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番外編
かわいい子には旅をさせよう 47
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「・・・ああ、なるほど。確かにいつものユーリの髪の毛よりも手触りがなめらかだね。サラサラだ。」
私を膝の上に乗せながらくすりと笑ったリオン様はそんな事を言っている。
シェラさんに丁寧に髪を洗われながら温泉でお世話をされたあの後、全ての行程を予定通りにこなした私達は無事王都へと戻って来た。
お帰りユーリ、と私を迎えてくれた満面の笑みのリオン様とその後ろにいつも通り真面目な顔で立つレジナスさんを久しぶりに見た時はなんだかすごく嬉しくなった。
そして今日は、帰還した日が遅い時間だったので日を改めての辺境視察の報告を兼ねたお茶の席だ。
そこでごく自然にリオン様の膝の上に座らせられたのはちょっと不本意だけど諦めた。
だって降ろしてと言ったところで降ろしてくれる訳がないもん。それがリオン様だ。
久しぶりに私に会ったせいかいつも以上に上機嫌で膝に乗せられてお菓子を口に運ばれれば、その嬉しそうな様子を裏切るわけにもいかずに黙ってそれにかじりつくだけだ。
「報告書で聞いてはいたけど、本当にオピルスのような魔物が好む泥地でこんなにも有用な物が採れるんだね。ほら、レジナスも撫でてみる?絹よりもなめらかで癖になる触り心地なのに、触れている指先からするすると逃げていくみたいだよ。」
私の髪を撫でる手を止めないリオン様はそう言って後ろのレジナスさんに振り返っている。
「・・・護衛中なのですが」
ぐっ、と一拍間を置いてレジナスさんの重々しい声がした。
レジナスさんの事だから、触りたいけど仕事中だから公私混同しないように我慢してるってことかな?
「その主である僕がいいって言ってるんじゃないか」
ほらほら、と私の髪の毛をすいとひと束すくい取って指先でもて遊びながらリオン様がそう言い、レジナスさんが後ろめたくないように私もその言葉に加勢した。
「どうぞ、レジナスさん!誰が触っても感触が良いならあの泥はこの先本格的に泥パックとして売り出してもイケると思うんです。他の人の感想も聞いてみたいです!」
そこまで言ったらやっと後ろでそれでは、とレジナスさんの動く気配がした。
そしてリオン様が手にしている毛束にそっと触れて
「・・・柔らかいな。まるで生まれたての仔犬か仔猫の毛並みのような手触りだ」
と呟いた。それは手触りがいいって意味だよね?
「シェラさんやユリウスさんが言うには、オピルスが好むということは元々栄養が豊富な泥なんじゃないかってことでした!だから髪や肌にもいい効果が望めるんじゃないかって。」
私の髪をまだ撫でているリオン様や毛束を手にしているレジナスさんにそう説明する。
王都にもサンプルとしてあの泥はある程度持ち帰っている。
あとは王宮の専門の人がそれを詳細に調べてくれて問題がなければ予定通り泥パックを作るつもりだ。
「なるほどね。それにしてもまさか行った先に勇者様とキリウ・ユールヴァルトの残した遺物や手紙があるとは思わなかったから、今回は予想外に大変な任務になってしまったね。お疲れ様ユーリ。」
私の話に頷いたリオン様はそうねぎらってくれると頭を撫でる手付きがより一層優しくなった。
「私もびっくりしました。勇者様の残した遺物が見つかった時って、勇者様と縁のあるシグウェルさんの実家に必ず報告が必要だとかでユリウスさんがあの手紙を全文書き写して送ってましたよ。なんだかすごく大変そうでした。」
あの勇者様の手紙、後半はほぼ魔物料理のレシピだったんだけどそんなのまで送るんだ?と不思議に思って小首を傾げれば、リオン様に苦笑された。
「本来であれば勇者様に関する物は国で保管するから王宮にだけ報告をしてくれればいいんだけど、ユールヴァルト家は召喚された勇者様の庇護者だったっていう強い自負があるからね。それに王都のユールヴァルト邸を取り仕切っている侍従長のセディが何よりも熱烈な勇者様の信奉者だし、ユリウスも是非にと強く頼まれたんだろう」
「あ、なるほど」
そういえば王都郊外のシグウェルさんの別宅を訪れた時にセディさんは
『本家には勇者様の軌跡のほぼ全てを網羅し集めた資料室がございます!いつかユーリ様にもお見せしたいものです、ぜひ一度お時間を作っていただき坊ちゃまとご一緒に仲睦まじく訪問していただければ・・・!』
とかなんとかやたらと熱心にシグウェルさんと一緒にユールヴァルト領に来て欲しいって言われてたっけ。
ふと思い出したそんな話をしたらリオン様には
「ユーリ、そんな口車に乗せられてユールヴァルト領まで行っちゃ駄目だからね!?」
と慌てられ、護衛中は基本会話に入って来ないレジナスさんまで
「油断も隙もないな・・・。あそこの侍従長、一度きつく締め上げておいた方がいいのかも知れん」
と不穏な呟きをもらした。え?たかがシグウェルさんの実家に誘われたくらいで?
ちょっと大袈裟過ぎない?と不思議に思いながら甘いミルクティーをすすっていたら、背後から不意にそれまでとは様子の違うリオン様の声がした。
「そうだ、報告書と言えばなんだけど」
「?はい」
「今回はユーリが初めて僕らから離れての癒し子としての公式な視察任務だったでしょ?」
「そうですね」
ヒルダ様の要請で行ったダーヴィゼルド領での任務は緊急のものだったから、今回がきちんとした癒し子として初めての辺境でのお仕事といえばそうなのかも。
そう思って相槌を打ったら
「だから公式記録に残す物に間違いがないように、同行した騎士団とユリウス、シェラのそれぞれに報告書を出すよう命じておいたんだよね。」
「それはまた慎重ですね?」
同じような内容の報告書を3つも読まなきゃいけないなんてリオン様も大変なんだなあと何にも考えずに答えた。
すると
「だけど変なんだよねぇ。道中から向こうの町に着くまでの間の詳細な様子の記載はないし、あらかじめ決められていた向こうでのユーリの仕事以外の事も、三者ともまるで判を押したかのように同じような『特に異常なし』なんて簡素な報告しか上がって来なかったんだ」
いつの間にかその手が私の頭から首の辺りを撫でながらリオン様がそう言った。
「彼らなら性格上、特に必要でもないユーリの道中での様子を絶対報告して来ると思ったのに。」
野営料理を食べるユーリがかわいいとか、思いがけず温泉を発見したユーリがすごく張り切って頑張ったとかさ。
その言葉にドキリとする。
道中と言えば、野営をしてシェラさんと指切りをしながら歌を歌ってあげたりした。
温泉も、シェラさんがユリウスさんの報告書と口裏を合わせるような怪しいことを言ってたっけ。
・・・まずい、やましいことしかない。
「僕としては公的な書類としてはどうかと思うけど、そういう旅先でのユーリの様子のあれこれも報告書で読めるのを楽しみにしてたんだけどなあ」
そんな事を言っているリオン様の様子に、え?これは私、怪しまれてる?と、思わずごくりとミルクティーを飲み下した。
そんな私にリオン様は
「あ、今もしかして動揺した?なぜかさっきよりもたくさんお茶を飲んだね?」
と首元をさわさわと撫でた。
え、何それ尋問!?私の反応を見るために首を触ってたわけ?
「ええ、何だろう。ユーリ、もしかして僕に言わなきゃいけない事ってある?彼らが報告書に書き忘れてることとか?」
わざとらしくそんな事を言うのでさすがのレジナスさんも護衛中だというのに思わず
「リオン様・・・」
とため息をついた。
こ、これはやっぱりちゃんと言うべきなのかな?まだ優しく自己申告を促してくれている今のうちに自分から言っちゃった方が傷は浅いというか怒られない気がする。
「僕らの間に隠し事はなしなんだよね?」
後ろからそう囁かれると、まるでそれが最終通告みたいだ。
た、確かに私の方からリオン様に強めに「もう隠し事はなしですよ!」と言った手前、私がそれを破るわけにはいかない。
「お、思い出しました!」
苦し紛れの声を上げて観念する。
これはあえて報告書にそれを書かなかったシェラさんも、それに話を合わせたユリウスさんや騎士さん達もみんな怒られるかも知れない。全員道連れコースだ。
でもゴメン、リオン様をホントに怒らせるよりも今言っておく方がまだましだと思うから!
心の中でそう謝って、野営の時に歌いながら指切りをしたことやシェラさんに髪を洗ってもらったことなどを全部白状した。
話すごとに後ろのリオン様の「へぇ」「そうなんだ」というただの相槌ですら気のせいか恐ろしく聞こえてきて振り向けなかったけど。
そして一通り話し終えてから
「ええっと・・・リオン様、怒ってます?」
恐る恐る後ろを向けば
「どうして?全部話してくれてありがとうユーリ」
と良い笑顔を見せられた。あっ、黒い!
輝くように爽やかなその笑顔の中に黒いものを見つけてひぃ、と心の中で悲鳴を上げた私の片手をすいとリオン様が取る。
そのまま手のひらを合わせてぎゅっと指を絡めた恋人繋ぎにされるとその指先に口付けを一つ落とされた。
「シェラや護衛に同行した騎士達が聞いたなら僕もユーリの歌声が聴きたいな。きっとレジナスもそうだよ。歌ってくれる?」
「今、この状態でですか!?」
「そうだね、早く聴いてみたいな」
そんな無茶な。指切りの時は、あの指切りげんまんの歌とセットだから何気なく歌っただけなのに。
そうこぼしたら
「じゃあその時と同じ状況なら歌えるってことだよね?」
そう言って恋人繋ぎの手をぱっと離したリオン様は、お菓子が所狭しと乗っていたテーブルに対して正面を向いて膝上に座らせていた私を横向きに座り直させた。
そしてそのまま
「レジナス、手を貸して」
と言うと訳も分からず手を差し出したレジナスさんと指切りの時のように小指を絡めさせると、私のもう片方の手の小指は自分が絡めた。
膝上に横向きで座らせて、かつ両手の小指はそれぞれと繋いでいるという不安定な姿勢なのに私は少しのぐらつきもしない。
さすがリオン様、鍛えているだけあって体幹がしっかりしている。
一瞬現実逃避でそんな事を考えたけどさすがにこのおかしな状況にはツッコミを入れないわけにはいかない。
「なんですかこれ!なんでレジナスさんまで!?」
「仲間外れはかわいそうでしょ」
「そういう問題ですか!?」
レジナスさんもレジナスさんで、ほんのりとその目元を赤く染めて「リオン様・・・」と困惑の声は上げているものの、その小指はしっかりと私の指と絡められていて離れる気配はない。
「はい、じゃあ歌ってくれるかな?これから先も、僕らにはなんの隠し事もしないって約束のためにもね。そうしたら今回のこれ以外のことは全部不問にしてあげる」
小指をきゅうっと強く絡めたリオン様がまた良い笑顔を見せてそう提案してきた。
それは温泉にシェラさんが同席してお世話されたことも・・・?
「くっ・・・」
仕方なく覚悟を決めて歌えば、
「ありがとう、すごく可愛らしい歌声だね」
とリオン様は満足そうに頷いた。なのでこれで許された・・・と、ほっとしていたら
「じゃあシェラとユリウスは当分の間ここには出禁ということで。ユーリとの面会謝絶は1ヶ月でいいかな?レジナス、ユーリに同行した騎士達の訓練メニューは君が組んで」
なんて言い出した。その言葉にレジナスさんも、
「一から鍛え直させます」
といつも以上に重々しく応えている。
「え?不問にするって・・・」
「それはユーリの話でしょ?それより歌を歌って喉が渇かない?お茶のおかわりを淹れてあげる」
・・・結局許されたのは私だけで、他の人達は普通にリオン様に怒られた。なんならレジナスさんにも。
元はといえばシェラさんが悪いのに、当の本人は出禁が解除されて初めて会った時も
「まあそれでもユーリ様と小指を絡めてそのお歌を聴いたのはオレが初めての相手ですから。何でも初めての相手というのは特別なものですし、一度しかないその大事な機会をいただいたと思えばどうということはないですよ」
と飄々としていて、なんならまた無駄な色気を垂れ流しのあの色っぽい笑顔を見せられた。
「全然懲りてないんですね!?」
「それよりも他にユーリ様のどんな初めてをいただくかを考えるのに忙しかったですねぇ。会えない間も任務の合間はずっとそればかりを考えておりました」
となんだか性癖の捻じ曲がったようなおかしな事を言われて、シェラさんがまた変な事をしないか念のため同席していたレジナスさんに
「少しは反省しろ!」
と怒られていた。
シェラさんに護衛をされると碌なことがない。
大声殿下は私に短剣をくれるって言ってたけど、その剣があればもうシェラさんに護衛を頼むこともなくなるんだっけ?
確かリオン様とシェラさんはそんな約束をしていた。
ふとそれを思い出すと、短剣なんていらないのにと思っていたはずがなぜかそれを早く欲しくなってきた。
「短剣かぁ・・・どんなのなんだろう」
刃物なんて包丁やカッターしか扱ったことのない私でも大丈夫なのかな。
そんな事を考えていた私が、『短剣』は暗喩で実はそれが人のことだと知るのはあともう少し先のことだった。
私を膝の上に乗せながらくすりと笑ったリオン様はそんな事を言っている。
シェラさんに丁寧に髪を洗われながら温泉でお世話をされたあの後、全ての行程を予定通りにこなした私達は無事王都へと戻って来た。
お帰りユーリ、と私を迎えてくれた満面の笑みのリオン様とその後ろにいつも通り真面目な顔で立つレジナスさんを久しぶりに見た時はなんだかすごく嬉しくなった。
そして今日は、帰還した日が遅い時間だったので日を改めての辺境視察の報告を兼ねたお茶の席だ。
そこでごく自然にリオン様の膝の上に座らせられたのはちょっと不本意だけど諦めた。
だって降ろしてと言ったところで降ろしてくれる訳がないもん。それがリオン様だ。
久しぶりに私に会ったせいかいつも以上に上機嫌で膝に乗せられてお菓子を口に運ばれれば、その嬉しそうな様子を裏切るわけにもいかずに黙ってそれにかじりつくだけだ。
「報告書で聞いてはいたけど、本当にオピルスのような魔物が好む泥地でこんなにも有用な物が採れるんだね。ほら、レジナスも撫でてみる?絹よりもなめらかで癖になる触り心地なのに、触れている指先からするすると逃げていくみたいだよ。」
私の髪を撫でる手を止めないリオン様はそう言って後ろのレジナスさんに振り返っている。
「・・・護衛中なのですが」
ぐっ、と一拍間を置いてレジナスさんの重々しい声がした。
レジナスさんの事だから、触りたいけど仕事中だから公私混同しないように我慢してるってことかな?
「その主である僕がいいって言ってるんじゃないか」
ほらほら、と私の髪の毛をすいとひと束すくい取って指先でもて遊びながらリオン様がそう言い、レジナスさんが後ろめたくないように私もその言葉に加勢した。
「どうぞ、レジナスさん!誰が触っても感触が良いならあの泥はこの先本格的に泥パックとして売り出してもイケると思うんです。他の人の感想も聞いてみたいです!」
そこまで言ったらやっと後ろでそれでは、とレジナスさんの動く気配がした。
そしてリオン様が手にしている毛束にそっと触れて
「・・・柔らかいな。まるで生まれたての仔犬か仔猫の毛並みのような手触りだ」
と呟いた。それは手触りがいいって意味だよね?
「シェラさんやユリウスさんが言うには、オピルスが好むということは元々栄養が豊富な泥なんじゃないかってことでした!だから髪や肌にもいい効果が望めるんじゃないかって。」
私の髪をまだ撫でているリオン様や毛束を手にしているレジナスさんにそう説明する。
王都にもサンプルとしてあの泥はある程度持ち帰っている。
あとは王宮の専門の人がそれを詳細に調べてくれて問題がなければ予定通り泥パックを作るつもりだ。
「なるほどね。それにしてもまさか行った先に勇者様とキリウ・ユールヴァルトの残した遺物や手紙があるとは思わなかったから、今回は予想外に大変な任務になってしまったね。お疲れ様ユーリ。」
私の話に頷いたリオン様はそうねぎらってくれると頭を撫でる手付きがより一層優しくなった。
「私もびっくりしました。勇者様の残した遺物が見つかった時って、勇者様と縁のあるシグウェルさんの実家に必ず報告が必要だとかでユリウスさんがあの手紙を全文書き写して送ってましたよ。なんだかすごく大変そうでした。」
あの勇者様の手紙、後半はほぼ魔物料理のレシピだったんだけどそんなのまで送るんだ?と不思議に思って小首を傾げれば、リオン様に苦笑された。
「本来であれば勇者様に関する物は国で保管するから王宮にだけ報告をしてくれればいいんだけど、ユールヴァルト家は召喚された勇者様の庇護者だったっていう強い自負があるからね。それに王都のユールヴァルト邸を取り仕切っている侍従長のセディが何よりも熱烈な勇者様の信奉者だし、ユリウスも是非にと強く頼まれたんだろう」
「あ、なるほど」
そういえば王都郊外のシグウェルさんの別宅を訪れた時にセディさんは
『本家には勇者様の軌跡のほぼ全てを網羅し集めた資料室がございます!いつかユーリ様にもお見せしたいものです、ぜひ一度お時間を作っていただき坊ちゃまとご一緒に仲睦まじく訪問していただければ・・・!』
とかなんとかやたらと熱心にシグウェルさんと一緒にユールヴァルト領に来て欲しいって言われてたっけ。
ふと思い出したそんな話をしたらリオン様には
「ユーリ、そんな口車に乗せられてユールヴァルト領まで行っちゃ駄目だからね!?」
と慌てられ、護衛中は基本会話に入って来ないレジナスさんまで
「油断も隙もないな・・・。あそこの侍従長、一度きつく締め上げておいた方がいいのかも知れん」
と不穏な呟きをもらした。え?たかがシグウェルさんの実家に誘われたくらいで?
ちょっと大袈裟過ぎない?と不思議に思いながら甘いミルクティーをすすっていたら、背後から不意にそれまでとは様子の違うリオン様の声がした。
「そうだ、報告書と言えばなんだけど」
「?はい」
「今回はユーリが初めて僕らから離れての癒し子としての公式な視察任務だったでしょ?」
「そうですね」
ヒルダ様の要請で行ったダーヴィゼルド領での任務は緊急のものだったから、今回がきちんとした癒し子として初めての辺境でのお仕事といえばそうなのかも。
そう思って相槌を打ったら
「だから公式記録に残す物に間違いがないように、同行した騎士団とユリウス、シェラのそれぞれに報告書を出すよう命じておいたんだよね。」
「それはまた慎重ですね?」
同じような内容の報告書を3つも読まなきゃいけないなんてリオン様も大変なんだなあと何にも考えずに答えた。
すると
「だけど変なんだよねぇ。道中から向こうの町に着くまでの間の詳細な様子の記載はないし、あらかじめ決められていた向こうでのユーリの仕事以外の事も、三者ともまるで判を押したかのように同じような『特に異常なし』なんて簡素な報告しか上がって来なかったんだ」
いつの間にかその手が私の頭から首の辺りを撫でながらリオン様がそう言った。
「彼らなら性格上、特に必要でもないユーリの道中での様子を絶対報告して来ると思ったのに。」
野営料理を食べるユーリがかわいいとか、思いがけず温泉を発見したユーリがすごく張り切って頑張ったとかさ。
その言葉にドキリとする。
道中と言えば、野営をしてシェラさんと指切りをしながら歌を歌ってあげたりした。
温泉も、シェラさんがユリウスさんの報告書と口裏を合わせるような怪しいことを言ってたっけ。
・・・まずい、やましいことしかない。
「僕としては公的な書類としてはどうかと思うけど、そういう旅先でのユーリの様子のあれこれも報告書で読めるのを楽しみにしてたんだけどなあ」
そんな事を言っているリオン様の様子に、え?これは私、怪しまれてる?と、思わずごくりとミルクティーを飲み下した。
そんな私にリオン様は
「あ、今もしかして動揺した?なぜかさっきよりもたくさんお茶を飲んだね?」
と首元をさわさわと撫でた。
え、何それ尋問!?私の反応を見るために首を触ってたわけ?
「ええ、何だろう。ユーリ、もしかして僕に言わなきゃいけない事ってある?彼らが報告書に書き忘れてることとか?」
わざとらしくそんな事を言うのでさすがのレジナスさんも護衛中だというのに思わず
「リオン様・・・」
とため息をついた。
こ、これはやっぱりちゃんと言うべきなのかな?まだ優しく自己申告を促してくれている今のうちに自分から言っちゃった方が傷は浅いというか怒られない気がする。
「僕らの間に隠し事はなしなんだよね?」
後ろからそう囁かれると、まるでそれが最終通告みたいだ。
た、確かに私の方からリオン様に強めに「もう隠し事はなしですよ!」と言った手前、私がそれを破るわけにはいかない。
「お、思い出しました!」
苦し紛れの声を上げて観念する。
これはあえて報告書にそれを書かなかったシェラさんも、それに話を合わせたユリウスさんや騎士さん達もみんな怒られるかも知れない。全員道連れコースだ。
でもゴメン、リオン様をホントに怒らせるよりも今言っておく方がまだましだと思うから!
心の中でそう謝って、野営の時に歌いながら指切りをしたことやシェラさんに髪を洗ってもらったことなどを全部白状した。
話すごとに後ろのリオン様の「へぇ」「そうなんだ」というただの相槌ですら気のせいか恐ろしく聞こえてきて振り向けなかったけど。
そして一通り話し終えてから
「ええっと・・・リオン様、怒ってます?」
恐る恐る後ろを向けば
「どうして?全部話してくれてありがとうユーリ」
と良い笑顔を見せられた。あっ、黒い!
輝くように爽やかなその笑顔の中に黒いものを見つけてひぃ、と心の中で悲鳴を上げた私の片手をすいとリオン様が取る。
そのまま手のひらを合わせてぎゅっと指を絡めた恋人繋ぎにされるとその指先に口付けを一つ落とされた。
「シェラや護衛に同行した騎士達が聞いたなら僕もユーリの歌声が聴きたいな。きっとレジナスもそうだよ。歌ってくれる?」
「今、この状態でですか!?」
「そうだね、早く聴いてみたいな」
そんな無茶な。指切りの時は、あの指切りげんまんの歌とセットだから何気なく歌っただけなのに。
そうこぼしたら
「じゃあその時と同じ状況なら歌えるってことだよね?」
そう言って恋人繋ぎの手をぱっと離したリオン様は、お菓子が所狭しと乗っていたテーブルに対して正面を向いて膝上に座らせていた私を横向きに座り直させた。
そしてそのまま
「レジナス、手を貸して」
と言うと訳も分からず手を差し出したレジナスさんと指切りの時のように小指を絡めさせると、私のもう片方の手の小指は自分が絡めた。
膝上に横向きで座らせて、かつ両手の小指はそれぞれと繋いでいるという不安定な姿勢なのに私は少しのぐらつきもしない。
さすがリオン様、鍛えているだけあって体幹がしっかりしている。
一瞬現実逃避でそんな事を考えたけどさすがにこのおかしな状況にはツッコミを入れないわけにはいかない。
「なんですかこれ!なんでレジナスさんまで!?」
「仲間外れはかわいそうでしょ」
「そういう問題ですか!?」
レジナスさんもレジナスさんで、ほんのりとその目元を赤く染めて「リオン様・・・」と困惑の声は上げているものの、その小指はしっかりと私の指と絡められていて離れる気配はない。
「はい、じゃあ歌ってくれるかな?これから先も、僕らにはなんの隠し事もしないって約束のためにもね。そうしたら今回のこれ以外のことは全部不問にしてあげる」
小指をきゅうっと強く絡めたリオン様がまた良い笑顔を見せてそう提案してきた。
それは温泉にシェラさんが同席してお世話されたことも・・・?
「くっ・・・」
仕方なく覚悟を決めて歌えば、
「ありがとう、すごく可愛らしい歌声だね」
とリオン様は満足そうに頷いた。なのでこれで許された・・・と、ほっとしていたら
「じゃあシェラとユリウスは当分の間ここには出禁ということで。ユーリとの面会謝絶は1ヶ月でいいかな?レジナス、ユーリに同行した騎士達の訓練メニューは君が組んで」
なんて言い出した。その言葉にレジナスさんも、
「一から鍛え直させます」
といつも以上に重々しく応えている。
「え?不問にするって・・・」
「それはユーリの話でしょ?それより歌を歌って喉が渇かない?お茶のおかわりを淹れてあげる」
・・・結局許されたのは私だけで、他の人達は普通にリオン様に怒られた。なんならレジナスさんにも。
元はといえばシェラさんが悪いのに、当の本人は出禁が解除されて初めて会った時も
「まあそれでもユーリ様と小指を絡めてそのお歌を聴いたのはオレが初めての相手ですから。何でも初めての相手というのは特別なものですし、一度しかないその大事な機会をいただいたと思えばどうということはないですよ」
と飄々としていて、なんならまた無駄な色気を垂れ流しのあの色っぽい笑顔を見せられた。
「全然懲りてないんですね!?」
「それよりも他にユーリ様のどんな初めてをいただくかを考えるのに忙しかったですねぇ。会えない間も任務の合間はずっとそればかりを考えておりました」
となんだか性癖の捻じ曲がったようなおかしな事を言われて、シェラさんがまた変な事をしないか念のため同席していたレジナスさんに
「少しは反省しろ!」
と怒られていた。
シェラさんに護衛をされると碌なことがない。
大声殿下は私に短剣をくれるって言ってたけど、その剣があればもうシェラさんに護衛を頼むこともなくなるんだっけ?
確かリオン様とシェラさんはそんな約束をしていた。
ふとそれを思い出すと、短剣なんていらないのにと思っていたはずがなぜかそれを早く欲しくなってきた。
「短剣かぁ・・・どんなのなんだろう」
刃物なんて包丁やカッターしか扱ったことのない私でも大丈夫なのかな。
そんな事を考えていた私が、『短剣』は暗喩で実はそれが人のことだと知るのはあともう少し先のことだった。
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竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
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