いるニックさんを奥の院に採用するのはここの食事を
楽しみにしている街の人達がかわいそうだ。

ていうか、奥の院で働きたい人達がたくさんいる
なんて話も全然知らなかった。

「また王都に遊びに来る時は立ち寄りますから。
その時はぜひまたお話して下さいね!」

マリーさんに断られてなんだか少し気落ちしている
ニックさんを励ますように笑いかける。

そうすればじっと見つめられ、待ってるよ。と
ニックさんに見送られた。

「・・・ユーリ様のお姿でないのに人を惹きつける
のはさすがというか何というか。しかしあれでは
いつまで経っても『リリ様』を忘れられないのでは
ありませんか?」

また私と手を繋いで歩いているデレクさんがそんな
ことを言って、マリーさんは苦笑いしている。

「いっそ正体を打ち明けた方が諦めがついて良かった
のかも知れませんね。」

それは困る。せっかく仲良くなったのに、私が
癒し子だと知って変に恐縮されては悲しい。

「あそこへはまた気軽にご飯を食べに行きたいし、
ニックさん達ともおしゃべりをしたいのでそれは
困ります!絶対に私の正体は明かさないで下さいね」

お願いします!と二人を見上げれば、マリーさんと
デレクさんには一瞬言葉に詰まった後にため息を
つかれてしまった。

「・・・このお姿でも充分可愛らしいのに、さらに
そんな風にかわいくお願いをされると困ってしまい
ますね。」

そう笑ったマリーさんにデレクさんも

「隊長とレジナス様が心配する気持ちも分かります、
こんなに愛嬌のある方が街で目立たないわけが
ありません。絶対に手を離さないように、護衛にも
改めて身を入れます。」

そんな事を言って私と繋ぐ手をしっかりと握り
直した。

そうしてニックさんの食堂を後にしてからは、
ユリウスさんの家へ持っていく手土産を選びそれを
夕食会の前日に奥の院に届けてもらうようにしたり
プリシラさんのお店に寄ったりした。

・・・プリシラさんが新しく出した例の執事喫茶
もどきはすごく繁盛していた。

働いている人達はアンリ君達がおすすめしてくれた
トランタニア領の孤児達で、採用後はさらに講師を
雇ってより貴族の侍従らしさに磨きをかけさせた
らしい。

みんなキラキラした笑顔の素敵な人達で、アイドル
みたいにかわいい感じから格好いい人、孤児という
には年嵩で渋い雰囲気の落ち着いたイケおじ風の人
まで従業員のラインナップに隙がない。

そしてみんな丁寧かつ親切な押し付けがましくない
接客で、こちらの気分を良くさせつつもイケメンに
弱い私でも緊張することのない雰囲気作りにも
長けている。

さすが、全ての女の子の夢を叶えるのよー!と
気勢を上げて奥の院から帰っていったプリシラさんが
張り切って作ったお店だけある。

「これ、好みの人がいたら指名できるとか貢いで
しまう人が出てこないか心配になりますね・・・」

周りを見渡せば、目をハートマークにして接客を
受けているご婦人方も少なくない。

デレクさんは

「俺みたいな男がいていいのかちょっと戸惑って
しまいますね。見事に女性ばかりで男の客があまり
見えないので」

と少し居心地悪そうだ。確かに男性客は少ない。
お客さんに護衛でついて来たらしい男の人達も何人か
いるけど、その人達もデレクさんみたいに少しだけ
都合悪そうにしているようにも見える。そこへ、

「貢がれたり愛人に引き抜こうとされたりしない
ようにその辺りの待遇には気を使っていますし、
元からそんな軟弱な人は採用しないようにしています
から大丈夫ですわ!私、人を見る目と商売のカンには
自信がありますの‼︎」

自信に満ちたプリシラさんの声が後ろからした。

振り返ればプリシラさん本人がにこにこしてそこに
立っていた。

「それに、女の子達を丁寧に扱う様子はぜひ世の
男性達にも参考にしていただきたいですわ。
そうすればお付き合いしている方の心を更にグッと
掴む事間違いなし!・・・ようこそ、リリ様。
お立ち寄りいただき大変光栄ですわ。」

力説したプリシラさんはとても綺麗な仕草で私達に
礼をして歓迎してくれた。


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