448 / 634
第十八章 ふしぎの海のユーリ
30(あるいはおまけの後日談・3)
しおりを挟む
「レジナス、あなた二日後にユーリ様のお部屋に行ってください。
その時ユーリ様に着ていただく夜着の候補は三つほど見繕ってあなたの部屋に並べてきましたから、その中から選んで明日までにそれをシンシアに渡しておいてくださいね。」
ある日のことだ。突然シェラがそんなことを俺に言ってきた。
話していることの何もかもがおかしい。
・・・酔っているのか?まだ昼間だが。
ちょうど時間は昼どきで、場所はリオン様の執務室だった。
自分の机で軽食を食べていたリオン様と接客用テーブルで同じような昼食を食べていた俺の二人は呆気に取られた。
「来るなり突然何を言ってるんだお前は」
「前に伴侶四人で集まった時に話したでしょう?皆が平等にユーリ様と共寝をするべきだと。
そして先日リオネルではシグウェル魔導士団長もその手にユーリ様を抱きしめて昼寝を楽しまれました。
残るはあなただけです。」
シェラの言葉にリオン様がちょっと待って!と声を上げて立ち上がった。
「ユーリがシグウェルに抱きついて昼寝したなんて話、僕は聞いてないんだけど。」
「正確には逆です。ユーリ様が、ではなくシグウェル魔導士団長が抱きしめていたのでご安心を。
起きた時のユーリ様は大変驚かれていました。」
「あ、そう・・・」
シェラの説明にリオン様はストンと座り直した。
まあ気持ちは分からないでもない。
あの恥ずかしがり屋なユーリの方から抱きついてきて眠るなど酔っているか寝ぼけてでもいなければ絶対に有り得ない。
それにいくら同じ立場の伴侶でも今までに何度か夜に一緒に寝たこともある自分を差し置いてそんな事をされたら、リオン様だって複雑だろう。
・・・いや、今は人のことではなく俺のことを考えなければ。
「それにしたって急過ぎるだろう⁉︎奥の院の本館に越してきたのもつい先日だというのに、もう夜に一緒に寝ろだなどとユーリも驚くだろうが!」
「兵は拙速を尊ぶ、とは勇者様の伝えたあちらの世界の言葉でしたか。その通りだと思いますね。
こういうことは勢いに乗って早くした方が気恥ずかしさも感じにくいものです。
ではそういうことで。オレはこれから同じことをユーリ様にも伝えてこなければいけませんので。」
自分の言いたいことだけ言ったシェラはリオン様に退出の挨拶をするとさっさといなくなってしまった。
「・・・いいんじゃないかな。」
少しの沈黙の後、リオン様はそう言った。
「リオン様⁉︎」
「確かに少し強引だけど、このままだと君、僕らの誰よりもユーリとの仲の進展が遅そうだし。
二日後だろう?ちょうど僕が兄上の所を訪れる日だ。
シェラはそこまで考えていたんだろうねぇ・・・。
じゃあその日は兄上の所で夕食を取ったらそのまま泊まってくるよ。
翌日も兄上の所から直接執務室に向かうから迎えに来なくてもいい、朝もユーリと一緒に朝食をとってからここに来てくれる?」
ふむ、と考えたリオン様はそんな事を言うと俺が口を挟む間もなくイリヤ殿下へ宿泊したい旨の手紙をしたためてそれを侍従に渡してしまった。
・・・その後はなんだかよく分からないまま、なし崩しにユーリの部屋に泊まる流れが出来上がってしまっていた。
自分の部屋に戻ればシェラの言ったように女性ものの夜着が三着綺麗に並べてある。
マリーまでやって来てその違いの説明をされて、どれにしますかと急かされた。
仕方ないのでユーリの瞳の色のような藍色の丈が長い無難なものを選ぶとマリーに
「やっぱりそれを選ぶと思いました。もっとご自分の着て欲しいものを選んでもいいのに、ユーリ様が恥ずかしがらなそうな物を選ぶなんてレジナス様はお優しいですね!」
と言われた。他の二つはどれも普段ユーリが着るものよりも丈が短めだったり肌が出ているような気がして、それが一番まともだったのだ。
もしかするとシェラなりの譲歩で一つだけまともな物を入れておいてくれたのかも知れない。
その割にやる事が強引で気の使い方が間違っていると思うが。
そう思っていたら今度はまたシェラが現れた。
ぽんと俺に生成りの上下の夜着を投げて寄越す。
「いつものように上半身裸でユーリ様と寝られても困りますからね。
シンシア達は忙しいので特別にオレがあなたの分の夜着を仕立ててあげましたよ、まったく手のかかる男です。」
やれやれと恩着せがましく首を振られたが誰もそんな事は頼んでいない。
まあ確かに、俺たち王族に近い騎士やシェラのような特殊な騎士はいつ何時、どんな事態にも対応して駆け付けられるように寝る時も夜着やくつろいだ服は着ない。
起きた瞬間すぐに隊服を着て動くために普段は下着しか身に付けずに寝るのが基本だ。
もしくは隊服のまま寝ることもある。
そのためこういった夜に誰かと一緒にいる事を前提にしたまともな夜着を持っていないのも事実だった。
だからといってまさかこいつにそんな夜の支度まで面倒を見られるとは思わなかったが。
「感謝するべきなのか・・・?」
「そうですよ。何が悲しくてあなたの夜着をオレが縫うんですかねぇ。
ちなみに普段から何も着ないで寝ている人が突然夜着なんて着て夜中に暑くて脱ぎ出さないようにボタンも付けていますから。
暑いようならそれで調節してください。絶対にユーリ様の前で裸で寝るようなことはしないでくださいね?」
そんな念押しまでされて、あっという間にユーリと一緒に寝る日を迎えた。
正直その日の午後リオン様と別れてからの記憶が曖昧だ。
じゃあねレジナス、頑張って!とにこやかにリオン様が手を振って行ったのは覚えている。
頑張るって何を?と思ったからだ。
だがその後は気付いたら薄暗い室内で、羊のぬいぐるみを抱きしめたユーリと二人であの広く大きなベッドの上にいた。
目の前のユーリは困惑していた。
それはそうだろう、本当に一体どうしてこうなった?
しばしの間ポツポツとユーリと会話を交わし、ふとした拍子に目の前のユーリを見た。
薄暗い中、室内に差し込む月明かりに照らされるその顔と瞳の美しさはハッと息を呑むほどだった。
夜着と同じ色に輝きこちらをじっと見つめるあの瞳。
ベッドの上に広がった夜着の裾から少しだけ見えている白くて小さな可愛らしい足先。
少しだけ透ける素材で作られた夜着の長袖は、逆にそのうっすらと透けた様子が夜の闇になじんで艶めかしく見えた。
このまま一緒の布団で寝るのは無理だ。
そう思って反射的に上掛け毛布の一つを手に取りベッドを降りた。
そうだ、朝になって同じ部屋から出て行けば夜に同じ布団で寝たかどうかなど誰にも分からないじゃないか。
この部屋は陛下の意向でまるで王妃殿下の部屋のように豪奢な作りだ。
室内にあつらえてある家具も絨毯も、そこで寝ても体が痛くなるようなことにはならないだろう。
そう考えたのになぜかユーリがそれを許さなかった。
ダメですよ、と声を上げて俺に駆け寄る。
夜なので周囲に気を遣ったのだろうその密やかな小声が妙に艶めいて俺の耳に聞こえた。
裸足の小さな足音がして目の前に回り込んだかと思うとそのまま手を取られる。
手、というか指か。
ユーリに俺の手は大きすぎて掴みきれず指を数本握られた。
なんだそのかわいい仕草は。思わず心臓が跳ねる。
目の前のユーリはそのまま必死に俺にベッドへ戻るように話していた。
ふぬ、と思い切り俺の手を引こうと頑張って体が斜めになっていたがそんなことで俺が動くはずもなく。
頑張って力を入れて引いている割にその片手からはぬいぐるみも離さない。
それを置いて両手で引くほうがいいと思うんだがそんな事にも気付かず必死な様子がものすごく可愛らしかった。
思わずその必死な様子をぼんやりと眺めてしまい、このままではユーリも寝られないことにそこでやっと気付いた。
仕方ない、とりあえず一緒の布団に入りユーリが寝たら抜け出そう。
そう思ってユーリを抱き上げベッドへ戻る。
リオン様と話していた時はあの恥ずかしがり屋なユーリの方から抱きついてきて眠るなど絶対にあり得ないと思っていたのに、こうしてユーリから一緒に寝るように誘われてしまっている。
リオン様どころか多分他の誰にもしていないだろうそんなことを、ユーリは俺だけにした。
その事実に面映くなり、リオン様に申し訳なさを感じつつも同時にひっそりと喜びも感じる自分がいた。
布団に入り、一応距離を取ろうとすれば逆にユーリの方から近付かれ手を握っていて欲しいとねだられる。
ユーリがそう言うならと、そっと手を差し出せばしっかりと握りしめられた。
俺の方が体温が高いからかユーリのぬくもりはよく分からずに、その柔らかな手の感触だけが伝わる。
そんな繋いだ手を確かめたユーリは横になったまま艶やかな笑顔を俺に見せた。
夜の闇の中、薄明かりに照らされたその笑顔は明るい陽の光の下で見るのと同じいつもの無邪気な笑顔のはずなのに、それが夜で俺の隣に横になっているというだけで妙に落ち着かない。
微笑むその姿がなぜかあの美しく成長した姿と重なりほんのりとした色気を含んだ顔に見えた。
その頬に触れたい。
そう思って繋いでいない方の手が一瞬ぴくりと動いたが自制する。
これ以上触れたらまずい気がした。歯止めが効かなくなったら大変だ。
反射的に、ユーリに挨拶も交わさずに顔を背けてしまった。
おやすみの挨拶で口付けでもされたらもっとまずい。
ユーリがそんなことをしないでくれて良かった。
俺の隣で目を閉じたらしいユーリを背けた顔を元に戻してそっと見つめる。
多分今夜は眠れないだろう。
それでもこの美しい寝顔を飽きることなく眺めていれば、ベッドを抜け出す暇もなくきっと夜はあっという間に明けてしまう。
朝が来て、輝く朝日に煌めくユーリの白く滑らかな肌と黒髪を目にし、あの長いまつ毛が持ち上がって美しい瞳で見つめられ清らかな笑顔を向けられればこの一抹のよこしまな気持ちも消え失せるだろうか。
そうしたら、朝の挨拶で俺の方から口付けたい。
そう思いながらすうすうと小さな寝息を立て始めたユーリをいつまでも俺は眺めていた。
その時ユーリ様に着ていただく夜着の候補は三つほど見繕ってあなたの部屋に並べてきましたから、その中から選んで明日までにそれをシンシアに渡しておいてくださいね。」
ある日のことだ。突然シェラがそんなことを俺に言ってきた。
話していることの何もかもがおかしい。
・・・酔っているのか?まだ昼間だが。
ちょうど時間は昼どきで、場所はリオン様の執務室だった。
自分の机で軽食を食べていたリオン様と接客用テーブルで同じような昼食を食べていた俺の二人は呆気に取られた。
「来るなり突然何を言ってるんだお前は」
「前に伴侶四人で集まった時に話したでしょう?皆が平等にユーリ様と共寝をするべきだと。
そして先日リオネルではシグウェル魔導士団長もその手にユーリ様を抱きしめて昼寝を楽しまれました。
残るはあなただけです。」
シェラの言葉にリオン様がちょっと待って!と声を上げて立ち上がった。
「ユーリがシグウェルに抱きついて昼寝したなんて話、僕は聞いてないんだけど。」
「正確には逆です。ユーリ様が、ではなくシグウェル魔導士団長が抱きしめていたのでご安心を。
起きた時のユーリ様は大変驚かれていました。」
「あ、そう・・・」
シェラの説明にリオン様はストンと座り直した。
まあ気持ちは分からないでもない。
あの恥ずかしがり屋なユーリの方から抱きついてきて眠るなど酔っているか寝ぼけてでもいなければ絶対に有り得ない。
それにいくら同じ立場の伴侶でも今までに何度か夜に一緒に寝たこともある自分を差し置いてそんな事をされたら、リオン様だって複雑だろう。
・・・いや、今は人のことではなく俺のことを考えなければ。
「それにしたって急過ぎるだろう⁉︎奥の院の本館に越してきたのもつい先日だというのに、もう夜に一緒に寝ろだなどとユーリも驚くだろうが!」
「兵は拙速を尊ぶ、とは勇者様の伝えたあちらの世界の言葉でしたか。その通りだと思いますね。
こういうことは勢いに乗って早くした方が気恥ずかしさも感じにくいものです。
ではそういうことで。オレはこれから同じことをユーリ様にも伝えてこなければいけませんので。」
自分の言いたいことだけ言ったシェラはリオン様に退出の挨拶をするとさっさといなくなってしまった。
「・・・いいんじゃないかな。」
少しの沈黙の後、リオン様はそう言った。
「リオン様⁉︎」
「確かに少し強引だけど、このままだと君、僕らの誰よりもユーリとの仲の進展が遅そうだし。
二日後だろう?ちょうど僕が兄上の所を訪れる日だ。
シェラはそこまで考えていたんだろうねぇ・・・。
じゃあその日は兄上の所で夕食を取ったらそのまま泊まってくるよ。
翌日も兄上の所から直接執務室に向かうから迎えに来なくてもいい、朝もユーリと一緒に朝食をとってからここに来てくれる?」
ふむ、と考えたリオン様はそんな事を言うと俺が口を挟む間もなくイリヤ殿下へ宿泊したい旨の手紙をしたためてそれを侍従に渡してしまった。
・・・その後はなんだかよく分からないまま、なし崩しにユーリの部屋に泊まる流れが出来上がってしまっていた。
自分の部屋に戻ればシェラの言ったように女性ものの夜着が三着綺麗に並べてある。
マリーまでやって来てその違いの説明をされて、どれにしますかと急かされた。
仕方ないのでユーリの瞳の色のような藍色の丈が長い無難なものを選ぶとマリーに
「やっぱりそれを選ぶと思いました。もっとご自分の着て欲しいものを選んでもいいのに、ユーリ様が恥ずかしがらなそうな物を選ぶなんてレジナス様はお優しいですね!」
と言われた。他の二つはどれも普段ユーリが着るものよりも丈が短めだったり肌が出ているような気がして、それが一番まともだったのだ。
もしかするとシェラなりの譲歩で一つだけまともな物を入れておいてくれたのかも知れない。
その割にやる事が強引で気の使い方が間違っていると思うが。
そう思っていたら今度はまたシェラが現れた。
ぽんと俺に生成りの上下の夜着を投げて寄越す。
「いつものように上半身裸でユーリ様と寝られても困りますからね。
シンシア達は忙しいので特別にオレがあなたの分の夜着を仕立ててあげましたよ、まったく手のかかる男です。」
やれやれと恩着せがましく首を振られたが誰もそんな事は頼んでいない。
まあ確かに、俺たち王族に近い騎士やシェラのような特殊な騎士はいつ何時、どんな事態にも対応して駆け付けられるように寝る時も夜着やくつろいだ服は着ない。
起きた瞬間すぐに隊服を着て動くために普段は下着しか身に付けずに寝るのが基本だ。
もしくは隊服のまま寝ることもある。
そのためこういった夜に誰かと一緒にいる事を前提にしたまともな夜着を持っていないのも事実だった。
だからといってまさかこいつにそんな夜の支度まで面倒を見られるとは思わなかったが。
「感謝するべきなのか・・・?」
「そうですよ。何が悲しくてあなたの夜着をオレが縫うんですかねぇ。
ちなみに普段から何も着ないで寝ている人が突然夜着なんて着て夜中に暑くて脱ぎ出さないようにボタンも付けていますから。
暑いようならそれで調節してください。絶対にユーリ様の前で裸で寝るようなことはしないでくださいね?」
そんな念押しまでされて、あっという間にユーリと一緒に寝る日を迎えた。
正直その日の午後リオン様と別れてからの記憶が曖昧だ。
じゃあねレジナス、頑張って!とにこやかにリオン様が手を振って行ったのは覚えている。
頑張るって何を?と思ったからだ。
だがその後は気付いたら薄暗い室内で、羊のぬいぐるみを抱きしめたユーリと二人であの広く大きなベッドの上にいた。
目の前のユーリは困惑していた。
それはそうだろう、本当に一体どうしてこうなった?
しばしの間ポツポツとユーリと会話を交わし、ふとした拍子に目の前のユーリを見た。
薄暗い中、室内に差し込む月明かりに照らされるその顔と瞳の美しさはハッと息を呑むほどだった。
夜着と同じ色に輝きこちらをじっと見つめるあの瞳。
ベッドの上に広がった夜着の裾から少しだけ見えている白くて小さな可愛らしい足先。
少しだけ透ける素材で作られた夜着の長袖は、逆にそのうっすらと透けた様子が夜の闇になじんで艶めかしく見えた。
このまま一緒の布団で寝るのは無理だ。
そう思って反射的に上掛け毛布の一つを手に取りベッドを降りた。
そうだ、朝になって同じ部屋から出て行けば夜に同じ布団で寝たかどうかなど誰にも分からないじゃないか。
この部屋は陛下の意向でまるで王妃殿下の部屋のように豪奢な作りだ。
室内にあつらえてある家具も絨毯も、そこで寝ても体が痛くなるようなことにはならないだろう。
そう考えたのになぜかユーリがそれを許さなかった。
ダメですよ、と声を上げて俺に駆け寄る。
夜なので周囲に気を遣ったのだろうその密やかな小声が妙に艶めいて俺の耳に聞こえた。
裸足の小さな足音がして目の前に回り込んだかと思うとそのまま手を取られる。
手、というか指か。
ユーリに俺の手は大きすぎて掴みきれず指を数本握られた。
なんだそのかわいい仕草は。思わず心臓が跳ねる。
目の前のユーリはそのまま必死に俺にベッドへ戻るように話していた。
ふぬ、と思い切り俺の手を引こうと頑張って体が斜めになっていたがそんなことで俺が動くはずもなく。
頑張って力を入れて引いている割にその片手からはぬいぐるみも離さない。
それを置いて両手で引くほうがいいと思うんだがそんな事にも気付かず必死な様子がものすごく可愛らしかった。
思わずその必死な様子をぼんやりと眺めてしまい、このままではユーリも寝られないことにそこでやっと気付いた。
仕方ない、とりあえず一緒の布団に入りユーリが寝たら抜け出そう。
そう思ってユーリを抱き上げベッドへ戻る。
リオン様と話していた時はあの恥ずかしがり屋なユーリの方から抱きついてきて眠るなど絶対にあり得ないと思っていたのに、こうしてユーリから一緒に寝るように誘われてしまっている。
リオン様どころか多分他の誰にもしていないだろうそんなことを、ユーリは俺だけにした。
その事実に面映くなり、リオン様に申し訳なさを感じつつも同時にひっそりと喜びも感じる自分がいた。
布団に入り、一応距離を取ろうとすれば逆にユーリの方から近付かれ手を握っていて欲しいとねだられる。
ユーリがそう言うならと、そっと手を差し出せばしっかりと握りしめられた。
俺の方が体温が高いからかユーリのぬくもりはよく分からずに、その柔らかな手の感触だけが伝わる。
そんな繋いだ手を確かめたユーリは横になったまま艶やかな笑顔を俺に見せた。
夜の闇の中、薄明かりに照らされたその笑顔は明るい陽の光の下で見るのと同じいつもの無邪気な笑顔のはずなのに、それが夜で俺の隣に横になっているというだけで妙に落ち着かない。
微笑むその姿がなぜかあの美しく成長した姿と重なりほんのりとした色気を含んだ顔に見えた。
その頬に触れたい。
そう思って繋いでいない方の手が一瞬ぴくりと動いたが自制する。
これ以上触れたらまずい気がした。歯止めが効かなくなったら大変だ。
反射的に、ユーリに挨拶も交わさずに顔を背けてしまった。
おやすみの挨拶で口付けでもされたらもっとまずい。
ユーリがそんなことをしないでくれて良かった。
俺の隣で目を閉じたらしいユーリを背けた顔を元に戻してそっと見つめる。
多分今夜は眠れないだろう。
それでもこの美しい寝顔を飽きることなく眺めていれば、ベッドを抜け出す暇もなくきっと夜はあっという間に明けてしまう。
朝が来て、輝く朝日に煌めくユーリの白く滑らかな肌と黒髪を目にし、あの長いまつ毛が持ち上がって美しい瞳で見つめられ清らかな笑顔を向けられればこの一抹のよこしまな気持ちも消え失せるだろうか。
そうしたら、朝の挨拶で俺の方から口付けたい。
そう思いながらすうすうと小さな寝息を立て始めたユーリをいつまでも俺は眺めていた。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
1,840
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる