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第十九章 聖女が街にやって来た

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「へえ、シグウェルがそんな事を言っていたんだ。」

夕食後のひと時、フルーツをつまみながらリオン様は興味深げに私の話を聞いていた。

昼間シグウェルさんが話していた「ヘイデス国の聖女は信じていない」発言の件だ。

万が一、聖女様に会ったシグウェルさんが失礼なことを言い出す前にリオン様にも伝えておこうと思ったのだ。

「シグウェルらしい考え方だね」

とリオン様は怒るでもなくくすりと笑った。

その向かいではレジナスさんが笑いごとですか?と心配げに眉根を寄せる。

レジナスさんも、奥の院の本館に引っ越して来てからは夕食後には護衛ではなく伴侶の一人として私達と過ごすようにとリオン様に言われていた。

それからはこうして夕食後のお茶やくつろいだ時間にはぎこちないながらも一緒に付き合ってくれている。

そして夕食を必ずといっていいほど私と一緒に取るシェラさんもいつもならここにはいるけど、今日はキリウ小隊の仕事で不在だ。

「リオン様はその聖女様に会ったことはあります?」

「いや、僕も初めて会うよ。聖女なら招待客の格としては一国の国王にも等しいから、滞在中は僕が主に対応することになるとは思うけど。」

「私じゃなくてですか?」

「ユーリは父上や兄上と同列だからそんな人に招待客の相手をずっとさせるわけにはいかないよ。
どんと構えて座って、にっこり笑ってたまにお茶か話し相手をしてあげるくらいがちょうど良いから。」

「なんかそう言われるとすごい偉そうですね私。」

「実際偉いんだよユーリは。」

楽しそうにリオン様は笑い、

「僕の怪我を治してたくさんの加護と恩恵を与えてくれた事に対してだけでも恐縮するユーリだから詳しくは教えないけど、それ以降にユーリが行った数々の事柄についても他国ではすごく畏敬の念を持って敬われているんだよ。」

と言った。レジナスさんも

「召喚者というのは皆の目に見える形で神の権能を現した奇跡そのものだ。
更にユーリはイリューディア神様だけでなくグノーデル神様の力までもその身に宿している。勇者様すら超えるそんな存在なんだぞ。
それほどの者であれば相手がどこの国の王や聖女であってもユーリの方が当然格上だ。」

と珍しく大袈裟なほど私がどういう立場の人間なのかを話してきた。

ルーシャ国に来てからの私の所業・・・?

そんなの、リオン様を強化人間にしたり酔っ払って山に雷を落として大穴を開けたり、
一歩間違えれば王都の人達全員を癒やすだけでなく強化人間にしそうになったりと碌なことはしていないと思う。それに。

「・・・でも今はとてもじゃないけどそういう偉い人みたいな扱いをしてないですよね?」

むすりとリオン様の膝の上で指摘をすれば、レジナスさんはいや、それとこれとは話が別と言うか・・・と言い淀む。

そうなのだ。相変わらず大きくなってもまだ私は何かというとリオン様の膝の上に座らせられている。
今もそうだ。

なんだったらリオン様は自分がつまんでいるブドウをたまに私の口にも運んだりしている。

「国王陛下と同じくらい偉い人が膝から降ろして下さいって言ってるのにそれを聞いてもらえないのは何でですか⁉︎」

と聞けばまた口に一つブドウを放り込まれて、

「それはね、今の時間のユーリは偉大な召喚者たる癒し子様じゃなくて僕とレジナスのかわいい奥さんだからだよ」

と微笑まれた。そう来たか。

シグウェルさんやシェラさんに俺達の妻です、と他の人達に話された時も恥ずかしかったけど私に向かって僕達の奥さんと呼ばれるのもなんだかお尻の辺りがムズムズして恥ずかしい。

反論出来ずにうぐっ、と思わず言葉に詰まってしまい黙って口に放り込まれたブドウを咀嚼しながらリオン様からプイと顔を逸らす。

「照れてるの?かわいいね。」

くすりと笑うリオン様から逸らした視線の先ではレジナスさんもごほんと咳払いをして僅かに顔を赤くしていた。

そんな私とレジナスさんに構わずリオン様は続ける。

「ユーリが成長してしまったからもう僕の膝の間に座らせるのは難しいし、これからはまた膝の上だね。
レジナス、君もたまにはユーリを膝に座らせてみたらどうだい?
そうしてユーリは僕達の大事な人だっていうことをきちんと本人にも自覚してもらわないと」

「いえ、俺は・・・」

なぜかレジナスさんにまで話が飛び火してしまった。

申し訳ないと

「そんな事されなくても私のことを大事にしてくれてるのは充分分かってますから!」

とあがいてみてもしっかりと膝の上に抱えられたままだ。むしろ、

「ほらレジナス、ユーリの背が伸びたからこうして膝の上に座らせると今までよりもあの綺麗な瞳を間近に見ることができるよ」

と顔を寄せられた。

頬と頬が触れて、ひんやりとするリオン様の感触に赤くなれば

「ふふ、ユーリの頬は熱いね。ホントかわいい。」

とひょいとお姫様抱っこをされたかと思うとあっという間に正面に座るレジナスさんの膝の上に預けられてしまった。

「リオン様⁉︎」

何するんですかと声を上げればバランスを崩しそうになって危ない!とレジナスさんが慌てて抱え直してくれた。

おかげで今度はしっかりレジナスさんの膝の上だ。

ハッと気付いてその顔を見つめれば、夕陽色の瞳が近い。

そしてその顔もさっきより確実に赤くなっている。

レジナスさんも思いがけず近付いた私の顔に驚いたのか、抱えてくれている手に僅かに力が入ったのが分かった。

お互い赤くなった、そんな私達を楽しそうに見つめたリオン様は

「さて僕はこれからまた王宮に戻ってひと仕事してくるよ。
護衛は別の騎士に頼んでいるから君は先に休んでてくれる?ユーリをよろしく頼むよ」

と立ち上がった。

え?夕食も済んでだいぶ夜も遅い時間なのに?と心配して見上げれば、優しく頭を撫でられる。

「今日の昼間、さっき話題に出ていたヘイデス国の王と聖女一行が王都近郊の領地に入ったと連絡があってね。
今夜はその領地で休んでいるから明日には確実に王宮に着くしその最終調整だよ。」

ユーリには及ばないとはいえ聖女様だからね、丁重なもてなしは必要だから。

そう説明されて撫でられ、最後は軽く口付けられた。

「ユーリと一緒に食事を取って、こうしてくつろぐことも出来たからまた頑張れる。心配はいらないよ。
レジナス、明日は僕のところに来る前にヘイデス国の歓迎式典に出る騎士団の装備と人員の確認もしてきてくれるかな?」

歓迎式典ってあれだ、私がコーンウェル領を出る時にオーウェン様が騎士の人達をずらりと並べて送り出してくれたみたいなやつ。

今まで大声殿下の戴冠式のためにルーシャ国を訪れてくれた他国の人達にそこまでの歓待をしたことはまだない。

それだけでもヘイデス国がルーシャ国にとっても大事なお客様だということが分かった。

それに何より聖女様もいるしね。

「私も明日はヘイデス国の人達が到着し次第会えるんですか?」

そう聞けばいや、とリオン様は笑って首を振った。

「まずは僕や兄上、大神殿のカティヤ達との面会や歓迎式典が先だよ。君や父上が彼らに会うのはその後だね。大物は最後に姿を見せないと。」

「そんな勿体ぶられるほどの人間じゃないんですけどね・・・」

リオン様やレジナスさんに、改めて召喚者としてのルーシャ国での立ち位置を教えられるほど私はなんだか不安になってきた。














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