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エピローグ この胸いっぱいの祝福をあなたに

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明るい陽ざしの差し込む大神殿の大広間いっぱいに、淡いピンク色の花弁が降り注ぐ。

「わたくしからの贈り物は気に入ってもらえたかしら?」

にこやかに楽しげに、イリューディアはもふもふの真っ白な毛皮を持つ大きな虎の姿のグノーデルのその背に寄りかかりながら眼下の世界を見守っている。

地上では自分が送り出した癒し子ユーリが選び、その心を結んだ四人の伴侶との結婚式の真っ只中だ。

こちらを見上げるユーリのその黒い瞳の中にはキラキラと星の光のように金色の光も輝いている。

グノーデルはふむ、とその太い尻尾を一度ぱしんと床に打ちつけた。

「ユーリにも姫巫女にも充分にその意図は伝わっているようだぞ?ふーむ、こんなにも喜んでもらえるなら俺もレンの戴冠式に祝福の雷を送るのを忘れなければ良かった。」

100年ぶりの反省だ。確かあの時はヨナスをぶっ殺す!とそれに夢中になり過ぎて自分が召喚した勇者がルーシャ国王に即位する、一世一代の戴冠式をすっかり忘れてすっぽかしたのだ。

「よし、今からでもユーリのために特大の雷を落としてやろう」

一人納得して立ち上がりかけたグノーデルをまあまあとイリューディアが諫める。

「それはあまりにも刺激が強過ぎるのではなくて?今日は静かに見守ってあげましょう。それにしてもユーリは本当に良く頑張りましたわね。わたくしの加護の力があるからといって、まさかルーシャ国に点在していたヨナスの主だった力の源を一掃してしまうとは思いも寄りませんでしたわ。」

それもこれもわたくしとあなたの加護の力を持ち、それをうまく使ったからですわねと言うイリューディアにグノーデルも満足そうに座り直した。

「うむ、まるで俺たちの間に生まれた子かと思うかのように自然に二つの力を使っていたな。まあその後にぶっ倒れてしまう辺りはまだまだだが、それもこの先時間と経験を重ねれば使いこなせるようになるだろう。」

グノーデルのその言葉にあら素敵ねぇ、とイリューディアは微笑んだ。

「確かに、わたくし達二人の加護を持つユーリはわたくし達の子も同然かも知れませんわね。・・・だけどわたくし、」

地上で四人と手を取り合い照れたように幸せそうに笑うユーリを愛おしそうに見つめながらイリューディアは言う。

「わたくし達の子も同然のユーリの元にこれから生まれるだろう子どもも早く見たいですわ。例えばほら、あの実直な黒髪の騎士とユーリの間に生まれる子など、しっかり者で剣の腕も立ち母親のユーリを守ってくれる頼りになる子に育つのでは?」

「それを言うなら俺はレンの子孫のあの王子との間の子が見たいぞ。レンの血筋の魔力とお前の加護を持つユーリの二つの血をひく子だ、興味深い。・・・いや、それを言ったらあの銀髪小僧のキリウの子孫との間の子も気になるな。膨大な魔力を両親から引き継ぐことになる。」

うーむ、どちらも捨てがたい。そう言って尻尾をたしたしと打ちつけるグノーデルにあら、とイリューディアも答える。

「それならばわたくしはあの紫色の髪の美貌の青年とユーリとの間の子どもも見てみたいですわ。・・・あの青年、どうやら普段からユーリさえいれば子などいらない、自分の子どもに向ける愛情があればその分の愛情も全てユーリに捧げたいなどと嘘ぶいているようですが」

「結構な心掛けではないか?」

それだけ生涯をかけてユーリを愛し続けるということだろう?

そう首を傾げたグノーデルにふふ、とイリューディアはその美しいスミレ色の瞳を笑ませた。

「ですが家族の縁の薄い彼は家族が増えれば増えるほどその心は癒されるでしょう。美貌の彼と美しいユーリとの間に生まれる子どもは一体どんな子でしょうね?やはり彼に似た美貌の男の子なのかしら。ああ、でも女の子でも彼とユーリに似れば傾国級の美女に育つかも知れないからそれも見てみたいわ。いっそ双子はどうかしら。あなたはどう思って?」

水を向けられたグノーデルが呆れる。

「国を傾かせるような奴が生まれたらマズイだろう。いずれにせよ、ユーリとあいつらの間に生まれる子ども達ならこの先も必ずこの国を良い方へと導いてくれるに違いない。後はお前の采配次第だな、戦いと破壊の加護しか与えられん俺と違って人間を増やし見守るのは癒しと豊穣、慈愛を持つお前の領分だ。」

そう言われたイリューディアが、

「あらあらわたくしの責任、とっても重大ね?」

薔薇色の頬に白魚のようにほっそりとした指を添えてたおやかに微笑んだ。

豊穣の力は地上の作物を育て海の生物を増やし、

・・・人間には子宝の恵みを与える。

さあ、どうしようかしら?

思案しながら地上を見守るイリューディアに、大神殿の正面に姿を現し周囲に集まって来ていた王都の者達から大きな歓声を受けるユーリと四人の伴侶の姿が目に入ってきた。

どうやら式は無事に終わり、これから王宮へと移動するらしい。

と、パレードのため馬車へ乗るために伴侶の一人の手を取ろうとしていたユーリがふと立ち止まり、辺りを見回すと胸の前で両手を組んで祈り始めた。

ユーリの力と繋がっているイリューディアの胸の内がほんのりと熱を持つ。

どうやら豊穣の力を使うらしい。

集まり祝福してくれている王都の者達への返礼ということかしら?

イリューディアはふうん?と小首を傾げると良くってよ、と優しく微笑んだ。

「あなたの思うままにその力をお使いなさい。わたくしからもその力に祝福と助力を。」

いまだ回復し切っていないユーリの微弱な力だけでは集まった王都の者達全てを喜ばせることはまだ出来ないだろう。

イリューディアはそっとその力に手を添えるように自分の力を上乗せした。

さて、ユーリは何を願ったのだろう?豊穣の力を使うならさっきの自分と同じように花でも降るのか、それとも甘い果実でも湧き出るように現れるのか。

そう思っていたら地上にはパステルカラーの包み紙に包まれたキャンディがパラパラと雨あられのように降り注ぎ始めた。

集まっていた人達の間からは大きな歓声が上がっている。

『ちょっとユーリ⁉︎』

リオン王弟殿下がユーリの頭にキャンディが当たらないように庇いながらも非難めいた声を上げている。

『ユーリ、これは一体何なんだ?』

そのリオン王弟殿下を守るように側近のレジナスも呆れたように尋ねている。

『ユーリ様、もしかしてお腹が空いていましたか?』

イリューディアお気に入りのあの美貌の青年がくすりと笑った。

『・・・君は一体何をやっているんだ』

グノーデルの数少ない人間の友人、その子孫である銀髪の青年がその氷の眼差しをユーリに向けた。

そして当のユーリは

『ごっ、ごめんなさい!だって今日は朝から全然甘いものを食べられなくて・・・‼︎ついうっかりそんな事を考えちゃって・・・‼︎でもまさかこんな事になるなんて』

あわわ、と焦っていた。

・・・ああ、なんともユーリらしい。

まだ降り注ぐキャンディの雨の中、わいわいとやり取りをするユーリと四人をイリューディアは見守る。

どうか彼女達の幸福な日々がずっと続きますように。

そう祈ってその願いを風に乗せユーリ達の元へとそっと送れば、見降ろす先では柔らかな風に吹かれてユーリの黒髪とベールがそれに応えて約束するように優しく揺れた。

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