【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】

sutera

文字の大きさ
593 / 777
番外編

夢で会えたら 14

しおりを挟む
「・・・あらまあさすが親子ですわね、とろけるような笑顔で美味しそうにパイを食べるお顔が二人ともそっくりですわ。」

アントン様とソフィア様に迎えられお茶を出されて一休みしていたら、出されたアップルパイを食べた私とシャル君を見比べたソフィア様がクスクスと小さな笑いをこぼした。

「え?そうですか?」

思わず口元にフォークを当てたまま隣のシャル君を見れば、シャル君もきょとんとした顔で私と同じように小さな口元にフォークを当てたままこちらを見返している。

「ほら、そっくりですわ!お二人ともなんて可愛らしいんでしょう‼︎」

ソフィア様がさらに笑いをこぼし、それにリオン様も本当だ、と同調して笑った。

シャル君はなぜ笑われているのかイマイチよく分かってないみたいだったけど、私とそっくりだと言われたのが嬉しいのか

「アップルパイおいしいですね!」

と無邪気に私に笑いかけてくれた。そんな風にして小休憩を挟んだ後はさっそく選女の泉へと向かうことになった。

前回あそこを訪れた時と同じように、私とリオン様、シャル君が乗る馬車の御者はレジナスさんが担当した。

同行してくれるシェラさんとシグウェルさんはそれぞれ馬に乗って、元々護衛役でついて来ているエル君やデレクさんと一緒に周囲の警戒もしてくれている。

ガタゴトと進む馬車の中、

「どの辺りでみんなと別れて一人で鹿さんを追いかけたか覚えていますか?」

とシャル君に尋ねれば、

「んーと、馬車をおりてここからは歩きだよっていわれたんです。それでとうさまやかあさま達がいずみへのお供えものとかをじゅんびしている間にラーズとふたりであそんでて・・・」

一生懸命思い出しながらそう教えてくれた。それを聞いたリオン様が

「ということは選女の泉のかなり近くだね。泉への小道は整備されているから迷いようがないけれど鹿を追いかけて茂みの中に迷い込めば、今のシャルの背丈だと他の者達はすぐには探し出せなかっただろうなあ。」

そう言ってシャル君の頭を撫でた。

「問題は時間の流れですよね。私とレニ様の時は半日以上を過去で過ごして、戻って来た時こちらでは数時間が経っているだけでしたけど・・・。今回は数日をこちらで過ごしているのでシャルが向こうに戻った時にどれ位の時間が経っているのか・・・」

突然姿を消したシャル君が長時間見つからないなんて、未来の私達は相当心配しているに違いない。

願わくば、シャル君が消えてからそんなに時間が経っていないで欲しいけど。

シャル君の手を握りながら、心の中でそっとイリューディアさんに祈った。

と、その時馬車がカタンと小さく揺れてゆっくりと止まった。どうやらここで降りるらしい。

外に出れば、馬を降りたシグウェルさんが

「シャル、これを」

と言って懐から白い雌鹿の顔が形どられたブローチを取り出した。

少し前に別邸で見た時もかなり完成していると思ったけど、今シグウェルさんがシャル君に付けてあげているそれはその時よりも更に精巧な完成品になっていた。

前に見た時より少し小ぶりなサイズのブローチになったのに、頭上には細やかに彫られた花冠まで被っている柔らかな顔付きの雌鹿の目には青い魔石が嵌め込まれている。

「あ、これがあの時私が加護を付けた魔石なんですね?」

「そうだ。俺もシャルに対しての他者からの攻撃や魔法を防ぐ簡単な防護魔法をかけておいたから、帰る途中で何かの邪魔が入っても支障はないはずだ。」

頷きながらシャル君の胸元へブローチを付けたシグウェルさんはこれでよし、とその小さな肩をぽんと叩いた。そしてアドバイスをする。

「シャル、ここへ来た時のように白い雌鹿を見たらまっすぐそれを追いかけろ。俺達の方は振り返らずにな。君の事を心配しているだろう皆のことを思い、そこへ帰るんだと強く願って鹿について行け。そうすればきっとすぐに君の本来の両親や弟達に会えるだろう。」

その言葉にシャル君がシグウェルさんを見上げる。

「ここのとうさまたちとはここでお別れなの・・・?ちょっとさびしいです。」

さすがに一人で行けと言われて心細いのかその青い瞳が揺れている。

するとシェラさんも膝をついてシャル君に目線を合わせた。

「おやおや、シャルの瞳は真っ青で殿下譲りですがこうしてよく見るとユーリ様のように金色の光もその中に煌めいていて綺麗ですね。まるで深く澄んだ泉に日の光が差し込み輝いているかのような美しさです。きっと未来のオレもこの愛らしいお顔や美しい瞳を見られずにいて、とても心配しているはずですよ。それにオレの養父もです。将来有望な剣の教え子が姿を消したのですからね。ぜひとも、早くその愛らしいお顔を見せて未来のオレ達を安心させてもらえませんか?」

「おじいさまも待ってますか?」

その言葉にレジナスさんもその大きな手をシャル君の小さな頭に乗せて優しく撫でる。

「ベルゲン様だけじゃない、俺もだ。シャルが帰ってこなければせっかく選んだ馬も贈れないし乗馬も教えられないからな。」

「レジーとうさまがおしえてくれるんですか⁉︎」

「剣を教えられないからな、乗馬は必ず俺が教えるはずだ。シャルに何も教えられないのは寂しい。」

「うれしいです、レジーとうさまに剣を教えてもらっているラーズがちょっぴりうらやましかったの。」

さっきまで不安気に揺れていたシャル君の瞳が少し明るさを取り戻した。その様子に私の手を引いてシャル君へ近付いたリオン様が

「シャル、みんな君の事が大好きだよ。みんな君を愛している。それはこの先、君にどんなに兄弟が増えても変わらない。だから少しも不安に思うことはない。それにほら、ここで過ごした分シャルは他の兄弟達よりもたくさんの愛情を特別に受け取ったんだよ。それを覚えていてね。君のことが大好きな僕達のこと、ここで過ごした思い出を忘れずにしっかり未来に持ち帰ってね。」

そう言い含めるように伝えた。相変わらず四歳児に話すには難しい内容だと思うんだけど、シャル君は真剣にそれに耳を傾けていた。

私も頑張れという思いを込めてシャル君をぎゅっと抱きしめる。

「シャルに会えて良かったです。ここに来てくれてありがとう」

そう言えば、抱きしめた懐から顔を出したシャル君が

「ボク、ここにきて良かったの?かあさま達をひとりじめしたいって思ったからここに迷いこんでみんなに心配かけたわるいこじゃなかった?」

と聞いてきた。

「とっても良い子ですよ!それにもし悪い子だったとしても大丈夫、そのおかげで私達はシャルに会えたんですから!」

私のその言葉にシェラさんが目を細め、シャル君も

「あ!シェラとうさまがいってたことですね?すこしわるい子のほうがいろんなものを見れるって」

と答えた。

「すごい、よく覚えてましたね!でもあんまり悪いことしちゃダメですよ?」

一応釘を刺しておく。こんなにリオン様似で頭の良い子が悪巧みに長けた成長をしたら大変だ。

そんな私にシャル君は分かりました!と大きく頷いた。私達の気持ちを伝えたら不安は解消されたらしい。

「早くかえって、ラーズにもかあさまやとうさま達と一緒にすごしたことを教えてあげたいです」

と、帰る方に気持ちが向いてきている。よし、これなら。

「・・・どうかイリューディアさんの導きで、シャル君が安全に元の時間に戻れますように。精霊さん達がその手助けをしてくれますように。」

以前リオン様の目を治した時のように、祈りを込めて祝福をするようにシャル君の小さな額に口付ける。

新年のこの時期、イリューディアさんの力は一年で最も強くなるという。

それならきっと、私の力も私を手助けしてくれる精霊達の力もきっと良い方へ強く働いてくれるだろう。

閉じた瞼の裏に明るい光を、シャル君に口付けた額と自分の唇に穏やかで暖かな熱を感じる。

その時、横の茂みでがさりと大きな音がした。

目を開けてそちらを見る。私だけでなくリオン様達も含め全員が見たその茂みの暗がりに、不釣り合いなほど真っ白に輝く動物らしいものの耳がぴょこんと飛び出て揺れていた。

ガサガサ、と更に茂みは揺れてその動物らしいものは耳だけでなく顔も覗かせた。それを見てハッと息を呑む。

「白い雌鹿です・・・!」

こちらをジッと見つめるその瞳はどこまでも青く澄んでいて理知的な光をたたえていた。

「あのときの鹿さん!」

シャル君が私の胸元からパッと身を起こした。

すると鹿はその声に反応したのか、私達に背を向けてくるりと踵を返した。

慌ててシャル君に声を掛ける。

「シャル、ついて行って!」

きっとあれがイリューディアさんの使いだ。そう思えるほど神秘的な雰囲気をしている。

促した私にシャル君は掴まっていた手に一瞬ぎゅっと力が入ったようだった。

だけど

「かあさま、ずっとだいすき!また会おうね‼︎」

心を決めたようにそう言うと立ち上がった。

そして茂みの向こうへ姿を消そうとしていた鹿を追いかける。シグウェルさんが教えた通り、こちらは振り向かない。

「またすぐに会えますからね!」

その小さな背中に声を掛けるけど、すぐにその姿は見えなくなった。

シャル君が姿を消したその茂みを私達はしばらくの間、みんな自然と無言で見守ってしまう。

するとそれほど間を置かずして、私達から少し離れた森の向こうが突然明るい光に包まれた。それはまるで私が癒しの力を使った時のようだった。

もしかしてあれがシャル君が元の時間に戻った証なんだろうか。そう思っていたらシグウェルさんも

「・・・シャルの魔力の気配が消えた。どうやら戻ったらしいな。」

と頷いた。その表情や態度はいつも通りの冷静なものだったけど、言葉には僅かに寂しそうなものが含まれていたと思うのはきっと私の気のせいだけじゃないと思う。




しおりを挟む
感想 191

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」 ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。 竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。 そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。 それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。 その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた! 『ママ! 早く僕を産んでよ!』 「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」 お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない! それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――! これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。 設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。

処理中です...