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番外編
かわいい子には旅をさせよう 14
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祭壇に向けてかざした手のひらの温かさを感じながら、頭の中で想像する。
5つの木樽のうち、その3つには風味豊かな赤ワインをなみなみと。
残りの1つずつには甘くて瑞々しい、爽やかな風味のオレンジジュースと白ブドウのジュースをそれぞれ。
5つとも樽の中いっぱいに満ちて、満ちて、いつでもみんなの喉を潤せますように。
それから籠の中にはふかふかで柔らかな、小さな子どもやお年寄りでも食べやすい白パンに、栄養も豊かな味わい深い黒パン、さっくりした歯ごたえも軽く牛乳に浸してもおいしいクッキーやビスケットを。
おとぎ話みたいに溢れそうで溢れないほど籠のふちいっぱいまで湧き上がるように盛り上がって来ますように。
そんな風に願いながら力を使えば、私の背後にいる町の人達からはおお・・・、と歓声ともため息ともつかない声が上がってどよめいた。
パンと飲み物の2種類を同時に出すような豊穣の力の使い方は初めてだけど、この反応はうまくいったってことなのかな?
瞼の裏に輝く光と手のひらに感じるほのかな温かさが徐々になくなってきたので目を開ければ、ちょうどキラキラと天上から降り注ぐ光の粒が消えていくところだった。
目の前を確かめれば、並べてあった四つの籠にはどれもこんもりとパンやクッキーが盛り上がっている。
木樽はさすがに中身は見えないので、確かめてみなければ分からないけどこの分ならきっと成功しているに違いない。
ホッとして手を下ろせば、後ろからシェラさんが
「お疲れ様ですユーリ様」
お掛けください、と椅子を出して私を座らせてくれると水の入ったコップを手渡された。その横からはユリウスさんが祭壇へと歩み寄り、
「お疲れ様っす、いやぁ相変わらず凄いっすねー。面白いくらいポコポコと空の籠の中にパンが湧いて来るんすもん。」
楽しそうに四つの籠の一つからパンを手に取り確かめているので
「ユリウスさん、木樽の中も確かめてもらえますか?3つにはワインが、後の2つにはジュースが入っているはずなので。」
そうお願いする。するとさっそく騎士さんに指示をして、それぞれの木樽の栓を抜いて小さな杯へとその中身を開けて確かめてくれた。
「お、こっちもちゃんと成功っすよ!」
そのままワインの入った杯は町長さんと副町長さん、神殿の神官長さんに試飲してもらいジュースの方は私のする事を見物に来ていた子達のうち、2人の子に分けてもらった。
その子ども達がおいしい!甘いよ!と傍らに立つ自分達の母親らしい女性にかわいい笑顔を見せたので、思わずこちらも笑顔になる。
良かった。シグウェルさんのスパルタのおかげで木樽も籠もどちらもうまくいった。
「ありがとうございますユーリ様。噂に聞いていた以上に尊い、イリューディア神様に祝福されたそのお力を目の前で見ることが出来て大変感激しております。」
神官長さんに深々と頭を下げられたけど、私にはまだすることがある。
「とんでもないです、まだもう少し頑張らせてください!」
シェラさんに座らせてもらって椅子から立ち上がり、くるりと回れ右をして神殿に集まってくれていた町の人達に向き直る。
そのままぐるりとみんなの顔を見渡した。
町の人達の前には私の護衛でついて来てくれた騎士さん達とシェラさんにユリウスさんが立っている。
その2人は、これから私が何をするのかと
「ユーリ様?後は宿へ行かれてお休みになるはずでは?」
シェラさんが不思議そうにして、ユリウスさんにも
「え?まだなんかするつもりっすか?」
と聞かれた。勿論!
「遅い時間まで私達が到着するのを待ってくれた上にせっかくここに集まってくれたので!それに今日はまだ一度も癒しの力は使ってませんからね?」
にっこり笑って目を閉じて祈るように両手を組む。
とりあえず今はここに集まってくれた人達と、ここまで私を護衛しながら連れて来てくれたシェラさんを始めとする騎士さん達やユリウスさんの疲れを癒やそう。
感謝を込めて組んだ手に力を込め、集まってくれた人達が癒されますようにと願った。
神殿に入って来た時に見えた人達は疲れ切り、怪我をしている人もいた。だからどうか、そんな人達もみんな良くなりますように。
そう気持ちを込めて祈れば神殿の中にあの金色の光が満ちる。
そしてその光が静かに消えてしまえば、確かに集まった人達の不調も一緒に消え去ったらしく
「信じられない、さっきまであんなに痛みがあったのに・・・!」
「指が動く!」
「傷が消えてる?」
そんな言葉が聞こえてきた。騎士さん達にも
「ユーリ様、朝もやってくれたのにまた俺達まで癒やしてくれたんですか?勿体無い・・・!」
と頭を下げられたけどそんなに大したことはしていない。
「感謝なら私じゃなくイリューディアさんにぜひ!これはイリューディアさんの力ですから!」
私はその力を借りて自分に出来ることをしているだけに過ぎないのだ。
それにいま癒やしたのはあくまでもここに集まってくれた人達だけ。なかには体調が悪くてここまで来れなかった人もいるだろう。
だからこの町に滞在している間はぜひそんな人達の家も訪問して治させて欲しいと町長さんにお願いする。
「それから出来れば皆さんの各家庭にある水桶やビンなんかの飲み水を入れられる物も、ここに集められたら持って来て欲しいです。それにもいつでも水が飲めるように、飲み水が減らない加護をつけたいと思うので。いいですか?」
その後、水の入って重くなったそれを家まで持ち帰ってもらうのは大変かも知れないけど。
でもこの町はまだ水害から完全に復旧していなくて綺麗な飲み水の確保にも遠くの川まで足を運んでいて大変だと聞いている。
シグウェルさんの実験で、私が加護の力で作り出した飲料水は北の寒さにも凍らず南の酷暑でも腐らないと分かったので、ここでも充分役立てるはず。
そう申し出れば町長さん達は喜んで賛成してくれた。
ユリウスさんも肩をすくめる。
「ユーリ様がそうしたいって言うなら仕方ないっすね。明日、例の怪しい腐敗臭のする霧が出ている辺りを視察に行って帰って来たらその作業をしましょう。俺たちが視察に出ている間に、護衛騎士の連中を何人か手伝いにここに残しといてビンを集めさせておくっす。」
まったく、自分から仕事を増やすなんて物好きっすね。なんて言いながらユリウスさんはてきぱきと私の提案に騎士さん達の割り振りを決めてくれた。
「ありがとうございます、さすがユリウスさん!」
「こんなのいつも団長に無理難題を押し付けられてるのに比べればなんてことないっすよ」
普段からシグウェルさんの気まぐれな魔法実験や思いつきの尻拭い・・・もとい対応に慣れているだけあって、町の様子を見ての私の急な提案にもユリウスさんは臨機応変にすぐに応えてくれた。
するとそんな私にシェラさんが
「ではユーリ様、そろそろ宿へとお戻りください。疲れておられないと言っても無理はいけません。明日以降の任務に差し支えては大変です。」
と、ユリウスさんにお礼を言って笑顔を見せていた私の肩を抱き、まるでダンスで優雅なターンを決めるかのようにくるりと回れ右をして背を向けさせた。
「ちょっとシェラザード隊長、俺まだユーリ様と話してたんすけど⁉︎」
「力を使われたユーリ様は空腹なはずですからね。早く休ませてさしあげなければ。いつまでも貴方のお喋りに付き合わせているわけにはいかないんですよ、どうぞここから先は遠慮なくオレにお任せください。」
抗議したユリウスさんにシェラさんは私のことは何でも分かっていると言わんばかりにふふん、となぜか勝ち誇ったような笑みを見せた。
言われてみれば、なんとなくお腹が空いたような気もするけど。
だけど何も、そんなに勝ち誇ったような態度で私がハラヘリだとみんなの前で堂々と言わなくても・・・と肩を抱かれたままジトリとシェラさんを見上げれば、そんな私の視線に気付いたシェラさんは
「お待たせして申し訳ありませんユーリ様。宿では先にマリーが食事は勿論、ベッドを整え温かな湯も用意しているはずです。明日に備えて、今夜はゆっくりとおくつろぎいただけるようにオレが責任を持って手取り足取りユーリ様にご奉仕いたしますからね。」
この上なく甘やかな笑顔で私に微笑みかけてきた。
・・・いつも通りのあの無駄に色気たっぷりな雰囲気に、しかもこの上なく誤解をさせそうな言い回しでもって。
私としてはそれがシェラさん独特の言い方で何のやましいところも他意もない、ごく単純な身の回りの世話をするだけと分かっているけど周りの人達はそうは思わない。
しかもあのいかがわしさ満載の、色気垂れ流しの笑顔にここに集まっている人達は免疫がない。
だからその色っぽさに当てられた上にシェラさんの紛らわしい言い回しに、みんなの顔がさっと赤くなったのが分かった。
女性陣からはきゃあ!と浮かれたようにひそやかな悲鳴も上がっている。
ていうか、町の人達どころかシェラさんのいつものあの紛らしい言動や色気に慣れているはずの騎士さん達も
「た、隊長、ユーリ様に何をするつもりなんですか⁉︎」
「何かあったらオレ達、レジナス様に顔向け出来ねぇ・・・‼︎」
「でもこの隊長を止める実力もねぇよ、俺達・・・!」
と動揺している。何てことをしてくれるのか。
町長さんも、
「失礼いたしました、こちらの方は身辺警護だけでなく、その、ユーリ様の様々な・・・身の回りのお世話も任せられている近しい関係のお方で?それでしたらあの、今からでもお部屋も同室の方が・・・?」
とまるで私達が恋人同士か何かのように、意味ありげに恐る恐る聞いて来る始末だ。とんでもない誤解だ。
「・・・シェラさん!」
たまらず注意をしようと私も声を上げれば
「はい、なんでしょうユーリ様。歩くのもおっくうなほどお疲れであれば抱き上げますが。僭越ながら、畏れ多くも女神の如く尊いお方をこの手に抱く光栄に浴しても?」
と大袈裟に胸に手を当てお辞儀をされた。まるでダンスを申し込まれているようなその仕草に、恥ずかしくなって何て文句を言おうと思っていたのか一瞬忘れてしまう。
うぐっ、と言葉を飲み込み間が空いて、結局私がどう答えるのかと注目している周りの人達の好奇の目に耐えられず、早くこの場から立ち去りたい!と思ってしまった。結果、
「・・・早く行きましょう!お腹、空きました!」
と「シェラさんとの関係を否定せずに率先して自分から宿へ誘った人」になってしまった。
するとシェラさんは
「はい、オレの女神の仰せのままに。」
と嬉しそうに私の後を追ってくる。その後ろからはユリウスさんもついて来ながら呆れたように
「ユーリ様、自分から墓穴を掘ってないっすか?リオン殿下がユーリ様に伴侶の申し出をしたって話はまだこんな地方にまでは聞こえてきていないはずっすから・・・下手すりゃこの隊長がユーリ様の恋人だってマジで誤解されかねないっすよ?」
そんな噂が広まっても、俺は責任取れないっすからね?とぶつぶつ言っていたのは、足早に歩いていた私の耳には全然入ってきていなかった。
5つの木樽のうち、その3つには風味豊かな赤ワインをなみなみと。
残りの1つずつには甘くて瑞々しい、爽やかな風味のオレンジジュースと白ブドウのジュースをそれぞれ。
5つとも樽の中いっぱいに満ちて、満ちて、いつでもみんなの喉を潤せますように。
それから籠の中にはふかふかで柔らかな、小さな子どもやお年寄りでも食べやすい白パンに、栄養も豊かな味わい深い黒パン、さっくりした歯ごたえも軽く牛乳に浸してもおいしいクッキーやビスケットを。
おとぎ話みたいに溢れそうで溢れないほど籠のふちいっぱいまで湧き上がるように盛り上がって来ますように。
そんな風に願いながら力を使えば、私の背後にいる町の人達からはおお・・・、と歓声ともため息ともつかない声が上がってどよめいた。
パンと飲み物の2種類を同時に出すような豊穣の力の使い方は初めてだけど、この反応はうまくいったってことなのかな?
瞼の裏に輝く光と手のひらに感じるほのかな温かさが徐々になくなってきたので目を開ければ、ちょうどキラキラと天上から降り注ぐ光の粒が消えていくところだった。
目の前を確かめれば、並べてあった四つの籠にはどれもこんもりとパンやクッキーが盛り上がっている。
木樽はさすがに中身は見えないので、確かめてみなければ分からないけどこの分ならきっと成功しているに違いない。
ホッとして手を下ろせば、後ろからシェラさんが
「お疲れ様ですユーリ様」
お掛けください、と椅子を出して私を座らせてくれると水の入ったコップを手渡された。その横からはユリウスさんが祭壇へと歩み寄り、
「お疲れ様っす、いやぁ相変わらず凄いっすねー。面白いくらいポコポコと空の籠の中にパンが湧いて来るんすもん。」
楽しそうに四つの籠の一つからパンを手に取り確かめているので
「ユリウスさん、木樽の中も確かめてもらえますか?3つにはワインが、後の2つにはジュースが入っているはずなので。」
そうお願いする。するとさっそく騎士さんに指示をして、それぞれの木樽の栓を抜いて小さな杯へとその中身を開けて確かめてくれた。
「お、こっちもちゃんと成功っすよ!」
そのままワインの入った杯は町長さんと副町長さん、神殿の神官長さんに試飲してもらいジュースの方は私のする事を見物に来ていた子達のうち、2人の子に分けてもらった。
その子ども達がおいしい!甘いよ!と傍らに立つ自分達の母親らしい女性にかわいい笑顔を見せたので、思わずこちらも笑顔になる。
良かった。シグウェルさんのスパルタのおかげで木樽も籠もどちらもうまくいった。
「ありがとうございますユーリ様。噂に聞いていた以上に尊い、イリューディア神様に祝福されたそのお力を目の前で見ることが出来て大変感激しております。」
神官長さんに深々と頭を下げられたけど、私にはまだすることがある。
「とんでもないです、まだもう少し頑張らせてください!」
シェラさんに座らせてもらって椅子から立ち上がり、くるりと回れ右をして神殿に集まってくれていた町の人達に向き直る。
そのままぐるりとみんなの顔を見渡した。
町の人達の前には私の護衛でついて来てくれた騎士さん達とシェラさんにユリウスさんが立っている。
その2人は、これから私が何をするのかと
「ユーリ様?後は宿へ行かれてお休みになるはずでは?」
シェラさんが不思議そうにして、ユリウスさんにも
「え?まだなんかするつもりっすか?」
と聞かれた。勿論!
「遅い時間まで私達が到着するのを待ってくれた上にせっかくここに集まってくれたので!それに今日はまだ一度も癒しの力は使ってませんからね?」
にっこり笑って目を閉じて祈るように両手を組む。
とりあえず今はここに集まってくれた人達と、ここまで私を護衛しながら連れて来てくれたシェラさんを始めとする騎士さん達やユリウスさんの疲れを癒やそう。
感謝を込めて組んだ手に力を込め、集まってくれた人達が癒されますようにと願った。
神殿に入って来た時に見えた人達は疲れ切り、怪我をしている人もいた。だからどうか、そんな人達もみんな良くなりますように。
そう気持ちを込めて祈れば神殿の中にあの金色の光が満ちる。
そしてその光が静かに消えてしまえば、確かに集まった人達の不調も一緒に消え去ったらしく
「信じられない、さっきまであんなに痛みがあったのに・・・!」
「指が動く!」
「傷が消えてる?」
そんな言葉が聞こえてきた。騎士さん達にも
「ユーリ様、朝もやってくれたのにまた俺達まで癒やしてくれたんですか?勿体無い・・・!」
と頭を下げられたけどそんなに大したことはしていない。
「感謝なら私じゃなくイリューディアさんにぜひ!これはイリューディアさんの力ですから!」
私はその力を借りて自分に出来ることをしているだけに過ぎないのだ。
それにいま癒やしたのはあくまでもここに集まってくれた人達だけ。なかには体調が悪くてここまで来れなかった人もいるだろう。
だからこの町に滞在している間はぜひそんな人達の家も訪問して治させて欲しいと町長さんにお願いする。
「それから出来れば皆さんの各家庭にある水桶やビンなんかの飲み水を入れられる物も、ここに集められたら持って来て欲しいです。それにもいつでも水が飲めるように、飲み水が減らない加護をつけたいと思うので。いいですか?」
その後、水の入って重くなったそれを家まで持ち帰ってもらうのは大変かも知れないけど。
でもこの町はまだ水害から完全に復旧していなくて綺麗な飲み水の確保にも遠くの川まで足を運んでいて大変だと聞いている。
シグウェルさんの実験で、私が加護の力で作り出した飲料水は北の寒さにも凍らず南の酷暑でも腐らないと分かったので、ここでも充分役立てるはず。
そう申し出れば町長さん達は喜んで賛成してくれた。
ユリウスさんも肩をすくめる。
「ユーリ様がそうしたいって言うなら仕方ないっすね。明日、例の怪しい腐敗臭のする霧が出ている辺りを視察に行って帰って来たらその作業をしましょう。俺たちが視察に出ている間に、護衛騎士の連中を何人か手伝いにここに残しといてビンを集めさせておくっす。」
まったく、自分から仕事を増やすなんて物好きっすね。なんて言いながらユリウスさんはてきぱきと私の提案に騎士さん達の割り振りを決めてくれた。
「ありがとうございます、さすがユリウスさん!」
「こんなのいつも団長に無理難題を押し付けられてるのに比べればなんてことないっすよ」
普段からシグウェルさんの気まぐれな魔法実験や思いつきの尻拭い・・・もとい対応に慣れているだけあって、町の様子を見ての私の急な提案にもユリウスさんは臨機応変にすぐに応えてくれた。
するとそんな私にシェラさんが
「ではユーリ様、そろそろ宿へとお戻りください。疲れておられないと言っても無理はいけません。明日以降の任務に差し支えては大変です。」
と、ユリウスさんにお礼を言って笑顔を見せていた私の肩を抱き、まるでダンスで優雅なターンを決めるかのようにくるりと回れ右をして背を向けさせた。
「ちょっとシェラザード隊長、俺まだユーリ様と話してたんすけど⁉︎」
「力を使われたユーリ様は空腹なはずですからね。早く休ませてさしあげなければ。いつまでも貴方のお喋りに付き合わせているわけにはいかないんですよ、どうぞここから先は遠慮なくオレにお任せください。」
抗議したユリウスさんにシェラさんは私のことは何でも分かっていると言わんばかりにふふん、となぜか勝ち誇ったような笑みを見せた。
言われてみれば、なんとなくお腹が空いたような気もするけど。
だけど何も、そんなに勝ち誇ったような態度で私がハラヘリだとみんなの前で堂々と言わなくても・・・と肩を抱かれたままジトリとシェラさんを見上げれば、そんな私の視線に気付いたシェラさんは
「お待たせして申し訳ありませんユーリ様。宿では先にマリーが食事は勿論、ベッドを整え温かな湯も用意しているはずです。明日に備えて、今夜はゆっくりとおくつろぎいただけるようにオレが責任を持って手取り足取りユーリ様にご奉仕いたしますからね。」
この上なく甘やかな笑顔で私に微笑みかけてきた。
・・・いつも通りのあの無駄に色気たっぷりな雰囲気に、しかもこの上なく誤解をさせそうな言い回しでもって。
私としてはそれがシェラさん独特の言い方で何のやましいところも他意もない、ごく単純な身の回りの世話をするだけと分かっているけど周りの人達はそうは思わない。
しかもあのいかがわしさ満載の、色気垂れ流しの笑顔にここに集まっている人達は免疫がない。
だからその色っぽさに当てられた上にシェラさんの紛らわしい言い回しに、みんなの顔がさっと赤くなったのが分かった。
女性陣からはきゃあ!と浮かれたようにひそやかな悲鳴も上がっている。
ていうか、町の人達どころかシェラさんのいつものあの紛らしい言動や色気に慣れているはずの騎士さん達も
「た、隊長、ユーリ様に何をするつもりなんですか⁉︎」
「何かあったらオレ達、レジナス様に顔向け出来ねぇ・・・‼︎」
「でもこの隊長を止める実力もねぇよ、俺達・・・!」
と動揺している。何てことをしてくれるのか。
町長さんも、
「失礼いたしました、こちらの方は身辺警護だけでなく、その、ユーリ様の様々な・・・身の回りのお世話も任せられている近しい関係のお方で?それでしたらあの、今からでもお部屋も同室の方が・・・?」
とまるで私達が恋人同士か何かのように、意味ありげに恐る恐る聞いて来る始末だ。とんでもない誤解だ。
「・・・シェラさん!」
たまらず注意をしようと私も声を上げれば
「はい、なんでしょうユーリ様。歩くのもおっくうなほどお疲れであれば抱き上げますが。僭越ながら、畏れ多くも女神の如く尊いお方をこの手に抱く光栄に浴しても?」
と大袈裟に胸に手を当てお辞儀をされた。まるでダンスを申し込まれているようなその仕草に、恥ずかしくなって何て文句を言おうと思っていたのか一瞬忘れてしまう。
うぐっ、と言葉を飲み込み間が空いて、結局私がどう答えるのかと注目している周りの人達の好奇の目に耐えられず、早くこの場から立ち去りたい!と思ってしまった。結果、
「・・・早く行きましょう!お腹、空きました!」
と「シェラさんとの関係を否定せずに率先して自分から宿へ誘った人」になってしまった。
するとシェラさんは
「はい、オレの女神の仰せのままに。」
と嬉しそうに私の後を追ってくる。その後ろからはユリウスさんもついて来ながら呆れたように
「ユーリ様、自分から墓穴を掘ってないっすか?リオン殿下がユーリ様に伴侶の申し出をしたって話はまだこんな地方にまでは聞こえてきていないはずっすから・・・下手すりゃこの隊長がユーリ様の恋人だってマジで誤解されかねないっすよ?」
そんな噂が広まっても、俺は責任取れないっすからね?とぶつぶつ言っていたのは、足早に歩いていた私の耳には全然入ってきていなかった。
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