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第十八章 ふしぎの海のユーリ
29(あるいはおまけの後日談・2)
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伴侶の一人としてレジナスさんは私ともう少し仲を深めておいた方がいいと言ったシェラさんによってあれよあれよという間に話は進められた。
伴侶が複数いるっていうのは、そこまで伴侶同士で気を使いあうものなの?
良く分からない。分からないけど私の目の前のレジナスさんは明らかに困っていてちょっとかわいそうだ。
『いきなりの同衾であの男に何か出来るとは思いませんけどね』
と微笑んでいたシェラさんの言葉通り、レジナスさんは微動だにせず正座したままその雰囲気だけがそわそわと落ち着きがない。
おかげでそれを眺めていた私の方が少し冷静になった。
「なんかシェラさんが変なことを言い出したせいですみません・・・」
なんとなくそう謝れば、そこでやっとレジナスさんは顔を上げた。
「・・・っ、いやっ!ユーリが謝ることじゃない!シェラがおかしいんであって、決してユーリのせいではない‼︎」
必死にそう言ってくる。
と、そのままぬいぐるみを抱きしめて目の前に座っていた私を改めてきちんと見たからか、またビシリと固まった。
あ、そっか。
私は今、シェラさんがいくつかの候補の中からレジナスさんに選ばせたという夜着を着ている。
自分の選んだ夜着に私が身を包んでいるという事実にそこで改めて気付いたらしい。
ちなみに私の格好はそんなに固まられるほど目のやり場に困るとか露出が高いわけじゃない。
全体的に落ち着いた深い藍色で、胸元やスカートの裾部分に金色の刺繍が星を散りばめたように入っている足首までの長さのワンピースタイプの夜着だ。
一応、足さばきを良くして歩きやすくするためかスカート部分には膝の辺りからスリットが入っているけどそれだってこうして座っていれば全然分からない。
唯一色気を感じそうなのは肩から手首にかけてのシースルー素材の長袖だけど、それだって藍色の濃い色味のおかげでセクシーというほどではない。
さすがレジナスさん、私が恥ずかしく思わないものを選んでくれたらしい。
だからそこまで緊張して固まらなくてもいいと思うんだけど。
それにセクシーとか色気があるというのなら、それはむしろレジナスさんの方だ。
いつもの首元まで詰まった黒い騎士服をかっちりと着こなしている姿と違い、寝るためのくつろいだ
ラフな格好のレジナスさんは初めて見る。
ゆったりした生成りの生地の上下で、上に着ている方はそのボタンを何個か開けているのであのよく鍛えられた胸筋がちらりと見えていた。
その着崩したくつろいだ姿の方が私なんかよりもよっぽど色気があると思う。
そう思いながらしげしげとレジナスさんを見ていたら私のその視線に耐えられなくなったらしい。
おもむろにレジナスさんは立ち上がると数枚重ねてあった毛布の一枚を手に取ってベッドから降りた。
「どうかしましたか?」
「俺は椅子で寝るから気にしないでくれ」
私に背を向けているその耳が赤く染まっているのが見えた。
「椅子って言っても・・・」
この部屋にある家具は私のサイズに合わせて作られているし、多少ゆったりめで大きいソファだって体の大きなレジナスさんが横になるには窮屈だ。
私の言わんとしている事が分かったらしい。
「なんなら床でもいい。この部屋の分厚い絨毯敷きはその辺のベッドよりもずっと寝心地がいいから心配しなくて大丈夫だ。」
「何言ってるんですか!」
まだ何もないとはいえレジナスさんは仮にも私の旦那さんだ。
そんな人をベッドから追い出して床に転がして、私だけグースカ布団で寝るとか。
いや、旦那さんじゃなくてもレジナスさんを床に転がすとかない。
いつも私に優しくてこんなにも気を配ってくれるいい人にそんなこと出来るわけがない。
「そんなのダメですよ!」
夜なのであまり大きな声は出せないのでひそひそ声で私もベッドを降りてレジナスさんの元へと駆け寄った。
灯りの落ちた静かな室内にたたっ、と裸足の私の軽い足音が響くけどそれも厚い絨毯にすぐに音が吸い込まれてしまう。
レジナスさんの前に回り込み、羊を片手に抱えながらもう片方の手でレジナスさんの手を取った。
まあレジナスさんの手は大きくて掴みきれなかったので、手って言うか指を何本か掴んだだけになったけど。
「明日もお仕事でしょう?ちゃんと寝ないと!それにベッドは広いからレジナスさんが一緒でも大きさには充分余裕がありますから‼︎」
見上げて必死に説得する。話しながらベッドの方へ手を引こうとしたけど私の力ではびくともしない。
まあ分かっていたけどね。
「レジナスさんがベッドで寝ないなら、私もベッドで寝ませんからね!」
最後の手段だ。さすがに私のその言葉にレジナスさんも困惑した。
「いや、ユーリ。それは・・・」
「レジナスさんだけ布団から追い出して私だけぬくぬくとベッドに寝るなんてあり得ないです!
私もソファか床で寝るので、それでも良いならレジナスさんも床でどうぞ!」
まさか私の方から一緒に寝ようと誘うことになるとは思わなかったけど仕方ない。
これだけ誠実なレジナスさんなら添い寝をしても恥ずかしくないかも。
リオン様と違って夜中に羊のぬいぐるみを足元に追いやりわざと転がすこともないだろう。
ふぬぬ、ともう一度その手を引く。
やっぱり微動だにせず、逆に私が組体操の扇の形を作る両端の人のように体が斜めになった。
そんな私を見たレジナスさんは、分かった。とため息をつくと私をひょいと抱き上げてその片腕の上に座らせた。
「・・・ユーリが寝るまでちゃんと見守ろう。
それから、裸足で走るんじゃない。足元から体が冷えてしまう」
この言い方はあれだ、私が寝たのを確かめたら自分はベッドを抜け出して床に寝るつもりだね?
「ちゃんと休まないと仕事に支障が出ますよ⁉︎」
「大丈夫だ、任務柄三日は徹夜しても問題ないよう体は慣れている」
そんな事をうそぶかれたけど、寝ない自慢は中2までにして欲しい。
ベッドの上へとまた二人で戻り、すとんとその上に降ろされる。
レジナスさんは気を使って私からなるべく離れたところへ寝ようとしてくれたので二人の間に羊を置かなくても良さそうだ。
だけどそのまま私が寝たらベッドから抜け出し床で寝られても困る。
ちょっと考えて、私の方からレジナスさんの近くに寄った。
一緒に寝ましょうと誘うだけでなく自分の方からくっついて寝ることになるなんて、シェラさんと話していた時には想像もしなかった。
戸惑いながら横になっていたレジナスさんが、近付いた私に驚いて起き上がった。
「どうした⁉︎」
いや、どうしたと言われても。なぜ近付いたのかと聞いてくるその顔がうっすらと赤いのが暗がりの中でも分かる。
ていうか、そんな態度を取られるとまるで私の方がレジナスさんを襲ってるみたいなんですけど。
私が寝たら抜け出すつもりでしょ?と聞いたところでどうせ誤魔化されるので
「寝るまで手を繋いでもらっていてもいいですか?」
と片手にぬいぐるみを抱えたまま、もう片方の手を改めてレジナスさんに差し出す。
「そ、それくらいなら」
一瞬迷ったレジナスさんも、さすがにその程度のことは断らなかった。
よしよし。この手を振り払ってまで床には寝ないだろう。
まあ私が寝入ってしまった後はどうか分からないけどその頃にはレジナスさんも諦めてそのまま布団で寝てくれてるといいな。
自分の思い通りに事が運んだので満足してにんまりとほくそ笑む。我ながら悪い笑顔だと思う。
しっかり繋いだ手のぬくもりを確かめるとそのまま横を向いて、
「お休みなさいレジナスさん!絶対に手を離しちゃダメですよ?」
とおやすみの挨拶をする。
だけどレジナスさんはそんな私に
「・・・っ‼︎」
何も言わずに一度だけ目を合わせると、ふいと向こうを向いてしまった。
・・・拗ねちゃったかな?
伴侶が複数いるっていうのは、そこまで伴侶同士で気を使いあうものなの?
良く分からない。分からないけど私の目の前のレジナスさんは明らかに困っていてちょっとかわいそうだ。
『いきなりの同衾であの男に何か出来るとは思いませんけどね』
と微笑んでいたシェラさんの言葉通り、レジナスさんは微動だにせず正座したままその雰囲気だけがそわそわと落ち着きがない。
おかげでそれを眺めていた私の方が少し冷静になった。
「なんかシェラさんが変なことを言い出したせいですみません・・・」
なんとなくそう謝れば、そこでやっとレジナスさんは顔を上げた。
「・・・っ、いやっ!ユーリが謝ることじゃない!シェラがおかしいんであって、決してユーリのせいではない‼︎」
必死にそう言ってくる。
と、そのままぬいぐるみを抱きしめて目の前に座っていた私を改めてきちんと見たからか、またビシリと固まった。
あ、そっか。
私は今、シェラさんがいくつかの候補の中からレジナスさんに選ばせたという夜着を着ている。
自分の選んだ夜着に私が身を包んでいるという事実にそこで改めて気付いたらしい。
ちなみに私の格好はそんなに固まられるほど目のやり場に困るとか露出が高いわけじゃない。
全体的に落ち着いた深い藍色で、胸元やスカートの裾部分に金色の刺繍が星を散りばめたように入っている足首までの長さのワンピースタイプの夜着だ。
一応、足さばきを良くして歩きやすくするためかスカート部分には膝の辺りからスリットが入っているけどそれだってこうして座っていれば全然分からない。
唯一色気を感じそうなのは肩から手首にかけてのシースルー素材の長袖だけど、それだって藍色の濃い色味のおかげでセクシーというほどではない。
さすがレジナスさん、私が恥ずかしく思わないものを選んでくれたらしい。
だからそこまで緊張して固まらなくてもいいと思うんだけど。
それにセクシーとか色気があるというのなら、それはむしろレジナスさんの方だ。
いつもの首元まで詰まった黒い騎士服をかっちりと着こなしている姿と違い、寝るためのくつろいだ
ラフな格好のレジナスさんは初めて見る。
ゆったりした生成りの生地の上下で、上に着ている方はそのボタンを何個か開けているのであのよく鍛えられた胸筋がちらりと見えていた。
その着崩したくつろいだ姿の方が私なんかよりもよっぽど色気があると思う。
そう思いながらしげしげとレジナスさんを見ていたら私のその視線に耐えられなくなったらしい。
おもむろにレジナスさんは立ち上がると数枚重ねてあった毛布の一枚を手に取ってベッドから降りた。
「どうかしましたか?」
「俺は椅子で寝るから気にしないでくれ」
私に背を向けているその耳が赤く染まっているのが見えた。
「椅子って言っても・・・」
この部屋にある家具は私のサイズに合わせて作られているし、多少ゆったりめで大きいソファだって体の大きなレジナスさんが横になるには窮屈だ。
私の言わんとしている事が分かったらしい。
「なんなら床でもいい。この部屋の分厚い絨毯敷きはその辺のベッドよりもずっと寝心地がいいから心配しなくて大丈夫だ。」
「何言ってるんですか!」
まだ何もないとはいえレジナスさんは仮にも私の旦那さんだ。
そんな人をベッドから追い出して床に転がして、私だけグースカ布団で寝るとか。
いや、旦那さんじゃなくてもレジナスさんを床に転がすとかない。
いつも私に優しくてこんなにも気を配ってくれるいい人にそんなこと出来るわけがない。
「そんなのダメですよ!」
夜なのであまり大きな声は出せないのでひそひそ声で私もベッドを降りてレジナスさんの元へと駆け寄った。
灯りの落ちた静かな室内にたたっ、と裸足の私の軽い足音が響くけどそれも厚い絨毯にすぐに音が吸い込まれてしまう。
レジナスさんの前に回り込み、羊を片手に抱えながらもう片方の手でレジナスさんの手を取った。
まあレジナスさんの手は大きくて掴みきれなかったので、手って言うか指を何本か掴んだだけになったけど。
「明日もお仕事でしょう?ちゃんと寝ないと!それにベッドは広いからレジナスさんが一緒でも大きさには充分余裕がありますから‼︎」
見上げて必死に説得する。話しながらベッドの方へ手を引こうとしたけど私の力ではびくともしない。
まあ分かっていたけどね。
「レジナスさんがベッドで寝ないなら、私もベッドで寝ませんからね!」
最後の手段だ。さすがに私のその言葉にレジナスさんも困惑した。
「いや、ユーリ。それは・・・」
「レジナスさんだけ布団から追い出して私だけぬくぬくとベッドに寝るなんてあり得ないです!
私もソファか床で寝るので、それでも良いならレジナスさんも床でどうぞ!」
まさか私の方から一緒に寝ようと誘うことになるとは思わなかったけど仕方ない。
これだけ誠実なレジナスさんなら添い寝をしても恥ずかしくないかも。
リオン様と違って夜中に羊のぬいぐるみを足元に追いやりわざと転がすこともないだろう。
ふぬぬ、ともう一度その手を引く。
やっぱり微動だにせず、逆に私が組体操の扇の形を作る両端の人のように体が斜めになった。
そんな私を見たレジナスさんは、分かった。とため息をつくと私をひょいと抱き上げてその片腕の上に座らせた。
「・・・ユーリが寝るまでちゃんと見守ろう。
それから、裸足で走るんじゃない。足元から体が冷えてしまう」
この言い方はあれだ、私が寝たのを確かめたら自分はベッドを抜け出して床に寝るつもりだね?
「ちゃんと休まないと仕事に支障が出ますよ⁉︎」
「大丈夫だ、任務柄三日は徹夜しても問題ないよう体は慣れている」
そんな事をうそぶかれたけど、寝ない自慢は中2までにして欲しい。
ベッドの上へとまた二人で戻り、すとんとその上に降ろされる。
レジナスさんは気を使って私からなるべく離れたところへ寝ようとしてくれたので二人の間に羊を置かなくても良さそうだ。
だけどそのまま私が寝たらベッドから抜け出し床で寝られても困る。
ちょっと考えて、私の方からレジナスさんの近くに寄った。
一緒に寝ましょうと誘うだけでなく自分の方からくっついて寝ることになるなんて、シェラさんと話していた時には想像もしなかった。
戸惑いながら横になっていたレジナスさんが、近付いた私に驚いて起き上がった。
「どうした⁉︎」
いや、どうしたと言われても。なぜ近付いたのかと聞いてくるその顔がうっすらと赤いのが暗がりの中でも分かる。
ていうか、そんな態度を取られるとまるで私の方がレジナスさんを襲ってるみたいなんですけど。
私が寝たら抜け出すつもりでしょ?と聞いたところでどうせ誤魔化されるので
「寝るまで手を繋いでもらっていてもいいですか?」
と片手にぬいぐるみを抱えたまま、もう片方の手を改めてレジナスさんに差し出す。
「そ、それくらいなら」
一瞬迷ったレジナスさんも、さすがにその程度のことは断らなかった。
よしよし。この手を振り払ってまで床には寝ないだろう。
まあ私が寝入ってしまった後はどうか分からないけどその頃にはレジナスさんも諦めてそのまま布団で寝てくれてるといいな。
自分の思い通りに事が運んだので満足してにんまりとほくそ笑む。我ながら悪い笑顔だと思う。
しっかり繋いだ手のぬくもりを確かめるとそのまま横を向いて、
「お休みなさいレジナスさん!絶対に手を離しちゃダメですよ?」
とおやすみの挨拶をする。
だけどレジナスさんはそんな私に
「・・・っ‼︎」
何も言わずに一度だけ目を合わせると、ふいと向こうを向いてしまった。
・・・拗ねちゃったかな?
応援ありがとうございます!
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