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挿話 突撃・隣の夕ごはん

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「リッ、リオン様も今日も朝からとってもカッコいい
ですよ⁉︎いつもカッコいいですけども!」

い、言えたー!

ガッチガチに緊張した私は心の中でガッツポーズを
した。

目の前ではリオン様が、その後ろではレジナスさんが
目を丸くして私を見ている。

そう。私が売り言葉に買い言葉でユリウスさんから
「夕食会までにはリオン殿下のことをちゃんと褒めて
あげるっすよ!」という無茶振り?をされてから
すでに数日が経っていた。

そして今朝ついに言えたのだ。夕食会はもう明日だ。

私って、切羽詰まらないと本気が出ないんだなと
実感した。

でもまあ、これで夕食会でのおいしい食事の品数が
減ることはないはずだ。

今朝もいつものように縦抱きをされると朝の挨拶で
リオン様から頬に口付けを受けて、まじまじと目を
見つめられて微笑まれた。そしていつものように

「今日も朝からかわいいね、おはようユーリ。」

そう言われた。ユリウスさんと約束してからは
毎朝リオン様にそんな風に言われるたびに、私だって

『リオン様の方こそカッコいいですよ!』

と返そうと思って脳内でのシミュレーションは
ばっちりだった。

でもいざ言おうとすると今まで一度も言ったこと
ないのに突然何の脈絡もなくそんな事を言うのって
ヘンじゃないかな⁉︎と心の片隅で冷静にツッコミを
入れる自分がいた。

だから毎回、はくはくと口を開いては閉じて赤くなり
ただ『ありがとうございます・・・』と目を逸らして
お礼を言うだけになっていた。

まあリオン様は私が単純に照れてるだけだと思って
そんな私をかわいい!と言ってさらに抱きしめて
くるだけだったけど。

まるでぬいぐるみのように、ぎゅうぎゅうに抱きしめ
られながらこれではダメだ、逃げちゃダメだと内心
私は追い詰められていた。

それをここに来てやっと言えた!

やったね!と嬉しくなって笑顔になれば、

「あ・・・ありがとう。え?どうしたのユーリ。
まさかそんな事を言われるなんて、思っても
見なかったけど嬉しいよ。」

はっと我に返ったリオン様が目を瞬いてお礼を
言ってくれた。

あれ?あんまり嬉しそうじゃないような・・・。

ユーリ様は言葉足らずなんすよ!と言うユリウスさん
の言葉を思い出す。

もしかしてまだ言葉が足りてない?うまく伝わって
ないのかな⁉︎

どんないいことを言ってもそれが本心だと相手に
伝わっていなければ意味がない。

「ほ、ほんとに‼︎朝から笑顔がキラキラしていて
王子様みたいで素敵ですよ⁉︎いえ、王子様なんです
けど!リオン様はいつもすごく優しくてカッコいい
私の王子様です!」

どうだろう、これでリオン様のことをちゃんと
カッコいいと思っていることは伝わったかな。

一生懸命にそう言えば、いつもの私のようにリオン様
がみるみる赤くなってきた。

「いや、本当にどうしたの・・・。ユーリ、僕の事を
そんな風に思ってくれていたの・・・?」

初めて聞いた、と呟いたリオン様に言って良かったと
思う反面、今まで一度もそんな事を伝えたことが
なかったのを後悔した。

反省・・・と壁に手をついて俯くサルの気持ちで
いたら、リオン様に縦抱きされているその向こう側の
レジナスさんと目が合った。

あっ、そうだ。レジナスさんも同じように褒めようと
思ってたんだっけ。

伴侶を平等に扱うのが円満の秘訣だってリオン様も
言ってたなあ。

リオン様の肩越しに、目の合ったままのレジナスさん
にも声を掛ける。

「レジナスさんもおはようございます!今日も朝から
騎士服が良く似合っていてカッコいいですよ‼︎朝の
光に瞳のオレンジ色が輝いていてとても綺麗です!」

そしたらレジナスさんが瞬間湯沸かし器みたいに
赤面すると、ごほっとむせた。

「レジナスさん⁉︎」

まさかむせるとは思わなかった。私の褒め方がどこか
おかしくて驚かせたんだろうか。

げほごほと顔を真っ赤にして何度か咳き込んだ
レジナスさんは、ようやく落ち着いたのかその赤く
なった顔に手を当てたまま

「・・・いや、おかしいだろう。顔の一部とは言え
俺に対して綺麗だなどと言うのはユーリくらいのもの
だぞ・・・」

そう呟いて深呼吸をするようにふーっと深く息を
吐いた。

こっちもあんまり喜んでいないような・・・?

「おかしくないですよ⁉︎レジナスさんみたいに綺麗な
オレンジ色の瞳の人は他にいませんから!その顔を
ずーっと見ていられます‼︎」

私の褒め言葉が伝わっているかどうか不安なので
レジナスさんにもそう言葉を重ねれば、

「わ、分かったから・・・!照れるからそれ位にして
くれないか⁉︎」

本人はとうとう私から顔どころか体を背けて
ストップをかけるようにこちらに手をかざした。

よし、照れてるということは私の褒めがちゃんと
伝わったんだね⁉︎

その場の勢いに乗ってなんとかミッションはクリア
した。二人ともちゃんと褒めたぞ。

「レジナスの顔を瞳が綺麗でずっと見てられるとか
言うのは相当な口説き文句だと思うよユーリ・・・」

ましてやレジナスは自分の強面な顔を気にしてるし、
君がシグウェルの顔に弱いことも分かっているだけに
相当嬉しいんじゃないかな。と私を抱きしめたままの
リオン様が言った。

レジナスの事をそんな風に思ってくれていて
ありがとう、とも。

「でも本当に、急にそんな事を言い出して一体
どうしたの?もちろんユーリにそんな風に言って
もらえるのは嬉しいけど。」

不思議そうに私を見つめるリオン様の頬はだいぶ
赤みが薄れて来ている。ようやく冷静になってきた
らしい。

「この間ユリウスさんと話していて、リオン様は
私のことを褒めてくれるのに私はそんな風に言った
ことがないって話になって・・・」

「それでか。じゃあこの間から朝会うたびにいつも
何か言いたそうにしていたのもそれだったの?」

納得したように頷いたリオン様に今度は私の方が
赤くなる。

「バレてました⁉︎」

「照れてるだけにしては何か言いたそうだなあとは
思っていたけど。・・・そう、ユリウスとの会話が
きっかけで僕達をどう思っているか気持ちを伝えて
くれようとしたの。」

あいつもたまにはいい事をするね、とリオン様は
上機嫌だ。

ただし機嫌の良くなったリオン様はその後、朝食の
席でもずっと私を離してくれなくてその膝の間に
挟み込むように座らせられた。しかも

「毎日さっきみたいな事を僕達に言ってくれても
いいんだよ?」

と言って来たけど無理だから。ごく一般的な日本人の
私が朝っぱらから毎日カッコいいとか素敵とか相手に
言うのはハードルが高過ぎる。

「そ、そのうちまた機会があったらにします!」

そう答えれば、いつもならしつこく食い下がって
お願いユーリ。とか言ってくるリオン様が仕方ないね
と機嫌良く許してくれた。

まさか褒めの効果がこれほどだとは。

また機会があったら、なんて逃げの姿勢で答えたけど
これは本当にたまに二人を褒めてあげた方がいいかも
知れない、と思い直した。

ちなみに上機嫌なリオン様はユリウスさんの家の
夕食会に最高級のワインをいくつか手土産に持たせて
くれることになった。

そのためそれはお酒の好きなユリウスさんのお父様
・・・騎士団の団長さんにはとても喜ばれることに
なったのだった。









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