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番外編
かわいい子には旅をさせよう 13
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結局私の髪型は猫耳にしたいシェラさんとそれを却下したい私との折衷案で、頭の左右にお団子を作った。
ついでに私のうなじを周囲の目に晒したくないというシェラさんの主張も取り入れて、後ろ髪はそのまま流す形だ。
「これ、猫耳の三角が丸になっただけじゃないですか・・・」
しかも更に猫耳ヘアの名残りを残そうとしたのかお団子部分からは左右ともまるで猫の尻尾みたいに、一束ずつ取った髪の毛を三つ編みにして下へと流している。
手鏡でお団子やサイドを確かめようと顔の角度を変えて見る度にその三つ編みが尻尾のようにゆらゆら揺れているのを確かめたシェラさんは、
「せっかく地方の者たちにもユーリ様の愛らしさを存分に知らしめる良い機会でしたのに残念です」
とまだ言っている。
「猫耳よりもこっちの方が私は好きですよ!」
三角耳が丸くなっただけだけど、少なくともコスプレ感は薄まった。
まあ、猫の尻尾みたいに飛び出ている三つ編み部分込みでちょっと中華チックな感じの髪型になったのが複雑な気分だけど、こちらの世界のシェラさん達にそんな事は分からないだろう。
「ユーリ様にお気に召していただいたのなら、オレはもう何も言うことはありませんが・・・」
全力でシェラさんの作ってくれた髪型を全肯定したら、やっと納得してくれたらしくホッとする。と思ったら、
「ですがユーリ様。ユーリ様をいかに愛らしくかつ美しく見せるかはオレの趣味でもありますので・・・。もしよろしければこれから先も、遠征先などでユーリ様に似合いそうな髪飾りなどを見つけた際は、それを買い求めお捧げしてもよろしいですか?」
と聞かれた。
「ええ?わざわざ?そんな悪いですよ」
「勿論、リオン殿下もユーリ様へ心を込めた贈り物をいくつもされているでしょうからそれには及ばないかも知れませんが・・・。そうそう、そういえばレジナスもユーリ様へ髪飾りを贈ったと聞いております。それならば、なおさらオレからもユーリ様へ贈り物をさせてください。」
なぜレジナスさんに対抗心を燃やしているのか分からないけど、リオン様はともかくレジナスさんからの贈り物を受け取ったのなら、自分からの物も受け取って欲しいとシェラさんは言う。
信者が教祖様やご本尊様に捧げる貢ぎ物で他人には負けたくないっていう心情なのかな?もしかして人はこうやって過剰なお布施をした結果、身を持ち崩すんじゃないだろうか。
まあそんな破産するほどの貢ぎ物はさすがのシェラさんもしないよね?
そう考えた私は軽い気持ちで頷いた。
「シェラさんが無理をしない程度でなら任務先でのお土産も受け取りますけど、そんなにたくさんはいりませんからね?物よりもお土産話を聞かせてもらう方が楽しいし嬉しいので。」
その時私が思い浮かべていた『贈り物』は旅先によくある地方限定キーホルダーや地方銘菓の菓子折りだった。
だからシェラさんがくれるのもそういった地方特産のちょっとした髪飾りやブローチ、お菓子の類いだと思っていたんだけど・・・。
「ありがとうございます。これから遠征や討伐で地方へ出掛ける際の楽しみが出来ました。」
嬉しそうに言ったシェラさんは
「この先ユーリ様に正式な護衛騎士が付きオレがお側に居られなくなって遠く辺境の地にあっても、変わらずお慕いしユーリ様を想って心尽くしの品々を買い求めてまいります。ですのでその際はぜひその花のように美しい笑顔でオレを出迎えてください。」
約束ですよ、とすいと私の小指を取って絡めるとそれこそ私なんかよりはずっと艶のある美しい笑顔をその顔に浮かべた。
「へ?あ、はい・・・」
たかがお土産を受け取る約束をそこまで嬉しそうにするなんて、と面食らっているとそれまで私達のやり取りを見ていたユリウスさんが
「ちょっとシェラザード隊長!またそんな、指を絡めるなんていかがわしい事・・・しかも自分からするなんて調子に乗り過ぎっすよ!あとユーリ様も、物を貰えるからってそんなにホイホイ約束してたらそのうちとんでもない事になるから気を付けるっす‼︎」
ほら離れて、髪型も整ったし休憩はもう終わりっす!と私とシェラさんを離すとそのまま私をぐいぐいと馬車の方へ追いやる。
「またまた、ユリウスさんったら大袈裟なんですから」
ユリウスさんに背中を押されながらその時の私は笑っていたけど、まさかこの時の許可が元でその後シェラさんが任務の度にドレスやら靴やら宝石やらを買い込んで来て、更には無人島まで買うことになるとは知る由もないのだった。
私の髪型で一悶着あった最後の休憩をした後、目的地の町に着いたのはすでに日も傾きかけ夕暮れに差し掛かった頃だった。
「何とか暗くなる前に間に合って良かったです!町長さん達、お待たせしちゃってますよね?」
到着したら町長さんにご挨拶をして、それからこの町の神殿に案内してもらってそこで騎士さん達に作ってもらった籠や王宮から持参した物に力を使う予定だ。
本当は今朝、加護を付けてしまうつもりだったけどそれだとパンで山盛りの籠が荷物になって嵩張るというのと、実際町の人達の目の前で加護を付けた方が癒し子としての力に説得力が増すだろうと言われてそうなった。
確かに籠は四つ重ねて持ち歩く方が嵩張らないけど、みんなの前でこれみよがしに見せびらかすみたいにイリューディアさんの力を使うのはちょっと抵抗があるっていうか恥ずかしいんだよね・・・。
しかもすでに暗くなり始めているのにわざわざ町の人達に神殿まで集まってもらうのも申し訳ない、と出迎えてくれた町長さん始めお役人の人達に頭を下げれば
「とんでもない!むしろ恐れ多くも天から遣わされた癒し子様に突進して直訴するなど、いくら思い余っていたとはいえディーノのした事に何のお咎めもなくお許しくださった上にここまでいらしてくださって、こちらの方こそ・・・‼︎」
と私よりも深く頭を下げられてしまった。
ちなみにディーノさんというのは王宮で私がラブレターを渡されたと勘違いしたあの書記官さんだ。
この町の副町長さんの息子らしく、副町長さんはずっと顔色が悪かった。自分の息子がとんでもない事をしたという思いとあと、シェラさんのせいだ。
「そうですか、あなたがあの時穏やかな気持ちで楽しげに散策していたユーリ様の行く手を阻み、直接気持ちを訴え出て来た不敬者の親ですか。あの場でオレがあと一歩早く駆けつけていればユーリ様に伸ばしていたあの不敬者の両手を切り落とせていたのですが・・・。息子の躾はきちんとしていただきたいものですねぇ。」
まるで息子の代わりにその手を切り落としてやろうかとでも言いたげな雰囲気で副町長さんの両手をジロジロ見ながら言ったりするから。
「何言ってるんですかシェラさん!あの、すみません気にしないでくださいね?シェラさん、私の護衛で神経質になっているだけで・・・ホントすみません!」
なぜか私がまた頭を下げて、そんな私のうしろではユリウスさんが「狂犬過ぎる!」と小さな叫びを上げた。
そんな感じで、出会って早々このままだと私も町長さん達も頭の下げ合いで埒が開かないので、私の方から早く神殿で豊穣の力を使いたいと申し出た。
するとあからさまにホッとした町長さんは
「どうぞどうぞ、すでにほとんどの町の者達は集まっておりますので」
とやっと笑顔を見せてくれた。通りで私達が来ても見物と出迎えに出てきていた人達が少ないはずだ。
まさか水害と土砂崩れで流されて人が減った?と心配していたのでそこは安心する。
そうして案内された神殿の大扉を開いて貰えば、途端に中にいたたくさんの人達の視線が一斉に私に注がれた。
その視線に一瞬足がすくんで立ち止まってしまったら、背後のシェラさんがこっそり囁く。
「もしよければお手をとりましょうか?」
「だ、大丈夫です!」
これくらいで怯んでいたら何も出来ない。
もしかしたらこの先もっとたくさんの人たちの前で力を使う必要に迫られるかも知れないし、もっと怖い、足がすくむような魔物と対峙して力を使わなきゃいけないかも知れない。
ざっと見、200人もいない人数だ。緊張することはない。それに・・・。
よく見れば、痩せている人や包帯を巻いている人、泥だらけの服で疲れ切っている人たちも多い。
現代日本と違って街灯もろくにない小さな町の、外歩きをするには足元もおぼつかないほど暗くなる頃合いにこうしてわざわざ集まってくれたんだから、早くこの人達のためにも力を使って役に立たないと。
「ユリウスさん、荷馬車からは木樽ももう降ろしてありますか?」
集まってくれた人達の真ん中を行きながら聞けばユリウスさんは勿論!とあの人好きのする明るい笑顔を見せてくれた。
「ユーリ様が町長と話している間に、例のパン籠と一緒に祭壇に運んであるっす!一気にやっちゃう気っすか?」
私に向かって祈りを捧げるように両手を組んでいる人達や深々と頭を下げたままの人、膝をついて何か呟きながら祈る人など本当に何かの宗教の教祖様にでもなったみたいな妙に張り詰めた空気の中で、ユリウスさんのあのいつも通りの気安い口調や明るい笑顔はなぜか安心する。
「そのつもりです、何しろシグウェルさんに鍛えられたおかげで加護の力を引き出すのも早くなったんで」
王都から持参した木樽は空で、ここに着いてからワインやジュースで満たすつもりだった。
期せずして、道中の思いつきでパン籠も作ることになったけど今の私なら樽にも籠にも一度に加護の力を使えると思う。
なにしろ魔法バカのシグウェルさんが豊穣の力を調べる魔法実験に付き合わされて、瓶200本に力を使った他にも色々とやらされたからだ。
そのスパルタのおかげで最初の頃よりもだいぶ思い通りに、かつ早く力を使えるようになった。
「団長のアレはユーリ様の力を調べたり伸ばすためって言うよりも単に自分の好奇心を満たしたかったからって感じだったっすけどねぇ・・・。なのに、どこで何が役に立つか分からないものっすね。」
これで「どうだ、俺のおかげだろう」ってドヤ顔されるのも腹が立つっす、とユリウスさんはぶつぶつ言っているけど。
「本当に、まさかあの泣きを見るほど付き合わされた魔法実験がここで役に立つとは思ってませんでした。」
この場にいないシグウェルさんを思い浮かべて苦笑いしながら一応感謝する。
目の前の大きな長机みたいな祭壇には、ロウソクの灯りに照らされて騎士さん達に編んでもらったパン籠が四つ。
それから海外のワインセラーにあるみたいな大きな木樽が五つ、その後ろにも並べてある。
それらをしっかり見つめて確かめる。それからふうっと大きく深呼吸をしてやりますよ、と呟いてから目を閉じて両手をかざし、集中する。
するとユリウスさんとシェラさんを始めとして、私の後ろをついて来てくれていた騎士さん達がザッ、と一斉に跪いた気配がした。
私と一緒に祈ってくれるのかな?ありがたいなあ、その分の祈りの力もイリューディアさんに届いてどうかみんなのための力になりますように。
そう願えば、いつものように閉じた瞼の裏へ明るい金色の光が溢れ出し、かざした両手のひらを温かく感じた。
ついでに私のうなじを周囲の目に晒したくないというシェラさんの主張も取り入れて、後ろ髪はそのまま流す形だ。
「これ、猫耳の三角が丸になっただけじゃないですか・・・」
しかも更に猫耳ヘアの名残りを残そうとしたのかお団子部分からは左右ともまるで猫の尻尾みたいに、一束ずつ取った髪の毛を三つ編みにして下へと流している。
手鏡でお団子やサイドを確かめようと顔の角度を変えて見る度にその三つ編みが尻尾のようにゆらゆら揺れているのを確かめたシェラさんは、
「せっかく地方の者たちにもユーリ様の愛らしさを存分に知らしめる良い機会でしたのに残念です」
とまだ言っている。
「猫耳よりもこっちの方が私は好きですよ!」
三角耳が丸くなっただけだけど、少なくともコスプレ感は薄まった。
まあ、猫の尻尾みたいに飛び出ている三つ編み部分込みでちょっと中華チックな感じの髪型になったのが複雑な気分だけど、こちらの世界のシェラさん達にそんな事は分からないだろう。
「ユーリ様にお気に召していただいたのなら、オレはもう何も言うことはありませんが・・・」
全力でシェラさんの作ってくれた髪型を全肯定したら、やっと納得してくれたらしくホッとする。と思ったら、
「ですがユーリ様。ユーリ様をいかに愛らしくかつ美しく見せるかはオレの趣味でもありますので・・・。もしよろしければこれから先も、遠征先などでユーリ様に似合いそうな髪飾りなどを見つけた際は、それを買い求めお捧げしてもよろしいですか?」
と聞かれた。
「ええ?わざわざ?そんな悪いですよ」
「勿論、リオン殿下もユーリ様へ心を込めた贈り物をいくつもされているでしょうからそれには及ばないかも知れませんが・・・。そうそう、そういえばレジナスもユーリ様へ髪飾りを贈ったと聞いております。それならば、なおさらオレからもユーリ様へ贈り物をさせてください。」
なぜレジナスさんに対抗心を燃やしているのか分からないけど、リオン様はともかくレジナスさんからの贈り物を受け取ったのなら、自分からの物も受け取って欲しいとシェラさんは言う。
信者が教祖様やご本尊様に捧げる貢ぎ物で他人には負けたくないっていう心情なのかな?もしかして人はこうやって過剰なお布施をした結果、身を持ち崩すんじゃないだろうか。
まあそんな破産するほどの貢ぎ物はさすがのシェラさんもしないよね?
そう考えた私は軽い気持ちで頷いた。
「シェラさんが無理をしない程度でなら任務先でのお土産も受け取りますけど、そんなにたくさんはいりませんからね?物よりもお土産話を聞かせてもらう方が楽しいし嬉しいので。」
その時私が思い浮かべていた『贈り物』は旅先によくある地方限定キーホルダーや地方銘菓の菓子折りだった。
だからシェラさんがくれるのもそういった地方特産のちょっとした髪飾りやブローチ、お菓子の類いだと思っていたんだけど・・・。
「ありがとうございます。これから遠征や討伐で地方へ出掛ける際の楽しみが出来ました。」
嬉しそうに言ったシェラさんは
「この先ユーリ様に正式な護衛騎士が付きオレがお側に居られなくなって遠く辺境の地にあっても、変わらずお慕いしユーリ様を想って心尽くしの品々を買い求めてまいります。ですのでその際はぜひその花のように美しい笑顔でオレを出迎えてください。」
約束ですよ、とすいと私の小指を取って絡めるとそれこそ私なんかよりはずっと艶のある美しい笑顔をその顔に浮かべた。
「へ?あ、はい・・・」
たかがお土産を受け取る約束をそこまで嬉しそうにするなんて、と面食らっているとそれまで私達のやり取りを見ていたユリウスさんが
「ちょっとシェラザード隊長!またそんな、指を絡めるなんていかがわしい事・・・しかも自分からするなんて調子に乗り過ぎっすよ!あとユーリ様も、物を貰えるからってそんなにホイホイ約束してたらそのうちとんでもない事になるから気を付けるっす‼︎」
ほら離れて、髪型も整ったし休憩はもう終わりっす!と私とシェラさんを離すとそのまま私をぐいぐいと馬車の方へ追いやる。
「またまた、ユリウスさんったら大袈裟なんですから」
ユリウスさんに背中を押されながらその時の私は笑っていたけど、まさかこの時の許可が元でその後シェラさんが任務の度にドレスやら靴やら宝石やらを買い込んで来て、更には無人島まで買うことになるとは知る由もないのだった。
私の髪型で一悶着あった最後の休憩をした後、目的地の町に着いたのはすでに日も傾きかけ夕暮れに差し掛かった頃だった。
「何とか暗くなる前に間に合って良かったです!町長さん達、お待たせしちゃってますよね?」
到着したら町長さんにご挨拶をして、それからこの町の神殿に案内してもらってそこで騎士さん達に作ってもらった籠や王宮から持参した物に力を使う予定だ。
本当は今朝、加護を付けてしまうつもりだったけどそれだとパンで山盛りの籠が荷物になって嵩張るというのと、実際町の人達の目の前で加護を付けた方が癒し子としての力に説得力が増すだろうと言われてそうなった。
確かに籠は四つ重ねて持ち歩く方が嵩張らないけど、みんなの前でこれみよがしに見せびらかすみたいにイリューディアさんの力を使うのはちょっと抵抗があるっていうか恥ずかしいんだよね・・・。
しかもすでに暗くなり始めているのにわざわざ町の人達に神殿まで集まってもらうのも申し訳ない、と出迎えてくれた町長さん始めお役人の人達に頭を下げれば
「とんでもない!むしろ恐れ多くも天から遣わされた癒し子様に突進して直訴するなど、いくら思い余っていたとはいえディーノのした事に何のお咎めもなくお許しくださった上にここまでいらしてくださって、こちらの方こそ・・・‼︎」
と私よりも深く頭を下げられてしまった。
ちなみにディーノさんというのは王宮で私がラブレターを渡されたと勘違いしたあの書記官さんだ。
この町の副町長さんの息子らしく、副町長さんはずっと顔色が悪かった。自分の息子がとんでもない事をしたという思いとあと、シェラさんのせいだ。
「そうですか、あなたがあの時穏やかな気持ちで楽しげに散策していたユーリ様の行く手を阻み、直接気持ちを訴え出て来た不敬者の親ですか。あの場でオレがあと一歩早く駆けつけていればユーリ様に伸ばしていたあの不敬者の両手を切り落とせていたのですが・・・。息子の躾はきちんとしていただきたいものですねぇ。」
まるで息子の代わりにその手を切り落としてやろうかとでも言いたげな雰囲気で副町長さんの両手をジロジロ見ながら言ったりするから。
「何言ってるんですかシェラさん!あの、すみません気にしないでくださいね?シェラさん、私の護衛で神経質になっているだけで・・・ホントすみません!」
なぜか私がまた頭を下げて、そんな私のうしろではユリウスさんが「狂犬過ぎる!」と小さな叫びを上げた。
そんな感じで、出会って早々このままだと私も町長さん達も頭の下げ合いで埒が開かないので、私の方から早く神殿で豊穣の力を使いたいと申し出た。
するとあからさまにホッとした町長さんは
「どうぞどうぞ、すでにほとんどの町の者達は集まっておりますので」
とやっと笑顔を見せてくれた。通りで私達が来ても見物と出迎えに出てきていた人達が少ないはずだ。
まさか水害と土砂崩れで流されて人が減った?と心配していたのでそこは安心する。
そうして案内された神殿の大扉を開いて貰えば、途端に中にいたたくさんの人達の視線が一斉に私に注がれた。
その視線に一瞬足がすくんで立ち止まってしまったら、背後のシェラさんがこっそり囁く。
「もしよければお手をとりましょうか?」
「だ、大丈夫です!」
これくらいで怯んでいたら何も出来ない。
もしかしたらこの先もっとたくさんの人たちの前で力を使う必要に迫られるかも知れないし、もっと怖い、足がすくむような魔物と対峙して力を使わなきゃいけないかも知れない。
ざっと見、200人もいない人数だ。緊張することはない。それに・・・。
よく見れば、痩せている人や包帯を巻いている人、泥だらけの服で疲れ切っている人たちも多い。
現代日本と違って街灯もろくにない小さな町の、外歩きをするには足元もおぼつかないほど暗くなる頃合いにこうしてわざわざ集まってくれたんだから、早くこの人達のためにも力を使って役に立たないと。
「ユリウスさん、荷馬車からは木樽ももう降ろしてありますか?」
集まってくれた人達の真ん中を行きながら聞けばユリウスさんは勿論!とあの人好きのする明るい笑顔を見せてくれた。
「ユーリ様が町長と話している間に、例のパン籠と一緒に祭壇に運んであるっす!一気にやっちゃう気っすか?」
私に向かって祈りを捧げるように両手を組んでいる人達や深々と頭を下げたままの人、膝をついて何か呟きながら祈る人など本当に何かの宗教の教祖様にでもなったみたいな妙に張り詰めた空気の中で、ユリウスさんのあのいつも通りの気安い口調や明るい笑顔はなぜか安心する。
「そのつもりです、何しろシグウェルさんに鍛えられたおかげで加護の力を引き出すのも早くなったんで」
王都から持参した木樽は空で、ここに着いてからワインやジュースで満たすつもりだった。
期せずして、道中の思いつきでパン籠も作ることになったけど今の私なら樽にも籠にも一度に加護の力を使えると思う。
なにしろ魔法バカのシグウェルさんが豊穣の力を調べる魔法実験に付き合わされて、瓶200本に力を使った他にも色々とやらされたからだ。
そのスパルタのおかげで最初の頃よりもだいぶ思い通りに、かつ早く力を使えるようになった。
「団長のアレはユーリ様の力を調べたり伸ばすためって言うよりも単に自分の好奇心を満たしたかったからって感じだったっすけどねぇ・・・。なのに、どこで何が役に立つか分からないものっすね。」
これで「どうだ、俺のおかげだろう」ってドヤ顔されるのも腹が立つっす、とユリウスさんはぶつぶつ言っているけど。
「本当に、まさかあの泣きを見るほど付き合わされた魔法実験がここで役に立つとは思ってませんでした。」
この場にいないシグウェルさんを思い浮かべて苦笑いしながら一応感謝する。
目の前の大きな長机みたいな祭壇には、ロウソクの灯りに照らされて騎士さん達に編んでもらったパン籠が四つ。
それから海外のワインセラーにあるみたいな大きな木樽が五つ、その後ろにも並べてある。
それらをしっかり見つめて確かめる。それからふうっと大きく深呼吸をしてやりますよ、と呟いてから目を閉じて両手をかざし、集中する。
するとユリウスさんとシェラさんを始めとして、私の後ろをついて来てくれていた騎士さん達がザッ、と一斉に跪いた気配がした。
私と一緒に祈ってくれるのかな?ありがたいなあ、その分の祈りの力もイリューディアさんに届いてどうかみんなのための力になりますように。
そう願えば、いつものように閉じた瞼の裏へ明るい金色の光が溢れ出し、かざした両手のひらを温かく感じた。
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