482 / 777
第十九章 聖女が街にやって来た
24
しおりを挟む
「ではイリヤ殿下、そういうことで国境から送らせた残りの獣の死体は魔導士院で調査中ですので。詳しくはシグウェル魔導士団長から後ほど報告があるでしょう」
先日の国境沿いでの獣討伐の追加報告を終えたオレはさっさと皇太子宮を後にする。
「そうだシェラ、お前は相変わらず細っこいがちゃんと食っているのか?任務にかまけてまた食抜きをしていないだろうな、たまには俺と一緒に食事でも取っていくがいい!」
「これはもう幼い頃からの体質ですからね、今さら多少食べたところで変わりませんよ。では失礼致します。晩餐会でまたお目にかかりましょう」
「なんだつまらん、相変わらず愛想のない奴だ!」
「こんなにも愛嬌のあるオレに愛想がないなど仰るのは殿下くらいのものですよ」
一国の皇太子殿下と一介の騎士同士の、普通ならば許されないような軽口の応酬をしてその場を後にする。
オレと殿下の関係性を分かっている殿下の側近のゲラルドも、たいして気分を害することなく丁寧な礼でもって送り出してくれた。
・・・皇太子殿下から食事の同席を許されるなど、普通であれば光栄なことなのだろうがそんな事よりオレは早くユーリ様に会いたいし、どうせ食事を取らなければいけないのならその相手はユーリ様がいい。
遥か昔、みすぼらしい姿で助けられて以来こうして何かにつけイリヤ殿下がオレを気にかけてくれるのはありがたいが・・・。
自分よりも年下で、青っちろい痩せぎすの奴隷の少年が鎖に繋がれ襲われている姿を見たのがよほど衝撃的だったのだろう。
会うたびに細いだのもっと背は伸びないのかだの、レジナスのような筋肉はまだつかないのかだの言ってくる。
「まるで口うるさい親戚のようですねぇ・・・」
親は元より親族など見たこともない身には想像でしかないのだが。
それでも養父といい殿下といい、何かにつけ世話をしてくれようとするのはありがたいことだ。
昔はよく
「どうして会うたびに痩せてるだの小さいだの見れば分かることをいちいち言ってくるのだろう?」
と不思議に思っていたものだが、ユーリ様と出会って以来なんとなくその心情が理解出来るようになった。
分かってはいるが口に出さずにはいられないのだ。
それだけ相手が気になるということだ。
オレだってユーリ様がいつ持ち上げても羽根のように軽いのが心配になるし、ほんの少しでも肉付きがよくなっていれば嬉しい。
オレの勧めた菓子や食事を嬉しそうに口にしておかわりをしてくれたり、買い求めた髪飾りを付けては大事そうにそれに触れているのを目にすればこの上ない幸せを感じて、もっと色々買ってあげたくなる。
いや、これでは伴侶というより親か?
我ながら可笑しくなって口の端に自然と笑みが浮かぶ。
ああ、早くユーリ様に会いたい。
今頃ヘイデス国の者達との謁見を終えて部屋で休まれているだろうか?
さすがに真昼間から王宮の屋根を飛び越え近道をして奥の院へ向かうのは体裁が悪いので、はやる気持ちをぐっと堪えて先を急ぐ。
皇太子宮を出て王子宮を横目に庭園と回廊をいくつか横切り、戴冠式に向けて招待客達が滞在している迎賓館が並ぶ所に差し掛かる。
と、そこで庭園の一角ががさりと揺れた。
敵意は感じない。小動物の類いか何かだろうか。
足早に通り過ぎながら一応目の端で確かめれば、豊かな黒髪の後ろ姿が風に揺れた。
「ユーリ様?」
なぜこんなところに?先日王宮の庭園でバラの花を咲かせたらしいのでこちらの庭園にも同じような加護を付けに来ていたのだろうか。
足を止めてそちらへ向き直れば、オレの声に相手が振り向く。
「・・・騎士の方。ちょうど良いところへ。」
ふわりと優しげに微笑んでこちらを見つめたその姿はユーリ様ではなかった。
青紫色の落ち着いた髪色に、オレを見るその瞳は深い赤だ。
ユーリ様に全く似ても似つかない彼女を、オレとしたことがなぜ一瞬でもユーリ様だと思ったのか。
内心そんな自分に憤りながら礼を取る。
この容姿でこの場所に滞在している人物といえば。
「噂に名高いヘイデス国の聖女、エリス様とお見受け致します。オレは王宮付きの騎士、シェラザードと申します。」
そのままいつもの愛嬌のある微笑みを顔に乗せゆっくりと頭を上げる。
シェラザードさま、と相手は呟き口元に手を当てて何ごとかを思案しているようだった。
・・・へぇ。ユーリ様曰く「無駄な色気を垂れ流している」オレの笑みに初見で動じない相手も珍しい。
神に仕える者すらたぶらかし邪悪だとも言われるこの容姿だが、逆にそれを利用してこの姿に惑わされるかどうかでオレは相手の力量を試しているところもある。
しょせん人など皮一枚剥げば皆同じ。
そんな薄皮一枚と、取り繕った所作などに誤魔化される者は多いがこの聖女様はどうやら違うようだ。
いや、むしろそれどころか・・・。
「靴のかかとが折れてしまい、困っておりました。助けていただけるとありがたいのですが」
視線の先でオレを見つめてくるその瞳が美しい赤に輝く。
と同時にオレの首にあるユーリ様からいただいたチョーカーがほんのりと熱を持ったような気がした。
・・・魅了魔法か?
男女を問わず、オレの気を引こうと媚びてくる者は多い。
だが相手を試すようないつもの笑みを浮かべたオレに媚びるのではなく逆にオレと同じように相手を試そうとするような魔法を使ってくる相手は滅多にいない。
シグウェル魔導士団長が警戒していた通りだ。
『あの聖女様はイリューディア神様の加護の力を強く感じるものに手を伸ばし、それを取り込めるか試しているような節がある。王都の結界に触れたのもその一つかも知れない』
だから気を付けろと言われていた。
ユーリ様の加護が強いのは一目見てすぐに分かられるだろうから、きっと何かされるだろうと。
もしユーリ様からいただいた装身具に何らかの反応があればそれが印だとも。
これがそうだろうか。
しばしの間、互いに見つめ合った後オレの方から口を開く。
「・・・他の護衛騎士の方たちはどちらに?」
いくら迎賓館の庭園といえど護衛どころか侍女もその姿がないとは。
その足元を見れば、確かに折れたヒールの靴を片方の足に履いている。
だがそれが本当にただ折れたものなのか、わざと折って誰かが通るのを待ち伏せていたのかは分からない。
「いつもたくさんの人に囲まれているので、気分転換に一人にしてもらいましたらこんな事になってしまって」
お恥ずかしい、と微笑む姿は邪気の一つも感じないが・・・。
チョーカーに感じていた熱はもうなくなっている。
こちらから近付いてみるのも一つの手か。
「お手伝いいたします」
聖女様を庭園のベンチに腰掛けさせ、その足元へ膝をつく。
「すぐに新しい靴を準備させましょう。侍女と護衛はどちらに?人払いをしていても目に入るところにいるはずですが」
そっとその足から靴を抜いてヒールの折れ具合を確かめる。
真新しいそれは作りも立派な上質のものだ。そう簡単に壊れるものでもないだろう。
やはり怪しいな、と思っていたらふいにオレの肩に手が触れた。
反射的に躱わしたくなる衝動を抑え、平然として・・・むしろそれが嬉しいかのような笑みを浮かべて相手を見る。
「どうかされましたか?」
「もしよろしれば肩を貸していただけますか?部屋はすぐそこですし、この階段を登り建物の中へ入れば誰かいるはずですので」
微笑み遠慮がちに申し出てくるその態度はあくまでも清らかな聖女そのものだ。
だがオレの肩に触れているその手から、何か違和感を感じる。
なんだ?何をしようとしている?
それに、近くに寄ればますますユーリ様に似た雰囲気を感じる。
見た目は違うのに纏っているその魔力がまるでユーリ様のようで、ユーリ様を真似ている・・・というか成り代わろうとしているような。
まさかユーリ様を真似て、その尊崇や愛情を自分のものに出来るとでも思っているのだろうか?
リオン殿下や魔導士団長、そしてオレ。レジナスだけは王都の警備でまだこの聖女様に会っていないが、それ以外のユーリ様の伴侶は皆こうして彼女と言葉を交わし触れられた。
ユーリ様のものを自分のものにしようとしているのか?
それが出来るかどうか試しているのだろうか。
ああ、今すぐこの肩にかけられた手をその腕の骨に沿って3枚に下ろして切り裂いてしまいたい。
顔に乗せた笑顔の奥で久しぶりに何とも御し難い凶暴な性根が顔を覗かせた。
すんでのところでそれを堪えたのは、別の人物の声がかかったからだ。
「失礼致します。エリス様、薬湯を飲まれる時間です。」
王宮の中だというのに頭からフードを被りその顔を見せないその相手は漂う魔力の気配からして魔導士だろうか。
その言葉にオレの肩から手が離れた。
「そうなのですか?」
聖女様は不満気だ。しかし相手は
「見たところ少しお疲れのようです。いつものように薬湯を飲まれて休み、御力を回復されるのが良いでしょう」
そんな事を言い、手を上げれば数人の騎士達が現れた。
どうやらオレは必要ないらしい。
「王宮の騎士様にはお気遣いいただきありがとうございました」
魔導士らしいその男は頭を下げ、騎士の一人に姫抱きをされた聖女様もオレに礼を述べた。
「少しの間ですがお話が出来て嬉しかったです。また明日、晩餐会でお会いするのを楽しみにしております。」
その言葉に、相手を見送りその姿が消えたのを確かめてからフンと鼻で笑う。
晩餐会で会おう?オレは王宮付きの騎士としか名乗らなかった。
そんな一介の騎士が大国の聖女様と晩餐会で会えるわけがない。
オレが晩餐会に出席し、また会えると分かっていたからついそれが口に出てしまったというのか?
騎士のような身分で聖女様と言葉を交わせる晩餐会の出席者など、ユーリ様の伴侶しかいない。
やはりオレがユーリ様に近しい立場の者と分かっていて声を掛けてきたのか?
「これではますます晩餐会でユーリ様のお側を離れるわけにはいかなくなりましたねぇ・・・」
せっかくユーリ様をどう美しく着飾るかだけを考えていたかったのに。
それだけではすまなくなって、オレはやれやれと肩をすくめた。
先日の国境沿いでの獣討伐の追加報告を終えたオレはさっさと皇太子宮を後にする。
「そうだシェラ、お前は相変わらず細っこいがちゃんと食っているのか?任務にかまけてまた食抜きをしていないだろうな、たまには俺と一緒に食事でも取っていくがいい!」
「これはもう幼い頃からの体質ですからね、今さら多少食べたところで変わりませんよ。では失礼致します。晩餐会でまたお目にかかりましょう」
「なんだつまらん、相変わらず愛想のない奴だ!」
「こんなにも愛嬌のあるオレに愛想がないなど仰るのは殿下くらいのものですよ」
一国の皇太子殿下と一介の騎士同士の、普通ならば許されないような軽口の応酬をしてその場を後にする。
オレと殿下の関係性を分かっている殿下の側近のゲラルドも、たいして気分を害することなく丁寧な礼でもって送り出してくれた。
・・・皇太子殿下から食事の同席を許されるなど、普通であれば光栄なことなのだろうがそんな事よりオレは早くユーリ様に会いたいし、どうせ食事を取らなければいけないのならその相手はユーリ様がいい。
遥か昔、みすぼらしい姿で助けられて以来こうして何かにつけイリヤ殿下がオレを気にかけてくれるのはありがたいが・・・。
自分よりも年下で、青っちろい痩せぎすの奴隷の少年が鎖に繋がれ襲われている姿を見たのがよほど衝撃的だったのだろう。
会うたびに細いだのもっと背は伸びないのかだの、レジナスのような筋肉はまだつかないのかだの言ってくる。
「まるで口うるさい親戚のようですねぇ・・・」
親は元より親族など見たこともない身には想像でしかないのだが。
それでも養父といい殿下といい、何かにつけ世話をしてくれようとするのはありがたいことだ。
昔はよく
「どうして会うたびに痩せてるだの小さいだの見れば分かることをいちいち言ってくるのだろう?」
と不思議に思っていたものだが、ユーリ様と出会って以来なんとなくその心情が理解出来るようになった。
分かってはいるが口に出さずにはいられないのだ。
それだけ相手が気になるということだ。
オレだってユーリ様がいつ持ち上げても羽根のように軽いのが心配になるし、ほんの少しでも肉付きがよくなっていれば嬉しい。
オレの勧めた菓子や食事を嬉しそうに口にしておかわりをしてくれたり、買い求めた髪飾りを付けては大事そうにそれに触れているのを目にすればこの上ない幸せを感じて、もっと色々買ってあげたくなる。
いや、これでは伴侶というより親か?
我ながら可笑しくなって口の端に自然と笑みが浮かぶ。
ああ、早くユーリ様に会いたい。
今頃ヘイデス国の者達との謁見を終えて部屋で休まれているだろうか?
さすがに真昼間から王宮の屋根を飛び越え近道をして奥の院へ向かうのは体裁が悪いので、はやる気持ちをぐっと堪えて先を急ぐ。
皇太子宮を出て王子宮を横目に庭園と回廊をいくつか横切り、戴冠式に向けて招待客達が滞在している迎賓館が並ぶ所に差し掛かる。
と、そこで庭園の一角ががさりと揺れた。
敵意は感じない。小動物の類いか何かだろうか。
足早に通り過ぎながら一応目の端で確かめれば、豊かな黒髪の後ろ姿が風に揺れた。
「ユーリ様?」
なぜこんなところに?先日王宮の庭園でバラの花を咲かせたらしいのでこちらの庭園にも同じような加護を付けに来ていたのだろうか。
足を止めてそちらへ向き直れば、オレの声に相手が振り向く。
「・・・騎士の方。ちょうど良いところへ。」
ふわりと優しげに微笑んでこちらを見つめたその姿はユーリ様ではなかった。
青紫色の落ち着いた髪色に、オレを見るその瞳は深い赤だ。
ユーリ様に全く似ても似つかない彼女を、オレとしたことがなぜ一瞬でもユーリ様だと思ったのか。
内心そんな自分に憤りながら礼を取る。
この容姿でこの場所に滞在している人物といえば。
「噂に名高いヘイデス国の聖女、エリス様とお見受け致します。オレは王宮付きの騎士、シェラザードと申します。」
そのままいつもの愛嬌のある微笑みを顔に乗せゆっくりと頭を上げる。
シェラザードさま、と相手は呟き口元に手を当てて何ごとかを思案しているようだった。
・・・へぇ。ユーリ様曰く「無駄な色気を垂れ流している」オレの笑みに初見で動じない相手も珍しい。
神に仕える者すらたぶらかし邪悪だとも言われるこの容姿だが、逆にそれを利用してこの姿に惑わされるかどうかでオレは相手の力量を試しているところもある。
しょせん人など皮一枚剥げば皆同じ。
そんな薄皮一枚と、取り繕った所作などに誤魔化される者は多いがこの聖女様はどうやら違うようだ。
いや、むしろそれどころか・・・。
「靴のかかとが折れてしまい、困っておりました。助けていただけるとありがたいのですが」
視線の先でオレを見つめてくるその瞳が美しい赤に輝く。
と同時にオレの首にあるユーリ様からいただいたチョーカーがほんのりと熱を持ったような気がした。
・・・魅了魔法か?
男女を問わず、オレの気を引こうと媚びてくる者は多い。
だが相手を試すようないつもの笑みを浮かべたオレに媚びるのではなく逆にオレと同じように相手を試そうとするような魔法を使ってくる相手は滅多にいない。
シグウェル魔導士団長が警戒していた通りだ。
『あの聖女様はイリューディア神様の加護の力を強く感じるものに手を伸ばし、それを取り込めるか試しているような節がある。王都の結界に触れたのもその一つかも知れない』
だから気を付けろと言われていた。
ユーリ様の加護が強いのは一目見てすぐに分かられるだろうから、きっと何かされるだろうと。
もしユーリ様からいただいた装身具に何らかの反応があればそれが印だとも。
これがそうだろうか。
しばしの間、互いに見つめ合った後オレの方から口を開く。
「・・・他の護衛騎士の方たちはどちらに?」
いくら迎賓館の庭園といえど護衛どころか侍女もその姿がないとは。
その足元を見れば、確かに折れたヒールの靴を片方の足に履いている。
だがそれが本当にただ折れたものなのか、わざと折って誰かが通るのを待ち伏せていたのかは分からない。
「いつもたくさんの人に囲まれているので、気分転換に一人にしてもらいましたらこんな事になってしまって」
お恥ずかしい、と微笑む姿は邪気の一つも感じないが・・・。
チョーカーに感じていた熱はもうなくなっている。
こちらから近付いてみるのも一つの手か。
「お手伝いいたします」
聖女様を庭園のベンチに腰掛けさせ、その足元へ膝をつく。
「すぐに新しい靴を準備させましょう。侍女と護衛はどちらに?人払いをしていても目に入るところにいるはずですが」
そっとその足から靴を抜いてヒールの折れ具合を確かめる。
真新しいそれは作りも立派な上質のものだ。そう簡単に壊れるものでもないだろう。
やはり怪しいな、と思っていたらふいにオレの肩に手が触れた。
反射的に躱わしたくなる衝動を抑え、平然として・・・むしろそれが嬉しいかのような笑みを浮かべて相手を見る。
「どうかされましたか?」
「もしよろしれば肩を貸していただけますか?部屋はすぐそこですし、この階段を登り建物の中へ入れば誰かいるはずですので」
微笑み遠慮がちに申し出てくるその態度はあくまでも清らかな聖女そのものだ。
だがオレの肩に触れているその手から、何か違和感を感じる。
なんだ?何をしようとしている?
それに、近くに寄ればますますユーリ様に似た雰囲気を感じる。
見た目は違うのに纏っているその魔力がまるでユーリ様のようで、ユーリ様を真似ている・・・というか成り代わろうとしているような。
まさかユーリ様を真似て、その尊崇や愛情を自分のものに出来るとでも思っているのだろうか?
リオン殿下や魔導士団長、そしてオレ。レジナスだけは王都の警備でまだこの聖女様に会っていないが、それ以外のユーリ様の伴侶は皆こうして彼女と言葉を交わし触れられた。
ユーリ様のものを自分のものにしようとしているのか?
それが出来るかどうか試しているのだろうか。
ああ、今すぐこの肩にかけられた手をその腕の骨に沿って3枚に下ろして切り裂いてしまいたい。
顔に乗せた笑顔の奥で久しぶりに何とも御し難い凶暴な性根が顔を覗かせた。
すんでのところでそれを堪えたのは、別の人物の声がかかったからだ。
「失礼致します。エリス様、薬湯を飲まれる時間です。」
王宮の中だというのに頭からフードを被りその顔を見せないその相手は漂う魔力の気配からして魔導士だろうか。
その言葉にオレの肩から手が離れた。
「そうなのですか?」
聖女様は不満気だ。しかし相手は
「見たところ少しお疲れのようです。いつものように薬湯を飲まれて休み、御力を回復されるのが良いでしょう」
そんな事を言い、手を上げれば数人の騎士達が現れた。
どうやらオレは必要ないらしい。
「王宮の騎士様にはお気遣いいただきありがとうございました」
魔導士らしいその男は頭を下げ、騎士の一人に姫抱きをされた聖女様もオレに礼を述べた。
「少しの間ですがお話が出来て嬉しかったです。また明日、晩餐会でお会いするのを楽しみにしております。」
その言葉に、相手を見送りその姿が消えたのを確かめてからフンと鼻で笑う。
晩餐会で会おう?オレは王宮付きの騎士としか名乗らなかった。
そんな一介の騎士が大国の聖女様と晩餐会で会えるわけがない。
オレが晩餐会に出席し、また会えると分かっていたからついそれが口に出てしまったというのか?
騎士のような身分で聖女様と言葉を交わせる晩餐会の出席者など、ユーリ様の伴侶しかいない。
やはりオレがユーリ様に近しい立場の者と分かっていて声を掛けてきたのか?
「これではますます晩餐会でユーリ様のお側を離れるわけにはいかなくなりましたねぇ・・・」
せっかくユーリ様をどう美しく着飾るかだけを考えていたかったのに。
それだけではすまなくなって、オレはやれやれと肩をすくめた。
48
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。~お願いですから帰ってきてください?はて?~
雪丸
恋愛
【あらすじ】
聖獣使い唯一の末裔としてキルベキア王国に従事していた主人公”アメリア・オルコット”は、聖獣に関する重大な事実を黙っていた裏切り者として国外追放と婚約破棄を言い渡された。
追放されたアメリアは、キルベキア王国と隣の大国ラルヴァクナ王国の間にある森を彷徨い、一度は死を覚悟した。
そんな中、ブランディという牧場経営者一家に拾われ、人の温かさに触れて、彼らのために尽力することを心の底から誓う。
「もう恋愛はいいや。私はブランディ牧場に骨を埋めるって決めたんだ。」
「羊もふもふ!猫吸いうはうは!楽しい!楽しい!」
「え?この国の王子なんて聞いてないです…。」
命の恩人の牧場に尽力すると決めた、アメリアの第二の人生の行く末はいかに?
◇◇◇
小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
カクヨムにて先行公開中(敬称略)
【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる
大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】
多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。
感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。
残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。
よろしくお願いいたします。
-----------------------------------------------------------
大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。
「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」
死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。
国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!?
「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」
エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって……
常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。
※どんな形であれハッピーエンドになります。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる